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新しい日常が始まりました。part2-5-2

誤字報告ありがとうございます。少しずつ改稿していきます。

第51章 水中でも息ができるって凄すぎて、水族館にいるようです。


「前から水棲魔物のアンコがきます」

「特徴をご存知ですか?」

 兄がセレステに聞く。

 どうやら兄は水棲魔物の知識はあまりないらしい。

 私もないけど。


「あの体中にある棘には毒がある。目が赤く光ると棘を飛ばしてくるから気を付けて。近づき過ぎなければ、かわすのは難しくないから。弱点はその目。目を水矢あるいは光矢で狙うといいわ」

 さすがセレステ。すぐに答えてくれる。

「オスカーは水魔法で、エリーゼは光矢で目を狙え。数が減ったら、レイナードとアルベルトも剣で応戦。マリアンヌ、水中でも彼らの剣に光魔法を供給できるか?」

「やってみます」


 私とオスカーは、とりあえず魔法を撃つ。水中でどんなふうに魔法が作用するのかまったくわからないので、とにかく撃って確かめるしかない。

 結論から言うと、地上で魔法を撃った時とまったく同じ感触で同じ効果があった。

 私とオスカーで魔法を撃ちまくり、かなりの数を減らしたところで、アルベルト達が参戦してきた。

 兄は、指揮官に徹しているようだ。

 レイナードは、最初は戸惑っていたのか、いつもより動きが鈍かったが、すぐに水中での戦いにも慣れて、次々とアンコの目を潰して、魔物たちが針を飛ばす前に撃退していった。

 アルベルトは、かなり苦戦しているようだ。

 水の中でも陸と同じように動ける、ということに心が対応できないのか、どうにも動きがぎこちない。魔法のない前世の常識が足を引っ張っているのかもしれない。


 兄がそんなアルベルトをいったん下がらせる。

「マリアンヌ、光矢を撃てるか?」

「エリーゼほど命中率は高くないと思いますが、撃てます」

 背中でそんな会話を聞く。

「アルベルト、お前はマリアンヌの護衛に徹しろ。攻撃は彼女にしてもらう」

 まあ、それもありだね。

 そのうち、アルベルトも水中だけど水中じゃない、この感覚に慣れるはずだ。


 マリアンヌが私とオスカーの間、アルベルトを盾にするように、少し後方から光魔法を放つ。

 目に当たらなければ倒せないが、どこかに当たれば、弱らせることはできる。その場合は、レイナードが弱った敵を確実に仕留めてくれる。なかなかに頼もしい。レイチェルにこの勇姿を見せてあげられないのが、すごく残念。

 30分ほどで、アンコ軍団は文字通り海の藻屑となった。

 マリアンヌへの針攻撃を防ぎきったアルベルトも、最後にはかつての常識と折り合いがついたのか、良い動きをしていた。


 アンコを殲滅しセレステの結界の元で休憩に入る。

 結界の中には水もない。呼吸はふつうにできる。むしろ酸素比率が高いようにも感じる。

 お陰で、のんびり飲食ができ、その間に私は、皆んなに体力と魔力の回復魔法をかけておいた。


「アル、大丈夫?」

「ああ。すまなかった。水中であまりにふつうに動けるから、水族館にいるようでどこか現実味がなかった」

 アルベルトは小声で私にそう言いながら、結界から360度に広がる海を見る。

 うん、こうなるとまさに水族館だね。熱帯魚は、アンコのせいなのかいなくなったけど、鯛やヒラメに似た美味しそうな魚がたくさん泳いでいる。

 おぉ、上を見上げればイワシの群遊も見える。エイもいる。

 

「体と脳がチグハグで、動きにくかったのね?」

 苦笑いするアルベルト。

「でも、もう大丈夫。次はうまくやれると思う。マリアンヌが慣れない攻撃魔法をあんなに懸命に撃っているのを見たら、スッと心身がひとつになれた」

 私も攻撃魔法、頑張ってたのにな。戦いに慣れてるわけでもないし。魔剣の女王って二つ名はあるけどね。魔剣は持ってないのに。


 なんというか、いつでも私が1番大切だと隠さないアルベルトが、マリアンヌをちょっとほめただけで、モヤモヤする。

 ……ああ、これ嫉妬だ。

 うーん、こんなんじゃダメ。

 仲間をもっとしっかり信頼して、この試練に向き合わないと。ちょっとした嫉妬ならいいけど、嫉妬ってビックリするほどすぐに大きく育つからね。

 ダメだよ、私。私は自分を戒める。アルベルトもマリアンヌも大切な存在。失うわけにはいかない。


 そんな私にマリアンヌがジンジャークッキーを差し出して微笑んでくれる。

 なんて、尊い笑顔なんだ。

 癒される。いや、浄化される。

 醜い私とバイバイだ。


 私がクッキーを口に入れたのを見てから、マリアンヌがぎゅっと私に抱き付く。

「ど、どうしたの?」

 まさか、私の醜い嫉妬がバレた?

「こ、怖かった。情けない、自分が。もっと危険な場所で果敢に戦っているあなたのおかげでなんとか最後まで踏ん張れたけど」

 私もマリアンヌをぎゅっと抱き返す。

「そんなこと。私は加護で守られているもの」

 そうだ。

 私は守られている。マリアンヌよりずっと多くのものに。彼女を守っているのは、今はオスカーと私たち仲間。嫉妬なんかしてる場合じゃない。


 それにしても、こんな場所でふつうに飲食ができるなんて、セレステの結界ってすごいわね。おかげでお腹も気持ちも満たされたよ。


「では先に進もう」

 短い間だったけど、心身を整えるにはいい休憩だった。

 兄の言葉でセレステが結界を解く。


 すると、それを見ていたように大きな岩陰から出てきたのは、蛸?

 すでに茹で上がったような色味の姿形は蛸なんだけど、足の数がやたら多い。ウニャウニャしていて数え辛いが、12本はありそうだ。大きさも、いわゆる蛸よりはかなり大きい。ヒグマくらいはあるかも。

 

「セレステさま、あれは」

「闇の水性魔獣、オクトね。あの足に絡まれると抜け出せなくなって、人なら三秒もあれば圧死するわ」

「では足をすべて切り落とさないとダメですか」

「足は切ってもすぐ再生するから無駄、とまでは言わないけど面倒ね。あの足をかいくぐってその内側にある核を破壊しないと」


「オスカー、何か案はあるか?」

「ここは、物理攻撃無効のエリーゼに頼むしかないかと」

「いや、エリーゼもあの足に巻き込まれたら、圧死することはなくても、動きはとれないだろう?」

「どうかな? どう思うセレステ?」

「問題ないかと。そもそも、あれはエリーゼに触れることを嫌がるかと」

 なんで?

「あれは闇の魔獣なので、格上のインディゴの加護も嫌なら、光の女神プラータの加護には恐怖するはず。なので、エリーゼには、自らの命の危険、ギリギリまで向かってこないはず」

 そうかな。

 知能が足りないと猪突猛進はあるかも。でもそれならそれでやりようはある。

「なら、私が行ってみるわ」


 私が近づくと、オクトは警戒したようにわずかに後退る。

 やはり、インディゴの加護が効いているらしい。

 そんな私にアルベルトが寄り添う。帰れって言ってもどうせ帰らないだろうし、まあ、いいけど。

 何があっても守るし、守られるから。

 オクトは、アルベルトに攻撃したいようだが、彼と私との距離が近すぎて躊躇っているようだ。何本かの足が伸びては引っ込むを繰り返している。


「俺が囮になる。その間に核の場所を特定してくれ」

「でも」

「何があっても即死しなければ君が助けてくれるだろう?」

 だけど。

「巻き込まれないように注意するし、もし捕まっても、三秒あれば、セレステ様や君なら救える」

 やるしかないわね。


 私は、セレステにアルベルトの支援を頼む。そして、オクトに向かって、一人走り出した。

 チラッと振り返ると、オクトは、剣を構えるアルベルトだけを狙って複数の足をくり出している。アルベルトは、先ほどとは違い機敏な動作でそれを避け、時に切り取っている。

 私は彼の健闘を無駄にしないよう、私を避けるように動く足を、剣で切り落とす。セレステの言っていたとおり、数秒で再生しているが、足に隠されていた核の場所は確認できた。離れた場所からでもわかるように、印をつけておく。


「エリーゼ、アルベルトが」

 振り返ると、セレステに抱えられたアルベルトの姿が見えた。

「アル!!」

「大丈夫。肋は少しやられたが、セレステ様がすぐに助け出してくれたから」

 血の気が引く。

 すぐにクラシアンをかけようとして、セレステとアルベルト両方に止められる。

「命に別状はない。安全圏に戻ってから回復を頼む。でないと君も危険だ」

 私は大丈夫だから!

「アルベルトは、エリーゼにどんな物理攻撃が無効だとしても、あなたが痛い目に遭うこと自体が嫌なのよ」

 何?

 セレステ、その生温い笑みは。


 言いたいことはあったが、アルベルトの言葉に従い、核の場所を明確にできたこともあり、安全圏に戻り再びセレステに結界を張ってもらう。


『クラシアン!!』

 私は、冷静さを強調するように、クラシアンを一度だけ、多めの魔力を費やして、アルベルトにかける。

「おお、痛みがすっかり引いたよ。しかも他の疲れや鈍痛もなくなった。君の魔法はすごいな」

 アルベルトが微笑む。

 隣で、レイナードがそれでも心配そうに、アルベルトの全身を撫でるように点検している。

 まったく、この双子の兄弟愛は度が過ぎているのでは? と思う。


 あらあら、エリーゼ、レイナードにまで嫉妬ですか? とセレステが一段と生温い笑みを私に向ける。

 

 違うわよ、違うからね!


「それで核の場所は確定できたのか」

 そうだった。今一番大切なことはそれ。

「セレステの言うとおり、あの足で取り囲まれた中にありました。でも中央というより、やや、こちらから見ると左後方になりますね。」

「そうか。ちょうど中央ならやりやすいが、そうなると少し動かれただけでどこかがわかりにくくなるな」

「大丈夫です。核に一番近い足を、切り落とさず、その表面に闇の光魔法で文官養成科の紋章を刻んできました。すぐには再生できないはずです」

「エリーゼ、よくやった」

 もっと簡単な印にしておけば、アルベルトを傷つけずに済んだかもしれない。

 反省だね。調子に乗るからこうなる。


「では、その印を的にレイナードとアルベルト以外の全員で魔法を当てる。二人は悪いが、囮を頼む」

 また、アルベルトが囮に。

 でも、兄の指示は間違っていない。だとすれば、全力で、一秒でも早くオクトを倒すしかない。

 アルベルトもレイナードも、躊躇うことなく囮役を引き受ける。


「セレステ」

「わかっていますよ。二人を支援しましょう」


 まず、アルベルトとレイナードがオクトに向かって行く。

 切っても切っても再生してくる足にめげることなく、私が印をつけた場所とは反対方向にオクトの敵意を導いてくれる。

 二人の剣には光魔法がかかっているが、効果はあまりないようだ。

 闇の魔獣なら、光魔法が効きそうなものなのに、と呟いた声にセレステが応えてくれる。


「あれでも効いているの。光魔法がなければ、切り刻むことすらできないのよ。ただ、剣に籠めるだけだから、威力もそれなりってだけ。もしマリアンヌやエリーゼのように、光の属性がある者ならもっと効果的になるわ」

 なるほど。

 アルベルトもレイナードも歯痒さを感じながら、懸命に戦ってくれているんだね。

 それでも剣技に劣る私やマリアンヌを囮にはさせられないと思って。


「エリーゼ、オスカー、マリアンヌいけ」

 兄が号令をかける。


 私たちは呼吸を合わせ、印に向けてそれぞれの魔法を、的に向けて撃つ。

 印のついた足が根本から切れる。

 再生しないよう、私が根本に光魔法を撃ち続ける。

 マリアンヌとオスカーが、その隙間から核を狙う。

 オクトもまずいと思ったのか、逃げようとするが、アルベルトたちがそれを許さない。

 いい連携だ。

 

「よし、あと少しだ!」

状況を見守っていた兄が皆を励ます。魔力が尽きかけていたマリアンヌにはセレステがポーションを手渡してくれる。

 

 セレステが手を出せば、もっと簡単に打ち破ることができるのだろうが、これは試練だからと、私たちの願い通り、セレステは支援に徹してくれている。


 そして、とうとう核が壊れた。動きを止めたオクトに兄が近づき、その死を確認した。


「よくやった。皆、素晴らしい連携だったぞ」

 私たちは、セレステの元に集まり、またその結界の中で休憩する。


「あれ? なんだかお魚が増えましたね」

 マリアンヌが四方を見回しつぶやく。

 確かに。

「オクトの脅威がなくなって戻ってきたのかもしれないな」

「水も澄んできたようですね」

 ボンヤリと見えていた、海底で眠っているような巨大な亀の姿がくっきり見えるようになった。


「あの、巨大亀と戦うのだろうか」

 レイナードが誰にともなくつぶやく。

「あれは霊亀ですから、敵意のない者と戦うことはありませんよ。ただ、あの霊亀の上にある、古代遺跡に潜んでいるアンデッドとは戦わなくてはなりません」

 また、アンデッドか。

「そして、そこではマリアンヌ、あなたが率先して戦うのです。そうでなければ指輪の元に辿り着くのは、あなたではない他の誰かになるでしょう」

 セレステが私を見る。

 心配でもでしゃばるな、ということだろう。

 心して進もうと思う。

 これは、マリアンヌのための試練。

 私たちは彼女を()()()()仲間。


 その時、海底にずっと沈んでいた霊亀がゆっくりと浮上していくのが見えた。


 来るなら来なさい。

 待っていますよ、というように。


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