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愛憎とは距離を置いて、研究三昧できそうです。part-5

第74章 ダイエットは明日から。


 バナナケーキ祭りは、好評のうちに終了した。


 私、レイチェル、カーリーとマリアンヌは、プレーンとチョコ風味のバナナケーキを一切れずつ頂いたが、精霊たちは、一本ずつ食べていた。

 大量のバナナケーキを作ってくれたミラとハンナに感謝だ。


 余談だが、気づけば、レイナードの加護精霊スイランが、レイチェルの膝に座り、バナナケーキに齧り付いていたし、アルベルトの加護精霊は、私の膝の上のヴェルデの膝に止まり、きらきらと光の粉を振り撒きながら、やはり物凄い勢いでバナナケーキを消費していた。

 女子寮に男子ははいれないからね。でもお菓子は譲れない、その気持ち、わかるよ。

 精霊というのは、そういうものなんだよね。

 流石に私も悟ったから。



「それで、アリス様とのご対面はどんな感じだった?」

 精霊たちのお菓子への情熱はそれとして、私たちは明日からの治験に必要なことを話し合う。


「こちらに来てからかなり体の調子はいいそうよ。私がご挨拶の後、光の癒し魔法をかけさせていただくと、ベッドから上半身を起こせるようになられたわ」

 それは朗報ね。

「お話はまだ、それほどおできにならないようだけど、私たちの言葉に頷かれたり、少し微笑んだりもしていただけたの」

 想像以上に、こちらの環境はアリス様にいいようだわ。

 たくさんの、この学院に集まってくれている精霊たちのおかげね。


「つまり、友好的におそばにいられそう、という感触なのね?」

「ええ。とっても好感触だったなのよ。ザックス公爵様が驚かれるほどにね。なので、刺繍のことも少し話してみたの」

「そうなの? 話のテンポが早いわね」

「背守り刺繍の絵柄について悩んでいるというと、一生懸命手振りで、お話されようとして。ザックス公爵様によると、アリス様が大事にされている刺繍の図案集が、神聖帝国で療養されていたお屋敷のお部屋にあるとかで、それがあればいいのに、とおっしゃっていたようね」

 

 それはぜひとも、持ってきたいわね。

「アマリージョ、持ってこられるかしら」

「ふふふ。容易いことですよ」

 アマリージョは、口元を拭いながら微笑む。そして、私をじっと見つめる。

 ああ、そうね。

 この顔は、ごほうびのおねだりよね? 


「いつも行ったり来たりさせて悪いわね。そうだ、ミラ、プリンがまだあったかしら?」

「はい。ございます」

 それを聞いたロッホが、僕が取ってくる!! と窓から飛び出して行った。

 いや、アマリージョは転移できるけど、君はできないでしょう?

 力技で飛んで行ったとしても、ロッホにアリス様の刺繍の図案集が見つけられるのかしら?

 それにそれを手にして燃やしてしまったら困るんだけど。

 プリン大好きなロッホの気持ちはわかるけど。


「これか?」

 十分ほどでロッホは戻ってきた。

 アマリージョなら一分程度で戻ってくるだろうが、転移を使っていないのだとしたら、驚異的な早さだ。

 とりあえず、図案集っぽい本は、燃えてはいない。


「これは、違うのでは?」

 カーリーが、同情に溢れた目でロッホを見る。

 

 うん、違うね。

 これは、各国の有力貴族の旗印というか、紋章の図鑑だよ。

 どこから持ってきたんだろう?

 アリス様がこれを療養していた部屋に置いていたとは考えにくいんだけど。


「もう一回行ってくる」

 また飛び出そうとするロッホの尻尾をアマリージョが捕まえる。

「ロッホ、私と一緒に転移でいきましょう」

「ええっ、それだとプリンは半分こ?」

「まさか、あり得ません。きっと、一つずつですよ」

 アマリージョが私を見る。

「そうね」

 頷きながら苦笑するしかない。


「これは元に戻してきてね」

 ロッホには間違えて持ってきた図鑑を手渡す。

「戻してきたら、プリン、2個になる?」

 なんでやねん。

「ならないけど、勝手に持ってきて返さないのなら、プリンはなしです」

 ガ、ガーンと音がするような顔をするロッホ。いや、当たり前だからね、それ。


「とにかく、行きますよ」

 アマリージョがロッホのしっぽを掴んだまま、転移した。


「私たちのプリンはないの?」

 ヴェルデがつぶらな瞳で尋ねる。

「プリンは、図案集を運んできてくれるご褒美だからね。みんなは、クッキーで我慢して欲しいんだけど」

というか、どれだけ食べれば気が済むのかしらね、君たちは。

 なのに、なぜ、太らない?

 私は、()()()()ダイエットの予定なのに。


 ものの2分ほどでアマリージョが、ロッホのしっぽを掴んだまま、ロッホがその手に今度こそ図案集らしきものを手に戻ってきた。

 いつもより若干時間がかかったのは、勝手にもってきた図鑑をちゃんと戻していたからだと、信じたい。


「今度は間違いないみたい」

 レイチェルが頁をめくりながら微笑む。

「これって、アリス様のオリジナルなのかしら」

 ちゃんと製本してあるように見えるが。

「そうかもしれないわね。ほら、書き込みがたくさんあるもの」

 私も、レイチェルとカーリーの間から図案集を覗き込む。


 例えば、ミモザに似た花には、旦那様のお好きな花。暖かで優しい気持ちを込めて。


 これはカラーに似た花。

 ユリウスにはこの花が似合う。凛々しく誠実な自慢の息子。


 可憐なこの薄桃の花は、ガーベラかしら。

 希望に満ちた未来がマリアベル、あなたに訪れますように、という書き込み。


 花ばかりではない。

 獅子や剣、梟やフラミンゴ、ドラゴンなどの図案もある。

 そのどれもに、アリス様の言葉が添えられている。


 もしかしたら、これは、アリス様の悲しみをぶり返すことになるのではないかしら?

「大丈夫かしら、これをお待ちして」

「そうね。ザックス公爵様にご相談してからにしましょう」

 とはいえ、ここで今、参考にさせてもらうことは問題ないようにも思う。

 

 というわけで、女子四人でああでもないこうでもないとページをめくりながら意見を言い合う。


「これは、とても素敵」

 そんな中、レイチェルが目を止めたのは、おそらく、タイムの花と葉をモチーフにした図案だ。

 バラのような艶やかさや デイジーやガーバラのような可憐さはない。

 だからこそ、剣士であるレイナードに似合うともいえる、のかな?


「花や葉の色遣い、配置もいいわね」

 カーリーもレイチェルに同意している。

「これってタイムですよね?」

 マリアンヌが私に確認する。

 タイムは、もちろん、私たちのハーブ園にも何種類も植えてある。主にグランドカバーとして多用している。

 そういえば、前世では、古代エジプトではミイラを作成する際の防腐剤として使われていたそうだし、とても歴史がありなじみもあるハーブだった。


 確か、古代ギリシアでは、タイムの香りが勇気を湧き立たせると信じられていたとか。

 中世ヨーロッパでは悪夢を防ぐと信じられたいたとか。

 タイムに関する逸話や伝説は多かったように思う。

 

 こちらでも、愛する戦士にタイムの葉を添えた贈り物をするのは一般的だ。


 でも、意外。

 レイナードのためならば、レイチェルは、辺境伯家の紋章にもある獅子か剣ではないかと思っていたけれど、ハーブを選ぶのか。

 さすがハーブ同好会の頼もしき一柱だね。


 向こうでは、タイムの花の色は、ピンク、白、紫が一般的だったけれど、こちらでは青もよく見かける。

 アリス様の図案は、その青色の花だ。

「レイナードなら、花の色は白でもいいかもね。彼って白のイメージじゃない?」

「そうね。青もいいけど白もいいわ。白がいいかも」

「ミケランジェロに、白の花で図案を描いてもらったら?」

「それはいいよ。下絵が凄すぎて刺繍できる気がしないもの」

まあ、確かに。


「エリーゼ、この構図を参考に、下絵を描いてくれない?」

「私?」

「カーリーに贈った植物図鑑の絵、とても素敵だったもの。お願い」

「いいけど、ダメだったら、ダメって正直に言ってね」

「ふふ、私は公爵令嬢に忖度なんかしないわよ」

 そうだったわね。


「じゃあ、二日ほど時間をくれる? レイチェルが気に入っている構図はなるべくこのままに、花の色を変えてレイナードのイメージに合うよう図案を変えてみるわ」

 

「では、解散して夕食はそれぞれでとりましょうか?」

「そうね、夕食のことを考えただけでお腹がいっぱいよ、今は」

 ケーキのおかげで流石に時間通りに夕食は食べられそうにない。

 私は後で、夜食のサンドイッチでもつまもう。

 いや夜食はまずいかしら?

 ま、いいか。

 明日から、明日から。ダイエットは明日からだから、ギリセーフ。



「じゃあ、レイチェル、明日はハーブ園の方をお願い。ただ、もしかしたらザックス公爵様の方から呼び出しがあるかもしれないけど」

「わかったわ」

「マリアンヌは、転科試験の準備もあるでしょう?」

「ええ、オスカーに図書室で見てもらう予定なの」

「ということは、二人に用事があれば図書室を探せばいいのね」

「ええ、お昼を挟んで2時ぐらいまではいると思うわ。お昼は食堂で食べるつもり」

「オスカー、またカレーを食べるのね」

「ふふ、彼はもう、カレーに魂を抜かれているようよ」

「いや、オスカーの魂は、悪魔だって抜けないわよ。魔王並みの魔力だもの」

「なら、エリーゼは大魔王ね」

 マリアンヌも言うようになったわね。

 オスカーの悪影響かしら。

 なんにせよ、マリアンヌが強かになってきたのは嬉しい。

 だって、文官養成科に転科してきたら、多少はそうでないとやっていけないもの。

 みんな、優しいし仲間思い。

 それは間違いがない。

 でも、馴れ合っているわけじゃない。批判やダメ出しも多い。すごく多い。

 それぞれに、失敗も多い。

 それを糧に一歩でも前に進もうとしない者は、置いていかれる。

 切磋琢磨の厳しさを爽快感ととらえられるほどのポジティブさも必要だ。


「明後日からは投薬も始めたいし、できれば心のケアも同時にお願いしたいわ」


「ではそれを目指して、明日もそれぞれに頑張りましょう」


 カーリーが、笑顔でバナナケーキ祭りからのミーティングを締めてくれた。


 



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