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新しい日常が始まりました。part2-5-4

第53章 マリアンヌが指輪を手にする前に、なぜか他の仲間が加護をもらいました。嬉しいけどね。


 アマリージョが気にせずともいいと言うので、私たちは、次々と現れるアンデッドたちを、なぎ倒していく。


 レイナードと兄は光魔法を付与した剣で、マリアンヌは光魔法で。

 オスカーは、ここは率先して戦いたいというマリアンヌの護衛に徹している。

 こうやってみると、マリアンヌの魔法の威力はかなり上がっている。

 正直、魔力はまだ十分ではないが、加護のない中、これほど頑張れるのは凄いと思う。

 その背中を見て、私は少しうるっとする。オスカーと私は、他の誰よりもマリアンヌの努力の積み重ねを見てきたから。

 これで、指輪が得られれば、魔力の増大も遥かに向上するはず。

 

 アマリージョとセレステは、レイナードと兄を支援している、というか見守っている。

 ロッホは、不意打ちしてくるアンデッドをこっそり燃やしている。霊亀様の背中であることを考慮し、また、森の木々に被害が出ないように、という兄のお願いをきいてくれているようだ。

 

 アンデッドと相対するのは二度目なので、それぞれが手際良く、時に助け合って前に進む。

 私は、皆への支援魔法と回復魔法の担当だ。アルベルトは、もちろんその私の護衛だ。時に、私の目配りが足りない場合、誰に何が必要かも助言してくれている。


 インディゴとヴェルデは、今回私がプラータの結界の中にいるからか、お腹が膨れたせいか、そんな私の懐であくびを繰り返している。

 寝てもいいんだけどね。


「プラータ、それにしても、レイナードの剣って凄いよね? というか、あの彼を支援している精霊はなんなのかしら?」

 そう。

 今、レイナードはアマリージョではない風の精霊の支援をその剣に受けているのだ。

 おそらく、レイナードは気づいておらず、アマリージョのおかげだと勘違いしているようだが。


「彼を気に入ったようですね、あの風の精霊は。おそらく、この試練が終わったら彼に加護を与えるのではないでしょうか?」

 それは喜ばしいことだ。

 でも、私たち全員の想いとして、加護が欲しいのはマリアンヌなんだよね。

 いやでも、それはそれで、素直に喜ぶべきだろう。

 

「彼の、秀でた剣技を気に入ったのかしら?」

 私の知る限り、精霊は、剣の腕に惹かれることはあまりないのだけど。でも、レイナードの剣はもはや芸術的でもあるから、精霊も気に入ったのかもしれない。


「それもあるでしょう。しかし、一番は、彼の仲間を思う気持ちでしょうね。自らが一番危険な場所で仲間を守りたいと獅子奮迅の活躍を見せる彼の、まっすぐな心意気を気に入ったのでしょう。それに、先程、休憩中に摘んだお菓子が好みだったということもあるかと」


 さっきの休憩中、見知らぬ精霊たちが混じっていることには気づいていた。おそらくマリアンヌも気づいていたと思う。でも知らん振りしていた。

 外でお茶会をやっている時は、時々、知らない精霊たちがやってきてお菓子を食べていることが間々あるからた。それに、彼らをヴェルデたちが嫌がっていなかったから。


「おそらくそこの緑の精霊はアルベルトに加護を授けるつもりでしょう」

 護衛でそばにいるアルベルトにもそれが聞こえたようで、表情を取り繕うことなく驚いている。いやそもそも、レイナードの加護精霊のところで、ポーカーフェイスは崩れかけていたけれど。

 

 さっきからアルベルトの周りを緑鮮やかな蝶が飛んでいることには気づいていないようだ。

 それって緑の精霊だよね。

「アル、その美しい蝶が、緑の精霊よ」

「まさか」

「話しかけてみたら?」

「護衛中だ」

「プラータの結界の中は、どこより安全よ」

「しかし」

 しかし、じゃないのよ。


「僕は緑の精霊。あなたの一途な愛の香りが気に入ったんだ。加護をあげるから名前をちょうだい」

 アルベルトがグダグダしていると、精霊から話しかけてくれた。

「せ、精霊様。本当に私のなどに加護を?」

 珍しくアルベルトが、焦っている。

「ああ、君の魔力も、魂もとても僕の好みだ。愛に溢れている」

 へえ。そうなんだ。

「どうか、僕の加護を受け入れて欲しい。僕の加護を受ければ今以上に愛する人を護れるよ?」

 なかなか、売り込み上手な精霊だ。アルベルトも早く返事すればいいのに。

 基本、精霊はこうと決めたらこちらの思惑などまったく気にしないからね。抵抗も戸惑いも、無視されるだけ。躊躇っても無駄なんだよ。

 アルベルトも、そのことは知っているはず。私の近くにいつもいるのだから。


「もったいないお言葉です。ありがとうございます。では、謹んであなた様の加護をお受けします」

 ようやく、この僥倖を受け入れる気になったようだ。

 

 その瞬間、アルベルトの体が美しい緑の光に包まれた。


「僕の名前は?」

 そう、大切なのは名前だ。

 名前を授けることで、その精霊の格が上がり力が強くなる。そしてそれは加護をもらった者にも還元される。

「私は無粋なもので、名付けの先輩でもあるエリーゼと、少し相談してもよろしいでしょうか? あなた様にふさわしいお名前を」

「いいよ。素敵な名前にしてね」


 蝶の姿のままだけど、キラキラ度が増し、緑の精霊がワクワクしているのがわかる。


「グリーンはどうかな? いっそミドリとか?」

 ミドリはちょっとな。いくら前世とはいえ、私の名前だし。グリーンか。悪くないけど。

「では、ビリジアンはどうだろうか?」

 そう言った後で、アルベルトは小声でこう付け加える。

「以前の世界で持っていた、絵の具の青緑がビリジアンという名前だったはずなんだ」

 私は頷く。

「ビリジアンは、酸化クロムを主成分とした緑色顔料のことよ」

 私はリケ女を誇るように、ドヤ顔で答える。

「なるほど」

「ビリジアンに黄色や黄緑を混ぜると明るい緑が作れるので、より幅広い色味が出せるように、絵の具ではいわゆる緑ではなくビリジアンが採用されていることも多いの。そういう、深みや広がりがある、という意味でも、ビリジアン、とてもいいと思うわ」

 私がそう答えると、アルベルトは嬉しそうに大きく頷いた。


「精霊様のお名前、ビリジアンはどうでしょうか?」

「ビリジアン! すごく素敵な響きだ。気に入ったよ。ありがとう。今日から僕はビリジアン。君の加護精霊だ」

 おお、気に入ってくれたようだ。

 ビリジアンの輝きが増した。

 アルベルトも、加護をもらい自らのステイタスが上がったことを実感したのか、とてもうれしそうだ。


「こんなふうに、マリアンヌも、光の精霊の加護が貰えるといいんだけど」

「この試練がうまくいけば、おそらく」

「本当?」

「マリアンヌに足りなかったのは、なんといっても魔力ですからね。マレの指輪があれば、すぐに必要な魔力が手に入れられるはずですよ」

「レイナードやアルベルトには、十分な魔力があるってことだよね、それって裏を返せば」

「貴族は、とりわけ辺境伯の血筋は、魔力が高いですから。条件が整えば、加護は受けやすいですね」

 それか。

 理不尽だよね。生まれで身分だけでなく魔力も左右されるなんて。

 でもだからこそ、マリアンヌには頑張って欲しい。

 どんな生まれ育ちでも、望んで努力すれば、未来を自分の手で切り開くことができることを、証明して欲しい。


「それでもこの国で、現状、加護を受けている者が私と王妃様以外にいないのは不思議ね」

 そして、ここにきて、私の仲間たちが、次々と加護を得られるのはなぜなのか?

 つまり、お菓子だよね。

 美味しいお菓子が食べられるから。だよね?

 王妃様の帝国時代のお抱え料理人は、料理だけでなくお菓子作りの腕も良かったのだと、つい最近、私はアデル殿下から教えてもらったんだからね。

 

 プラータは、ふふふと笑うだけ。



「お兄様やオスカーは、やはり加護はもらえないのね」

 彼らは魔力は十分にあるはずだ。

「彼らもそれを望んではいませんから。愛する者のためとはいえ、迷わず自らの手を汚すことを厭わない者に、加護は与えられません。いつの日か、ともに堕ちる覚悟がある強者が現れるかもしれませんが」


 良くも悪くも兄とオスカーは、信念の人なのだろう。

 でも、私や、加護を得たマリアンヌがそばにいる限り、彼らもまた守られていくだろうから。ここは欲張らない方がいいのだろう。

 なんとしても、マリアンヌに光の精霊の加護を授けてもらう、それが、この試練の目的であることを忘れてはいけない。

 

 私が安定した戦いを続ける仲間に安心しながら、プラータと言葉を交わしていると、どうやら、アンデッドの殲滅が終わったようだ。


「みなさん、お疲れ様でした。ここは危なげなかったですね」

 結界に戻ってきた仲間にお茶とお菓子を振る舞う。

「エリーゼの支援魔法がかなり強力だったからな」

「本当ね。お陰で、私も戦いに不安がありませんでした」

「マリアンヌの魔法も素晴らしかったわよ。この試練であなたはとても成長したと思うわ」

「そうだな。よく頑張った。あと少し、しかしここ一番の頑張りが、今から必要だが」

 オスカーが労いながらも、マリアンヌに今一度発破もかける。

「はい。心して挑みます」


「みんなに報告があるのだけれど」

 アルベルトの加護は、すぐに伝えた方がいいだろう。

 この先の戦い方にも影響があるかもしれない。

「なんだ?」

 結界の中にいた私に、どんな報告があるのか、兄でさえ、訝しそうだ。

「実は、今の戦闘中に、アルベルトが緑の精霊から加護をもらったの」


「「「「何!?」」」」


 驚きすぎたのか、私とアルベルト以外は、石のように固まっている。


「喜ばしいが、なぜいま、このタイミングで?」

 お兄様、お心が声にでていますよ?


「精霊様を皆に紹介させてもらってもいいでしょうか?」

 アルベルトは、兄の心の声をスルーするようだ。

 まあ、アルベルトだって、ビリジアンがなぜ今ここで加護をくれたのかはわからないだろうし。

 私もいまだにわからないもの。彼らの行動理論は。


「も、もちろんだ」

「こちらが、緑の精霊、ビリジアンです」

 アルベルトの指にとまり、ビリジアンが緑の光を振り撒く。

「先ほど、大いなる加護をいただき、属性が光以外の四つに増えました」

 えっ、そうなの?

 属性が後天的に増えるってあるの? 初めて聞いたんだけど。

 しかし、兄はそこには驚いていないようだ。

 最初から全属性があったので、私が知らなかっただけかもしれない。


「はじめまして、ビリジアン様。私はそこにおりますエリーゼの兄、マテウスです」

「オスカーと申します」

「マリアンヌでございます」

「私は加護を授けていただいたアルベルトの弟で、レイナードです」

 兄が家名を名乗らなかったので、オスカーたちもそうしたようだ。ただし、レイナードは、加護をもらったアルベルトの兄弟なので、そこは説明したようだ。

 精霊たちは、家名や身分を重んじないので、長々とした名乗りは必要ないだろう。


「君はアルベルトの弟か。なるほど。ちょうどいいや」

「なにが、でしょうか?」


「そこにいる風の精霊がレイナードに話があるようですよ」

 プラータが、戦いの間、レイナードを支援していた風の精霊を呼ぶ。


「これは、あなたをこの戦いの間、ずっと支えていた風の精霊ですよ。名ももらっていないのに。よほどあなたが気に入ったのでしょう」

 プラータが女神の権威で、二人を引き合わす。

「まことですか? てっきりアマリージョ様のご支援かと。お力を感じることも出来ず面目ないことです」

 レイナードが風の精霊に深く頭を下げて詫びの言葉を告げる。

「いいんだ。勝手に惚れて勝手に支援しただけだから」

「ほ、惚れて? 私は、私には心に決めた人がおりまして」

 レイナードがしどろもどろになる。

「惚れたのは君の揺るぎない正義の心とそれに見合う剣の腕だよ」

「ああ、そういう」

 レイナードが安堵の笑みを浮かべる。

「もったいないお言葉です」

「どちらかに偏っていれば早死にするからね。僕は、加護を与えた者とはできるだけ長く友誼を結びたい。健康で心身のバランスが良く、長生きできる人間を探していたんだ。だから、いい名前をくれよね?」

「はい。はい?」


「風の精霊はレイナード、あなたに加護を授けたいのです」

 レイナード、これはもう決定事項なんだよ。拒否権なんか無いからね。

「レイナード、この麗しい風の精霊様に名前を」

 そう、この風の精霊は、とても見目麗しいのだ。

 アマリージョもそうだが、かなり色っぽくもある。


「アルベルト、しかし」

「俺も全てを飲み込み、ありがたく加護をいただいた」

「なるほど。しかし、お名前となるとな。良い名前を差し上げないと。何か候補はないか?」

 そう言いながら、レイナードが見たのは私だ。

「風の精霊様よね。そうね、ウインド、ヴァン、ビエント、……」

 英語、フランス語、スペイン語、もう限界だ。


「スイランはどうだ?」

 アルベルトが割り込んでくる。

「スイランとは、どういう意味だ?」

「遠い国の言葉で、緑深い山、そこを吹き渡る清しい風を意味する言葉だ」

 翠嵐かな? 

 

「ちなみにウインドもヴァンもビエントも、他国の言葉で風という意味よ」


 しばらくレイナードは考え込んでいたが、うん、と一度大きく頷き、風の精霊様にに向き合った。


「精霊様、あなたの加護を謹んでお受けします。あなたのお名前は、スイラン、で如何でしょうか?」

「素敵な名前だ。響きが良い。気に入ったぞ」

 風の精霊は、レイナードに加護を授けスイランとなった。

「おお、私も加護のおかげで、属性が増えました。光以外の四つです」

 さすが双子だね。

 

「では、参ろうか」

 兄が言う。

 皆が、ハイ、と頷いた。

 ほんの少し歩いただけで、始祖のいる場所が近いことがわかった。

 漂ってくる気配がとても濃厚になったから。

 いよいよ、これが本当に最後の試練だね。

 

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