【短編】幼女お姉ちゃん ーねえね、ほっぺマジ吸いするのはやめたまえー
「本当にありがとう。生きた心地がせんかったよ」
神は礼を言う。
まあ、結論から先に言えば、私は異世界転生者というやつだ。
話が長くなるのでザックリ言うと、いい歳をして正月にハーレー・ダビッドソンに乗ってツーリングに出かけたら事故に遭い、死亡。
その後腹痛を訴える神に会って応急処置をしたら、感謝されて異世界転生をすることになった。
まさか神が死にかけの医者をわざわざ召喚したわけじゃないだろうが、偶然とはあるものだ。
腹痛の処置に感銘を受けたのか、その知識と経験を存分に活かして世界を手術してくれと言われた。
お礼に山盛りのチートスキルとやらも持たされた。
ただし、赤ちゃんからのやり直しで、異世界の言葉も理解できない。
まあ、父母も使用人の皆さんも喃語……赤ちゃん言葉で喋ってくれるから、おいおい覚えていくだろう。
問題は、姉。私にはねえねがいる。
年齢は、1ちゃい。
「ウルたん、かあいい。ねー!」
私はウルバヌスという大仰な名前を頂いた。
でも姉マグノリアには発音しづらいらしく、ウルたんと呼ばれている。
どうやら私が産まれるまでは赤ちゃん帰りが酷かったようだが、そもそも実際に赤ちゃんなんだから当たり前だ。
もっとも、産まれた私を見てすぐに母性が芽生えたらしく、1歳にしてお姉ちゃんぶっている。
まだおむつが外れてないねえねと、ねえねが産まれる前に母に拾われた元野良犬のストロベリーヌ(オス)が勝手に兄貴を気取っている。
ちなみにこのストロベリーヌ、マグノリアが生まれる先触れとしてこの世界に送り込まれた幻想種級の神獣で、神がねえねの成長を見守るためにこの世にやって来た。
どう見てもポメラニアンの仔犬だが、これでも王都を襲いに来た野生のワイバーンをひと睨みで即死させたりしているそうだ。
本人がそう言ってるんだから、そうなんだろう。
私の護衛はついでで本来の護衛対象は、ねえね。
神には後付けで私の護衛まで無茶振りはされたが、まあ大船に乗ったつもりで安心しろと言われている。
もちろんまわりには、ポメラニアンの仔犬が吠えてるようにしか見えていない。
さて、なぜねえねにストロベリーヌが付いているかというと……ムニムニ。
ねえねにほっぺたを掴まれる。
「ウルたん! ねえね!」
ねえねは私に、ママより先にねえねと言わせるチャレンジの真っ最中だ。
そのついでに、ほっぺたを揉んでくる。
私はよく、女性にはほっぺたを揉まれ、男性にはほっぺたををつつかれる。
若干頬がプックリしがちなせいか、ウルバヌスという名を知らない女性にはだいたい「ほっぺちゃん」とか「ぷにぷにちゃん」と呼ばれるぐらいには特徴的なようだ。
父母に似ればかなりのイケメンに育つことは客観的に見ても間違いないが、ほっぺたが丸すぎるためか、頬の印象が強すぎるようだ。
私の頬がプックリと丸いのは、母上やねえねが私の頬をいじりすぎるのが原因だ。
ちなみに男性からは「ハゲハゲくん」か「宰相閣下」……太った坊主頭の宰相閣下が居るらしい……と呼ばれる。
かなり薄い色の金髪のため頭髪が見えないのと、ストロベリーヌに頭をペロペロされ、せっかく生えそうな頭の産毛がすり減るのが原因だ。
「ウルたん! あそぶ!」
ねえねは私と遊ぶのではなく、私で遊んでいる状態だ。
最たるものがおかあさんごっこで、ねえねが母上で私は赤ちゃん役で固定。
ストロベリーヌは母上のご友人か犬役だ。父上は出てきた事がない。哀れ。
「ウルたん、ちゅきちゅき!」
私が淋しくて泣いてる体で、ねえねに抱きつかれる。
ついでにほっぺにチューをされる。
ねえねは事あるごとにほっぺにチューをしてくるし、途中で母上のおっぱいと区別がつかなくなって吸いはじめる。
これが結構痛い。
さすがにある程度吸われると、泣いて乳母かストロベリーヌに助けて貰わざるを得ない。
何か前世の記憶と山盛りのチートスキルとやらを授かったらしいが、医師として復帰できるのは、どう少なく見積もっても15年はかかりそうだ。
「マグノリアはハイエルフの先祖返りの聖女候補なの。
マグノリアが大人になるまで120年ぐらいかかるから、ウルバヌスが面倒見てあげてね」
「ウルバヌスだって先祖返りでエルフぐらいの寿命はある勇者候補だから、きっと60年ぐらいで大人になれるよ」
あまりの長さにショックを隠しきれない。
いくら父上も母上もエルフの血を引いてるからって、普通より若干長生きぐらいで私が大人になるまで生きられるかどうか怪しい。
しかも勇者ってなんだ。
王宮に刺さってる聖剣で手術の執刀なんて出来ないじゃないか!
……あ、神が言ってたのは世界の手術だった。
それなら聖剣も仕方がない。
とりあえず、毎日ねえねにほっぺたを吸われる期間は4倍になることは確定した。
ここから始めるしかないんだな。