氷の国の第三王女
儀式を終え、王女誘拐した状態で帰宅すると、案の定、父上と母上が絶句していた。
父上に関しては力が抜け、座り込んでしまっている。
「はじめまして、グラスフィア辺境伯様、それにグラスフィア夫人、私がチェルシー・スマル・カルテスです♪」
チェルシーは満面の笑みで父上と母上に挨拶をする。
私は終始苦笑いしかできなかった。
「…はぁ、事情を説明してもらえるかしら、シエル?」
「はい、奥様…王女殿下が何かの魔術によりダヴェル様と私が乗っていた馬車に飛んできたのです」
「…飛んできたとは?…」
流石の母上も飛んできたという表現に頭を抱えていた。
「簡単な話です♪私が使った魔法はテレポート、対象の場所から任意の場所に飛ぶことが出来るという、古代魔法の1つです♪」
「「古代魔法!?!?!?」」
その言葉を聞いて母上と父上は声を揃えて驚いていた。
父上に関しては先程まで気絶しそうになってたのに飛び上がってくるほどに驚いていた。
「はい♪古代魔法の書を王家の図書館で偶然見つけてしまい、面白半分で使ってみたら使えてしまったのです♪」
相変わらず、チェルシーは満面の笑みを浮かべていた
その話を聞いて父上と母上は声も出せず顎が外れてるのではないかと言わんばかりに口をあんぐりと開けていた。
「…あのぉ、チェルシー王女?…古代魔法自体使えるのがおかしいと思うのですが…?」
「そうですよね!だって古代魔法自体使える人がひと握りと言われているのですから♪」
とても楽しげに爆弾発言するな!この王女!!
心の中ですごく殴りたい気持ちを抑えながら満面の笑みを浮かべるチェルシーを笑顔で見つめながら怒りのオーラを出してみる。
「…なぜ使えるのか説明貰えますか?」
「私にも全く分かりませんっ♪」
「父上、母上、申し訳ありません、大変不敬な事を王女に言うのでお許しを」
深々と父上と母上に一礼して、チェルシーに近づいていく。
「あら、なんでしょうか、ダヴェル様?」
「…貴方様はこの国一大馬鹿野郎ですね!!!」
私はホール全体に響く声で彼女に向かって暴言を吐いた。
父上も母上も顔をひきつらせていた。
私は悪くない、どちらかと言えば全面的にチェルシーが悪いのだ。
父上はドタりと音を立てて倒れ込み完全に気絶してしまったようだ。
「はぁ…ダヴェル…グレーゴルが倒れちゃったじゃない、ハルフィ、お願い出来る?」
「かしこまりました、奥様」
母上は倒れてしまった父上を見てため息を漏らしながらハルフィを呼ぶと呆れた顔で私を見つめていた。
ハルフィは連れていた執事に父上に任せるとまたいつもの立ち位置に戻っていった。
それを見た私はチェルシーをジト目で見つめる。
「…ふぅ、いいですか?チェルシー王女?貴方様はそのひと握りしか使えないのですよ?」
「…はい、そうですね」
「なら簡単です、なぜそんなことを私達に教えるのですか?私達が貴方をそのままこの家に監禁するとは思わないのですか!!」
「…私の未来の旦那様がわたしを独占しようとするなら…私は嬉しいですが…?」
何故だろうか、凄くシエルと同じ感じがする。
シエルをちらりと見るとニコリと微笑んでいた。
お前も同じことを答えそうだと頭を抱えて目をそらす。
「…あのですね、一国の王女がそんな束縛好きなのはどうなのですか?」
「いえ♪貴方様が好きなのです♪」
「…だからと言って一辺境伯の家に押しかけて爆弾発言し続けるのはお辞め下さい」
「そこまで爆弾発言ですか?…あなたに着いてきて、私が出来ることを紹介したまでですが…?」
「十分すぎるほど爆弾発言してますよ!!!それと着いてきてないでしょ!貴方が勝手に押しかけてきただけでしょう!?!?」
私は間違ったことは言っていない。
どちらかと言えばチェルシーが言ってることが全ておかしいのだ。
この馬鹿は世間知らずも甚だしい…
私も頭を抱えて叫びたい!
この馬鹿を連れて帰ってくれー!とな
するとホールに響く扉を叩く音。
何となく察したのかシエルに目を送るとシエルは扉を開ける。
するとそこにはハザールが息を切らせて立っていた。
「王女殿下はこちらにいらっしゃいますか?…」
「はい、こちらの方に」
「…すみません、ハザール勝手に行って」
「ふぅ…王女殿下が無事でしたら…良かったです…」
とぼとぼとハザールの元に行くチェルシーそして横に着くと悪そうにスカートぎゅっと握っており年相応の反応をしていた。
…無駄に演技上手いな、本当にシエルじゃないのか?…
と思いつつチェルシーを見つめていた。
するとハザールのポケットからリーン、リーン、と鈴の音がなった。
「失礼…」
ハザールがポケットから取りだしたのは謎の道具だった。
その道具はハザールの手に収まる程の大きさの2つ折りの手鏡のようなものを開くと耳に当てていた。
その道具は不思議に揺れており彼が耳に当てると揺れるのを辞めたと思えば相手方が喋っていたのかふるふると揺れていた。
「…はい、ハザールです」
「…へ、陛下…はい、王女殿下は見つかりました、はい、グラスフィア辺境伯の元に、はい、はい!?…は、はぁ…陛下がよろしいのであれば…はぁ、かしこまりました…あっ!?ちょっ!?王女殿下!?」
「お父様♪ありがとうございます♪はい♪チェルシーです♪えへへ、家に帰ったらいーっぱい甘えますので、よろしくお願いしますねっ♪ではっ♪」
チェルシーはハザールから道具を奪い取ると平然とその道具に向かって声を話していたがその道具を閉じると震えるのが止まった。
こちらには声が聞こえてなかったのでなんとも言えないが多分だが相手は国王だろう。
「…王女殿下…先程のは?」
「これですか?えっと確か…何でしたっけ?ハザール?」
「こちらは通信用に開発されたら魔道具です、名前は「通信鏡」とても便利な道具ですが…こちら1個でこの邸宅1個買えますね」
それを聞いて私と母上は顔をひきつらせた。
あの手鏡1個でこの邸宅1個...??
高すぎだろ…あれくらいなら私でも作れるぞ?…
そんなことを思いつつ頭を抱える。
あの会話から推測するに...
「父上から当分の間グラスフィア辺境伯にお世話になりなさいとの言伝を受けました♪」
やはりだ...想像するに密かに国王に連絡していたのだろう。
多分だが「通信鏡」を持っていたのだろう。
連絡してないというのは嘘だ、でなければハザールのあの反応も納得ができる。
「…期間は…いつ頃までですか?」
「一週間ほどです♪」
「そして、我々が送る前提で泊まりをお願いしたのでしょうか?」
「はい♪あ、私の身の回りはハザールがするのでお構いなく♪」
「はぁ…なるほど…」
奇妙な事に、王女が止まる事になった。
父上は当分ベッドとトイレと友情を育むことだろう。
すまない、父上、この馬鹿王女が来なければそこまでじゃなかったのに…と思いつつ、私は疲れたからと言って眠りにつくことにした。
次の日
私は何時ものように読書をしていた。
するとドタドタと我が家の廊下を走る軽い足音。
ため息混じりに本をテーブルに置き、シエルに目線を送ると扉を開けもらうと同時に金髪の少女が目に入る。
チェルシーだった。
「ダヴェル様ぁ♪」
チェルシーは満面の笑みで私の横に駆け寄ってくる。
「おはようございます♪」
「はい、おはようございます」
私は平然と紅茶を飲みながら受け答えをする。
うむ、今日もシエルの紅茶は美味いな、と思いつつ平然と私の座っている反対側にあった椅子に腰をかけ、じっと見つめてくる。
その後ろから肩で息をつきながらハザールが着いてきて彼女の後ろに立つとそれを確認してシエルは部屋の扉を閉めた。
「なんですか、チェルシー王女?」
「チェルシーとお呼びください」
「…いえ、貴方様のような馬鹿みたいな発言をするお方を呼び捨てにするなど、私はおこがましいです」
「…充分辛辣ですけど、それも愛だと私は受け取りますっ!」
馬鹿だ…こいつも充分馬鹿だ、シェルザールと同等レベルだ。
なぜ私の周りにはそういう奴しか居ないんだ?…すこしはナヴィルルーグを見習って欲しいものだな。
そんなことを考えながらため息を漏らし、本を読み始める。
「…何をお読みに?」
「今は農業に関しての本を」
「…ほ、ほぅ…」
「…………」
「面白いです?」
「はい、面白いですよ?読みますか?」
「わ、私は…いいです…」
「なら眺めててください、私は本を読むのが忙しいので」
そう言って私は終始無言で部屋の中には時折シエルが注ぐ紅茶の音と私が本のページを捲る音しかしなかった。
数分後我慢できなくなったチェルシーはずいっ!と私の目の前に顔を出してきた。
「なんですか?」
「私にも読めそうな本をお貸しください」
「…はぁ、分かりました、シエル、右から3番目の本棚の上から2段目の右から13番目の本を」
「はい、ダヴェル様」
私と言葉通りにシエルが持ってきたのはちょっと難しいものの、なかなかに面白かった物語の小説をチェルシーに手渡す。
「この小説はある騎士がある王女様に恋焦がれ、苦難を乗り越えるという小説になります、なかなかに面白いですよ」
「ほ、ほぅ…なるほど…では私も…読んでみますね」
彼女は元の位置に座ると本を開く。
始まり方も面白い小説なので多分だが興味を出すだろう。
シエルはチェルシーが小説を読み始めるのを確認すると「どうぞ」と紅茶を差し出しチェルシーは「ありがとうございます」と言って一口飲んで目を丸くして驚いていた。
どうだ、うちのシエルは凄いだろ、と言ってやりたいが…後でシエルが調子に乗るので言わないでおこう。
気がつけば夕日が沈み始めており、部屋に入った光が部屋の一部を赤く染めていた。
チェルシーはその小説を読みながら紅茶を味わっていた。
中々に楽しんでもらえてるようで読み始めてから終始無言だった。
私はその様子を横目に領地で使えそうな農法が無いかと調べていた。
だがしかし父上が治める領地はどこも寒冷地で中々作物が育たないことでいつも頭を悩まされている。
なので雪が酷い時には基本的には狩りをし、獣などの肉が主食だ。
パンなど小麦製品は食卓には出回ること自体珍しく、正直言うと我が家でもそこまで美味しいとは言えないパンを食べている。
まぁ、パンを食べれるだけありがたいと思えばそうなのだが、是非とも…平民達にも食べさせたいしもっと美味いパンを食べたい。
ならば私の知恵を生かすしかないだろう。
とは言うものの、新しい情報がないかと本を色々と漁るが、どれもこれもこのグラスフィア辺境領には合わないものばかりだった。
「…チェルシー王女殿下、ダヴェル様、そろそろご夕食のお時間です」
おっとそんな時間か、と思いつつ部屋の置き時計をチラリと見ると既に時刻は十八時前だった。
「…わかった、行きましょうか?チェルシー王女?」
「だから…チェルシーと…「チェルシー様、行きましょうか」む、むぅ…」
不貞腐れた様子で読みふけっていた本を置くと私にその顔を向けてくる。
仕方なくため息混じりに妥協点である”様”付けで許してもらうことにしよう。
だが不服そうに私を見つめるその瞳はジト目でまるで普段からチ呼びして欲しくてたまらない様子
私は再び深くため息を吐き席から立ち上がるとそのまま本を机に置きチェルシーを置いて食堂へと向かった。
「ダヴェルさまぁ!おまちくださぁぃ!」
私が置いていくと分かりチェルシーは焦った様子で私に着いてくる。
それくらい私は呆れているのだ。
その馬鹿にはよく分かってもらわなければな。
そんなことを思いつつ頭の中では先程読んでいた農業の本で使えそうなところを思い出していた。
「ダヴェル様、過ぎてらっしゃいますよー?」
「んぅ?…チェルシー様、失礼しました」
私は彼女に呼ばれるとふと我に返って、食堂の入口を開ける。
すると既に母上、兄上、姉上が座っており父上だけいなかった。
私は不思議に思いながらも何時もの定位置に座るとその隣の席にチェルシーが座った。
「…あの?…「私はここがいいのです」…はい…」
私が質問しようとすると遮られたので仕方なく受け入れることにする…が、母上と姉上達の様子チラリと見ると、全く怒っていなかった。
何故だろうか?
ふと疑問に思いながらも運ばれてくる料理に手をつけていく。
「…王女殿下、ダヴェルとは楽しくお話出来ましたか?」
「いえ、ダヴェル様はこの領民のために一生懸命農法について学んでおいででしたよ、私は話についていけなさそうだったので物語の小説を貸していただきました♪」
「そうでしたか…なら…良かったです」
ジト目で母上と姉上を見つめるとわざとらしく目を逸らしてくるので何か裏工作があったな…と思いつつ、ゆっくりと食べていた。
すぐ横にいる兄上も疑問なのか首を傾げていた。
「…なぁ、兄上」
「なんだ、ダヴェル」
「…母上と姉上変じゃないか?…」
「…確かに…変だな…」
2人でジト目で母上と姉上を見つめながら食事を進める。
その後は終始無言で食べ終えた2人はそそくさと部屋を退出していった。
まるで逃げているようで
私はその行動が疑問に思って仕方なかった。
「…んふふ、気になるご様子ですね?ダヴェル様、ロアム様」
その様子を見ていたチェルシーは私達に話しかけてきた。
「…大方、貴方様の仕業ですね?」
「ダヴェル様は検討が着いておいでですか、流石ですね」
「…何かの物で釣ったのでしょう?」
「いえ、私とダヴェル様が結婚したらさぞ可愛いお子をお見せできるでしょうって言っただけですよ?」
…まぁ確かに、チェルシーのような美人から生まれる子供なのだから可愛いだろうが、本当にそれだけであの二人を黙らさせることは出来るのか?
母上は見たいだろうが、姉上はその子作り自体をさせるつもりは無いだろう。
「母上は納得したでしょうが、姉上はどう説明するのですか?」
「そうです、王女殿下、ルナにはどう取り入ったのですか?」
「…泣き脅しいたしました」
「「は?…」」
「ルナお姉様の妹になりたいのです♪と言ったまでです♪」
意外とチェルシーは策士なのだと今更ながら分からされた。
まぁチラホラと見受けれれる場面はあったものの、これが彼女の本質なのだろう。
…だが中身はシェルザールと変わらないがな!!
と心の中で叫ぶとシエルとチェルシーは同じタイミングでくしゃみをしていた。
それに気がついた2人はお互いに睨み合っていてただならぬ雰囲気だった。
「…よろしくお願いしますね?シエルさん?」
「こちらこそ…よろしくお願いいたします…チェルシー王女殿下?」
まるで嵐の前の静けさのように2人の笑い声が食堂に響いていた。
…あぁ、これは面倒なことになりそうだな…
と思い私は一足先に食堂から逃げることにした。
だが簡単に追いつかれれば何をされるのか分からない。
仕方ないので私も「テレポート」を使うことにしよう。
ふむ、場所がどこがいいか…そんな事を考えながら食堂のドアノブに手をかける。
「「お待ちください、ダヴェル様、どちらに行かれるのですか?」」
すると同時に息ぴったりで喋るシエルとチェルシー、逆に怖すぎる…さすがの私でも肝が冷やしたのかドアノブを離してしまった。
「部屋に戻って本を読もうとしただけです、チェルシー様」
振り返るとにこりと微笑み2人を見つめる。
だが2人は全くこちらを見ておらず、ただ笑顔を見せあってるだけで、どうやって私の動きを把握したのか逆に聞きたくなってきた。
「…俺は逃げる、じゃあな、ダヴェル、頑張れよ」
「あ、あにうえ、お、置いてかないで…」
そんな助けの声も虚しく兄上は無視して食堂から去っていった。
兄上の薄情者!!と心の中で叫びながら深く息を吐いてドアノブに手をかけ、逃げるように食堂を出て直ぐに「テレポート」を使う。
とりあえず、遠くに、そして1人になれる場所
そう頭の中で想像しながら強く念じる。
すると到着したのはシエルの神殿だった。
まぁ、少し寒いがこの程度なら問題ないだろう。
私は以前から覚えていた「アイテムストレージ」の中から本を出し
シエルが儀式の時に座っていた台座に背中を預け、本を開く。
月明かりが丁度よく照らされて文字が読めた。
風流だな…と思いつつペラリ、ペラリと読んでいく。
「…あぁ…お美しいです♪ダヴェル様」
む?…何故か聞き覚えのある声がする。
「…当然です、ダヴェル様は何をしてもお美しいのです♪」
むむ?…私は振り切れたと思っていたのだが…??
なぜ聞きなれたあの二人の声がするのだ?
私は恐る恐る本を下ろすとチェルシーとシエルが私の事を見つめていた。
「なぜお前達がここにいるのだ?」
「「愛の力ですよ♪ダヴェル様♪」」
「意味不明なことを言うなぁァ!!この変態共がァ!!」
理解不能な事を言う変態二人に大声で叫ぶ。
こだまする私の声は虚しく夜空に消えていった。
「はぁ、正直に話せ、チェルシー、ここでは誰もバレんだろうからな」
「…あはは、追跡の魔術をかけた魔石をダヴェル様に付けていたので直ぐにここがわかっただけです」
「シエルは?」
「魔力探知にて貴方様の魔力を探った迄です」
おいおい、2人揃って優秀すぎるが私が家からここまで来るまでに数分しか経ってないぞ?
タカを括っていたせいで痛い目に会うとはな、仕方あるまい…今度はもっと遠くにそして魔力も探知に引っかからないようにしなければ
「それはそれとして、ダヴェル様」
「なんだ、チェルシー」
「なぜ私達から逃げたのですか?」
「お前らが喧嘩しそうだったから面倒になる前に逃げただけだが?それともなんだ?今からでも王都に送ってやってもいいのだぞ?」
軽い脅しである、正直なところを言えば魔術的センスはあるのだろう。
「テレポート」というのはその性質上、長距離を移動する場合その分多くの魔力を消費する。
だが元気に私に笑顔を見せているところを見るに私よりは少ないものの凡人以上には貯蔵魔力はあるのだろう。
「そうした方が良いと思います、ダヴェル様、私はこの小娘のことを気を許したつもりはございませんので」
「あぁん、シェルザール様のいけずぅ」
甘えた声でシエルに抱きつくチェルシー、シエルはかなり嫌そうな顔で受け止めていた。
「はは…呆れてくるわ…その様子を見てるだけでな」
「呆れてないで助けてください!ダヴェル様!」
「…あぁ、魔力使いすぎたみたいですぅ、ダヴェルさまぁ♪」
わざとらしく私の横に来て抱きついてきて頬をスリスリとこすり付けてくる。
彼女のまだ幼い体は柔らかみがあり、たしかに心地よいもののあのわざとらしい言葉を聞けば呆れてくるものだ。
「離れろ、チェルシー」
「嫌です」
「離れろ」
「…はぃ」
私が強く言うと大人しく私の体を離すチェルシーは少ししょんぼりしていたので頭をポンポンっとしてやる。
「全く、抱きつきたいのであれば言えばいいものを」
「抱きついたいです!」
「即実行するのか!?ま、まぁいい…ほら」
仕方なく本をアイテムストレージにしまって腕を広げると飛び込むように抱きついてくるチェルシー
そのままスリスリと私の胸元に顔を擦り付け私が呆れた顔で背中を摩っていることをいいことに全力で甘えていた。
「あぁ、ずるぃ…」
「シエル、お前はお預けだ、昨日一昨日と慰めてやったのだからな!」
「…つまり今日も行ってもいいのですね?」
「そういうことではなーい!私だって寝たいのだ!寝かせろ!」
「か、かしこまりました…だ、抱き枕にしてもよろし「くない!」…すみません」
抱き枕にしたところでお前は我慢できないだろうが!と心の中で叫びながらチェルシーの背中を摩っていた。
満足したのかチェルシーは顔を見せるとお礼にと頬にキスをしてくれた。
「ありがとうございます、ダヴェル様」
「うむ、まぁ、この三人のような状況ならば幾らでも抱きしめる程度ならいいのだがな…」
「…結婚しましょう、ダヴェル様」
「早すぎだ!貴様は!」
「痛いですぅ!」
チェルシーの額に軽くデコピンしてため息を漏らす。
全く…面倒なやつが増えたものよ
そんなことを思いながらこの楽しい日々がずっと続けばいいなと思いつつ私は笑顔を見せるのだった。
今回は読んでいただきありがとうございます。
時々私も見返すと思いますが、誤字脱字ございましたら是非ともご指摘いただければとおもいます。
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