87メルカVS2500人
槍の戦士メルカと一緒に、ガント王国に混乱をもたらす第三王子を成敗する流れになってしまった。
例によって山ほどある収納指輪から衣装探しだ。「アラビアナナイツ」という話にあるような、エキゾチックな顔隠し付き衣装を見つけた。
「メルカ、まずはボウクンペンギンでいいよね。第三王子はあと回しだよ」
「はい。ペンギンの被害で家に帰れない人もいますし、先にそっちを片付けたいと思っていました」
今回はミスリル浴槽の船の出番が多い。ガント王国の本土には上陸せず、西海岸に沿って、一気に南の方に向かった。
「サーシャさん、ペンギンをどうするおつもりですか」
「殺していいなら、殺す。だけど、その顔は生かして欲しいっていってるね」
「ダンジョンで第三王子の手下が白状したとおり、幼生を使ってペンギンをおびき寄せたようです。本来は穏やかな生き物。殺したくないのが本音です」
しゃーない。「沼」と「精霊」を置き換えて使うか。
「闇の精霊と水の精霊に同時に協力してもらえば、一時的な捕獲ができる。1日くらいの間に外に出せば死なないはずだから、一気に捕獲して巣に帰せばいい」
「お願いしてよろしいでしょうか」
「その代わり、姫の件かうまくいったら、私の行き先も占ってよ」
「はい。今は姫のフラグ回避のため「直感」に集中させてもらいますが、目処かついたら、必ずサーシャさんのためにスキルを使います」
にっこーと笑うメルカは、何となくかわいい。でも、ただそれだけだ。
◆◆
次の日、国の南の海岸でペンギン戦の予定だったが、前座が現れた。
「サーシャさんすみません。私の情報不足でした」
「へ~、こうなったか」
目的の海岸近くに第三王子の軍隊6000人のうち、2500人が集結していた。
メルカの予測によると、ボウクンペンギンの被害報告を受けた第一、第二、第四王子の援軍が1000人来る。第三王子はこの1000人を2500人の軍勢でたたき、勝ち名乗りを挙げながら、首都に向かって進軍するつもり。
決戦の予定は三時間後。
そのときに、再びボウクンペンギンを利用して、第一王子殺害から王位を奪い取る算段をしているのではないかと言う。
「詳細は私には分からない。だけど、とにかくここで第三王子の兵を潰走させればいいのね」
「できるんですか。いえ愚問でしたね」
ここは平地。起伏もあまりないから、小沼を50センチに浮かべて使える。
「ここならイケる。メルカ、今から見るものは他言無用。司令官がいるなら、どの位置か教えて」
ブライト王国から奪ったフルプレートアーマーを着て、上からミスリルマントを羽織り、胸の紋章が見えないように閉じた。メルカにも同じ格好をさせた。
ぺちょっ、ぽちゃん。
79センチ泥団子、79センチ小沼をともに地上50センチに設置して、泥団子には立ててミスリルの盾を設置した。
小沼にはサーフィンのようにミスリルの盾を置いて、そこに乗った。
「メルカ、その黒いの闇魔法だから触ったら皮膚や肉がただれる。興味本位で触っちゃだめよ」
「は、はい。サーシャさんにしっかりつかまっています」
不思議引力で何よりも固くなった盾を前に出し、3キロほど先から徐々にスピードを上げて150キロで2500人の軍隊の中に突進した。
「ひえええええ。サーシャさーん」
「大丈夫。前に出ている盾は何よりも強いから!」
第三王子の軍隊は、私達に気付いた人間もいただろう。だけど彼らは1000人の第一王子主導軍を待っていた。まさか2人の変なものに乗ったやつが突っ込んでくるとは思うまい。
ミスリルの盾は前に出して私から10メートルをキープ。下の小沼との同時操作だけどレベル150越えの反射速度なら余裕で操作できるのだ。
「おい、なんか猛スピードで迫ってきたぞ」
「変な乗り物みたいなのが一騎だ。迎撃せよ!」
「魔法部隊、用意」
と言ってると思うが、150キロで鉄壁の盾を前にして突っ込む私達に攻撃できるやつはいなかった。
ががががががががががががががががががががががががががが!
打ち合わせ通り、メルカに肩をたたかれた。兵の壁を抜けて司令部の近くに来た。ストップだ。
背中から魔法や弓を食らわないように素早くUターン、次の攻撃・・・。
阿鼻叫喚だった。私のイメージでは、轢いた100人が倒れて溝が出来ていると思っていた。
「ちょ、ちょっとサーシャさん、これは一体・・」
密集し、四角く並んでいた2500人のど真ん中に突っ込んだ。100人くらい轢いたと思うけど、その轢かれた100人が150キロの絶対的な堅さの盾で弾かれたのだ。500人くらい倒れているように見える。
「弾かれた人間が弾丸になって次のやつに当たり、4次被害くらいまでいっちゃったみたいだね」
「と、とりあえず後ろに出たんで、煌びやかな装備を着たやつをすべて轢きましょう」
物騒なことを言うメルカに従って、追加で50人くらいはじき飛ばしたあと、300くらいいた騎馬部隊に突っ込んでみた。
2500人の軍勢はわずか20分で潰走した。もくろみ通りに第三王子の勢力をそいであげた。
だけど、その後はメルカが不可解な行動に出た。走って3人ほどの兵士を追い始めた。
結局は仕留めたけど、腕に怪我を負った。テンションが上がり過ぎたのだろうか。




