神竜皇の加護
ここでの生活は不自由せず、たっぷりと本を読めた、まぁ最初の頃は黙って見てたら母上に怒られたが…夜になるとハルフィがその本を読み聞かせてくれたのでとても為になった。
色々な知識を貯め、父上の役にたつためにも私は成長しなければ、なら勉強するなら農業か?あるいは母上のために経済の事を…と色々と知識を漁っているといつの間にか5年がたった。
私がいる国、カルテス王国では5歳になると教会に行き、神託を聞くらしい、それによってスキルを手に入れ、この国の将来を担うという事らしい。
私は誕生日を迎えてから数日後、父上、母上に連れられ、竜王教の教会まで来ていた。
教会の入口では、白ひげを生やした神父服を着た老人が私達を待っていた。
「…おお、お待ちしておりました。グラスフィア侯爵様、奥方様もお久しゅう…」
「あぁ、ガルサス神父、今日はよろしく頼む」
「息子を、お願いします」
「はい、お任せ下さい、ほっほっ、まさか私が生きているうちに貴方様方の3人の子供を見ることになるとは…人生何があるか分かりませんな」
…この3人は顔なじみか何かなのだろう、私はじっとガルサスと呼ばれた老人を見つめていた。
胸元には竜の形で氷の結晶を模した装飾品が着いた、ネックレス、その手はゴツゴツとしており、何か剣か何かをしていたのだろうかと予想ができる。
利き手だと思われる、右手には同じ装飾品をしたロザリオを持っており、かなり信仰が熱いのもわかった。
私達は世間話をしながらも教会の中に入る。
建物は二階建てなのか入るとすぐ左に階段があり、そのまま2階へと上がっていく、長い廊下の右側を見ると教会の中心となるであろう、聖堂が下に見えた。
じっと見つめながら母上に手を引かれらているとある部屋にたどり着いた。
その部屋にはロウソクの明かりしかなく、中心には水晶が置いてあった。
「さて、世間話はこれくらいにしまして、貴方がダヴェル様ですね、始祖の竜様から文字を賜わる方は多くいらっしゃいますが、そのまま、という方は初めてですね」
「ええ、この子が生まれて直ぐにダヴェルカーザ様の名前を言おうとしててね、ならこの子には始祖の竜様の加護がありますようにとつけたの」
「それはそれは、始祖の竜様がこの子に天からの神託をお掛けになられたのですね、なるほど、それはこの名前には納得です、ではダヴェル様、こちらへ」
ガルサス神父は私を手招きしてくるのでゆっくりと近づいていく。
私が目の前に行くとにっこりと微笑み見つめてくる。
「人見知りされないのですね、あなたのお兄様とお姉様は私を見て怖がっておられましたよ?」
「…そうなのですか?私は母上と父上が信用してるので私も信用しようと思ったまでですが」
それを聞いたガルサス神父は目を丸くしたと思ったら大笑いした。
「…なるほど、確かに賢いお方だ、それではダヴェル様、こちらの水晶に利き手を乗せていただけますか?」
「分かりました…」
私は水晶に手をかざすと目の前に出てくる私の名前
ダヴェル・グラスフィア
スキル
神竜皇の加護
効果.所持者の従者の全て能力を得る、ステータスは乗算されていき、膨大な魔力をえる。
毒、病気に掛からず、長寿、ただし他の人より成長速度は遅い。
…確かに成長の速度はおそい、私は今、身長が大体95cm程、本ばかりを読んでいる私は父上や母上に何人かと友人として親から紹介されたが、その子達は私より10cmほど高く、見下ろされ、年下扱いされるので私はそうしてきたヤツを軒並み蹴っ飛ばした。
その度に母上や父上に怒られたのは今でもトラウマのように脳裏に焼き付いている。
苦笑いしながら私は母上と父上を見ると2人とも目を見開き驚いていた。
何故だ?と思いつつもガルサス神父を見ると何故か私のステータスを見て拝んでいた。
「あの、ガルサス神父?…」
「あぁ、すみません、ダヴェル様、やはり貴方様は始祖の竜様に愛されてたようですね」
「…それはどう言う?」
「このスキルは始祖の竜様の加護なのです、今は何処におられるか分からない始祖の竜様、その加護が目の前にある…更に言えばこのスキルは私は見た事ありません…崇めるのも当然でしょう?」
確かに、私は聞いた限りでは1000年間、居ないことになっている、まぁ、正しくは今ここで生まれ変わってるのだがな
そんなことを思いつつも水晶から手を離す、右手にじわじわと竜の紋章が浮かぶ
「ガルサス神父、この紋章はなんでしょうか?」
「すみません、私も見たことないですな」
「なるほど、ここに伝承などを書かれた本はありませんか?」
「ええ、ありますとも、ご覧になられますか?」
「是非とも!!いたぃっ!?」
私がガルサス神父に本を読ませてもらおうとしていると父上が私の頭を殴った。
「こらっ!お前の悪い癖だぞ!ダヴェル!」
「うぅ、本が好きなのです、お許しを…」
「お前のせいでどれくらいの本を買ったと思っているのだ、まだ読み切ってないものもあるだろうが!」
「うっ、すみません、父上、今日はこれでお許しを…大人しく家に帰りますからー!」
父上は私の甘えた声を聞くと、ため息を漏らし、頭を撫でてくれた。
父上に甘えた声を出せば、だいたいの事は許してくれる、それはこの5年間で学んだことの一つだ。
だが唯一それが通用しない人がいる、母上だ。
ちらりと母上を見るが、笑みを浮かべながらもこっちを見つめている、周りから見たら普通に父上が怒っているだけに見えるが、あの顔で怒っている。
今も眉毛がピクピクと動いており怒りを抑えているのが分かる。
正直怖い…怖いもの知らずと言われた私が怖がるのだ、相当あの時のトラウマが効いている…いつかは克服しなければ…そう思いつつ、私達家族は教会を後にしようとした。
「ダヴェル様、こちらを」
去ろうとした時にガルサス神父が息を切らせて私のところに古ぼけた本一冊、渡してきた。
「これは?」
「始祖の竜様の伝承が書かれた本です、これをあなたに差し上げます」
「ガルサス神父、それは貴方が気に入ってた本では無いか」
私が聞く前に父上が彼に問いかけた。
ガルサス神父は笑みを浮かべ私の頭を撫でてくれた。
ゴツゴツとした手がとても暖かく、心地よかった。
「なんででしょうな、この子に渡せば安心だと思―いましてな」
「ふむ、そうか、ダヴェル大切にするんだぞ」
「はい、父上、ガルサス神父、ありがとうございます」
「いえいえ、この本の内容はもう頭にありますから、この本を…大切にしただければ…」
「…ええ、大切にさせてもらいます」
外を眺めると夕日が見え始め、雪山を照らしている。
それを眺めながらふと右手の紋章を見る。
竜の形を模したその紋章は白く、その背景には、岩、氷、風、火をイメージしたものが描かれていた。
「ダヴェル、どうしたの?」
「いえ、母上、なぜ私の手に紋章が浮かんだのか気になってまして、是非ともこの本を読みたいのです!」
私は神父からもらった本を抱えあげると目を輝かせていた。
くすくすと父上も母上は笑う
「そうか、相変わらずお前は本を読む時は目を輝かせるな?」
「そうですね、まぁあなたはダヴェルのために本を買いすぎですよ」
「むっ、そ、それは気にしてはいるぞ…書斎も溢れるほどの本でな、うちの財政をそこそこに圧迫しているからな」
あぁ、母上と父上の怒りが私に向けられている。
私は今、猛烈に逃げたい、だが逃げれる自信もない。
「こ、今後は善処します…」
私は苦笑いすると母上はため息を漏らす
「そうか、ダヴェル、ならいいが…」
「…本当に、もっと外で遊んできなさい?来週には氷の神殿に向かうのですよ?同年代の子供たちと一緒に」
母上が言っていることはこの国、カルテス王国の習わし
5歳になりスキルを覚えた少年、少女たちは今後の人生を安全に迎えるため、父上が収める地域よりも北にある山、シェルザール山にある氷の神殿に向かい、祈りを捧げるというものだ。
正直いってそんな時間があるなら私は本を読んでいたいのだが、母上曰く、兄上も姉上も今まで病気も怪我も何もしてこなかったのは我がカルテス王国を守護する。氷竜王 シェルザール様が居るからだと信じてるらしい。
まぁ元々私の嫁なんだがな、ソイツ……
なんて思いつつも来週になればあわよくばシェルザールに会えるのであれば参加するしかあるまい
「分かっております、母上、しっかりと氷竜王の様の加護を授かって参りますのでご安心を」
そんな話をしているといつの間にか我が家に帰ってきていた。
家に帰ると早々に兄上、姉上がほにあれやこれやと質問攻めをくらった。
母上も父上も満面の笑みでその様子を見ていた。
是非とも止めてもらいたい、私は今、猛烈にガルサス神父から貰った本が読みたい
今すぐに読みたい、そんな思い虚しく、食事の時間も兄上、姉上は質問攻めにしてきた。
「そろそろ、湯浴みに行きます」
「では私も行きます、いいですよね?ダヴェル?」
「姉上、そろそろ私から離れることを覚えてください?」
「嫌ですよ、大切な弟ですもの、あ、ロアム兄様はダメですよ?」
「ルナの体には興味無いが、ダヴェルも男だ、そろそろ気にしろ」
的確な指摘をする兄上。
そうだ姉上、私だって男だとも、私の嫁である、ナヴィルルーグよりも、大きいその胸、兄上に取られまい、と抱きしめられると身長差40センチ近くもあると頭に直接のしかかる、それは気にしない
だが、今年で11歳の女の子が弟を溺愛してるのはどうかと思う。
「そうれすよ!姉上!今日くらい1人で入らせてください!」
「ダメです、ダヴェル、この前も浴槽で読もうとしてましたよね?、ルナ、見張っておきなさい」
母上の指摘に私はうぐっ……と声が漏れる、確かに過去に一度持っていき、母上にバレて、お説教を食らった。
それ以降、魔術を行使してどうのこうのとしても母上はどこからともなくそれを感じとり、毎回バレている。
私、昔より魔法下手になったのか?……いや、上達してるはずなのだが……どうやって母上が見張ってるのかは知らないがやはり恐ろしい……
「分かりました!お母様!」
「むむ、トリシャ……その役目は別にロアムでも……」
「グレーゴル?あなたは黙ってなさい」
「はぃ!!」
父上は母上に臀に引かれている……この家は母上が最強なのだ。
結局姉上と一緒に湯浴みすることになった。
半目を開きながら広い浴槽に顔を半分浸かっており、姉上に抱きしめられている
「なに?ダヴェル、ルナお姉様と入るの嫌?」
「そういう訳でありません、姉上」
「なら、不満でもある?」
「……強いて言うなら、そのー……離してもらえると」
「嫌ですよ、離したら貴方は上がるでしょう?」
「当然です、私は本を読みたいのですからー!!」
バチャバチャと姉上に抱き抱えられながら私は暴れた。
それを平然と捕まえている姉上、この人は母上の血を色濃く受け継いだのかその力は今の私では抗えないほど強い。
「はいはい、大人しくしてなさい、もう少しで上がりますから」
「……はい」
大人しく姉上に返事すると上機嫌に私をさらに強く抱き締め、頭にスリスリと頬ずりしてくる。
ため息を漏らしながらも姉上のいいようにされた。
姉上から解放され、自室に入ると、どっ、と疲れが襲ってきて、ベットに倒れ込む、私一人では広すぎるダブルサイズのベットはいつものようにふかふかしていた。
仰向けになると読もうと思っていたガルサス神父から貰った本を見る。
所々ボロボロの書物、その表紙は掠れており読めなかった。
ゆっくりと私は表紙を開ける。
――――――――――――「かの神竜皇は死んだ」―――――――――――――
大胆にも1ページ目に書かれたその言葉は私は目を見開いた。
私は古ぼけたページを1枚、1枚とゆっくりとめくり読み進める。
ある日、竜の巫女は4匹の竜王の前で問いかけた。
ー「かの王は何処に?」ー
ある竜王はいった。
ー「かの王はお亡くなりになられました」ー
竜の巫女は聞く
ー「なぜお亡くなりに?」ー
4人の竜王は互いに見合うと、無言を貫いていた岩竜王は言う
ー「あの方は旅に出た」ー
饒舌に話す岩竜王
新しき本を求めた神竜皇様はこの国の本を見飽きたから別の時代に行く
と仰られ、旅に出られたのだ、ということらしい
竜の巫女は、そのことを民に伝え、4匹の竜王様は各地に自分の里を作り、その里から神竜皇が守り続けた民たちを守ることにした。
中々に興味深いことが書かれていた。
だが神父はなぜこの本のことを外に出さなかったのか、あるいはわざとなのか?
だが神父がこの本の隠していた理由がわからない。
彼に隠す価値がこの本にはあるのか?
だが神父がこの話が口外されないように自分のお気に入りとして置いていたのだからなにか価値があるのだろう。
それを読み終え、私はベットの横にあるサイドテーブルに本を置くと眠りについた。
――――――――――――「氷の神殿」――――――――――――
「シェルザール様」
私のことを呼ぶ老人の声
重い腰を上げ、座り直す
私の目の前には私の鱗を使い作られた蒼白の鎧を身にまとった老人が膝まづいていた。
「なんですか、ガルサス」
私は老人の名を呼ぶと彼は頭を上げた。
「貴方様の探し求められた”お方”を発見いたしました」
彼は私の命令で辺境の地の教会の神父をしている。
だがその正体は私の加護をさずかった。
氷竜聖騎士ガルサス・シェルザール
なのだ。
「よくやりました、ガルサス」
「ありがたきお言葉……」
私はやっとあのお方に会えるのだと思い笑みを浮かべながら、私の仕事を果たした彼に礼を伝える。
彼は深々と頭を下げた。
「この場には連れてきてないのですね?」
「はっ……来週には、シェルザール様の加護をお賜りになるためにこちらに来られることでしょう」
「ふむ、まぁ、あのお方の事でしょう、私の加護など大したものでも無いでしょう?」
「はい、その少年は神竜皇の加護を授かっておりましたので、シェルザール様の加護を弾いてしまうかもしれません……」
「少年?……あのお方は人の子になられたのですか?」
「はい、その様です、この神殿の近くのグラスフィア侯爵家の三男で、名はダヴェル、あのお方のお名前と一緒です」
私は目を丸くして驚いたが、あのお方の事だ、楽しく生活している事だろう……あぁ、人の子……それもまだ幼子ですか……ふふ……♪と考えていると、ついついしっぽが揺れていた。
「シェルザール様」
「おっと……何も見てませんね?ガルサス?」
「はい、私は何も見ておりません……」
「よろしい」
さて、来週までに掃除でもしておきましょうか、そう思った私は久々に人の姿になる
「おぉ……シェルザール様の人のお姿を見れるとは……」
「あまり見世物ではありませんよ、私はここの掃除をするので他の聖騎士達に連絡をしておきなさい」
「はっ……失礼いたします」
彼はまた深々と頭を下げ、立ち上がると神殿を去っていった。
「あぁ……♪まさか私の所でお生まれになるとは♪これも愛がなす力なのですねぇ♪」
私は満面の笑みで神殿の掃除を始めるのだった。
今回は読んでいただきありがとうございます。
時々私も見返すと思いますが、誤字脱字ございましたら是非ともご指摘いただければとおもいます。
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