1.全く売れない
「ちょっとそこのお前、奴隷買いたいんだけど。適当に用意してくれないか」
「あ、ああ……」
ぼうっと椅子に座り、空を見上げていると急に声をかけられた。
と言っても、声をかけられるのは不自然じゃない。
俺は仕事柄、見知らぬ人に声をかけられるのは普通にあることだ。
とはいえ、あまりにも久しぶりだったから焦ったのは確かだけど。
「どの子が欲しいんですか……といっても色々と条件がありますが」
ちらりと後ろに座っている、手枷を付けた少女たちを見る。
俺のことをキラキラとした瞳で見ているのが、俺が販売している奴隷だ。
奴隷――って言い方は嫌いなんだけど、俺はわけあって奴隷商人をやっている。
「絶対に食事は与えてください。お風呂も与えてください。部屋も与えてください。それと、何かあったらすぐに病院に連れて行ってあげてください。その他諸々書いた書類も用意していますので、それにも目を通していただけると」
「はぁ? なんだそれ。奴隷風情にそこまでやらせんのかよ。やっぱいいわ。別のところで買う」
「あ、ちょっと!」
久々に来た客だったのに……。
俺が説明をしようとすると、いつもこうだ。
彼女たちが俺から離れても、絶対に安全に暮らせるために頑張っているんだけど。
はぁ……やっぱり俺は奴隷商人には向いていないのかもな。
「スレイ! また売れなかったの?」
「全く、あなたは奴隷に甘すぎるのよ」
「だ、大丈夫ですよ。また、えっと。次があります?」
「……奴隷たちに励まされている奴隷商人なんて聞いたことないよな」
俺は嘆息しながら、椅子に体重を預ける。
すると、手枷をしているにも関わらず嬉々とした様子で獣人種のミーアが駆け寄ってきた。
「ねね! こんなことしてないで、また遊ぼうよ!」
「仕事だし……俺もしたくないけど……」
「えぇ~別にいいと思うんだけどなぁ」
「仕方ないじゃない。この人はダメダメ商人なんだから」
「ダ、ダメじゃないですよ! そ、そんなこと言ったらスレイさんが可哀想じゃないですか!」
ミーアだけではなく、吸血鬼のイヴにエルフのレイレイにまで励まされている次第である。
いや、イヴは励ましてないな。普通にダメダメって言われてるわ。
はぁ……落ち込む。
「おいおい! スレイさんよぉ、また売れなかったのか?」
「……あんたには関係ないでしょ」
ため息を吐いていると、同業者であるオッサン商人が声をかけてきた。
「いーや。同じ奴隷商人として心配なんだぜ俺ぁよ?」
心配って言いながらも、このオッサン商人が何を言いに来たのかなんて分かりきっている。
「うーん、やっぱりお前には才能がないんだわ。お前はな、奴隷を奴隷として見てねぇ。ただの商品に情を抱いている大馬鹿ってところだもんな!」
「うっせえ。そんなの俺の勝手だろ」
俺は俺のやりたいようにやっている。ただそれだけのことである。
それに、自分が売っている商品を大切にするなんて当たり前のことだろ。
万が一売れたのなら、そこで幸せになって欲しいと願うのは当然のことじゃないのか。
「そ・れ・に。お前が扱っている魔族ってやつは商品の価値すらない。全く使えそうには見えねえじゃねえか。ああ? よかったら俺様がそいつらに教養とやらを叩き込んでやろうか?」
オッサン商人が舌なめずりしながら近づいてきたので、俺は立ち上がって突き飛ばした。
そろそろいい加減にして欲しい。
「俺の大切な子たちをそんな目で見るな! 不愉快なんだよ!」
「ああ? ベテラン商人さんが教えてやろうとしてやってるのに、なんだその態度?」
「お前に教えてもらうことなんかない!」
「分かってねえなぁ。それだからいつまでたっても零細商人なんだぜ? お前の性格とやらが矯正されたとしても、そんな商品じゃあ買い手なんてこねえだろうがな!」
「……本当に不快だ。たっく、今日はもう店仕舞だ。三人とも、帰ろう」
俺はバッグを抱え、オッサン商人を睨めつけた後ミーアたちを一瞥する。
「あれ? もう帰るの~?」
「いいの? まだ時間はあるけれど」
「だ、大丈夫なんですか?」
「いいんだ。今日は帰ろう」
全く、毎回あのオッサン商人に絡まれて帰っている気がする。
なんなんだよ、あのオッサン。
俺の子たちを全く理解してない。
「おいおい! 今日も逃げるのかぁ!?」
オッサン商人のことは無視して、家へと歩いていく。
いちいち関わっていると、ろくなことにならない。
「やっぱりスレイは優しいね!」
「優しすぎるのよ」
「わたし……嬉しかったです」
「俺は当然のことをしているだけだよ。ごめんな、辛い思いさせて」
はぁ……今日もまた、この子たちは売れなかった。
いや、内心は売れてほしくないとも思っている節がある。
複雑だよ、本当に。
【夜分からのお願いです】
・面白い!
・続きが読みたい!
・更新応援してる!
と、少しでも思ってくださった方は、
【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★にしていただけると嬉しいです!】
皆様の応援が夜分の原動力になります!
何卒よろしくお願いします!