22 神器も使い手次第
細目で黒目黒髪。175センチくらいで痩せてる。
私と一緒にブライト王城に飛ばされた、本物の召喚者だ。
彼までの距離は20メートル程度。「沼」の射程距離10メートルを越えている。
目付きの嫌らしさは抜きにして、腰に下げてる剣は恐らく神器だろう。
「前にも会ったことあるかって、黒い髪の人と会ったのは初めてよ」
遠距離攻撃を持つ相性が悪い相手だ。とぼけないと。
ぽちょん、ぽちょん。
だけど戦いは避けられない。勝ってこのクズを食わせろと沼様が叫んでいる気がする。
「ここが盗賊団のアジトって聞いてな、俺の強さを見せに来たんだよ。魔物より対人戦の方が、殺したときの達成感がすげえんだよ」
「残念ね。私は冒険者だけど、盗賊団が討伐された話を聞いて、お宝が残ってないか探しに来たの」
「んだよ!堂々と人殺しできるから森の奥まで来てやったんだぞ、無駄足じゃねえか」
「沸点低いな・・。なにもなかったから帰るわ」
「お~帰れ」
「じゃあね」
明確な殺気。ドシロウト丸出しだけど、変な自信も感じる。
「スラッシュ」
「きゃっ!」
後ろを向いた瞬間に風の刃を飛ばしてきた。みえみえの不意打ち。
「お、やるな。ブライトの近衛兵は訓練のとき、この技でバタバタ倒れたんだぜい。次はかわせるかな」
いきなり距離を詰めてきて、風を纏った剣で切りつけてきた。
ギリギリでよけて、4メートルくらい距離を取った。
「あんた、いきなり何すんのよ」
「そうだな、ワケわからねえまんま死ぬのも可愛そうだしな。聞いて驚け、俺が噂のブライト王国召喚者、山田竜都だ。へへへ、初めて女を殺すのもいいかなと思ってな」
なに、こいつ頭悪い?
「おめえ小さな空間収納、それから水魔法か何かで「水溜まり」を作る能力があんだろ」
「え?」
「空間収納からなんか出してみな」
「・・スコップ出てこい。出ない」
「俺の神器「風虎剣」は最強だぜ。風を支配し、相手のスキルを阻害するんだぜ。身体強化がご自慢のブライト王国兵士も無力化して、何人か切り殺してやったぞ」
私はあきれている。
「あんたのスキル阻害、有効距離は?」
「なんと5メートルもあんだぜ」
「ならさよなら」
とぷっ。
こんだけ注意力がないやつ、1メートルの沼を4つ出して一気に向かわせると、そのうち一つに簡単に捕まった。
「おわっ。なんだこりゃ、沈む。これが「水溜まり」かよ。何で俺の神器の力でスキルが阻害されてねえんだ!」
馬鹿だこいつ。さっきまでの私と同じで、慢心していた。
最初の距離を保ったまま風の大技を飛ばしまくられてたら、私になす術はなかった。
だけど神器のスキル阻害とやらを見せて、私にショックを受けさせて殺す気だったんだろう。
慢心と経験不足が、奴を窮地に陥らせた。
だけど終わりじゃない。
「ネーチャン殺せば、スキルは止まるよな。出まくれ「風虎乱舞」!」
「発動速い。ミスリルの大盾よ、ありったけ出てこい」
私が沼を操作して神器使いを揺り動かす前に、大技を放たれてしまった。
神器の効果か、馬鹿でも反応速度が尋常じゃない。
「沼」は強力だけど、射程距離が10メートルである以上、操作する私が敵の技を範囲内で受けるリスクがある。
シャッ、シャシャッ、ザクザクザク。
ギンギン、ギンギンッ!
ザンッ!
「きゃあああ!」
「くそ、まだ女を仕留められねえ。次だ。え?腕か上がらねえ」
大きく動いた山田君は一気に沈んで、うっかり神器を持った右肘を沼に付けてしまった。
こいつは終わった。
「・・あんたの風の剣が神器でも、きっと私の「沼」は神のスキルだ」
あいつが、神器を介しても「沼」を「水溜まり」としか読めなかったとき、神器より「沼」の方が格上だと確信した。
私は魔鉄の棒を収納指輪から出した。
「胸まで沈んだわね。火でも吹くなら、あなたの逆転はあるかもね」
「ま、待てそんな棒、バットみたいに構えて・・。やめえくれえ!」
ゴスッ!
とぷっ、とぷんっ。
左のこめかみに魔鉄棒のフルスイングを受けた山田竜都君は、表現してはいけない状態になって神器とともに沼に沈んだ。
1分としないうちに沼の中のリストの山田竜都の名前が消え「高校生」という謎の表示になった。お亡くなりになったようだ。
「戦闘時間はほんの1分。だけどギリギリだった」
山田君が最後の技を出したとき、ブライト王国で拾ったミスリルの大盾を21枚出した。
19枚はナントカ乱舞が当たって吹き飛ばされ、最終的に私をガードしてくれたのは2枚だった。
「一枚は、横に真っ二つ。最後も半分しか残ってない・・」
左目に血が入るから額か頭が斬れてるだろうし、左肩もざっくり。
右の胸、両方の太ももに大きな切り傷が入っている。
ミスリルフル装備でこれか・・
神器持ちの前に戦った奴らとの戦闘で傷んだ小屋に入り、3メートルのマックス「沼」を出して、中央に座り込んだ。
「ブライトで貴重な特級ポーション盗んどいてよかった。強盗や魔獣が来ても、この沼の展開の仕方なら何とかなるはず・・」
特級ポーションと造血ポーションで時間を置けば傷は回復するけど、もう体力の限界だ。
ぽちょん。
「あ、沼様・・」
『ギリだか勝てたな。神器持ちは二人目だか、おいしくいただくぞ』
「・・私、1人しか倒してない・・」
それ以上はしゃべることもできず、眠りに落ちた。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/295429334/181668538
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