むらさきかがみ
ムラサキガガミは一種の呪いでもある。
「不幸になる」という方では実際、不幸になった気になる、或いは自らそういう行動に出てしまう、という占いと同じような効果が多少はあるとかナントカ。本当かなあ?
ムラサキガガミという言葉を20歳まで覚えていると死ぬという。
都市伝説の一説だ。
この言葉を初めて聞いたのは小学生の頃で、その時は20歳なんて遠い未来までには忘れているだろうと思っていた。実際、すぐに忘れてはいたのだ。
しかし、この都市伝説の怖い所はふとしたとき思い出すことにある。小学生、中学生、高校生と、刻み刻みに思い出す度、20歳が近付く度に「馬鹿な話だ」と笑いながら、それでも心のどこかに不安を残して。
そんな私もあと数分で20歳の誕生日を迎える。
なにもこんな時に思い出さなくても、と自分で自分に呆れる。
自分が作り出した何とも言えない奇妙な空気に、部屋の中をあっちへいったり、こっちへいったり。
そんなことをしているうちに刻一刻と、時間は過ぎる。何をしているんだか。
カチ、カチ、カチ、カチ
最後の一分を時計が刻む。
カチ、カチ、カチ、カチ
息を呑み、それを見守る。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1――
カチッ
「ゼロォオオオオオ!!」
――思わず叫んだ。
やはり、何も起きない。起きるはずがない。
あたりまえだ、本当にそんなことがあるのなら、世の中不審死の20歳でいっぱいだ。
冷静に考えればわかる、そんな当たり前の話だ。秒針を凝視していたのは誰だ、私だ。
ヴヴヴヴ
「――――ッッ!!」
ホッとして油断したところに着信の通知が着て、声にならない叫びをあげた。見れば友人共から誕おめのメールやらSNSやらで溢れかえっている。はっ倒すぞ?
理不尽な怒りを覚えるも、日付が変わるとともに反応をくれる良き友たちに心が温かくなる。
結局、ムラサキガガミで私が死ぬことは無かった。
いや、死んだのかもしれない。
子供の頃に持っていた都市伝説を信じる純粋な私の残滓は、確かに今日死んだのだ。
何でもない、特別な一日の始まりと共に。
――ハッピーバースデイ、私!
ふはは怖かろう