表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/80

新しい日常が始まりました。part2-4-2

誤字脱字、いつもお知らせありがとうございます。

第49章 戦いではなく交渉で乗り切るのもありだよね。


「デュラハンか」

 前からやってきたのは、首無しデュラハン。

 しかしどういうわけか、洞窟内を真っ直ぐではなくジグザグと歩いて来る。

「デュラハンは、不死だが確か分類上はアンデッドではないのでは?」

 確かに。

 前世では妖精の類だったような。

「しかし、この階層で出てきたのなら、アンデッドでしょう」

「つまり、アンデッドのデュラハン。……なおさらやっかいそうだな」

 不死の二乗的な?

 これって、どうやっても死なないのでは?

 

「やはり、文献にはない強い敵が出てきますね」

 オスカーがつぶやく。

「そうだな。ふつうのデュラハンでも、凄腕の冒険者が何人も集まって倒すものだからな」

 兄も頷く。

「それはつまり、私たちの試練にはこれくらいは問題ないと、判断されているのでしょうか?」

 レイナードに兄はまた頷く。

「実際、問題ないからな。これはど多くの精霊様や女神様に支援をいただいたパーティーなど、まずないだろうからな」

「回復薬が切れたところで、エリーゼがいれば、魔力の枯渇の心配もないしな」

「即死でない限り、それに、マリアンヌやエリーゼがいればすぐに元通りですからね」

 アルベルトは苦笑いだ。

「さっきのエリーゼの回復魔法の重ねがけで、私はもうデュラハンなみに不死身の気分ですよ」


「デュラハンが困惑しているみたいですね。戦うのか戦わないなのか? 惑っているような、そんな風情ですね」

 確かにマリアンヌの言う通りだ。なんだか奇妙な雰囲気なんだよね、このデュラハン。挙動がおかしいというか。

 首から上がないために、視線や表情から判断できるものがないので、余計に理解しがたいわけで。


「本当だな。さすが、首が無くとも騎士は騎士。不意に襲っては来ないのか」

「まあ、通常のダンジョンなら問答無用なんでしょうが、ここは試練の場ですからね」

 なんとなく、そういう騎士道的なことではなく、他に意味があって襲ってこないようにも感じるんだけど。


「では、レイナードとアルベルト、とりあえずは先ほどと同じく前衛を頼む。今回はエリーゼもオスカーとともに魔法で戦ってくれ」

「デュラハンには、水魔法が効くらしいが、アンデッドのデュラハンということは、水魔法と光魔法の重ねがけがいいだろう。オスカーと呼吸を合わせて攻撃するように」

「はい」

「私は二人の護衛に回ろう」

 アルベルトが、一瞬、眉根を寄せたが、何も言わずにスルーしてくれた。レイナードがホッとしたような顔になっている。

「マリアンヌは支援と回復を頼む。誰にいつどんな支援魔法をかけるかは君の判断で頼む。誰かが回復魔法が必要になったらそちらを優先だ。大丈夫か?」

「はい」

 マリアンヌは真摯に頷く。


「セレステ、オスカーの支援をお願い。アマリージョはレイナードを、ロッホはアルをお願い」

 それほど強力な相手なら、それぞれに支援が必要だろう。

「インディゴはお兄様を守って」

 それから。

「ヴェルデ、起きて!!」

「うん?」

「あなたの助けが必要よ」

 そう言いながら、私はヴェルデの口にジンジャービスケットを突っ込む。

 もがもぐと咀嚼しながら、ヴェルデが覚醒していく。

「どんな助けが必要?」

「今度は結界を出て戦うの。だから、私を守って」

 加護のお陰で、私にはどんな物理攻撃も呪いも毒も効かないらしい。とはいえ、やはり恐怖心はある。こんな強敵と戦ったことなどないのだから。だから、冷静に挑める支えが欲しいと言うと、ヴェルデは嬉しそうに笑って、私に花の首飾りをつける。

 この花が枯れない限り、エリーゼは無敵の防御力よ、と言いながら。

 

 そんな便利な首飾りがあるなら、みんなにつけて欲しいんだけど。

「これは、加護している者にしか効き目がないの」

 この子は、私の心を常に読んでいるんだから。もうっ。


「では、まずはレイナード、アルベルト、頼んだぞ」

「「はっ!」」


「いざ参る!」

 レイナードがデュラハンに宣言すると、デュラハンの首元がいっそう青白く光り、惑いを消してその手は隙なく剣を構えた。


 二人は、さすが双子だね、と感心するほど阿吽の呼吸で、デュラハンの左右から、剣を持つ手を狙う。

 しかし、デュラハンは、2人同時の攻撃をいとも簡単に躱していく。

 そして、的確に攻撃を仕掛けてもくる。アマリージョたちが盾の代わりに守ってくれていなかったら、今頃2人は大怪我をしているだろう。

 

 ありがたい。

 ありがたいが、ロッホ、ちょいちょい飛び出して、火魔法で攻撃はしないように。

 火魔法はデュラハンには効かないんだよ、知ってるよね? あなたのそれは、ただの的当てゲームだから。守りに徹して欲しいわけよ。アマリージョのように。アルベルトの方がレイナードより傷が多いのはそのせいだと思うわけで。

 

「魔法を溜め込んだ剣も、あの鎧には通らないようだな。いったん下がれ。オスカーとエリーゼ、魔法で攻撃だ」

 兄の指示で陣形を変える。

 水魔法は効くようだ。鎧に傷が増えていく。オスカーの水魔法に合わせ私も光魔法を矢にして放つ。

 何度目かの重ねがけで、デュラハンの剣を持つ手が、肩からドサっと剥がれ落ちる。やったね、と一瞬オスカーと視線で喜びを交わす。しかし、どういう仕組みなのか、数秒で元に戻っていく。気づけば、鎧の傷も無くなっている。何度やっても同じだ。これではキリがない。


「いったん全員結界に戻れ!」

 私の護衛として前線にいた兄がオスカーの魔力切れをきっかけにそう指示する。


 結界の中では、マリアンヌがレイナードとアルベルトに魔力回復薬を飲ませている。怪我は全て癒やし済みのようだ。


 続けて、オスカーと兄の怪我も癒してくれる。オスカーの魔力は薬では全回復は難しいので、私がメリィリフレをかける。


「これは、戦い方を変えなければダメだな。キリがない」 

 確かに。

 だけど、どうすればいいのか全くわからない。

 兄やオスカーもいい案が浮かばないのか、黙ったままだ。

 そんな時、マリアンヌが口を開く。

「思ったのですが、あのデュラハンを滅することはほぼ不可能なのではありませんか?」


 それはみな、薄々感じている。

 だからといって、この状況では撤退するほどの危機感も感じられないこともまた事実。

 

「けれど、倒さなくても、ここからいなくなってもらうか、通してもらえればいいんですよね? 私たちは」

 それはそうだ。

 しかし、何か案があるのか?

「魔法科の授業でデュラハンについて調べたことがあります。確か、デュラハンは首を小脇に抱えているとか」

 私も図書室の図鑑でそんなイメージ画を見たことがある。

「もしかして、首をなくされたのではないでしょうか? あの騎士様は」

 えっ!

 まさか。

 でも。

 そう言われたら、戦うまでのあの挙動不審も、今も、結界に戻った私たちには興味もないようで、また洞窟内を彷徨っていることにも、説明がつくようにも思う。

「首を見つけてあげれば、通してくれるのではないでしょうか?」

「いやしかし、どうやって」

 だよね。


「ヴェルデ、あのデュラハンの首ってこの洞窟内にあるかどうかわかる?」

 ヴェルデが地面に手を当て数秒魔力を流す。

「この洞窟内にはないわね。あれの魔力は特殊だからあればすぐにわかるもの」

 ないのか。

 だとすれば、首を抱えていない姿が正解なのかな? そういえば、前世のアニメやなんかでも、首を抱えていたりいなかったりしたものね。

 あるいは、無いものを探していることに何かしらの意味があるのかもしれないし。


「デュラハンは、首を抱えているものです」

 アマリージョが断言する。

 そうなのか。アマリージョがそう言うのなら、この世界のデュラハンは、首を小脇に抱えているのが正解だ。

 ではなぜ、この洞窟内に首がないのかしら?


「おそらく彼は、この試練のために他所から送り込まれてきたのでしょう。その際、なんらかのトラブルで元の場所に首だけが残された。私はそう推察します」

 なんと。

 それでは、万事休すじゃないか。

 彼の元の世界がどこかもわからないし、ここから移動することもできないのだから。

 やはり戦い続けるしかないのか。


「それなら、首を作ればよろしいのでは?」

 アマリージョがまたとんでもないことを言い出す。

「オスカーは錬金魔法が使えますよね?」

 はい、とオスカーは頷く。

 えぇ、そうなの?

 ものづくりができる人ってなんかカッコいいよね。マリアンヌもそう思うのか、オスカーに尊敬の眼差しを送っている。


「彼の鎧はアダマンタイトですから、ヴェルデならすぐに用意できます。それをオスカーが兜に加工。ロッホに彼のあの首部分の青白い炎を少しとってきて貰って、エリーゼが闇魔法でそれを兜に定着させます。そうすればまず問題なく、自分の首だと彼は認識するはずです」

「でも、首のサイズとか正確にはわからないんだけど、大丈夫なのかな?」

 ピッタリとはまらないとダメなのではないかしら。

「あれは、首を元に装着することはありませんから、小脇に抱えやすいよう、サイズ感が概ね合っていれば問題ないです」

「首は、孤独なあれのたった一つの心の慰めなのです。首はあれの家族であり友であり、恋人でもあります。首が傍にあることで、彼は不死を生きる虚無を乗り切っているのです」

 それは、なんというか、とても大事なものなんだね。

 本当なら叫びたいだろう。

 首はどこだ!?と。

 

「うまくいくかどうかはわからないけど、やってみようか?」

 交渉可能かどうかは別にして、とにかく本物の首の元に帰れるまで、彼の支えになるものを作ってあげるのはいいことだと思う。

 それにこれは、マリアンヌの提案だ。ヒロインたる彼女の意思を尊重してあげるのは、仲間として正しい気がする。


 私が頷くと、まずヴェルデが洞窟の壁から、金ののべ棒のごとく、アダマンタイトののべ棒をだす。

 

 兄が、咳き込む。オスカーが息を呑み、レイナードも目を丸くしている。

 皆よりヴェルデのやらかす無茶に慣れている私とアルベルトは、まあこんなものだよね、と顔を見合わせ頷き合う。

 マリアンヌは、たぶん、アダマンタイトがどれほど貴重なものなのかを知らないのだろう。アダマンタイトではなく、立派な棒ですねぇ、とのべ棒の存在自体に感心しているようだ。

「オスカー、これを兜に」

「はい。しかし彼の兜を見たことはないので、デザインは私のイメージになりますが」

「それはどんなものでもいいんですよ。纏う魔力が彼のものなら」

「わかりました」

 そう言って、オスカーは胡座を組みまるで瞑想するように目を閉じる。そのまま、左右の手で粘土を練るように指を動かす。

 指の間を彼の魔力が複雑に移動しているのが見える。

 すると、アダマンタイトののべ棒が一瞬光り、その後でゆっくりと兜の形に変化していく。王城で目にしたことのある、近衛兵の兜と同じ形だ。

 

「ロッホ、お願い。あの騎士の首の辺りから火をとってきて」

「いいよ」

 簡単にロッホは了解してくれる。頼んだはいいが、ちょっと心配だ。青白いあの光は炎だろう。あの色味は、かなりの高温のはず。


 ロッホは、ものすごいスピードでデュラハンの首元に飛んでいき、そのまま青白い炎に飛び込んでいく。そしてそのまま炎を突っ切る。

 デュラハンは無反応だ。

 ロッホに敵意がないからだと、アマリージョが言う。

 戻ってきたロッホは全身が青くなっていて、その尻尾にはデュラハンと同じあの青白い炎が灯っている。

「ではエリーゼ、その炎をオスカーの作った兜に定着させるのです」

 どうやって?

「闇魔法のオスクロポブラで」

 インディゴが言う。

 それって、植物の植え付けと成長

を促進するために作った魔法、ポブラの闇魔法バージョンだよね?

 そんなのでいいの?

 なら、簡単だけど。

『オスクロ・ポブラ』

 私は、兜の隙間に尻尾を突っ込んでいるロッホが兜を離れた瞬間に、魔法をかける。

 兜のあらゆる隙間から、青白い炎が噴き出す。しばらくすると、炎が穏やかになり、兜全体が青光りし出した。


「うまくいきましたわね」

 何が正解かわからないので、そう言われればそうなんだと納得するしかない。

「それで、これをどうやってデュラハンに届けるの?」

「確かに。だいたいこれは触れていいものなのか?」

「触れれば、人は燃え出し燃え尽きますよ」

 な、なんと。

「アダマンタイトで兜を載せる台を作って運べばいいでしょう」

 アマリージョがそう言うと、ヴェルデがまたアダマンタイトの、さっきよりはこぶりののべ棒を作り出す。

 オスカーは私に魔力の回復を頼む。どうやら錬金魔法はかなりの魔力を使うらしい。

 

 再びあぐらを組むと、オスカーは、再び優雅な手つきで錬金魔法を行使し、兜を載せる台を作り出す。

 カッコいい!!

 絶対私も、これを練習しようっと。そうよ、錬金魔法をマスターすれば、料理道具や園芸用品も、前世で便利だったものが作れる気もする。


 やがて台が出来上がる。問題は、兜をどうやって台に載せるかだ。

「これは私が」

 アマリージョが風魔法で兜を台に載せてくれる。

 これまた凄い。なんて繊細な風魔法だろうか。まず私には無理だ。

 あぁ、戻ったら練習したいことだらけだ。頑張らないとね。


「ではこれは誰が届ける?」

「わ、私が参ります。これは私の試練ですから」

 いや、マリアンヌ、危険すぎるよ。正直、マリアンヌはこの中で一番攻撃力も防御力もない。

「それなら、二人で行こう。二人でこの試練を乗り切ろう」

「オスカー、ありがとう」

 いいムードだが、いいのかこれで?

「ただ、君はこれをつけて」

 オスカーは、自分の耳から外したそれをマリアンヌの耳につける。

 それは、即死を一度だけ防ぐ魔道具のイヤリング。

「でも、それだとあなたが」

「君ははるかに僕より防御力がない。僕なら大抵死なずに戻ってこられる。死ななければ、エリーゼがなんとかしてくれる」

 私はコクコクと頷く。

「そう心配しなくてもいいわ。エリーゼが悲しむようなことは、私たちが絶対に阻止するから」

 セレステ、ここは私のことを絡ませなくていいのでは? 感動が半減する気がする。


「では行こう。これは君が持ってくれ。俺は君の護衛に徹するから」

 マリアンヌは頷き、台ごと兜を捧げ持つ。


 ゆっくりと二人は歩いていく。

 デュラハンの間合いに入ったのだろうか。

 デュラハンは、剣を構える。

 オスカーが、踏み込んでこなければ剣が届かない距離で、マリアンヌを止める。


「騎士様、あなたの探し物を持ってまいりました」

 マリアンヌは、震えながらも大きな声でそう告げる。

 すると、わずかな間の後、デュラハンの体が跳ねる。

 首だ!俺の首だ!!とでもいうように、小躍りするように。

 そして、台から首を取ると、剣を放り投げ、そのまま首を抱きしめる。肩の震えは泣いているようにも見える。


「騎士様、私たちはあなたと戦いたくはありません。できればあなた様の探し物を見つけてきた代わりに、ここを通していただけませんか?」

 マリアンヌがそう言うと、デュラハンは立ち上がる。そして首を左の小脇に抱え、右手で行けというように洞窟の先を差し示す。


 おぉっ! 

 マリアンヌ、やったわね。交渉成立だわ。凄い、凄い!!


 私たちは結界を出て、デュラハンの気が変わらないうちに、その傍を通り過ぎる。


 この階層の賢者の間が見えてきた。扉に兄が手をかける。

 ここを抜けるといよいよ最後の試練の階層だ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ