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愛憎とは距離を置いて、研究三昧したいんですが。part3

第60章 ハーブ園は、いろんな意味で日々進歩しています。


 二人が部屋を出ると、アルベルトがこう言った。


「今日は、共同研究のお相手と初顔合わせの日だね。午後からのお約束だが、そろそろ勉学モードに切り替えないとな」

 

 学生の本分は勉学。

 今しかできないことでもある。

 さてさて、どんな研究なのか。不安と楽しみ半半だね。


 でもその前に。

「アマリージョ、できるだけお兄様と父上の援助をお願い」

「ふふふ、言われるまでもなく、全力で」

 いや、全力でなくていいから。

 色々、吹き飛んで危ないからね。


「「カレーが食べたいな」」

 ヴェルデとセレステの言葉が重なる。

 僕も、俺もとインディゴやロッホも追随する。

 では、今日のランチはカレーね。


 オスカーの助言を受け、一旦はカレーを学食のメニューからは外してもらったのだが、学院の寮は男女がきっぱり分かれているので、仲間で一緒にカレーを食すことができない。

 美味しいものは、仲間と一緒に食べたいじゃない?


 どうしたものかと悩んでいたら、カーリーが、学院の学食を貴族はほとんど利用しない。別のエリアで貴族用の食事をするので、こちらにだけならカレーをおいても問題ないのでは? と進言してくれた。

 そもそも平民は魔力がないし、ここで食べる魔力持ちの貴族は、ほぼ文官養成科の仲間たちだ。

 そう言われればそうで、学食のメニューにカレーがあってもいいんじゃない? ということになった。


 敵対するものたちの魔力を不必要に上げるのはいかがなものか、と反対していたオスカーも、マリアンヌと恋仲になるまで、魔法省か貴族専用のエリアでしか食事をとっていなかったので、そもそも学食への常識が違ったらしい。


 というわけで、私とアルベルトは、レイナード、カーリーやレイチェル、マリアンヌも呼び、オスカーもしれっと参加して、美味しくて魔力も上がる、研究前の最適ランチ、カレーを楽しんだ。ちなみに香辛料とそのブレンドの魔法陣を、ハーブ同好会が学院におろしているので、うちの部員は3割引きのお得価格で食べられる。


 いよいよ、ようやく研究三昧の日々か?

 そうなればいいな、と私は心から思った。


 ランチ後、待ち合わせまだあと少し時間があったので、ハーブ園を見回る。


「こうやって改めて見ると、大きくなったな、ここも」

 文官養成科の仲間たちが整えてくれている池の周囲やそこへ続く遊歩道もかなり出来上がってきた。

 香りや薬用を重視して植えた植物が多いが、回復薬の販売で資金が増えてきたこともあり、目を楽しませてくれることを目的にした花々も増えてきた。

 ハーブ園というよりは、植物園、公園の趣だね、これは。

「香りもいいし、目の保養にもいいから、最近は他の科の生徒たちも良くここを利用するのよ」

 レイチェルに言われて気付いた。

 そういえば、顔は知っているけれど話したことはないわ、という生徒もチラホラいる。


「レイチェルとレイナードの婚約後は、あのベンチが恋人たちの聖地になっているのよ」

 カーリーが、ニヤニヤしながら、レイチェルが、レイナードに髪飾りをもらって正式にお付き合いを始めた時に座っていたベンチを指さす。

 

「ということは、あれって順番待ち?」  

 そのベンチの周辺に何組かいるカップルを見ながら、私は尋ねる。

「そうそう。あのベンチで交際を申し込んだり、記念の品を渡すことが流行りなのよ」

 へえ、いつか私もあやかりたいものだわ。


「恥ずかしいけど、これはいいことだと思ってるの。他の科の生徒たちにも、このハーブ園の素晴らしさをわかってもらうきっかけになれば」

 レイチェル、その通りです。

 聖地は、どこの世界でも観光の目玉になるものよ。


「ただね、この辺りは雰囲気が良すぎて時間を忘れて長居をしがちで、授業に遅れたりすることもあるらしくて」

「時計台でも、作る?」

「学院が設置してくれるのなら、雰囲気を壊さない感じのデザインを考えるけど、うちで設置となるとなかなかに厳しいわ、予算的にね」

 レイチェルが言う。

「なら、花時計でも作りましょうか? 景観も損ねないし、アバウトだけど時間もわかるし、ただね、手入れと植え替えが面倒だけど」

 時計的なものがあれば多少は時間を気にしてくれるだろう。

 文官養成科の仲間は、みな、一回の試験で年間の単位を取ってしまうので、授業や研究は時間に縛られないものが多い。大人数で受ける授業はほぼなく、それぞれの研究室で指導を仰ぐ感じだ。

 そのせいで、このエリアで時間を気にすることがほとんどなかったが、他の科の生徒はそうはいかない。遅刻や欠席が増え、ハーブ園のせいで、などと悪評が広がるのも防ぎたい。

 

「花時計って?」

 花時計といえば、カール・フォン・リンネ。前世では、リンネの花時計が有名だったわ。

 花々の1日における開花・閉花の時間を利用したもので、うまく植えれば夜でも時間がわかる。ただし、時間の誤差は割とあるし、季節ごとに合う花々を探すのが大変で、実用的とはいえず、前世でも時計としてよりはモニュメントとして植物園や美術館に設置されていた。


「ざっくり言うと、花の開花や閉花の違いを利用して作る花壇で時間を知る、みたいな感じかな」

「つまり花壇を作って、そこに植える花の特性を利用して時間を知らしめるってこと?」

 私はレイチェルに頷く。

「それだと、正確性にかけるのでは?」

「もちろんそうね。ヴェルデの指南を仰げば、誤差30分程度で作れるとは思うけど。時計としてはもんだいよね。だからそれに、時計の針を花壇に取り付けて、針自体は時計の仕組みで動かして花々と組み合わせればどうかな?」

「結局、時計の仕組みは組み込むのか。花壇の方が時計台よりは安上がりだろうけど、試算してみないと実現可能かどうかはわからないわね」

 レイチェルがメモをとりながらそう言う。


「そんなもの、必要なかろう。花には精霊が集まりやすいから、仲間の精霊たちに頼んでおけば、天気や季節で開花がズレても、時計の針をきっちり進めてくれるはずだ」

 アルベルトの肩でビリジアンが煌めきながらそう言う。


 時計の仕組みは組み込まなくても針だけでいいってこと?

 それだと予算はかなり浮くわね。


「お前たちに必要なのは、精霊たちが喜ぶように、花々の世話をきっちりすることだけだ」

「そうなんですね。それなら実現してできそうです。ビリジアン様、ご助言、ありがとうございます」


「だとしても、やはり時間に連動して開花閉花する花々を植える必要はあるな。その方が花壇としてのクオリティが上がるし、ここのいい目玉になる」

「そうね、アルベルトが言う通り。ヴェルデ様、ビリジアン様、花々の選定にお力を貸していただけますか?」

「「喜んで!!」」

 まるで居酒屋のノリだよ、って私が小声で呟くと、アルベルトが、精霊様が店員の居酒屋、流行らなさそうだと笑った。

 確かにね。

 店員が飲み食いばかりしてそうだし、ところ構わず寝てそう。


「じゃあ私、みんなと相談してくる。私が花時計のプロジェクトリーダーになってもいいかな?」

「予算のこともあるし、元々はレイチェルの恋人伝説から波及した問題だしね、適任よ」

 カーリーが笑う。

「ヴェルデ、レイチェルが花時計の責任者になるわ。できる限り力になってくれること、私からもお願いするね」

「私からも頼む、ビリジアン」

 私たちは、それぞれに自分の緑の精霊に改めて指南をお願いしておく。


「では、俺たちはそろそろ、待ち合わせに出向くか」

 アルベルトの言葉に私とカーリーは頷く。


 いよいよご対面だ。

 良き研究仲間になれればいいけど。もう陰謀や悪事には、お腹いっぱい、ウンザリだ。

 

 文官養成科の校舎に入る。

 待ち合わせは、ミーティングルームだ。引き合わせのために兄が同席してくれることになっている。

 

 私たちが部屋に入ると、時間にはまだ少しあったけれど、兄と二人の身なりのいい壮年の男性が二人、先に部屋で歓談していた。

 

 ジョナサン・フォン・パーキンソン枢機卿と、ユリウス・フォン・ザックス公爵で間違いないだろう。

 どちらがどちらかはわからないけれど、どちらもそこはかとなく育ちの良さが漂っている。

 

「おお、来たな。三人ともこちらへ。紹介しよう」

 兄が私たちを手招き、少し緊張しているカーリーに優しい眼差しを向けた。


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