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愛憎とは距離を置いて、研究三昧したいんですが。part4-1

第61章 研究仲間とご対面です。事情はわかりました。


 兄マテウスは、カーリーに甘い声でこう言った。


「珍しいね。緊張しているの? 大丈夫だよ、いつでも私がついているから」

 どうやら、周囲の婚約ラッシュに煽られたのか、兄の恋愛モードのレベルが上がったらしい。

 けれど、カーリーにはそんなことは分からない。

 いつもは、私の知る限り人前では適度な距離感を保っている恋人の甘い雰囲気に、戸惑いが隠せないようだ。

 まあ、そのおかげで、緊張は解けたようで良かったのかもしれないが。


 ここは、私の出番だよね。


「お兄様、お客様に私たちを紹介願えませんか?」

 デレてないで、さっさと紹介して欲しいんだけど。

 みんな困っているんですよ。

 時と場合を弁えて、甘さを加減してもらわないと。

 カーリーとは後でゆっくり語り合ってくださいな。

 それと、シスコンはもうやめたのですか? それはそれでちょっぴり寂しいですね。

 という想いをこめながら、紹介を兄に促す。


「そうだったな。では、君たちの研究仲間になるかもしれぬ、お二方を紹介しよう」

 かもしれぬ、ね。

 なるほど。

 

 共同研究の仲間となるかどうかは私たち次第、と兄はあちらにもわかるように言葉を選んでいるわけだ。多少不躾に。

 身分の高い方たちだけに臍を曲げられては面倒だ、と思ったけれど、そんな心配はいらなかったようだ。

 にこやかに、お二人が、私たちの前に進みでる。


「こちらが、ユリウス・フォン・ザックス公爵」

 背の高い、白銀髪のスラッとした男性の方が礼をとる。

 私たちもそれぞれに、礼をとる。

「公爵といっても、私の祖国パール王国は軍部主導の革命で、王家の者は全て殺され今やパール共和国と名乗っている。王家の血筋で残っているのは、護衛も兼ねて神聖帝国への母の里帰りに付き添っていた私のみ。爵位などないも同然なのです。どうか、ユリウスと名でお呼びください」

 学者らしき雰囲気はあるけれど、今の自己紹介では、この方は研究者ではないのかしら? 

 アルベルトもカーリーも、戸惑っているようだ。

 私たちは植物学、薬学の研究者として、ここに呼ばれているのだから。

「ユリウス、それではキミがなぜここにいるのか、彼女たちには何一つ伝わっていない。パール王国復活の助力を願いに来たのかと思われるぞ」

 ですよね。


 もう一人の、金髪碧眼の男性、ジョナサン・フォン・パーキンソン枢機卿がユリウス様に、苦笑しながら言う。

「それはすまない。私は王国の復活にも王位にもまったく興味がない。私の興味は、薬学、医学、そして魔法とのそれらの融合にある」

 どうやら、研究者ではあるようだ。亡命貴族が、なぜ、こういった学問に興味を持ち情熱を持っているのか、そういうことはおいおい聞けばいい。とにかく、彼が研究者としてこの場にいるということがわかれば。

「そしてこちらが、ジョナサン・フォン・パーキンソン枢機卿。私の友人でもある」

 へえ、そうなんだ。

 お兄様よりは、かなり年上に見えるけれど。

 それにとてもダンディ。


「はじめまして、私もジョナサンと名で呼んでいただければいい」

 そうもいくまいが。


「はじめまして。私は、エリーゼ,フォン・ヴォーヴェライトでございます。こちらは、アルベルト・フォン・シュミット、その隣が、カーリー・フォン・エルスターです。私たちはともにこの学院の文官養成科の生徒で、いくつかの研究に共に協力して取り組んでいます」

「君たち、三人の論文やレポートは全て目を通させてもらった。お一人ずつのものも、他の方との共同研究についてのものも」

 それはそれは。

 かなりの数になるはずだ。

 特に、カーリーは、週に一本はレポートを提出しているし、論文もかなりの数を仕上げている。


「その中で、君たち三人の連名で書かれている、薬学と魔法の融合による、新しい回復薬についての論文にとても興味を惹かれた」

 あれか。

 私たちとしては、あれはもう結果の出ているものだ。

 何度も実験を繰り返し、安定した結果も得ている。

 後は、どこまで安価に市場に流すことができるか、その結果、高いお布施で回復魔法をかけている一部の教会との軋轢をどうしたら少なくできるか、そういった段階に進んでいるものだ。

 

「あの論文では、いくつかの薬草に、初級の回復魔法を融合すると、高位の回復魔法と同じ効能が得られるとあったが、本当だろうか?」

「もちろん、本当ですわ。エビデンスもあります。ご覧になったはずですが」

「ああ。それはもう何度もな。どこにも不正や誤りはなかった。至極まっとうなエビデンスだった」

「それでもなお、信じられぬほど、あれは驚くべき結果だった」

 お二人は、顔を見合わせうなずき合っている。


「ですから、もし、あの論文の検証をお望みなのだとしたら、私たちとともにではなくお二人だけでお願いします。あの論文の件は私たちにとっては自明で今さら共同でやり直すことなど何もないのです」

 私たちも暇じゃない。

 研究するのなら、新しい次のステップに続くものに時間を使いたい。


「いや、私たちが君たちと共に研究したいのは、それであってそれではない」

「どういう意味でしょうか?」


「あの研究結果を元に、さらに上級の回復薬を作りたいのだ」


「実は、私の母は、不治の病に侵されている。ジョナサンは、こう見えて、最高位の回復魔法を遣える。帝国では法皇と彼だけがその遣い手だが、それでも母の病には充分な効果がなかった」

「もちろん、法皇様や聖女様にもお願いして、回復魔法をかけていただいた。おかげで、病状の進み具合はかなり緩やかにはなった。しかし、回復の兆しは無いのだ。ユリウスの母は、ザックス公爵家に嫁ぐまで私の家庭教師だった。彼女にはとても世話になった。母を幼い頃に亡くしている私にとっては母親代わりでもあった」

 どうやら、息子のユリウス様だけでなく、ジョナサン様にとっても、とても大切な存在らしい。


「私たちは母の病を治す薬や魔法を求めて、ありとあらゆる方面に手を伸ばしていた。そんな中、小さな光を君たちの論文に見つけたのだ。薬でも魔法でもなく、薬と魔法の融合、その大いなる可能性に」


「つまり、私たちの生み出した手法で、お母上の病を癒す回復薬を、未だこの世界に存在しないレベルのものを作り出したい、ということですか?」

「その通りだ。なんとか、ともに手を携え、我が母の病を治す薬を作ってもらえないだろうか?」


「しかしできるとは限りません。時間の制約もあるでしょうし」

 お母様の病を治すためと言われ、もはや何とかできないかしらと思いはじめた私とは違い、アルベルトは冷静だ。


「母の病は、すぐに死に直結するものではないようだ。緩やかに死に向かう、そういうものらしい。これ以上の回復は無理で、おそらく、死ぬまで寝たきりのままだと言われている。最近は死にたい、自分では死ぬことも出来ないので殺して欲しいと口にすることもある」

 ユリウス様は辛そうにそう言う。


「その病とは、具体的にはいったいどういうものなのでしょうか?」

カーリーが聞く。

 それはそうだ。

 寝たきりになる病は、いくつもある。回復魔法も万能ではない。高位の回復魔法ごどれほどのものかはわからないが、マリアンヌの癒しの聖なる光魔法でさえ、できないことはあるのだから。私のクラシオンでもね、たぶん。


「ここに病状をまとめてあります」

 何枚かの羊皮紙を手渡すザックス公爵の手は、少し震えている。


 私たちは顔を寄せ合って、それを読む。



 3年前、病に気付いた頃の初期症状は、動きが素早くできない、声が小さくなる、その程度だったらしい。

 次第に、肩、膝、指などの筋肉がかたくなって、スムーズに動かしにくくなり、顔の筋肉がこわばり、無表情に感じられるようになってきたそうだ。


 ほかに、何もしないでじっとしているときに震える、それも、片方の手や足のふるえから始まることが多い、などの症状がある。

 そして今では、歩くことや立つこと、口をきくことも厳しいとか。

 それもあって、政情が不安定なバール王国からラピスラズリ神聖帝国へ来ていたらしい。

 それが一年ほど前のこと。

 その直後、祖国で王家は滅び、王国は共和国になった。



「これって」

「パーキンソン病だったか?」

「症状としては似てるね」

 よりによって、パーキンソン枢機卿と名前が重なるなんてね。

 偶然なのかどうなのか。

 あのゲームに、こんなシナリオも登場人物もなかったはずだが。


「もし、パーキンソン病だとしたら?」

「中脳の黒質にあるドパミン神経細胞がこわれて、作られるドパミンが減ることによって発症する病だったはず」

 私もそう詳しくはない。

 大学の授業で、それもたまたまとっていた、脳にまつわる病の特別講義で、サラッと習っただけだ。

 医学部や薬学部の学生ではなく、植物学の専攻だったから。

 ただ、植物の香りや薬理効果が脳とは密接な関係にあるので、興味深くは有った。

 おかげで朧げな知識はある。

 ドパミンを増やす食品は、確か大豆食品やチーズ、ミネラル。

 それとは別に、ウチワサボテンと海藻が、パーキンソン病の進行をくい止めるのに有効だという論文もあったと記憶している。

 こちらは、ドパミンを増やすのではなく、ドパミンを減少させるタンパク質の塊の毒性を低下させるとか、そういう内容だったはず。


「もしかして、君たちにはこの病の知識があるのか?」

 私とアルベルトがコソコソやりとりしているのを見て、ユリウス様が効く。

「似ているものは知っています。同じかどうかはわかりません」

 正直に答える。


「お母様を直接診せていただくことが出来れば、あるいは判断できるかもしれませんが。私が、というより、私の精霊たちが」

 前世の知識は、やっかいだ。

 それも、うろ覚えの知識ではなおさら。ここは、精霊たちのネームバリューを借りておこうと思う。

「そういえば、エリーゼ様には、精霊様たちの加護がおありになるのでしたな」

「私だけでなく、アルベルトにも加護はありますよ」

 

 私がそう告げた瞬間、精霊たちがいっせいに姿を現す。

 女神、プラータが最後に、キラキラと。

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