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愛憎とは距離を置いて、研究三昧したいんですが。part4-2

第62章 意外に、学院生の知識は最先端?


「大地と緑の精霊、ヴェルデよ」

「風の精霊、アマリージョですわ」

「火の精霊、ロッホだ」

「水の精霊、セレステ」

「私は光の女神、プラータ。あちらで寝ているのは、私の弟で闇の精霊インディゴ」


「私は、アルベルトの緑の加護精霊ビリジアンだ」


 パーキンソン枢機卿とザックス公爵は、女神までおわすせいか、感涙しながら平伏している。


「ユリウス、そなたの母をこちらへ連れて参れ。妾が手助けする故。その上で、病を癒す方法を探った方がよい」

 プラータにそう言われれば、ザックス公爵も頷くしかない。

 病に伏せる母を動かすことに憂いや心配はあっても。

 

「もしかしたら、プラータの魔法ですぐに治るかもしれないしね」

「治るかもしれないが、それはできないのよ」

「なぜ?」

「女神とは、そういう存在だからとしか言えないわね。エリーゼ、加護を与えている貴女だけが特別で、他の人間の生死に、私は関わることはしない。できないのではなく、しない」


「では、私がザックス公爵の母上を救う薬を、魔法との融合で作り出すことへの手助けはしてもいいの?」

「それは構わないわ。その薬は、大勢の希望になるのでしょうから」

 なるほど。

 個人を救うわけにはいかないが、万人を救うのはよし、ということかな。


「私としては、なんの確約もできませんが、ザックス公爵のお母上の病を癒す薬を作ることに、協力したいと思います。カーリーは?」

 とりあえず、仲間の気持ちを確認しておく。

「もちろん協力するわ。実は、修道院でも似たような症状の人を診たことがあるの。その時は、ほとんど何も出来なくて。もし、薬ができれば、市井の人々にも役立つはず」

「私も協力しよう。そのような薬なら、おそらく緑の力が必要なはずだ」

 アルベルトの代わりに、ビリジアンが答える。


「ありがとうございます」

「感謝する」

 ザックス公爵とパーキンソン枢機卿が、感極まった声で頭を下げる。


「では、ユリウス、まずは妾とともに神聖帝国に参りましょう。アマリージョ、手助けを頼めますか?」

 ええ、とアマリージョはすぐに転移の魔法陣を描く。

 カーリーがメモをとりながら、私に質問をする。

「あの中央の部分、エリーゼのものと少し違いますね?」

「アマリージョは私よりずっと魔力が多いので、あそこにオプションの機能をつけているのよ」

 オプションは、時間の短縮や距離の長短、人数の設定など、様々だ。

 私にはだから、私だけの魔力であの魔法陣を使い転移はできない。

 魔力が多い、といっても、所詮私は人だ。高位の精霊や女神とは比べるべくもない。


「つまり、転移の魔法陣は使用者の魔力に応じて描き方が違うということ?」

「そうね。転移だけでなく魔法陣は全からく使用者の魔力によって本来は描き直すべきものなんだけど、それだと、汎用性がないでしょう? だから、最低限の魔力に合わせて、お菓子作りに使っているものなんかは描いているわけ。カーリーが自分で作っているものも、無意識に自分の魔力に合わせて作っているのでは?」


 カーリーやマリアンヌに私が描き方を指導したものは、彼女たちの魔力よりずっと少ないもので起動する様に描いたものだ。

 それを彼女たちは、自分に使いやすく改良している。

 本人たちには、どうやら自覚がなかったようだけど。


「そういえばそうね? 使い勝手が良くなった、ということは、自分の魔力に適しているっていうことでもあるわね」

 カーリーは納得したようだ。

 

 などとカーリーと話していると、アマリージョとプラータの魔力に護られ、ザックス公爵とその母上がこちらに戻ってきた。

 なんと、ザックス公爵の母はベッドごと運ばれ、二人の侍女も連れ転移してきた。

 アマリージョ、プラータ、恐るべし。


「驚いた!」

 パーキンソン枢機卿が目を丸くしている。

 私も驚いた!


「お兄様、ここではお母上様にはあまり環境が良くないのでは?」

 研究室に優雅なフォルムの貴族用のベッドはシュールすぎるし、部屋の中には薬品や割れやすい器具も多い。


「それもそうだな。魔法省に、来客用の個室があるので、とりあえず、そちらを手配しよう。準備出来次第、もう一度、転移をお願いできますか?」

 兄が、アマリージョとプラータにお伺いをたてる。

「もちろんですよ」

 プラータが微笑む。

 そういえばプラータは女神になってから、キラキラの光源体ではなく、人型をとることが多くなった。何度見ても、綺麗で見惚れるわね。


「オスカー、魔法省の来客用の個室を、一番広いものの手配を頼む。ベッドは私用のものを持ち込むので撤去しておいて欲しい」

 兄が、何やら魔道具にそう言うと、あちらからオスカーの声で返事がくる。

「了解です。逆に何か揃えておくものはありますか?」

「相談の上、後で連絡する。とりあえず、部屋の換気と掃除がきちんと行き届いているか確認して欲しい」

「お任せください」


「部屋の準備が出来次第、お母上はそちらに移動していただきます。魔法省と学院は隣接しているので、行き来も楽ですし、なんなら専用の転移の魔法陣を設置しましょう。その程度なら、エリーゼがすぐに描けますから」

 その程度って。

 そうだけど。

 オニキス大公国との行き来だってできる転移魔法陣も描けるんですけど。

 そりゃあ、人数制限もあるし、ベッドは運べるかどうかわからないけど。

 いや、おそらくベッドは運べるが、そこに眠る人ごと()()に運べるかは疑問だ。

 かなり魔法陣に手を入れないと無理っぽい。


「お部屋が準備できるまでに、少しお母上のご様子を見させていただいてもよろしいですか?」

 私はユリウス様に尋ねる。

 お母上の寝顔は穏やかだ。

 かなりやつれては見えるが、上品でお美しい方だとわかる。

 おそらく、ユリウス様はお母上似だね。


 この方が、死にたい、殺してほしいとおっしゃるなんて。

 お労しいことだ。

 できる限りのことをして差し上げたい。


「ああ頼む。しかし、母は眠っている。移動で心身が疲弊しないように、プラータ様が癒しの眠り魔法をかけてくださっているので」

「大丈夫です。近くで、魔力の流れを確認したいだけなので」


「もし、パーキンソン病なら、頭部に少なからず澱みがあるはず」

私は、アルベルトに告げる。

「三人で左右と上部から確認してみるか?」

 眠っているお母上の後頭部は確認できない。

 だとすればそれが一番正確かも。

「そうね、もし重なる部分があれば、ビンゴかもね」

 カーリーにも、魔力の澱みを確認してほしいと頼み、左側を任せる。アルベルトは右側を、私は頭頂部担当だ。


「魔力の澱みとは? それを触れもせず確認できるのか?」

パーキンソン枢機卿が尋ねる。

「魔力のある人なら、血が全身を巡るように魔力も、普通は、体中を巡っているのです。そして魔力を使うときには、その流れを指先に、人によっては瞳に集中させ魔法を使うのです」

「私たちは、ふつうは無意識に魔力を持つ人たちがしているその魔力の流れを意識することで、澱みがあればそこを浄化して常に最高の状態で魔法を行使できるようにしています」

「なんと」

「しかも、カーリーの研究では、その澱みが病の原因になりやすいということが分かっています。魔力のない人なら、回復魔法で治る同じような症状が魔力のある人では、それが効かないのです。おそらく、なんらかの呪いに似た作用がその澱みにあるのでは? というのがカーリーの予想なのよね?」

「そうなの。まだ検証が済んでいないけど、エリーゼが戻ってきたから、検証も進みそう。呪いの専門家だからね」

 いや、専門家ではないよ。

 でも、インディゴがいるから、そうともいえるのかしら。


 それにしても、年長でお金も経験も私たちより豊富な研究者の二人の知識より、わたしたちの常識が上回っていることに驚く。

 魔力の流れを意識すること、それにより魔力を向上できることは、文官養成科の皆には当たり前のことと捉えられている。

 あれ?

 これってそういえば、ヴェルデの教えだったような。

 ヴェルデのおかげなの?

「精霊とハーブ同好会の常識だね」

 ほう、また心を読みましたか。

「いやその、まあその、うふっ」

 私とヴェルデのささやかなやりとり、というか、ほぼ私の独り言は、アルベルト以外には聞かれていないようで、彼だけが眉根をよせている。


「ということは、母は、なんらかの呪いを受けているのか?」

「そうとも言えません」

 カーリーが冷静に答える。

「なぜだ?」

「呪いに似ている何かであって、呪いではないかもしれませんから。つまり、その人自身の生活環境や食生活やあるいは精神的苦痛が作り出すものの中に、呪いと似たものがあるのです。そうよね、アルベルト」

 いわゆる環境ストレスや精神ストレスと病の関連についてのレポートはアルベルトが提出していたからだろう、カーリーは話をアルベルトに繋ぐ。

「誰かに呪いをかけられたのなら、おそらくパーキンソン枢機卿や法皇様の回復魔法がもっと劇的に効く筈だと思われるので、私はなんらかの個人的なストレスで魔力の澱みができた可能性もあるのではと思う」


「とにかく、まずは澱みがあるかないか、それを確認しましょう」

「なぜ、頭部にこだわるのだ? 全身を確認した方がいいのではないのか? ユリウスの母上は、手足の痺れから始まり、動作が緩慢になってきたのだが」

「運動能力というのは、すべからく脳が司っているからです」

 とりあえず、見てて下さいと言って、私たちはお母上の頭部の三方から手を当て、魔力の流れを確認する。

 サポートは、セレステだ。

 水の精霊であるセレステは、「流れ」に関してどの精霊より頼りになる。

 セレステの光に包まれながら、私たちは、お母上の頭部の魔力の流れをそれぞれの掌に感じ取る。

 何度も、薬の成果を確認するため、折に触れ互いの魔力の流れを確認してきた私たちには、さほど難しいことではない。


「あっ!」

 まず、カーリーが声を上げ、次にアルベルト、私が続いて澱み、というか塊を感じる。

 私たちがいっせいに指差した線が、ある部分で交差する。その交差点に、おそらくそれがある。


「何かわかったのか?」

「澱みがあります。澱みというより、塊といった方がいい感触ですが」

 私の言葉にカーリーとアルベルトが頷く。


「それと、やはり呪いの類はないですね。もしかしたらパーキンソン枢機卿様たちの回復魔法でなくなったのかもしれませんが」


「ならば、それを取り除けば、母は元に戻れるのか?」

「そうですね」

 それは間違いない。

 けれど、どうやって取り除けばいいのか、それが問題だ。


 とその時、オスカーから部屋の準備が整ったと連絡がきた。

 アマリージョが、まずその部屋の確認に転移した。

 すぐに戻ってくると、プラータと共に、ユリウス様とお母上、侍女も連れて、ふたたび転移する。


「今日のところは、これでお開きにしてはどうでしょうか? エリーゼたちにはある程度、この病についての知識があるようなので、それをまとめてもらって、明日また薬に必要な素材や融合する魔法についての検討をされては?」

「そうだな。そうしよう。ユリウスも今日は母君に付き添うだろうし。できれば、私もその近くに部屋を移りたいと思うが」

「手配しましょう。今は、王宮にお泊まりですよね?」

「ああ。王族の方々とはもう十分にご挨拶もできた。あとはこちらで薬の開発に力を注ぎたい」

 パーキンソン枢機卿が、さっきのアルベルトと同じように、眉根をよせる。

 王族とのわずらわしいやりとりは、もう結構ということか。


「なるほど」

「ただ、アデル殿下には頼みたいことがある。実は、帝国で、彼のリュートの音色が、母君の痛みを緩和するのにかなり効果があったのだ」

 ほう、それは興味深い。

 たしかに、殿下のリュートの演奏は素晴らしい。

 しかし、そのような効果まであるのなら、そこは研究してみたい。

「アデルにはその旨伝えておきましょう。喜んで演奏してくれるでしょう。それにうちのエリーゼのピアノも、もしかしたら効き目があるかもしれませんよ? とても良い音色を奏でますから」

 お兄様、余計なことを。

 私の腕では、アデル殿下の演奏とは比較になりません。


「それはいいことを聞きました。ぜひ機会があればお願いしたい」

 私は、愛想笑いでそれを受け流した。


 

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