第6話 届かなかった手紙
シンヤこの手紙を読んでいると言う事は、私は死んでしまったんだね。
うそうそ、アイスブレイク的な小粋なジョークだよ、なはははは。
普通に生きてるよね、だってこの手紙を埋めた場所私しか知らないし、箱の開け方も特殊だからね。
私以外絶対開けられない様にしているのだ、エッヘン!
この手紙を書こうと思ったのは私のけじめだよ。
堪え性があれば、私とシンヤ結婚した10周年に開くつもりだったんだ。
私の本当の正体を教えるために。
もし先に話してたら盛大にズッコケちゃいそうだけど、今でも当時の記憶が薄くなってきているから、ちゃんと記録として残しておくね。
私はこの世界の人間じゃない。その確信がある。
私のいた世界は、この世界よりずっと文明が発達していて、空を飛んだり離れた場所に一瞬で辿り着いたり、色んな技術が確立されていたんだ。
神様もいない、人間だけの世界。
私は研究者で、新たな観測機を開発中、未完成のそれが急に起動したの。
時空への干渉が起きる台座の中心に、私はいた。
慌てて周囲を確認したら、助手の一人が起動用のコンソールを操作していた。
わざとなのか事故なのか分かんない。
結果、転移装置が暴発し、私の体は空間に発生した亀裂に飲まれた。
肉体は瞬時に塵以下に分解され、私は肉体を失った。痛みを感じる暇も無かった。
でも身体は無かったはずなのに、私の意識はまだ存在していた。
研究者としての勘が、その現象にあたりを付けた。
魂の観測。
私たちの世界では未だ魂の定義が曖昧だった。
本当にそんなものがあるのか、輪廻転生が存在しているのか。
私はその研究の第一人者で、開発してた観測機もそのためのもの。
私はその時、身をもって魂の存在を感じていることになった。
存在が証明できたからと言って、何もできない訳だけど。
人が触れてはいけないものに、触れてようとしてしまった代償なのかな。
そんなこんなで、自分の世界を放り出された私は、この世界の無力な女の子として生きることになったと言うわけ。
私がシンヤよりずっと年寄りで、幻滅しちゃったかな?
こんなつまんない話は良いか、今の私には関係がないし。
私はイヨで、それ以外の何者でもないんだから。
10年後がどんな時代なのか分からないけど、確かなことは家族3人で寄り添っているんだろうなってこと。
私たちの絆は永遠だからね、ちょっとやそっとのことじゃ砕けないのさ。
あ、鍛冶の神様はみんなのお爺ちゃん枠ね。
優秀な娘がいて良かったじゃないか、老後の介護は任せろい。
何だか、書くこと決めたつもりだけど、どんどん本題からズレてきてる。
ちょっと軌道修正するよ。
改めて、私はシンヤのこと、子どものようで、弟のようで、家族のようで……でも一番はたった一人、ちゃんと私を愛してくれた人。
それだけは、この世界で疑う事無く信じられるものだったんだよ。
とっても無垢で、温泉みたいに気持ちいい愛情で包んでくれた。ちょっと変な表現かな?
とにかく、私はあなたに会うためにこの世界に来たんだって思えるくらいだったってこと、お分かり?
あ~手紙だから臭いこと言っちゃったよ、未来のイヨさん絶対赤面してるだろうな。今の私には関係ないし、存分に恥ずかしがってくれたまえ。
夜刀は私が全身全霊を込めて作り上げて、シンヤが大切にしてくれたから生まれた、私たちの正真正銘の子ども。
あなたはきっと私やシンヤより長生きするだろうけど、いつまでもあなたは私たちの愛おしい子どもだよ。
それはこの先、ずっと、ずっと、変わらない。
夜刀、うんと幸せになるんだよ。
……シンヤはたくさん嫌な思いをしてきたと思うけど、今はどうかな、幸せ?
あんまり、というか今でもちゃんと伝えられているか分からないけど、改めて言うね。
あなたを愛しています。
私はシンヤのことが世界で一番大好きだよ。
誰にも負けない、比べるのも馬鹿馬鹿しくなるくらい、あなたのことが好きです。
ずっと、これからも。
もし私が死んじゃって、魂が元の世界に帰ったとしても、輪廻の果てに全部忘れてしまっても、あなたを探し出して、今度は私からあなたに愛を伝えてあげる。
だから寂しがらないでね。
……ちょー恥ずかしいこと書いた!!
おまけに消しゴムとかないから消せないじゃないか!
墨と筆で書いてるからあっても消せないけれども!
ま、まあ読むのは今の私じゃないし、いいかな、うん、頑張れ10年後の私。この件さっきも書いたな、メンゴメンゴ。
じゃあ、お後が宜しくないけど、これにてイヨさんの手紙はおしまいだよ。
グッドラック!
フォーエバー!!
『カバーストーリ―:イヨ』
異なる次元から、神ある時代に迷い込んだ魂を持つ人間。
特異な現象により、その魂には生前の記憶が刻まれたままとなっていた。
誰とも目の色が異なり、初めから自意識を有していたことで、両親から気味悪がられ捨てられたが、鍛冶の神に拾われる。
その後、鍛冶に興味を持ち、鍛冶の神に弟子入りした。
火に愛される性質と、類まれな鍛冶の才能を有する。
才能に胡坐をかかず、努力によって神の眷属となるまで腕を上げた。
しかしシンヤの伴侶として、名も無き荒神から目を付けられ、神の眷属としての力ごと存在を食われた。
死亡したことで異なる世界の輪廻の輪に戻り、記憶は漂白された。




