世界的指名手配犯
「はぁ!?」
いけない、今のは上司相手に良くなかった。
「…申し訳ありません。もう一度お願い出来ますか?」
「一度で聞き取れ!…良いか、世界的に指名手配されていたヴィートのメンバーが我が署によって捕まった。そして奴らはお前を監視に指名した。何故かは知らないが上はそれを許可した。解ったら行け!」
ここはリー王国最大の監獄塔。
ここに働く彼女、シオンは上司の言葉にひたすら疑問を持っていた。
「っ、はい…」
何で私なんだ…。ヴィートって言ったら有名な指名手配グループ。そんな奴らが何で私に…
心の中で不満を露わにする。
指定された場所に行くと、背の高いキレイな顔をした男性が居た。
こちらに気付いた男性が、にこりと微笑んで話しかける。
「あぁ、君かな?シオンさんって」
「はい」
「僕はカイ。そこの部屋の監視を担当してます。えっと、じゃあまず身体検査ね。金属類を外して金属探知機通ってください」
「はい」
言われた通りにして通る。
「…うん、大丈夫。じゃあ、部屋に行きましょう。最初なので案内しますね」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
そう言って微笑む彼に着いて行く。
電子ロックを解除すると、ゴゴゴ…という重たい音と共にドアが開く。
そこを通って階段を降りる。
それを何度か繰り返した。
階段が曲がっていたり、螺旋状だったりしたせいで、自分の居場所は全く分からない。
「あの、さすがに厳重過ぎませんか?」
「そうでも無いよ」
「…そうなんですか」
「うん、着いた。僕はモニター室に居るから、何かあったら来てね」
「はい。案内、ありがとうございました」
カイさんが立ち去ったあとも暫く同じ所にいる。
うぅ、行かねば…
決心し、ドアを開けようとして手を止める。
ふと、中から声が聞こえたのだ。
「君は…犲の1番下っ端かな?ヒエラルキー的に」
「チッ、うるせぇ!」
「お、当たったみたいね」
その言葉の後に、ガン!という音が聞こえた。
「…こいつ、殴っていいか?」
「おぉ!やれやれ!!」
「頭に血が上りすぎです」
「そーそー、2人共落ち着いて」
(犲という事は、後輩が中に居るのか!)
犲とは、シオンも所属する国の特別部隊。
殴るという不穏な言葉に思わずドアを開ける。
当然の事ながら、視線が一度にこちらに集まる。
「わぁ〜、シオンだ!」
「おっきくなったねぇ」
この人達の口ぶりから、この人達は私を知っていると察する。
が、今はそれよりも、
「っ先輩!」
「やっぱりイルくんか。何でここに居るの?」
「いや、えっと…」
「理由無くここに居るのですか?ここは貴方の任務じゃないでしょう。持ち場に戻りなさい!」
「っ、はい!」
勢い良く返事をした彼は、バタバタと部屋を出た。
「わぁ、やっぱり可愛いなぁ。シオン」
その声に捕まった4人を見ると、泣いていた。4人とも。
「あ、あぁ、気にしないで」
そう言って彼女は目元を拭った。
確か彼女はファルラと言ったはず。
「んふふ、自己紹介しよっか。私はファルラ、よろしくね」
彼女は立ち上がってボトボトと拘束具を落とした。
「な!」
「じゃ次俺ね」
そう言って彼はファルラ同様立ち上がって拘束具を落とした。
「俺はルー。よろしく!」
「私はセルヴァです。よろしく」
そう言う彼は座ったままではあるが、拘束具は着いていなかった。
「我が名はリルト!我の名を聞けただけでも光栄に思え!!」
さも当然と言うように足元にある全て外れた拘束具。
その事についてはもう何も思わなかった。ただ、その話し方から『厨二病かこいつ』と、素直にそう思った。引き気味で。
「あぁ、気にしないで大丈夫ですよ」
「そうよ。こいつだいぶ拗らせてるの。あと基本上から目線キャラなのに急に厨二病になる」
「それに今に始まった事じゃ無いしな。シオンもしっ──うっ…」
ルーが何かを言いかけたところで、ファルラとセルヴァが口を叩くようにして塞ぐ。
「黙んなさいな。約束、忘れた訳じゃないでしょう?」
その言葉にルーがこくこくと頷くと2人は手を離した。
「…すまん」
「気を付けてください」
「わかってる」
…何この雰囲気。私が何?
「馬鹿だな!!」
「うるせぇ!お前にだけは言われたくねぇ!」
「…それより美人に育ったねぇ〜!」
突如感じた圧迫感。
ファルラに抱き締められているらしい。
「っ、ぇ?」
口元から出るのは空気だけで、言葉が出ない。
何故ならここに居る奴らは笑えない犯罪歴ばかりだ。
「…怖い?私の事」
「っそんな訳、無いでしょう」
虚勢を張るも、声が引きつっていたと思う。
「んふふ、まぁ、ゆっくり慣れてね」
そう言ってファルラは私の頬にキスをした。
私の顔は絶対に引き攣っていたと思う。
そこにルーの悲鳴が響く。
「あぁー!お前何して…!」
「ファルラ、やめてあげて下さい。脅えています」
「脅えるシオンも好いな!」
「クズか!…ごめんね?でも、…また慣れていってね」
そう言って眉尻を下げて哀しそうに笑った。
「お前…!」
「許してあげなさい」
「うむ、奴が1番仲が良かったからな!」
「え、でもあいつ!なんで俺だけ…!」
「あ〜、あ〜!わかったわよ!悪かったわね!」
そう叫ぶ彼女は、先程まで哀しそうにしていた様には見えない程不自然に表情が明るかった。