フラグはフラグでも、しあわせフラグはめいっぱい立てたいよね part2-1
第56章 色々お祝い事がありまして。
黄色い豚……。
また豚なの?
もしかして豚かネズミの二択なのかしら?
私の戸惑いには関係なく、マルクス豚は、もの凄い勢いでブヒブヒ鳴きわめいている。
いや、まあ、そうだろうけど。
いきなり豚に変えられたら、それも黄色だし、文句しかないよね。
本人が、黄色だとわかっているかどうかはわからないけど、何を言ってもブヒッとしか鳴けないのはわかっているだろう。
私は、どうしたものかと、こめかみを押さえる。
「アマリージョ、この豚さんどこで飼うつもりなの?」
「もちろん、蒼の森ですわ」
ああ、なるほどね。そういえばマルクスはリベルタースの一味だったわ。蒼の森でお仲間と一緒に管理した方がいいよね、アマリージョも。
よかった、寮ではなくて。
「でも、彼はフィリップ殿下の侍従なのよ。長い時間、連絡が取れなくなると大騒ぎになると思うの」
「それなら、私とインディゴが交代で彼になりすましましょう」
……だと思った。
「アマリージョ様、こやつはどうやら魔法も使わず人の心を操る術を持っているらしく、フィリップはどうやらこれにいいように操られている節もあるのです」
ずっとマルクスをマークしていたオスカーが言う。
「そう。それなら、私もあれを操ってもいいわけよね? こちらの都合のいいように」
いやそれは、違うような。
もし、フィリップが心を操られているせいで、ああも私への対応が酷いのならそこはなんとかして欲しいけど、こちらのいいように操るというのは、違う気がする。
「洗脳が解けるようならなんとかしてほしいけど、それ以上は必要ないわ」
「そうですか。エリーゼがそういうのなら仕方ありませんね。やりすぎないよう努力しましょう」
努力か。
悪い予感しかないけど。
アマリージョがマルクス豚を連れて消えると、私たちは揃って帰路へついた。学院の寮ではなく、それぞれの王都の屋敷へと。
明日は、カーリーのお祝いだ。
そしてマリアンヌとオスカーも、皆の前で婚約を発表する予定だ。
身内だけのささやかなお祝い、といっても貴族のパーティーだから、それぞれに準備がある。
私も、明日は久しぶりに着飾る予定だ。お菓子の食べ過ぎで、ドレスが入らない、などというアクシデントがないよう祈るばかりだ。
翌朝、久しぶりに父や母も一緒に家族四人で朝食をとる。
「エリーゼ、少し大人っぽくなりましたね」
母が私を見て言う。
「色々、経験しましたので」
「け、経験!? そ、それはどういう」
父が慌てふためいている。
確かに、言葉のセレクションがまずかったわね。
蒼の森でのあれこれや、指輪のためのダンジョン試練とかだけど。
兄が父母にどこまで話しているのかがわからないので、そのままを話すのは憚れる。
何も知らない場合、心配のかけすぎで、屋敷に軟禁される可能性もあるものね。
「エリーゼは、留学では大いに見聞を広め、こちらに戻ってからも、良き友人たちと研究や魔力上げの試練に日々励んでおりますからね。もちろん、その全てを兄である私が見守っておりますから、父上や母上がご心配なさるようなことはないと、保証いたしましょう」
お兄様、ナイスフォローです。
「そうか。それは重畳だな」
父がホッとしたような笑みを見せる。しかし、口元とは裏腹に、母の目は笑っていない。心配するようなことが多少はあったと、どうやら察しているようだ。
「ところで、明日のエルスター伯爵家でのカーリー嬢のお披露目では、オスカーがマリアンヌ嬢との婚約を発表するようですよ」
「ほう。オスカーがな」
「で、あなたは?」
「は?」
「カーリー嬢との婚約ですよ」
「いやそれはまだ。彼女は、ようやく実の父が判明したばかりですから。私としては、もう少しカーリーには家庭の温もりを味わってほしいと思っています」
「そんな悠長なことを言っていたら、他の誰かに掻っ攫われますよ。あんな可憐で聡明で、しかも伯爵令嬢だと判明したのですから」
「いやしかし」
「明日にでもとは言いませんが、できるだけ早く、せめて婚約を発表した方がよろしいと思いますよ」
おそらく兄は、私の断罪イベントを待って、カーリーとのことを進めようとしているのだろう。
最悪、一家で国外ついほうになれば、カーリーを道連れにすることになるから。
「まあ、こういうことは一方でああだこうだと言っても仕方あるまい。カーリー嬢やエルスター男爵の意向もあるからな。私から言えるのは、ヴォーヴェライト公爵家としては、なんの反対もないということだけだ。よく話し合って、良い知らせを聞かせて欲しい」
「ありがとうございます。そのお言葉に、心より感謝致します」
「お父様、私からもご報告がありますの。実は、アルベルトが」
「まさか。お前もアルベルトと? それは色々まずい。未だお前はフィリップ殿下との婚約中だ。どれほど不本意であっても、王命に逆らうわけにはいかん」
「お父様、落ち着いてください。フィリップ殿下との婚約は一秒でも早く解消していただきたいですが、アルベルトの件は、それとは全く関係ありません」
「あなた、どうしてエリーゼのことになるとそう落ち着きがなくなるのですか」
母が父を嗜めてくれる。
「アルベルトが、精霊の加護をもらいました。緑の精霊様の加護です」
「レイナードも風の精霊の加護を」
私の護衛騎士であるアルベルトのことは私が、レイナードのことは兄が報告する。
「なんと! シュミット辺境伯の息子たちは揃って加護を受けたのか!!」
「はい、今夕のパーティーでおそらく紹介があるかと」
「それは楽しみですね。ご挨拶できれば嬉しいですわ」
母は大喜びだ。
そういえば、母は私の加護精霊たちともとても仲良しだ。一緒にお菓子を食べている姿をしばしば見かける。アマリージョとは、美容関係の話でもよく盛り上がっている。イケメンでお洒落な風の精霊スイランとも、きっと気が合うことだろう。
そしてその夕、私たちは公爵家の馬車でエルスター男爵のお屋敷に出向いた。
出席者は、我が家の他には、ホストであるエルスター男爵、その令嬢マリアンヌ、そして今日新たにお披露目となるカーリー嬢、シュミット辺境伯夫妻とその息子たち、レイナードとアルベルト。オスカーと、その両親である、財務卿ホフマン侯爵とその夫人、レイチェルと神聖帝国から戻ったばかりのアデル殿下、以上だ。
驚いたのは、ホフマン財務卿夫妻がともに出席されたことだ。
オスカーの昨日までの話では、マリアンヌとの婚約の了承は得ているが、今日の会に来て共に祝うようなことはないだろうということだったから。
マレの指輪を手にしたことで、何か進展があったのかもしれない。
「本日は、我がエルスター家に、長い間離れ離れだった愛娘カーリーが戻ってきてくれた祝いの会に、王族であるアデル殿下をはじめ皆様にお集まりいただき、感謝の言葉もありません。皆様のお口に合うかどうかは分かりませんが、もう一人の我が娘マリアンヌが、カーリーと皆様のために心を込めて準備をした食事をお楽しみ頂ければ幸いです」
まずは、私たちはテーブルにつき、フルコースの料理を楽しんだ。
どの料理にも、ほんの少しずつハーブが使われている。
カーリーが中心になって、学院のハーブ園で育てたものだという。学院のハーブは、どれもヴェルデの支援を受けているからか、口にすると、ほんわかと魔力が向上するのが実感できる。
それは私だけではなく、元々魔力が膨大にある私以上に、他の出席者の方が効果が高いのか、皆、美味しさとその効力を口々に誉めている。
デザートには、マリアンヌと私で作ったプリンを使ったプリン・ア・ラ・モードが出た。
もちろん全員完食の、大好評だった。
精霊たちも、もちろん大喜びだ。
プリンが初めてのスイレンとビリジアンも、黙々と、しかしニコニコしながら食べている。
食事が落ち着いたところで、エルスター男爵が立ち上がり、カーリーとマリアンヌを呼び寄せた。
「カーリー、ご挨拶を」
はいと頷き、水色のドレス姿のカーリーが優雅に淑女の礼をとる。
「本日は、私、カーリー・フォン・エルスターの祝いの会にご出席いただき、ありがとうございます。ご承知のように、わたしは孤児院で、つい最近までは平民として育った身でありますから、行き届かない言動や失礼な振る舞いもあるかと思いますが、父の指導のもと、エルスター家の名に恥じぬよう、これから精進して行きたいと思います。今は、諦めていた、本当の父と再会できたことを素直に喜び、親友であるマリアンヌと姉妹となり家族となれたことを私自身が一番祝いたいと思っております」
立派だわ、カーリー。
可憐だわ、カーリー。
なんだろう、泣けてくる。
カーリーは、エルスター家の令嬢であろうとなかろうと、エメラルド王国最高峰の王立魔法学院、文官養成科の首席の才媛で、皆のリーダーだけど、それでも特有の面倒ごとが多い貴族であるエルスター家に入ってくれたのは、マリアンヌと共に父であるエルスター男爵を支え、我が兄との縁を、より良い形で結ぶためのはず。
つまり、カーリーは、未来の私の義姉。そのカーリーの晴れ姿、兄も私も嬉しくないわけがない。
隣を見れば、兄の目も潤んでいる。
「また、本日は、他にもいくつも喜ばしい報告があります。それをご報告させてください。まずは、私の妹、マリアンヌの婚約です。お相手はそこにいらっしゃる、ホフマン侯爵の御子息オスカー様です」
オスカーが立ち上がり、マリアンヌの傍に立つ。
「カーリー嬢の祝いの席に便乗するような形になり恐縮ですが、親しい方々が全てご臨席のこの席を借り、私とマリアンヌ嬢の婚約が整ったことをご報告します。王家の承認も、今朝、アデル殿下のご配慮にていただくことができ、両家の当主の承認も得られました」
「オスカー、良かったな。心からそなた達の婚約を祝おう」
まず、王家の一員として、オスカーとマリアンヌの婚約を寿いでくださった。
それを機に、皆が口々に二人を祝う。
「また、もう一つ喜ばしいご報告があります。海の大精霊マレ様より、仲間の支援を受けマリアンヌがマレの指輪を授かりました」
「な、なんと。マレの指輪を。この千年、誰もその試練をくぐり抜けることができなかった、あの指輪をか」
一番驚いているのが、オスカーの父だ。
「はい」
「素晴らしい。そうか、お前が何も望まぬから、ただ、祝いの席に私たちに出席して欲しいと頼んだのは、そういう理由か」
「ええ。父上や母上にも私の選んだ伴侶が、どれほど努力家で仲間に恵まれた良き令嬢なのかを、やはり知っていただきたいと、思ったので」
「マレの指輪を手にした乙女は、大聖女として人々を癒す存在になる、と言われている。マリアンヌ嬢は、その道を歩まれるのだな」
「はい。マレ様にも、水を尊び海を愛し、人々の安寧のために尽くすことをお約束しています」
そう言ったマリアンヌの指には、マレの指輪が輝いている。
その時、部屋が柔らかで美しい光に満ち溢れた。
現れたのは、というか今になって姿を見せたのは光の女神プラータ。
「私は、エリーゼに加護を与える、光の女神プラータ。今日は、エリーゼの良き友、マリアンヌ嬢のために、光の精霊を連れて来ましたのよ」
うん?
聞いてないんだけど。
つまり、今ここで、光の精霊の加護をマリアンヌがもらえるということ?
指輪で魔力を増やしてから、ではないの?
まあ、指輪をゲットしたからには十分な魔力を得るのは時間の問題なんだけど。
現れたのは銀白色に輝く光の鳥。こまどりかしら?
「マリアンヌ、あなたに私の加護を授けます」
「私はまだ未熟な身。それでもよろしいのでしょうか?」
「あなたは、マレ様の試練に立ち向かいその指輪を得ました。それでもう加護を与えるのに十分ですよ」
だよね。
もともと、この光の精霊のうっかりのせいで、マリアンヌは聖女としての道を歩むことになったんだから。マリアンヌにだけ成熟を求めるのはどうかと、私も思っていた。
たくさんの加護を受けている私だからわかる。
私だって、まだまだ未熟で不完全な人間だ。だからこそ私は精霊達と一緒に成長しなければならない。
日々が、その成長の過程だと。
「この指輪は、オスカー様や他の仲間の皆さんのお陰で得ることができたもの。私一人では決して得ることの出来なかったはずです」
「そのお仲間があなたのために集まった、その事実が大切なのです。そして、結果に驕らず皆に感謝をする貴女の心が尊いのです。マリアンヌ、貴女は私が心から寄り添い加護を授けたいと思える人間です」
「ありがとうございます。この未熟さを承知の上で、加護を授けていただけるのなら、喜んでお受けします。そして、今以上に精進していきます」
マリアンヌがそう答えた瞬間、マリアンヌがこまどりからの光に包まれた。
「私に名前を」
マリアンヌが私を見る。
うーん。私はネーミング辞典じゃないんだけど。
「マリアンヌが決めてあげて。アルたちと違って、あなたのセンスに問題はないと思うから」
マリアンヌは頷く。しばらく考えてこう言った。
「リンダはどうかしら?」
「素敵な名前をありがとう。とても気に入ったわ」
「素晴らしい。光の精霊の加護を、その加護を授かる場面を目にすることができるとは」
オスカーのご両親が手を取り合って感激している。
エルスター男爵は、立ち尽くし号泣している。
いや、良かった。
無事、マリアンヌの加護までもらえて。
ただ、まだまだ驚くことはあり、それを皆でお祝いしたいのだけれど。
少し落ち着くまでは、アルベルトとレイナードの加護の発表は、待つしかないね。
私とカーリーは、そう目で会話した。
それを全く無視して、プラータとリンダ以外の精霊たちが、ひたすらお菓子を食べまくっていたのは、いうまでもない。




