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愛憎とは距離を置いて、研究三昧できそうです。part-3-2

第72章 ちょっとのつもりが、長々となりました。


 私は、一片のアロエベラを魔法陣に載せる。


 一瞬で、アロエベラが薄黄色の光に包まれる。そして光りながら、カーリーが差し出したビーカーに入っていく。

 

 魔法の世界は不思議ばかりで、今ではすっかりそれに慣れているのだが、それでもこれは不思議な光景だ。

 光が、意思のあるように、ビーカーに向かっていくのだから。

 

 しかしこれは、魔法のように見えて魔法ではない。私たちの作り上げた魔法陣は、魔力のない者にでも扱えるのだから。


 出来上がったものを光で包み込んだまま差し出した器に入れる、その仕組みを魔法陣に組み込むまでに、私たちは何度失敗を繰り返したことか。

 光魔法を使える者がそばにいればこれは容易いことだが、光魔法を使える者の数はとても少ない。そもそも平民はほぼ魔力を持たない。


 だから、私とカーリーは、まず、誰でもどんな属性であれ、極少量の魔力を注ぎ込めば同じことができる仕組みを考えたのだ。


 もちろん魔力は必要だ。しかしとても僅かな量でいいように工夫した。ものすごく工夫した。

 しかも、この種の料理やちょっとした調合魔法陣に必要な生活魔法程度の魔力は、アルベルトが考案しビリジアンが命名した精霊玉を使うことで魔力のあるなしに関わらず誰もが使える。

 

 精霊玉は精霊たちの排出物、いわゆるフンだ。エメラルド王国では、緑豊かな場所でなら多く見かけられる。前世でいうところの鹿のフンの半分程度の大きさで色は透明に近い茶色だ。今までは土や砂と同じで、森の景色の一部にすぎなかった。ゆっくりと時間をかけてやがて土にかえるものでもあるらしいし。


 フンとはいえ、精霊たちのフンだ。嫌な臭いもなければ、そこには僅かな魔力の残滓がある。これを魔力供給に使えばいいのでは? と思いついたアルベルトは凄いと思う。

 それが精霊たちのフンだと教えてくれたビリジアンにも感謝だけど。

 だって、私たち人間は、精霊が排泄するなんて考えたこともなかったから。

 でも、食べてるもんね、あの子達。山盛りのお菓子を日に何度も。

 なら、出すものもあるのかって納得したわね。

 ヴェルデは認めないけど。

 アイドルはトイレに行かない、的なイメージ戦略なのかしらね。

 いつでもどこでも、始終、口の周りにお菓子のクズをつけてる方がイメージ的にはどうかと思うけど。

 インディゴのように、今日はいい感じの精霊玉ができたって言って、自分のフンを集めて、泥団子みたいに丸めてピカピカに磨いて私に持ってくるようになったのもどうかと思うが。


 精霊玉は生活魔法程度のレベルになら、10個も集めれば十分に役立った。

 アルベルトの論文がきっかけで、今や精霊玉は魔法省の管轄下で、日々、必要な分量が回収され、それが精霊たちのフンだということは隠され色や形も加工されてから、魔力のない者たちに安価で下げ渡されている。



 アロエベラが混ざった薬液は、ほんの僅か緑が増したようにも見えるが、それほど変化はない。


「どうかしら?」

 カーリーが顔を近づけて匂いを確認する。

 にっこり笑う。

 無臭ね、と。


「どうでしょうか?」

 パーキンソンにカーリーがビーカーを差し出す。

「なんと! さっきの臭いが全くしない。これなら問題ないな。しかし、味はどうだろうか。病人に飲ませるのなら味も考えないとな」


「試してみましょう」

 私はビーカーの薬液を小さなスプーンにとり舐めてみる。

 まずくはない。

 というか、ほぼバナナ。

 バナナってほんと、主張が強いわね。

「問題ないと思いますが、ご心配なら粉末にすることもできます。それをオブラートに包んで飲めば大丈夫かと」


「粉末にもできるのか?」

「風魔法の応用で」

 本当は風と火の融合魔法、『ドライ』を使っているがのだが、そこまで種明かしはしない。

「オブラートとは何だろうか?」

「オブラートは、食べられる透明な紙のようなものですね。これに包めば味のせいで食べ辛いものを飲み込むことができます」


 前世の私の記憶では、薬よりお菓子を包んでいた透明な紙のイメージが強いけれど。元々は飲み辛い薬を飲むために開発されたものだ。


 オブラートは、デンプンを糊化させたものを急速に乾燥して作ることができる。つまりジャガイモと魔法があれば秒でできる。


 ということで、カーリーがすりおろしたジャガイモを用意する。

 私が『ドライ』を無詠唱でオブラートに適した威力で、それにかける。

 簡単な魔法は、最近は無詠唱にしている。マルクスのような敵対する転生者や転移者に、あちらの世界の言葉からどんな魔法なのか知られたくないからだ。

 全てを無詠唱にするにはまだ私の技量が足りない。けれど、いずれは全てを無詠唱で使えるよう、鋭意努力中だ。


 ジャガイモから、何枚もの薄い透明な膜が出来上がる。

 うまくできたね。

 オブラートだ。たくさんできた。

 ヴェルデがそれをつまんで、お菓子を包んでいる。そして直ぐにそれを口に入れてモグモグと噛んでいる。オブラートの溶ける食感を楽しんでいるのだろう。

 たまに、やりたくなるよね。そういうこと。


「これがオブラートです」

 二人は透明なフィルム状のオブラートをつまんで口に入れる。

 ヴェルデが口にしたばかりなので、躊躇いはない。


「すぐに溶けるな」

「はい。なので薬をこれに包んでお水で飲み込むだけです。味はオブラートに包めばほぼしないので問題ないかと」

 ただ、オブラートと相性の良くない薬もある。

 そこは気をつけないとダメだが、私たちがわかっていればいいことだ。


「けれど、これならこのまま飲んでも大丈夫そうだ」

 ザックス公爵が、カーリーにスプーンをもらって薬を舐めている。

「バナナ味で美味い」

 そうですね、バナナ味です。

「これにベリーを入れればもっと美味しくなるかもしれないわ」

 マリアンヌ、これ、薬だからね。

 まあ、きっと、かなり美味しくなると思うけど。薬効的には意味はないかも。いや、なくはないか。ビタミンが取れた方がいいのだから。

「そうね、ではこの組み合わせに限っては、リフレやアポージョは融合せず、薬としてではなく、ベリーも入れヨーグルトと混ぜたものを提供してみましょう。デザート感覚の健康食品として」

「「「いいわね」」」

 カーリーとレイチェル、マリアンヌが声を揃える。アルは肩をすくめている。どうせ試食を楽しむつもりだろう? って感じかな。


「初めに試す魔法薬も、デザートっぽくしてしまえばいいんじゃない?」

 レイチェルが言う。

「それだと、薬の正確なデータが取れないから」

 果実やヨーグルトにも栄養や薬理効果のある成分がある。

 あまりたくさんのものを混ぜると、何が効いていて何が効力がなかったのか分かりづらくなる。

 色々、増やしていくのは、基礎実験が終わってからにしないと。

「なるほど、それもそうね。そういえば、データってどうやってとるの?」

「まず光の癒し魔法をかけさせてもらって、直後にお薬を飲んでもらうの。それから2時間ほどおいて、私たちの誰かが患部周辺の魔力の流れと澱を確認するつもり」

「それを日々比べるのね」

「10日ごとに薬を変えようと思っている」

 アルベルトがレイチェルに質問される前に言う。

「もちろん、どこかで劇的に回復するようなことがあれば、その組み合わせのものを続けるわ」

「でも、おそらく快方には向かっても、もう一つの要因が何とかならないと再発はあると思う。だから、レイチェルとマリアンヌには、本当に頑張ってもらいたいの」

「体と心、両方にケアが必要だと予想しているけれど、心のケアは体より何倍も難しいから」

 カーリーがレイチェルとマリアンヌ、二人の手を取り握る。

 お願いね、任せたわよ、というように。


「わかってるわ。できる限りアリス様に心穏やかに過ごしていただけるよう、精一杯を尽くすわ」

「私も微力ながら頑張ります。魔力量も上がってきているので、光の癒し魔法が必要な時は遠慮せずに言ってください。エリーゼばかりに負担を負わせるわけにはいきませんもの」


「ありがとう。私たちも頑張って新しい魔法を覚え、より良い状態で治験を進めていくわ」


 そんなこんなで、ようやく、レイチェルとマリアンヌを連れて、パーキンソン枢機卿とザックス公爵が、部屋を出ていかれた。


「じゃあ、魔法の練習に行くか?」

「そうね。おそらく、カーリーならアポージョはすぐにマスターできるかと思うわ。問題はフュージョンね。オスカーはともかく、正直、私は時間がかかると思う」

「そこは焦らなくていいだろう。量産するわけじゃない。セレステ様のお力を借り、オスカーが先にマスターしたのなら助力を頼めばいい」

 それもそうか。

 今までだって精霊たちや仲間の力を借りて成長してきた。

 今度も同じことだ。

 誰かの力を借りたっていい。借りっぱなしで努力を怠ったりその先を諦めたりしないよう気をつければいい。

 頑張ろう。

 今はまだ小さな一歩だけど、未来につづく大事な一歩だ。歩みを止めないよう頑張るぞ!

 

 気づけば、拳を振り上げている私をアルベルトとカーリーが生温い目で見ていた。


「オスカーを呼ばないと」

 生温い視線を外すように私が言う。

「アマリージョ、お願いできる?」

「ふふふ、もう連絡済みですわよ。こちらが手間取っている間に、先に魔法練習場に来ているようですよ。マテウスも一緒ですね」

「お兄様も? お兄様には水の属性がないのに?」

「魔法省の部下で水の属性がある者たちを数人、連れてきているようですね」

 さすが、兄だ。

 このフュージョンという魔法が、これからどれほどの恩恵をこの国にもたらすのかを、すでに理解しているらしい。アマリージョがどんなふうに伝えたのかは知らないけれど。


「アマリージョ、悪いんだけど、ミラとハンナにバナナケーキを作っておくように伝言してくれる? ロッホはそのお手伝いをお願いね」

 物凄い勢いで、ロッホが寮に向かって飛んでいく姿が見えた。途中、何も燃やさないといいけど。


「それから確認なんだけど、セレステはいい? 私とオスカー以外が教えてもらっても」

「問題ないわ。その能力がある者なら学べばいいわ。悪用しようとしてもできないから」

「できないの? 悪用」

「精霊を介して行使する魔法は、加護はなくとも精霊に愛されないと使えないものなのよ」

 精霊は香りで人間を判断する。

 悪しき心の香りには寄り付かない。

 未だにそれがどんな香りなのかは、私はわからないけれど。


「では行きましょう。オスカーの眉間の皺が深くならないうちにね」


 チラッと思った。

 フィリップ殿下も水属性があったはず。

 いまの殿下なら、精霊たちも援助してくれるかもしれない。

 フュージョンをマスターできたなら、仲間(仮)から(仮)が外れるかもしれないわね。

 そのうち、声をかけてみよう。

 仲間は多い方がいい。

 

 私は早足で歩くアルベルトの背中を小走りで追いかけた。


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