86 報酬はメルカのスキル
不思議な力を持つメルカと酒場で飲んでいる。
「良く分からないな」
「サーシャさんでも無理ですか」
「もちろん分からない」
「ふむ。あなたでも無理ですか。精霊様の出現で光明が見えたから、何かご存じかと思いました」
頭が混乱してきた。
「ぶっちゃけ、姫の命がかかっているのです」
「理解できない。エールで酔ったせいじゃないよね」
「トコブシ姫の「死のルート」が見えているのですが、サーシャさんの出現で方向性が変わったのです」
「私?」
「詳細は分からないのですが、姫は先月から死神に取りつかれいます。死相が浮かんでいました」
「なにそれ」
「強力なペンギンが国に上陸したときから、私の中に警鐘が鳴り始めました」
「なのに、あなた方はペンギンと戦った。そして負けたんでしょ」
「最初は姫や仲間の提案で、すでに元凶と分かっていた第三王子の成敗に向かうはずでした」
「ふうん、難度はどっちが低いの?」
「第三王子の殺害の方を選べば、楽勝のはずです。ですが、その案に賛同しようとしたら、目の前が真っ暗になったのです」
「そこから、トコブシ姫の死亡ルートが見えっぱなしなのね」
「ええ。道をなんとなく選べるのですが、正解が常に困難そうな一点だけ。みんな少し疑問に感じながらも行き先を変更する私に付いてきてくれました」
「一緒にいた5人は生粋の貴族でしょ。仲間とはいえ平民出のあなたに従ったわね」
「えへへへへ。そこはテクニックで」
「ん、まさか」
「そうです。姫だけでなく、サライら5人も私の虜なのです。捨てるよって言ったら、付いてきました」
「けど、ダンジョンで会ったときは4人が怪我人だったよね」
「はい。無謀な戦いの連続でした。ペンギンが国の南に上陸した時、第一王子は民の避難をしてくれました。しかし第三王子のクーデター計画をつかんでいたため、ペンギン討伐隊を出せず困っていました」
「そこであなたらが討伐に向かったんだ」
「私の直感により6人だけ。それで私を含めた5人は生き残る方向に運命が動いたのですが、姫の死だけは色濃いままでした。姫に抱きつく死神さえ見え始めました」
「聞くからに、まずいって思うよ」
「はい。ペンギン戦で全員が怪我を負いましたが、それにも関わらず、私は姫達をイタスダンジョンに連れて行きました。なぜか、そこしかダメだったんです」
「そして私に会ったと」
「そうなのです。私達の攻撃スキルを考えても、イタスダンジョンは不向きな場所です。なのに、「直感」が姫を生かすなら、そこしかない叫んでいました」
「だけどダンジョン10階で姫も瀕死だったよね」
「姫が大怪我を負って、それまで信じていてくれた仲間も私への不信感を持ち始めました。目の前には、初めて死神を名乗るボロをまとったゴーストっぽいのが現れました。だけど・・」
「だけど?」
「スキルが叫ぶのです。これが最善だと」
「どういうこと?」
「分かりません。すべての未来が見えなくなって、姫に取りついた死神さえもどうなかったか分からなくなりました」
「何かが変わったということね」
「はい。何も見えず途方に暮れていると、サーシャさんが現れたのです」
「変えたのは私ということ?」
「正確には、サーシャさんと精霊様。最後の直感スキルからの答えは「離れるな、邪魔するな」です」
非常識な内容だ。だけど私自身のスキルの成り立ちが、言葉で説明しても大概の人は信じてくれないくらいに非常識なもの。
「普通」から逸脱した私の進むべき道のヒントは、メルカにもらうのがいいのだろう。




