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無能の生贄は鬼と契りを交わす  作者: 佐倉海斗
第二話 無能の少女と祠の主
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06-2.陰陽師としての仕事

「私は紅蓮様と契約結婚をしております」


「契約だと?」


「はい。助けていただいた見返りとして結婚をすることになったのです」


 春代の言葉に信也は顔をあげた。


 契約を結んでいるからこそ、紅蓮の姿は春代を通じて周囲に見えるようになったのだ。春代以外では紅蓮の姿を正確に見ることができる者は、今の神宮寺家にはいなかった。


 結婚を条件として結ばれた契約は破られない。


 あやかしにとって契約はなによりも優先するべきことである。


「今後も守ってくださると約束をしてくださりました」


 春代は信也を安心させるように言葉を口にした。


 それが逆効果だと知るよしもなかった。


「お前はあやかしと契約を結ぶ危険性を知らないのか!」


 信也は大きな声をあげた。


「不幸中の幸いが紅蓮殿であったことだけだ。それ以外であったなら、とっくに食われていたぞ」


「人を食べるのですか!?」


「そういう被害が多発していることも知らないのか! ……いや、お前の耳に入らないようにしてきた我々の責任だ。春代は悪くはない」


 信也は意見を変えた。


 春代を守るように信也を睨んでいる紅蓮に怯えたのだろう。


「紅蓮様も人を食べますか?」


「俺は食べない」


「そうですか。よかったです」


 春代は安心した。


 自分は食べないと言っているだけであり、人を食する仲間がいることを否定していないと気づいていなかった。


「食べたら、二度と話せないだろう?」


「そうですわね。ですから、齧ったりもしないでくださいね」


「どうだろうか。やはり、味見くらいはするかもしれないな」


 紅蓮はからかうような言葉をかける。


 それに対し、春代は頬を膨らめた。


「食べないとおっしゃられたではないですか!」


 春代は嘘つきは許さないと言わんばかりの声をあげた。


 その姿を見ていた信也は涙を流した。


 かつてのセツもからかうと怒っていたことを思い出してしまっていた。セツと似ているところを見つけるたびに、セツのことが恋しくてたまらなくなる。


「お父様? どうされましたか?」


「いや、すまない。セツとあまりにも似ていて懐かしくなってしまっただけだ」


「お母様と似ていますか?」


 春代は驚いた。


 両親に似ているところなどないと思っていた。


「よく似ている」


 信也は肯定した。


 それから、涙を拭い、紅蓮を見上げる。


「紅蓮殿。春代をよろしくお願いいたします」


「頼まれなくても嫁の世話くらいはできるが」


「それでも、父親として言わせてください」


 信也は父親らしいことを一切してこなかった。


 春代を見捨てたのは信也も同じだ。


「親というのは厄介だな」


 紅蓮は自身の両親のことを思い出す。


 側室の子として育った紅蓮は派閥争いに負けている。母親との仲は良好だが、父親とはほとんど会話をしたことがない。実家が運営している鬼頭自警団は鬼を中心とした一大勢力である。両親も兄たちも所属をしている。


「放っておいた子でも、なにかあれば、親として口を出す」


 紅蓮は自身の置かれた環境と春代の置かれていた環境が似ているとは思わない。


 紅蓮は実力者だった。だからこそ、望んでもいない派閥争いに巻き込まれることになり、鬼頭自警団に所属をしているだけで顔を出すこともしていないのだ。


 鬼頭自警団は自由だ。最低限の秩序さえ守れているのならば、鬼であれば誰でも所属できる。仕事時間も決まっていない。働きたい者が働けばそれでいいという自由な形をとり、不思議なことに成り立っている。


 ……紅蓮様はどのような環境で育ったのでしょう、


 春代には想像ができなかった。


 親を疎むような発言を聞く限り、仲の良い親子ではなかったのだろう。


「紅蓮様。親は親としての義務がございます」


「その義務を果たさない者に口出しはされたくないと?」


「いいえ。口出しをするのも親の義務です」


 春代の考えに紅蓮は首を傾げた、


 理解ができなかった。


 誰よりも親を疎んでいてもおかしくはないのに、なぜ、春代は恨まないのだろうか。


「春代は親を疎まないのか?」


 紅蓮は問いかけた。


「お前を見捨てた親だ。憎んでいてもおかしくはないだろう」


 紅蓮の言葉に春代は首を左右に振った。


「憎みません」


 春代は断言した。

 幼い頃の他の仕方日々が恋しかった頃もある。自身の才能のなさを恨めしく思ったこともある。それでも、両親を恨んだことはなかった。


「すべて私がいけないのです。才能を持たずに生まれてしまったから」


 春代はすべての原因が自分にあると考えていた。そうしなければ、気がおかしくなってしまいそうな日々だった。


「……違うだろう」


 信也は春代に視線を向けて否定をした。


「見放した私たちの責任だ。お前はただ普通の子として生まれてきただけだ」


 信也は春代の考えを否定する。


「いまさら、父親面をしようとは考えていない」


 信也の言葉に春代の胸がちくりと痛んだ。


 ……どうして、痛いのでしょうか。


 そこに疾患があるわけではない。


 ただ、深夜の言葉が冷たく聞こえたのだ。


「セツの遺品をもらってほしいだけだ」


「それだけですか?」


「そうだ。セツの最後の願いを叶えたかっただけなんだ」


 信也の言葉に春代は風呂敷を抱きしめる。


 風呂敷の中身はセツが春代に渡したかったものばかりが入っているのだろう。


 ……お母様。


 なぜ、命を絶ってしまったのか。


 二度と聞くことができない。

 見鬼の才があっても、未練を残していかなければその姿を見ることができない。


「かしこまりました」


 春代は笑顔を作った。


 セツと似ているが、ぎこちのない笑顔だった。


「お母様の意思を継ぎます」


「ありがとう、春代」


「いいえ。こちらこそ、お母様の遺品を届けて下さりありがとうございます」


 春代は頭を軽く下げた。

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