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愛憎とは距離を置いて、研究三昧したいんですが。part6-1

第67章 帰りそびれてしまいましたね、殿下。



「お待ちしておりました、パーキンソン枢機卿、ザックス公爵様」

 扉を開け出迎えたカーリーに会釈した後、お二人はアデル殿下とにこやかに挨拶をかわされる。

 昨日、アリス様の病状回復に手掛かりが見えたからか、お二人の笑顔も柔らかい。


「アデル殿下、この度は私どものわがままともいえる研究の保証人を引き受けて頂いて、感謝しております」

「アリス様に再び笑顔を取り戻して頂くために微力ながらご協力できる機会を頂き、こちらこそ感謝しております」

 

「そちらは?」

 パーキンソン卿が、帰るタイミングを逃してしまったフィリップ殿下に目を向ける。

 どうやらフィリップ殿下はアデル殿下と違いお二人とは面識がないようだ。王族とはいえ、18歳で成人として認められるまでは国外との要人と交流する機会はほとんどないのだから、仕方のないことだろう。しかも、短い間にたっぷりの怒悲哀を味わい、立ち位置が大きく変わったフィリップ殿下は、色々場違いな雰囲気を醸し出しているので、フィリップ殿下自身もお二人も戸惑いを隠せないようだ。


「これは、私の弟でメイヤー家の二男、フィリップです」

 アデル殿下が、フィリップ殿下を紹介する。

「おお、第二王子のフィリップ殿下でしたか。噂に違わぬ容姿端麗なお方ですな」

 フィリップ殿下の容姿端麗は、他国にも鳴り響いているようだ。それはそれで凄いことだと思う。

 

「お初にお目にかかります。フィリップ・フォン・メイヤーです。以後お見知り置きを」

 フィリップ殿下は、お二人をその身なりと振る舞いから外国の要人だと判断したようで、戸惑いながらもそつなく、麗しい笑顔で挨拶をしている。

 こういうところは、さすが王族だよね。


「ということは、確かエリーゼ嬢と婚約されている?」

 こうなるか。

 さすがに、これは気まずい。その婚約は解消されたばかりだ。

 しかし、これは嘘でごまかすわけにもいかないない。

 もちろん幾重にもオブラートで包んでのことにはなるが。


「実は、私のわがままを、国王陛下並びにフィリップ殿下が汲んでくださり、私たちのご縁は、まだ公にはされておりませんが、無かったことになりましたの」

 事実だけを告げ、後はお兄様よろしく、と私は兄を見る。


「エリーゼは、ご存知の通り、沢山の加護を頂いております。エリーゼはその恩恵を我が国のみならず、この世界のために役立てたいと願っております」

 今のところ嘘はない。

 婚約解消の理由としては弱いかもしれないが。

 しかし、ここで、というよりは、今後、フィリップ殿下の私への暴言やマリアンヌへの懸想に関しては誰にも口外できない。

 なぜなら、彼はもう私たちの仲間(仮)だから。

 

「そのためにエリーゼは、エメラルド王国の国益を一番に願う立場のフィリップ殿下とは同じ道を歩めないのではと、学院で、歴史、政治、経済、世界情勢を学ぶうちに悩むようになりました」

 嫌味か?

 私の不得意分野ばかりを並べるなんて。

 まあ、本当だからいいけど。


 もし、加護がなかったら、どうだったのかしら。私はふと思う。

 加護がなければ、私は破滅フラグと戦いながらも、フィリップ殿下の婚約者の座を死守したのだろうか?


 いや、それはないな。それでもやはり、私は、同じ道を歩いたはずだ。

 加護がなくても、文官養成科の仲間との切磋琢磨は、私をそれなりに成長させてくれたはずだ。だとすれば、フィリップ殿下とは距離を置き婚約解消を願ったはず。

 もっとも、以前美花に言われたとおり、ゲームのとおりに進めば、どの道を行こうと、私たちの婚約は解消され私は追放されるわけで、結果は同じとはいえる。

 結果は同じだが、そうなれば悲惨な未来もありえた、というかゲーム上ではそれしかない。


 精霊たちのおかげで、破滅フラグを避け、時にへし折り、そこに至るまでの過程が大きく変わった。

 変わったことで、私は、大切なものを失わずに生きている。

 家族、友人、仲間、研究、そして愛する人。他にもたくさんのものを手にしている。

 手にしたものが多いほど、返すべきものも多いはず。

 私はそれを忘れて生きてはいけない。


「王家は、そのエリーゼの志を受け入れました。神々に愛し子は、一国の利益のためではなく、広くこの世界のために手を差し伸べるべきだと」

 アデル殿下が、綺麗に纏めてくれた。

「そうでしたか。残念ではありますがご立派なご決断かと思います。若いお二人の新しい道が輝かしいものになることを、心よりお祈り申し上げます」

 パーキンソン枢機卿の言葉に、ザックス公爵も頷かれている。


「とはいえ、フィリップとエリーゼは、良き学友ではあります。フィリップも、今回の研究に興味があり、少しでもお手伝いをしたいと、本日、こちらにお邪魔させて頂いたしだいです。よろしいでしょうか?」

 シラッと、都合のいい嘘をさわやかにつくアデル殿下。

「もちろんです。信頼できる仲間は多い方がいい。ぜひご協力、助言をお願いします」


「それでは、エリーゼ嬢たちの方で準備も進んでいるようなので、皆さんで、研究の詳細を詰めていただければと思います。私と弟は、この研究への理解を深めるため、しばらく皆さんの討論を見学させていただきます」

 門外漢、つまり自分とフィリップ殿下は金は出しても、よけいな口出しはせずに黙っているべきだ、とアデル殿下が暗に釘を刺した形だ。

 フィリップ殿下も、それを察したのか神妙に頷いている。

 今までのフィリップ殿下を知っているだけに、この素直な態度には驚いてしまう。

 カーリーとアルベルトも、私と同様驚いているような表情だ。


 こういった検討会では、カーリーが、場をしきる役目を担っている。

 なので、アルベルトが、カーリーに検討会を始めるように促し、カーリーが頷く。


「昨日、あの後三人で検討を重ね、想定できたことが大きく引き受けて2つあります」

「2つ? 母の病の原因が頭部にあると想定できる、ということ以外に?」

「はい。私たちはアリス様の魔力の流れの澱みを、この辺りに感じました。

 カーリーはあらかじめ用意した頭部の図で、その部分、中脳の黒質を指し示す。

「これは、またすばらしい出来の紙だな」

 パーキンソン枢機卿の興味が私たち文官養成科で作っている紙にいく。それをザックス公爵が咳払いで注意する。

 パーキンソン枢機卿は苦笑いで謝る。


「この部分は、エリーゼとアルベルトの研究によれば、人の運動能力を司ることがわかっています。なので、この部分の澱みを改善することが治療の第一歩だと思われます」

 お二人は、ここまでは昨日の流れでおおまかなことはわかっていたからか、大きく頷く。


「ただ、問題はこの部分の澱みが、アリス様の場合、高位の回復魔法でもとりきれないということです」

 カーリーの視線を受けて、アルベルトがそう言う。

「私もかつて修道院でアリス様と同様の症状を持つ方を診たことがありますが、その方は、修道院の中位の回復魔法で病状を恢復されているのです」

「なんと」

「つまり、アリス様の場合、薬であれ回復魔法であれ、この部分の澱みを取り除けない、あるいは取り除いたとしても病を癒すことができないのでは? というのが私たちの考えです」

「つまり、母の病はどうしても癒せない、ゆっくりと死に向かう姿を見守るしかないということか」

 ザックス公爵の声が震える。


「いいえそうではありません。これから私たちが想定した二つ目のことをお話します」

「頼みます」

 悲嘆にくれているザックス公爵の代わりに、パーキンソン枢機卿が頷く。


「私たちは、こう考えました。アリス様の場合、この澱みが何度も再生しているのではと」

「再生?」

「回復魔法は効いている。しかし、すぐにまた澱みができ、同様の病状が見られたことで回復魔法は効かないと判断され、諦めた時点で病状が悪化したのではないかと」

 私が続けて言う。

「プラータによれば、アリス様の病状に光の魔法が効かないということはあり得ないということです。光の女神の言を疑う余地はありません。だとすれば、アリス様の澱みは何度も再生しているとしか考えられません」


「女神さまが」

「それならば、回復魔法に関しては効くと思ってこの先を続けた方がいいな」


「問題は、なぜ再生するかということですが」

「何か、原因を想定できているのですか?」

「確証はありませんが、精神的な抑圧、私たちはこれをストレスと呼んでいますが、それがアリス様の心を攻撃し、回復魔法で癒されたとしても弱ってはいるはずのその部分を攻撃しているのではないかと」

「精神的抑圧、ストレス」

「心の病が、体の病と複合しているということか?」

「私たちはそう思っています」


「それならば、回復魔法を定期的にかけつつ、心の病を癒す方法を試していくことになるのか?」

「はい。心の病に効く魔法はありませんから」

 私の知る限り。

 もしあれば、プラータも教えてくれるはずだ。


「私たちも、ストレスを解消し病んだ心を癒す方法は知りません。けれど、もし自分の愛する誰かが心の病に侵されたのなら、その人の好きな食べ物や飲み物、その人の好きなこと、ともに語らう時間、そういったことをいっしょに楽しみたいと思います」

「なんとも曖昧で先の見えないことだな」

 けれど、この病がパーキンソン病だとしたら、心の病を癒す試みは、体を癒す一助ともなるはず。

 なぜなら、パーキンソン病に大きく関連しているドパーミンは、前世の知識では、好きなことや得意なことをすることで分泌が増えるといわれていた。また、何かを達成したときも、ドーパミンの分泌が活性化されるともいわれていた。

 好きなことを楽しむ、笑う、こんなことと思うことが、有益だったりするのだ。

 人とは、そんな不思議な仕組みをもっている。前世でも現生でも、それは同じ。


「しかし、一理ある。アリス様の御心を慰めることを、考え得る限りやってみようではないか。私や君だけでなく、他の誰かの手を借りてでも」

 パーキンソン枢機卿は、とても前向きだ。ありがたい。


「では、回復魔法を定期的に受けてもらい、同時に心の病への対処をするということでいいのだろうか?」

「大まかには。ただ、それにも問題があります」

 カーリーが言う。

「回復魔法を何度も受けると、それなりの副作用があることがわかっています」

 これは、最近、文官養成科の仲間が発見した事実だ。


 回復魔法を、ある一定回数を超えその身に受け続けた者は、その寿命が短い。

 例外は、聖女の光の癒し魔法。この魔法だけは、寿命に影響しない。おそらく代償は聖女自身が払っているのだろう、と予測されている。


 この論文を読んだ後、私はプラータに聞いた。聖女の寿命は大丈夫なのかと。マリアンヌが早死にしたら大変だもの。


 プラータの答えはこうだった。

「聖女は、光の精霊の加護を受けた時点で、寿命が通常の三倍ほどにのびるの。だから、その予測どおり、光の癒し魔法はその対価を聖女自身が払ってはいるけれど、それでも長寿なのよ、たいていは」 

 安心した。

 でも、もし加護がもらえなかったら、大変なことになっていたのではと、ゾッともした。

 このことに気づき、論文を仕上げてくれたヒューイには、感謝しても仕切れない。


「光の癒し魔法以外の回復魔法を受け続けると、寿命が縮むよ。病気が治っても早く死ぬ」

 ヴェルデ、言い方。いつも言っているよね。

「なんですと!?」

「いやしかし、言われれば心当たりはある。戦地で何度も回復魔法を受けた兵士は、生きて戻っても長生きしない」

「それは戦争の影響ではないのか」

「それに、神聖帝国の枢機卿たちも早死にが多い。彼らは、ちょっとした疲労でも、互いに回復魔法をかけ合うことが多い」

 平民は、回復魔法など夢の夢で、重い病に侵されれば死を覚悟するしかないのに。

 その対価が寿命を削ることだと知れば、もう少し使い方を考えてくれるのだろうか。


「ならば、この学院に在籍している聖女なら、問題ないのか?」

「ええ、マリアンヌと私なら、患者に負担のない光の癒し魔法が使えます」

「エリーゼ嬢も光の癒し魔法か使えるのですね」

「ユリウス、それは当たり前だろう。彼女は光の女神の加護があるのだから」

 パーキンソン枢機卿とザックス公爵が顔を見合わせて納得している。


「ですから、アリス様には、私の光の癒し魔法を受けていただき、魔法の効き具合を魔力の流れで確認しながら、初めにお二人からご提案のあった魔法薬をいくつか試しながら、病状の回復につてめていきたいと思います」

 そもそも、お二人から共同研究の申し出があったのは、魔法薬の製作だ。

 そこを忘れてもらっては困る。


「同時に、アリス様の心のケアもしていかなければなりません。これには御子息であるユリウス様のご協力が何より必要です」

 カーリーが、アリス様のためにできることを探すために、さまざまな問いを書いたリストをザックス公爵に渡す。

「これにユリウス様の知る限りのことをお答え頂けますか? 常におそばにいる侍女にも聞いて頂きたいです」

 私たちは、アリス様の心の傷の直接の原因については、今は追求しないことにしている。同じ傷をザックス公爵も受けているはずだから。


「ただし、知っておいていただきたいのは、聖女の光の癒し魔法は、かけられた方に影響はありませんが、かけた本人が代償を払っているのです。ですから、それもむやみに多用はできないのです」

 私を心配してなのか、アルベルトが言う。


「そうなのか。いや、知らぬこととはいえ、若い君に無理を言うところだった。無知とは恐ろしいことだな」

 パーキンソン枢機卿が私に頭を下げる。

「いいんです。確かに代償は払わねばなりませんが、私たちには加護があります。ですから、加護のない方々よりはずっと少ない代償で済みますから」

「すまない。君が代償を払うと分かっていても、やはり私は君の光の癒し魔法に縋りたい」

「はい。承知の上です。そこはご遠慮なくお願いします。ただし、魔法薬の製作には、お二人のお力を貸していただきます」

「もちろんだ」


「では、魔法薬に必要な素材の検討からお願いします」

 私たちは、精霊たちの力で集めてもらった素材をテーブルに並べる。

 素材を並べて眺めただけで、なんどかワクワクしてきた。

 ようやく、研究三昧できるわね。



 

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