私は恋愛対象じゃありませーん!
春……それは恋の季節。
新たな出会いに胸を膨らませる同級生を見渡せる教室の一番後ろの廊下側の席が私、弓月 里桜奈のベストポジションだ。
男性教師が黒板へ向かった隙に交わされる囁きや熱い視線が飛び交うこの教室は里桜菜にとって素晴らしい観劇だったりする。
眼鏡と長い前髪で自信のない自分の容姿を隠し、今日も教室ウォッチングだ。
気になる者には自然と視線が向かうようで、本人達は気付かれないように気を付けているのだろうけど、第三者から見れば一目瞭然だったりする。
「友美ちゃんは裕介くんに矢印で……裕介君は美奈ちゃんに矢印か」
真面目にノートを取るふりをしながらズレた瓶底みたいに厚い眼鏡を押し上げる。
歴史のノートの後ろには私の密かな楽しみの恋愛矢印が躍っている。
いやぁ、楽しいよね人様の恋愛模様って!
恋愛小説や漫画も楽しいけど、このライブで繰り広げられるロマンスの不祥事が素晴らしい。
今日もアチラコチラで片思いや告白劇、憎愛渦巻く三角関係……中にはハーレムを築いている方もおりますがまぁ、本人たちが納得しているならいいんじゃないでしょうかね!
そんな些細な楽しみを堪能するために今日も気配を消しているわけですよ。
「おいこら里桜奈無視すんなや」
隣の席で机にベッタリと這いつくばってこちらを見てくる龍ケ崎颯真がうざいです。
嘘ですごめんなさい睨まないで怖いから!
この当たりでわりと有名な不良グループのリーダーがこの龍ケ崎君です。
「龍ヶ崎君はきちんと前を向いたほうがいいですよ」
そうコソッと注意を促すとわかりやすく舌打ちしながら椅子にふんぞり返った。
ツーブロックに切られた髪をワックスで後ろへ流すように撫でつけ、制服の第二ボタンまで開いたシャツからくっきりとした男らしい鎖骨が覗く。
セクシーな喉元にある無骨なシルバーのチェーンネックレスにはネームタグと不釣り合いな小さな花の飾りがついた玩具の指輪が揺れている。
このクラスでも一二を争う端正な顔立ちと程よく筋肉がついた逆三角の逞しい体つきも相まって龍ヶ崎君に集まる矢印の多いこと多いこと。
ぜひとも龍ヶ崎君には教室の真ん中位の席でお願いしたいのです。
「仕方ねぇだろ、教科書持ってきてねぇんだから」
「いや、持ってこようよ、せめてロッカーに置いておくとかすればいいじゃない?」
コソッと伝えてるのに、アチラコチラでこちらの会話を聞いているのか、先程までざわざわしていた筈の教室が静まり返っている。
「あ~、この問題わかる人」
定年間近のためか、耳が遠くなっている教師がそんな教室の空気を読まずに振り返り、今日の回答者という名の生贄を指名してくる。
「それじゃあ龍ヶ崎君」
「はい……その問題は……」
スラリと立ち上がりよどみなく答えるその姿と甘さを含んだ美声に教室の女子達のほとんどがうっとりしている。
うむ、ギャップ萌にまで対応してみせるとは流石主役級不良イケメン。
「里桜奈っー!」
授業が終わるなり教室に飛び込んできたのは里桜奈の幼馴染みで親友の三ツ塚由紀だ。
由紀とは保育園からのくされ縁でスキンシップが激しい肝っ玉母ちゃん系の美少女だったりする。
その男女違いなく気安い性格と日本人の母と外国人モデルの父から産まれたハーフで、はっきりした顔立ちの由紀は男子生徒に密かに大人気だ。
本人は全くと行っていいほどに、自分に向けられる思慕に気が付かないのだけど。
「ううぅ、里桜奈と別のクラスとか我が家はどうやって過ごしていけばいいのか」
「んな大げさな、新聞のにこにこ屋の安売りチラシあげてるだけでしょう」
「我が家にとっては十分死活問題なのよ!」
「まぁ三ツ塚家は由紀以外みんな食べざかりの男の子だもんね、仕方ないかぁ」
由紀はある日突然失踪したお母さんの代わりに弟たち四人と妻を捜すために子どもまで見る余裕がなくなってしまったお父さんを支えてきた。
特に幼い奏音君をおんぶ紐で胸元にくくりつけて、背中に中学の通学カバン、手には赤ちゃんグッズがみっしり詰め込まれたカバンを持っての登校は母校である中校の伝説になっている。
「あっ、由紀じゃんどうしたんだ?」
「颯真君居たの?」
目ざとく由紀を見つけた颯真が周りを取り巻いていた女子達と分かれると、不満げな女子達の視線と一緒にこちらへやってくる。
どうやらイケメンにとって不良というのはマイナスではなくプラスとして付加価値が付くのか、颯真へアプローチするべく水面下で熾烈な女の戦いが繰り広げられているのだ。
「居たの? って酷くねぇ?」
「ごめんごめん、ほらあの子達が颯真と話したくてこっち睨んでるから早く行きなーじゃぁばいば~い」
いつも通り気安く軽口を叩きながらじゃれ合っている二人をみて美男美女お似合いだなぁと思う。
ある日、トイレに入っていた里桜菜はあとから入ってきた女子生徒の会話で個室から出るに出られなくなってしまった。
「ねぇ弓月のやつ凄く目障りなんだけど……ブスのくせに龍ケ崎君に色目なんか使っちゃってさ」
「あれねぇ、マジむかつくわ」
「せめて由紀くらい美人ならまだ許せるんだけどさぁ」
「そういえば三ツ塚由紀って龍ケ崎と付き合ってるんだってよ」
「へぇ、そうなんだ~美男美女でお似合いじゃん」
トイレに入ってきた女子生徒達の会話に出るに出られなくなってしまった。
暫くの間トイレで話を続けた女子生徒達が出ていったのを確認して、扉を開けて手を洗う。
手の上を流れていく水を見ながら悩む。
正直言ってブスなのは自覚しているけど、自分の悪口を聞いて落ち込まないかと言われたら落ち込むに決まってる。
里桜菜はてっきり颯真が一方的に由紀のことを好きなのだと思っていた。
「二人は付き合ってた……の?」
たまにふたりで楽しげに話をしている姿も目にしていた。
仲が良いのも知っているからもしそうなら教えてほしいと思うのはおかしなことかな?
学校の授業が終わり由紀と一緒に帰りながら、隣でご機嫌に本日の折込広告を確認している由紀の姿にポソリと口から声が出た。
「由紀って龍ケ崎君と恋人同士になったの?」
トイレで聞いた言葉を思い出した里桜菜の口からポロリと出た疑問を由紀はしっかりと拾い上げていたらしい。
「私と颯真が恋人? ナイナイ、絶対にないって、それにあいつ好きな人いるしね」
由紀の否定の言葉に胸のあたりがモヤモヤする。
ん? もしかして昨日唐揚げ食べ過ぎたのかな、もしかして胃もたれした?
「颯真はあんな不良みたいな見た目の割に肝が小さいっていうかヘタレだから私がたまにその好きな人について相談に乗ってるだけだよ」
「へぇ〜、そうなんだ~」
「本人は頑張ってアピールしてるみたいなんだけどね、全くと相手にして貰えないんだってさ」
由紀の言葉に相槌を打つ。
あのイケメンの颯真が迫っているのに気が付かないほどのスルースキルを所持している想い人はどうやら相当鈍いらしい。
校舎の昇降口をすぎて、自宅に近い裏門へ由紀と二人で進む途中で私の腕を由紀が引いて校舎の陰に引っ張り込まれた。
「ちょっ由紀どうしたの?」
私にジェスチャーで口をつむぐように指示した由紀が、校舎の角を利用してなにかを確認している。
「なになに、誰かいるの?」
由紀のマネをして少しだけ建物の角から顔を出す。
「別に今彼女がいるわけではないんでしょう!? なら遊びで構わないから私としと付き合ってよ! 絶対に後悔はさせないからぁ」
颯真の着崩した制服の胸元に派手な女子生徒、小出美羽が甘えるようにすり寄っている。
確か校外に歳上の彼氏がいるらしく、化粧や髪型は大人っぽい。
また両親が資産家でチヤホヤされて育ってきたらしく自分の思い通りにならなければ美羽は癇癪をおこしていた。
身体の線強調されるように改造された制服のスカートは太腿の大半が出ているのではないだろうか。
「俺は女の好みにうるさくてね……悪いが他を当たってくれ」
そう言ってけんもほろろに女子生徒を突き放すと、颯真は美羽を置き去りにどこかへ立ち去ってしまった。
「私を振ったこと後悔させてやるんだから!」
颯真の背中に向かって怒鳴る美羽に関わらない方がいいという認識は由紀と同じだったようで、二人で頷きあう。
それから数日後、いつもと変わらずチャイルドシートがついたママチャリを押す由紀と二人で自転車を押して帰宅していると、私達の進む先に数人の男性がたむろしていた。
脱色した髪の毛を金色や赤色などに染めており、耳や口元には大振りなピアス、ジャラジャラと貴金属を身に着けた男たちの中に美羽が混ざっているようだった。
「うわっ、里桜菜回り道しよう」
嫌そうに顔をしかめた由紀の声に頷く。
「そうだね、道を変えよう」
「居たわ! あの子が颯真の彼女!」
そんな里桜菜たちに気がついた美羽がこちらを指差して叫んだ。
嫌な予感しかしない。
「お前等、逃がすな!」
「まずい、逃げるよ里桜菜!」
「えっ、あっ、うん」
すぐさま自転車の向きを入れ替えた由紀と違い、里桜菜は対応しきれずに自転車を倒してしまった。
「里桜菜大丈夫!?」
「うん、平気! 多分狙いは由紀ちゃんだから早く逃げて!」
「里桜菜を置いて逃げられるわけがないでしょ!」
走って逃げたところで運動音痴な里桜菜が逃げ切れるとは思えない。
急いで自転車を起こすけれど不良たちはすぐ近くまで迫っている。
里桜菜を助けようとこちらへ戻ろうとする由紀の姿が見えて血の気が下がる。
「きちゃだめ! 大丈夫だから!」
由紀は美少女なのだ、もし不良に捕まるようなことがあれば酷い目に合わされかねない。
迷った様子の由紀だったけど、そのまま後ろを向いて自転車漕ぎ出したのを見送り里桜菜はホッと息を吐いた。
「チッ、龍ケ崎の野郎の前で可愛がってやろうと思ったのによ」
そのまま里桜菜は彼らがアジトにしているバーへと連行された。
「ちょっと颯真のやつ、里桜菜がピンチだってのになんで電話にでないのよ!」
何度も何度も颯真のスマホに電話を掛けながら由紀は盛大に悪態をついていた。
何度目かのコールのあと不機嫌そうな颯真が電話に出る。
「ハイ、龍ケ崎……」
「やっと繋がった!」
不機嫌な声などガン無視で由紀が声を被せる。
「あ? 由紀か……俺は今機嫌が悪いんだよ」
「そんなことどうだっていいの! 里桜菜が攫われた」
スマホ越しに聞こえてきた由紀の切羽詰まった声に颯真はスマホを手から落としそうになり慌てて反対側の手で受け止める!
「はぁ!? なんでそんなことにっ、てか由紀今どこにいやがる」
「あんたが振った女の逆恨みに巻き込まれたのよ! だから里桜菜が大切なら他の女の子達と差がつかないように気を付けろってあれほど言ったのに! いまは里桜菜が連れて行かれたバーの近くで隠れてる」
「直ぐに現在地の位置情報をスマホで送れ!」
送られてきたのは、最近何かと颯真に言い寄ってきた女の彼氏が頭を張っている不良グループの溜まり場だった。
「くそっ! 由紀は絶対に近づくな! つうか必ず里桜菜を助け出して帰るからお前は、保育園の弟回収してから里桜菜の親に状況説明しといてくれ、流石の俺でも女ふたり守りながらは戦えねぇからな」
急いで単車に乗りエンジンを掛けてバーへと向かって走り出す。
「里桜菜に手を出したら絶対に許さねぇ」
身体に響くような重低音の音楽が流れるバーに連行された里桜菜は周りを不良グループに囲まれていた。
バーの奥に設置された革張りの高そうなソファーで長い脚を組みタバコをふかしている怖そうな男性の前に連れ出される。
「東堂さん……すいません、龍ケ崎の女に逃げられました」
「ちっ、使えねぇなぁお前等」
「あの……なんでこんなことをするんですか!?」
勇気を振り絞り口を開けば、ギロリと鋭い目つきで睨まれた。
「あぁん? 龍ケ崎のヤツが俺の妹にちょっかいを掛けやがったんだ〆るのは当然だろうが」
東堂と呼ばれた強面の男に甘えるように擦り寄り里桜菜に優越感に酔ったような視線を送ってくる美羽に見る。
「それはおかしいわ、龍ケ崎君に纏わりついて振られたのは美羽の方だし、龍ケ崎君は由紀ちゃんとは付き合ってないもの!」
「そんな話、誰が信じるんだよ」
「少なくとも由紀ちゃんの親友である私が、由紀ちゃん本人に確認したから間違いないわ!」
「おい、美羽どういうことだぁあん!?」
「そっ、そんなはずない! 私を信じて?」
「男と見ればすり寄るお前のどこに信じる要素があるってんだ?」
どうやら日頃の行いが祟ってあまり関係性は良好ではないのかもしれない。
日頃の行いって大事だね。
「ご納得いただけたのでしたら私はお暇したいのですが?」
「残念ながらそれは聞けねぇな」
「なぜ?」
「龍ケ崎には借りがあるからな」
そう言ってニヤリと笑う。
借りって何をしたのですか龍ケ崎君よ……
「東堂さん……龍ケ崎が来ました」
「そうか、連れてきてくれ」
直ぐに龍ケ崎君を取り囲むようにして不良グループの男が戻ってきた。
「久しぶりだな! 沼倉……いや、今は龍ケ崎か」
「東堂?」
顔を見合わせる二人にもしや喧嘩にでもなるのではないかと身構える。
「お前随分変わったな、泣き虫颯真はどこいったよ?」
「それはお互い様だろうが、どこぞのヤンキーかと思ったわ!」
喧嘩どころがガシッと抱き合い互いの背中を叩きあう二人に他の不良グループが呆気に取られている。
「あの……東堂さんこれは一体?」
「んぁ? 腐れ縁だ、龍ケ崎お前こいつにちょっかいかけたってのは本当か? 答えによっては〆る」
「東堂……俺の好きな女は変わってねぇし他の女に興味ねぇ」
「んなこったろうと思ってたよ、お前が由紀と付き合ってるって噂を聞いたときは自分の耳を疑ったからな」
和気あいあいと話す二人を美羽は信じられないとばかりに目を見開いた。
その目がとても動揺しているのがよくわかる。
「由紀は……色々と相談に乗ってくれてるだけだ」
そんな二人の様子にコソコソと美羽が逃げるように動き始めた。
「おいこら美羽? どこに行くつもりだ?」
「ヒィッ!」
「お前等美羽が逃げんぞ、そいつはしばかなきゃならんからな逃がすなよ」
「うっす!」
「いやぁ兄ちゃんごめんなさぃぃい!」
美羽はガシッと不良グループの男たちに捕まった。
「はぁ、妹が済まなかったな。両親が離婚した時に別々に引き取られたから名字が違うんだ。 龍ケ崎もいい加減片思いにケリをつけて、彼女を紹介してくれよな」
バシバシと龍ケ崎の肩を数度叩くと、里桜菜達はバー外へと見送られた。
暗くなった帰り道の等間隔に並んだ街灯の下を自転車を押す里桜菜と並ぶようにバイクを押す龍ケ崎と並んで歩く。
「もしかして龍ケ崎君はただのクラスメイトの私を助けに来てくれたの?」
龍ケ崎の隣を歩きながらポソリと口から出た言葉に龍ケ崎が振り返った。
「由紀から電話を貰ったからな、心配するだろう普通」
「そっか、あの東堂さんって人知り合いなんだね私びっくりしたよ」
「ガキの頃このあたりに住んでた時のヤンチャ仲間だよ、まさかこの年になってもまだヤンチャしてるとは思わなかったけどな?」
「あれ、龍ケ崎君ってこの街に住んでたんだ?」
「なぁ……里桜菜……この指輪覚えてないか?」
胸元のシルバーチェーンネックレスを引き出し里桜奈の前へと差し出した。
「これっていつも龍ケ崎君が付けてるやつだよね?」
シルバーチェーンのネックレスにはいつものネームタグと不釣り合いな小さな花の飾りがついた玩具の指輪がある。
男らしい腕を上げて首の後ろでネックレスを外すと、颯真は指輪をチェーンから外し里桜菜の前に差し出した。
『絶対に会いに来るから!』
思い出したのは再婚する母親に手を引かれて引っ越していった初恋の男の子……確か名前は……
「そうちゃんにあげたやつに似てる?」
「やっと思い出したか里桜菜」
「えっ!? 龍ケ崎君ってそうちゃん!?」
思い出の中のそうちゃんは泣き虫でよくいじめられているような男の子だった。
「たく、由紀は直ぐに気がついたのに全然気が付かないんだもん酷いよな里桜菜は」
「いや、だって変わり過ぎじゃない見た目!?」
まさか前髪を伸ばして顔の半分を隠している気弱なそうちゃんがこんなワイルドな不良に成長するなんて思っても居なかったのだ。
「しかも分かりやすく里桜菜にアプローチ掛けてたのに全くと言っていいほど反応なくて、俺がどれほど凹んだと思ってんだよ」
アプローチされてたの全く気が付かなかった。
「だって龍ケ崎君が好きなのは由紀でしょう?」
そう、私はずっとそうだと思って応援しなきゃって思ってたのに……
「俺が好きなのは今も昔もお前だって言ってんだよ! いい加減分かれよこの鈍感! ほら行くぞ!」
里桜奈の手を引く颯真の後ろ姿は夕焼けの逆光で赤く色づいて見えるけれど、夕焼けよりも耳が赤く見えるのは気の所為ではないのだろう。
顔を真っ赤に染めて里桜奈は颯真の後ろを大人しくついていくだけで精一杯だった。
龍ケ崎君……そうちゃんに送ってもらい自宅に帰ってきた里桜菜を泣き腫らした顔で待ち構えていた由紀が出迎えてくれた。
どうやらとても心配を掛けてしまったらしい。
「里桜菜が無事で良かったよー!」
ポロポロと涙を溢しながらぎゅうぎゅうと抱きしめる由紀の力加減が無くて、本当に心配してくれていたのだと実感する。
「由紀、心配かけてごめんね」
その背中を何度か撫でる。
「おいこら由紀、里桜菜をいい加減返しやがれ!」
「いや、里桜菜は颯真には勿体ないもん! 彼氏でもない癖に」
「なんだとコラ! 里桜菜は俺のお嫁さんになるんだ!」
颯真の言葉に聞いた言葉が理解できずに何度も瞬いた。
「えっ……私、龍ケ崎君の恋人とかお嫁さんになるとか嫌なんですけど!」
「なんでだよ!?」
「女の子に絡まれるのはもううんざりだもん!」
照れ隠しにそう言えば、龍ケ崎君が目に見えて項垂れた。
「そんなぁー!」
*******
その後、城ヶ崎君は里桜菜に対するアプローチの仕方を反省したらしい。
他の女の子と仲良くする行為は、里桜菜の嫉妬ではなくフェードアウトに繋がると実感したらしく、校舎内で告白されては自分には里桜菜だけだと声高々に宣言しているらしい。
正直言って恥ずかしくていたたまれないからやめて欲しい。
はじめは里桜菜が龍ケ崎君へ言い寄っているのだと勘違いしていた女子生徒達も、実は龍ケ崎君が一方的に里桜菜へ片思いしているのだと理解したらしく、最近ではそんな龍ケ崎君を応援する始末。
「里桜菜、愛してる! 俺と結婚してくれ!」
「いやだー!」
「いい加減諦めなって、どうせ捕まるんだから」
由紀……そんなフラグはいりません!
完
お読みいただきありがとうございます。
登場人物、三ツ塚由紀ちゃんが主人公の新作『最強スキルは勇者でも聖女でも賢者でもなく肝っ玉母ちゃん!?』公開中です。気が向きましたらそちらもどうぞよろしくお願いいたします。