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無能の生贄は鬼と契りを交わす  作者: 佐倉海斗
第二話 無能の少女と祠の主
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02.すべてを焼き尽くす紅蓮の炎

 紅蓮と彰浩が向き合う。

 先に攻撃を繰り出したのは彰浩だった。式神を召喚し、紅蓮に攻撃を仕掛ける。


「その程度か」


 紅蓮は式神に触れることもせず、一瞬で式神を燃やした。


 灰になった式神をみた彰浩は目を見開いたが、次の式神を召喚する。彰浩の額からは汗が流れる。彰浩が召喚できる式神は三体が限界だった。


「舐められたものだな」


 紅蓮は式神を燃やした。


 そして、ゆっくりと一歩ずつ前に歩き始める。


 紅蓮の周りには鬼火が漂い、地面の草花を燃やし始める。炎に包まれていく中、紅蓮は熱くないのだろうか。余裕そうに歩いていく。


「ひ、火よ。燃やしたまえ」


 彰浩は陰陽術を唱えた。


 時代と共に簡易的になった陰陽術は効力が弱い。それでも、現世で悪さをする悪霊を追い払うのには十分だった。


 彰浩は札を投げた。その札から火が飛び出す。


 それを紅蓮は避けなかった。いや、避ける必要がなかった。鬼火が火を吸収し、一回り大きくなる。火は紅蓮にとって敵にならない。


「では、反撃と行こうか」


 紅蓮は鬼火を彰浩に投げつけるような仕草をした。


 その仕草に従うように鬼火はゆらりと動き出す。


「燃やせ」


 紅蓮の言葉に鬼火は動いた。


 彰浩の周りを漂い始め、周囲を燃やし尽くす。彰浩は必死に火除けの札を取り出し、身を守ろうとするが無駄であった。


 彰浩の服に火が移った。


 それを消そうと必死になるが、火は消えない。


「焼き尽くせ」


 紅蓮はさらに鬼火に指示を出す。


 すべてを焼き尽くす紅蓮の炎は彰浩の命を危機に晒した。


「参った!」


 彰浩はすぐに声をあげた。


 既に戦う術はすべて使い尽くした。得意としている棒術で敵う相手でもない。


 敵う相手ではなかった。


 そんな相手を封印していたと思うと背筋が凍りそうだった。


「では、そこまで」


 大地の声を聞き、紅蓮は鬼火を消した。

 歓声の声があがる。それは春代ではなかった。


「すごくお強いのですわね!」


 駆け寄ってきたのは、いつも以上に着飾った静子だった。


 婚約者ではなく、紅蓮に駆け寄る姿を見た彰浩の目は冷たかった。元々愛し合っている中ではなく、実力者同士というだけで決められた婚約だ。そこには愛はないが、それなりの情はあった。しかし、その情も一種で崩れ去った。


「わたくし、神宮寺静子と申しますの。お姉さまよりも――」


 静子は感激したというかのように語りかける。


 美しい髪飾りと美しい袴姿、どちらも最新の流行を取り入れていた。


 椿油の櫛で整えられた黒髪は美しく、多くの男性を虜にしてきた。


「春代」


 紅蓮は静子に目を向けることもせず、すぐに背を向けた。


 心配そうに見守っていた春代の元に駆け寄り、優しく、髪を撫ぜる。


「心配はいらなかっただろう?」


「はい。……そんなにもお強いとは思いませんでした」


「これでも鬼だ。弱いはずがない」


 紅蓮は言い切った。


 その後ろでは恨めしそうに見つめている静子がいた。


 ……静子様?


 嫌な予感がする。


 静子は自尊心が高く、誰よりも上にいなければ気が済まない性格だ。


「当主。力は証明した」


 紅蓮は大地に声をかけた。


 大地は放心状態の彰浩の傍に寄り添っていた。


「あ、ああ。もちろん、十分だ。試すような真似をした非礼を詫びよう」


 大地はそう言い、使用人を手招きをする。


「離れの別邸を与えることになっている。掃除はできているか?」


「はい。埃の一つも残っておりません」


「それならいい。紅蓮殿、春代、終の棲家となる場所に案内しよう」


 大地は安心したように言った。


 この場に集まっていた陰陽師たちは紅蓮に恐怖心を抱いている。自分たちが悪戦苦闘している悪鬼など紅蓮と比べればかわいいものだった。


 ……終の棲家。


 神宮寺家から外に出すつもりはないのだろう。


 その言葉に春代の表情は曇った。


 神宮寺家に良い思い出はない。


「春代」


「はい、紅蓮様」


「俺がいる。俺が守るから安心しろ」


 紅蓮の言葉は心強いものだった。


 ……そうですわ。


 春代は立ち上がる。


 ……私はもう一人ではありませんもの。


 春代は歩き出した。


 紅蓮の隣を歩けば安心感を得られた。それに気づいたのか、紅蓮も無理に春代を抱き上げようとはせずに、ゆっくりと春代の足取りに合わせるように歩き出した。


 案内された離れは綺麗なものだった。


 時代遅れの和風の建物ではあったものの、過ごしにくそうではない。


「食事は三食運ばせる」


 大地は部屋の案内を終えるとそう告げた。


 ……ここは祠の代わりなのですわ。


 春代は悟る。


 祠の代わりとして離れを与えただけなのだということを悟ってしまったものの、どうすることもできなかった。


「使用人はそれ以外にはこない」


 大地は視線を春代に向けた。


 ……私がやればよろしいとのことですわね。


 大地の意図は読める。


 使用人の真似事は春代の仕事だ。


「陰陽師の仕事が入り次第、伝言用の人を寄越す」


「かしこまりました」


「春代。書斎に基礎の本を用意させた。読んでおくように」


 大地はそういうと頭を下げた。


「紅蓮殿」


 大地は紅蓮に謝罪をするように頭を下げた。


「先祖が貴方にしたことを考えると心が痛みます。しかし、どうか、春代の為に力を貸していただきたい」


 大地の言葉に対し、紅蓮は返事をしなかった。


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