31 葛藤と甘い考え
私は「沼」という破格のスキルを持っている。
「沼」は強力だけど、力を100パーセント発揮できるのは1人のとき。メロンやカリナの前では使いたくないし、使えない。
「沼」の中を見られたくないだけではない。もしも80センチの狭い沼にメロンと障害物が一緒に落ちたら、メロンは潰れてしまう。
そんなことを考えると、本当のことが言えない。
悩むけど、今はレベル上げをしよう。
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「ごめん、単独行動のときに危険な目にあって、考えたんだ。スキルが覚えられないから、ダンジョンでレベル上げをしようと思うの」
「もちろん。正式にパーティーを組んだんだから、当然一緒よ」
「私もです。そ、それより、ギルドカードに1600万ゴールドの振り込みありましたよ」
「前にオークションに出したバーニングベアが6000万ゴールドで落札されたの。ギルドとか色んな手数料の2割を引いて4800万。それをを3等分だよ」
「思い切ってペルミ村に2人で400万ゴールドを寄付したんです。なのに、お金が増える一方です」
「村では無理してお金を捻出したと思われているけど、みんなをだました気分だわ・・」
◆◆◆
メロンとカリナと一緒に計画を立てたのは、近隣の上級ダンジョンを一気に攻略。ギルドの推奨レベルは40から62になる。最深部は50階。
間違いなく私達3人ならクリアできるので、行けると判断できれば特級ダンジョンに挑むことにした。
特級ダンジョンの推奨レベルは54から145 。ボス部屋は80階なのだが、行けそうな予感はある。
「沼」の私、剣術の腕が上がったメロン、魔法の才能があったカリナ。カリナは聖魔法も強くなって、回復薬も必要ないくらい。
◆◆◆
早ければ、3か月後には特級ダンジョンに入る足がかりをつかみたいと思っていたのは誤算だった。
今は、上級ダンジョンに挑み始めて2か月後だ。
「マリアさん、お肉のおみやげあるよ。あとで解体場で受け取って」
「ギルドカードを確認して下さい。これで5つ目の攻略マークが付きました」
「レベル測定もお願いします。レベル26になってから一度も計ってなかったから楽しみ」
「殺戮天使のお三方が近隣で残すのは、特級ダンジョンのみとなってしまいました」
「何日か休んで、とりあえず特級に入るよ」
「ならば、私のお勧めです。キペンダンジョン21階のタテホタテ、プラムダンジョン34階のスカットマスカット・・」
「それからノルンハニー、バドルダック、スイートバッファローだよね」
「これ、お勧めというより、マリアさんが食べてみたいものですね」
「うふふ。すごく期待して待ってます。そして今日はヒツマウナギをありがとうございます」
私達はすでにハルピイン近郊4個の上級ダンジョンクリアしてしまった。
普通は8人ほどのAランクパーティーが1ヶ月くらいかけて上位ダンジョンをクリアする。
だけど「殺戮天使」は私が小沼か泥団子で魔獣の足を止め、メロンとカリナで攻撃。
サーチアンドデストロイで、ひとつのダンジョンを攻略するのに平均で13日。2日休んで次のダンジョンアタックと、大急ぎで終わらせてしまった。
◆
「じゃあ、レベル測定をお願いします、マリアさん」
「はい、メロンさんはレベル51カリナさんも51・・」
「とうとうレベル50の壁を越えました」
「カリナ、私達Cランクのままだけど、レベルかAランクに届きそうになってる」
「ええサーシャさんのレベルは・・」
みんな聞き耳を立ててる。
「サーシャさんはレベル78です」
どよどよどよどよ。
ざわめいたが、思ったより低い。
メロンとカリナと一緒のときは80センチ以上の「沼」で魔物を沈められない。
普通に倒すしかない。
獲得経験値を考えると10倍近い差があるのだ。
◆
ダンジョン攻略中に沼様から交信があった。
私がダンジョンで79センチ以下の沈まない沼しか使わないから不思議だったそうだ。
「沼」の中で魔物を絶命させながら上級ダンジョンを4個攻略していれば、神の経験値10倍といえる効果でレベルは100を越えている計算になる。
「沼」を使えば何とメロンとカリナにも恩恵があるそうだ。例えばメロンが瀕死にした魔物を私が沼に入れる。
メロンは止めを刺していないから半分の経験値を私に取られるが、沼で止めを刺せば全体の経験値が10倍になる。経験値となるエネルギーが半分はメロンに向かう。つまり「沼」を巧みに利用すれば、メロンは普通に倒す5倍の早さで成長するのだ。
私も半分の「手数料」のような経験値が入る。それも普通の5倍。メロン、カリナと同時でも、普通に倒す3・3倍になる。
倒したあと沼の底から出せば、魔物の素材も問題なく手に入る。
だから、すごく悩んでいる。
私のレベルが60を越えたと思われるときから、80センチ以上の「沼」が上のものを吸い込む初動が変わった。
人なら最初に沈むのが膝下くらいだったのが、股下近くまで入った。盗賊と強盗で試した。
これは大きい。股下まで一気に沈んだ奴らは、大きく体勢を崩して慌てて「沼」に手を着いた。そうすると、もう私への抵抗手段がなかった。
「沼様、「本物の沼」を使ってるときメロンとカリナが穴に落ちて、沼の中を見られるのが怖い」
『うむ、お前が中の死体を片付けても、神器持ち召喚者2人の死体だけはそのまんま。それにアタイの中は、本来は生身の生き物が入る世界ではない。アタイは人間の言葉に当てはめれば「邪神のオモチャ」だからな。人間の本能に恐怖を与える・・』
「沼に入れた悪人を出したとき、沼の中で感じる怖さは何度も聞いたものね・・」
『だが覚えておけ。メロンとカリナの本当のピンチが訪れたとき、それを救えるのも沼だからな』
「・・分かってる」
こうやって結論を先送りしたけど、甘すぎた。
1ヶ月後、悲しい決断を迫られることになった。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/295429334/181668538
こちらで先行掲載しています。
読んでいただきありがとうごさいます




