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無能の生贄は鬼と契りを交わす  作者: 佐倉海斗
第二話 無能の少女と祠の主
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04-2.春代の異母妹

「人でもわかる者もいるだろう」


 紅蓮は言い切った。

 過去、対峙した人間は札の効力を理解した上で攻撃を仕掛けてきたことがある。そのことを思い出していた。



* * *



「お姉さまとご一緒できる日が来るなんて夢にも思わなかったわ」


 静子はにこりと笑いながら、春代に声をかけた。


 陰陽師としてのデビューになる為、念のため、家の者を指導役としてつけたのだろう。それが静子だった。静子の視線は春代の服に向けられ、鼻で笑う。


「ずいぶんと古い格好ですこと。幽世の流行りですの?」


「ええ。紅蓮様がご用意してくださいました」


「まあ! 旦那様にご用意させるだなんて、ずいぶんと大事にされているのね」


 静子は酷く驚いていた。


 それから、春代には用事がないと言わんばかりに紅蓮に熱い視線を向ける。


「紅蓮様。春代お姉さまの異母妹の神宮寺静子ですわ。先日は恥ずかしい姿をお見せしたことをお忘れくださいませ」


 静子は紅蓮に声をかける。


 それに対し、紅蓮は無言だった。


「紅蓮様?」


「なんだ」


「静子様には返事をしなければなりません」


 春代は静子のことを様付で呼ぶ。


 異母姉妹だとは思えない待遇だった。


「なぜだ」


 紅蓮は問いかける。


 返事をする価値もないと言っているかのようだった。


「彰浩様の婚約者ですもの。いずれ、神宮寺の頂点を支える方になります」


「そうか。あの弱弱しい男の嫁か」


「紅蓮様が強いだけです。神宮寺家では当主の次に強い方なのですよ」


 春代は困ったような視線を静子に向けた。


 それに対し、静子は嫉妬の炎を燃やしていた。


「紅蓮様。わたくし、陰陽師として優秀な部類に入りますのよ」


 静子は語る。


「お姉さまとは比べようもありませんわ」


 自分がいかに有能であるのかを自慢げに語った。


「紅蓮様。わたくしの力を見せてさしあげられないのが、残念ですわ」


「そうか」


「わたくし、竜神様に愛されておりますのよ。紅蓮様とも相性がいいのに決まっていますわ」


 静子は紅蓮の手に触れようとして、弾かれた。


 それから汚いものに触れたかのように紅蓮は自身の手を払う。


「竜神の愛し子?」


 紅蓮は笑った。


「それを自称し続けてみろ。竜神の怒りを買うぞ」


 紅蓮は忠告した。


 それに対し、静子は怯えていた。春代にはわからない程度に威圧していたのだ。


「紅蓮様は竜神様とお知り合いなのですか?」


「腐れ縁だ。親父の飲み仲間でな」


「さようでございますか」


 春代は納得したようだ。


「静子様のお力は確かなものです。竜神様のご加護があってのことではございませんの?」


「それはない。あれは嫁一筋だ」


「まあ、ご結婚されておりますの? 初めて聞きました」


 春代は純粋に驚いていた。


 静子の力が竜神の加護を得たものだと大げさに広げていたのは、静子の母親だ。水の陰陽術に優れているだけであるとわかっていたことだろう。しかし、次期当主の婚約者の座を得る為には、大げさな噂が必要だった。


 静子はそれを信じていた。


 だからこそ、紅蓮の言葉を聞き、首を左右に振った。


「わたくしの力は竜神様の加護によるものですわ!」


 静子は主張する。


「きっと、紅蓮様のお知り合いではない竜神様からの加護に違いありません」


 静子は強がってみせた。


 竜神がどれほどの数いるのか、静子たちは知らない。それが名前ではなく、種族名だということもわかっていない。


「依頼現場に案内いたしますわ。紅蓮様のお手並みを拝見させていただきます」


 静子は背を向けて歩き出した。


 その後ろを春代と紅蓮は並んで歩く。紅蓮は春代の手を優しく繋ぐ。


「手を繋いでくれ。そうしないと、あの女から視えなくなる」


 紅蓮はこっそりと春代に告げた。


 ……そういうものなのでしょうか。


 春代は首を傾げる。

 陰陽師として活躍をしている静子ならば、紅蓮の姿を見つけられそうな気がした。


 ……恥ずかしいですが。これも任務の為です。


 気合を込めて、手を繋ぐ。

 顔から火が噴き出しそうなくらいに真っ赤に染まっていた。


「緊張しているのか?」


「殿方と手を繋ぐのは初めてですので」


「そうか。それはよかった」


 紅蓮は楽しそうに笑った。


 その会話を聞かされながら先導をする静子の心は嫉妬で狂いそうだった。



* * *



「ここですわ」


 静子は古びた小屋の前で足を止めた。

 嫌な空気が漂っているのを春代も感じる。


「持ち主によりますと、大きな首だけの妖怪がでるそうです」


 静子はそう言いながら、紅蓮の後ろに隠れた。


「わたくしの力では対処できませんでしたの」


 静子は情報を付けたす。


 案内役に抜擢されたのは、紅蓮と接触をする為に立候補したからだ。実力で選ばれたわけではない。


「大首か」


 紅蓮は妖怪の名を当てた。


 滅多に姿を現す妖怪ではないものの、現世と幽世ん境界線を乗り越えてしまったのだろう。嫌な気配がするのは大首のせいではあく、境界線が曖昧になっている場所に立っているからだ。


「大首。いるのだろう。出てこい」


 紅蓮は声をかける。


 すると小屋の中から2メートルはありそうな生首が飛び出してくる。江戸時代の遊郭を連想させる髪形と既婚者を意味するお歯黒の女性の生首だ。


 その巨大さに静子は数歩下がってしまった。


「紅蓮の坊やかい」


 大首は紅蓮を見下ろして笑う。


 にたにたと笑い、なにを考えているのか、わからない。


 ……あの大きさの妖怪に勝てるのでしょうか。


 春代は不安になってしまった。


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