新しい日常が始まりました。part2-4-1
第48章 第三の試練はアンデッドがゾロゾロ。
ここを抜ければ、次は第三の試練。オスカーによれば、そこはアンデッドの巣窟らしい。
となると、いよいよヒロイン、マリアンヌの出番だね。
そして、私の彼女への支援が最も必要な階層でもある。
その前に、この、前世のシルクハットに似た帽子をかぶりタキシードのような服を着て、包帯で目と口以外を覆っている怪しげな男の問いに答えなければならないけれど。
「ようこそ賢者の間に。試練に必要なのは知恵と勇気。私の問いに答えて、その両方を備えていることを証明しなさい」
「いいだろう。して、その問いは?」
兄とオスカーが黙っているので、レイナードが聞く。
「君が初めに答えるのか?」
「問題を聞いて、答える者を選んでもいいのか?」
「いいぞ。ただしそうすると、答えが間違った場合、その者だけでなく全員がこの猛毒スイレンの毒をあおることになるが」
相談した場合、一連托生ということか。
一人ずつ相談なしなら、人数分のチャンスがあると。
「問題を聞き、相談して、代表者が答えよう」
ようやく、兄が口を開く。
どのみち、全員で進まなければ、この後の試練が厳しくなる。それに、人数分の知恵があった方がいいに決まっている。
一連托生は、賢明な判断だ。
男がいつのまにか取り出したステッキを振ると、賢者の間に泉が湧き出す。
「では問題だ。この猛毒スイレンの花びらを一枚この泉に投げ入れると、1秒ごとに数が倍になる。この泉は48秒で猛毒スイレンの花びらで満杯になる。花びらがこの泉をちょうど半分埋め尽くすには何秒かかるのか?」
はい?
簡単すぎるんですけど。
「もし、スイレンの花びらで泉が埋め尽くされるまでに、正解を答えられなければ、全員が泉から噴き出す猛毒スイレンの毒で命を落とすことになる」
そう言って、男は猛毒スイレンの花びらを一枚泉に投げ入れた。
そして、金色に輝く懐中時計を取り出し、ニヤニヤしながら時計を見つめている。
なるほど、猛毒スイレンは勢いよくその数を倍々に増やし続けていく。
「答えます!」
すぐさま私が前に出る。
アルベルトも、流石に今回は好きにしろ、と笑っている。こんな簡単な問題を数字に強い私が間違うわけがないと、信じてくれているのだろう。
一方で、マリアンヌとレイナード、オスカーまでが青ざめている。
こちらの世界の人は、数字に弱すぎるんだよね。その点、兄はさすがだ。余裕の笑みを浮かべている。
「間違うと、全員が毒にやられるが?」
いや、こんな簡単な問題、前世なら小学生低学年でも即答する。
「47秒、答えは47秒です」
男が驚く。
「こんなに早く正解を言い当てた者はいない。精霊か? 精霊に知恵を借りたのか?」
いやいや、ヴェルデはまた寝てるし、ロッホやインディゴは、未だに首を捻っているでしょう? それに、プラータ以外は「半分だから24秒だと思った」とつぶやいたマリアンヌにうなづきながら、クッキーを食べている。プラータもクッキーは食べている。
どうやら皆が皆、隠し持っているようね。
「最後の1秒で倍になって満杯になるのなら、1秒まえが半分なのは当たり前じゃないのかな?」
その時、猛毒スイレンの花びらが何枚になっているのか? と聞かれたら48秒では答えられなかっただろうけど。わたしが即答できるのは、せいぜい2の15乗までだ。
「当たり前を当たり前に答えられない者は多いのだ。しかも、刻々と増えていく猛毒スイレンに心を乱され半分という言葉に翻弄される」
まあ、その辺りが落とし穴なんだろうけど。
「とりあえず、その猛毒スイレンをなんとかしてよ。あと少しで満杯になるわよ」
私が答えた時は、まだ千ほどだった猛毒スイレンの花びらが、おそらく億を超え数え切れないほどになっている。
男は、私をなぜだか睨みつけながら、ステッキを振り、猛毒スイレンごと泉を消し去った。
そして、スフィンクスと同じように舌打ちしながら、次の試練に行けと、もう一度ステッキを振った。
態度悪いな、ここの賢者の間の番人達は。
ともあれ、私たちは第三の試練の階層に進んできた。
「アンデッドと戦うのは初めてだ」
レイナードが言う。
学院の森にはアンデッドはいないからね。
「アンデッド撃退には、光魔法と火魔法が有効だ。しかし、洞窟内で火魔法を大きく展開することは難しい」
「ではどうする? マリアンヌとエリーゼの魔法に頼るしかないのか?」
「まず、二人にこの剣に光魔法をかけてもらう」
オスカーが取り出したのは、真新しい魔法剣だろうか?
「これは、剣というよりはある種の魔法具だ。レイナードとアルベルトは、この剣に嵌め込まれているクリスタルの中に光魔法をため込んで戦ってもらう。私とマテウス様は、火魔法で戦う。とはいっても洞窟内ではあまり強力な火魔法は使えないので倒し切るには、やはり光魔法が必要だ。トドメはマリアンヌとエリーゼに頼もう」
「僕も戦いたい!」
ロッホはかなり欲求不満になっている。
「煙が充満しないよう、狩り尽くさないよう、加減できる?」
ロッホは、コクコクとうなづく。
「ロッホ様、ご助力感謝します」
マリアンヌが丁寧に礼をとる。
マリアンヌが認め、その上で願うのなら問題ない。
「お願いね、ロッホ。それと、アマリージョとセレステは、お兄様やオスカー、ロッホの火魔法のケアをよろしく」
私はアルベルトの剣のクリスタルに、マリアンヌはレイナードの剣のそれに、光魔法を注ぎ込む。
すると、刀身全体がうっすらと光に包まれた。とても綺麗だ。
「では、行こう」
兄の号令で、私たちは第三の試練に向かって歩み出す。
「早速来たな」
どんどんと近づいて来るのはスケルトンの集団だ。
「首を落とせ。そうすれば動かなくなる。頭部を叩き潰せば滅することもできる」
兄の言葉にうなづくと、アルベルトとレイナードが躊躇なく、左右に分かれて飛び出して行く。
その二人よりも勢いよく高速で中央を飛んでいくのはロッホだ。
最奥の敵をやっつけるつもりらしい。セレステがついているので問題ないはずだ。
「女神プラータ様、マリアンヌとエリーゼを結界でお守りいただけますか?」
オスカーの言葉にプラータがうなづく。
兄とオスカーは、前の二人が討ちもらしたものを火魔法で攻撃している。酷い煙が出ると、アマリージョが風で洞窟の奥へと追いやってくれてくれている。
私とマリアンヌの出番はなく、トドメはレイナード達がさしている。
15分ほどで敵は半減したように見える。そのタイミングで、アルベルトとレイナードが結界の中に戻ってくる。
「光魔法の補充を頼む」
私とマリアンヌは素早く光魔法をクリスタルに補充し、同時に彼らの怪我も癒す。
すぐさま、二人はまた敵目掛けて駆け出して行く。
二人がいない間に防衛線を守っていた兄たちが、代わりに結界に戻ってくる。魔力切れのようだ。
二人とも大きな怪我はないが、小さな火傷やかすり傷があったので、それを癒し、魔力回復のためのポーションを手渡す。ついでに、支援魔法で防御力も1.5倍にしておく。
それから10分程度で殲滅に成功したらしい。ロッホがいい笑顔で戻ってきて「終わった!」と報告してくれた。
私とマリアンヌはハイタッチでそれを喜ぶ。
全員が結界に入ってくる。
「とりあえずひと段落だ。しかし、次の敵はもっと強いはずだ。いったん体力、魔力を元にに戻そう」
マリアンヌが、聖なる光の癒やし魔法を、戦いから戻った皆にかけてくれる。
頑張ったよね、マリアンヌ。ほんと、努力家だよ。光魔法を範囲内にいる全員にかけられるようになったなんて。
私は感激しながら、マリアンヌも含めて魔力回復のため、メリィリフレをかける。
すると、マリアンヌが驚いて私を見る。
「エリーゼ、これは?」
「最近、開発した魔力回復魔法だよ? その人が持っている魔力の器を満杯にできるの」
私も日々努力しているのだ。
まぁ、ほとんどヴェルデのおかげだけど。この魔法には、大地と植物の力を存分に借りているから。
「私はまだまだですね。頑張っても頑張っても、エリーゼはどんどん先に行ってしまうようです」
オスカーがそんなマリアンヌの肩をそっと叩く。労るように、慰めるように。
「エリーゼはおかしいんだ。あれを基準にしてはダメだ。いや、目標にしても虚しいだけだ。君は十分に、聖女として成長してきている。これからも驕ることなく頑張れば、たくさんの人々を癒せる存在になれるよ」
「そうだよ、マリアンヌ。君はよくやっている。かつてはたった一人をほんの少し癒すだけで魔力切れになっていたのだから」
レイナード、それは励ましになっているのかな?
「私にはたくさんの精霊が加護をくれているのだから、魔法の種類や力があなたと違うのは当たり前。でもね、だから私がみんなより偉いとか強いってわけではないと思うの。例えば、レイナードは私より剣技に優れているし勇気もある。オスカーの火魔法や水魔法は、私のそれよりずっと繊細で適応力もあるわ」
「そうだな。エリーゼは数字には強いが常識には欠ける」
アルベルト、なんですと!
「公爵令嬢のくせに、剣を振りたがるし、それを止めるとアヒル口で不満顔になる」
そうだけど。
「マリアンヌの方が、ずっと令嬢としての嗜みに溢れている」
いや、私だってその気になればできますよ。嗜みぐらいありますけど!
「聖女として国民に愛されるためには、それもまた武器になる」
それはそうね。
マリアンヌなら、全国民に愛される聖女になれるよ、きっと。
「次がお出ましだ」
兄が告げる。
「あれは、洞窟狼のアンデッドですね」
狼たちの目は赤黒く光り、体はところどころ爛れたように皮膚が見えている。
「アルベルトたちは、さっきと同じで光魔法の剣で戦ってくれ。俺たちは風魔法で首を落とそう。エリーゼたちは結界の中で待機だ。呪い持ちの個体も多い。やられたらすぐに二人の回復魔法が必要になる」
私は兄の言葉に従う。
指揮官としての兄の力量をわかっているから。
「アマリージョ、オスカーの援助をお願い」
「わかりましたわ」
「インディゴ、マリアンヌの支援をお願い」
「まかせて」
解呪は、マリアンヌの光魔法だけでは無理だ。インディゴの闇魔法の援助が必要だ。
私は、クラシオンで問題ないはず。
アルベルトとレイナード、ロッホは先ほどと同じ陣形で飛び出して行く。
兄とオスカーも結界を出る。
先ほどよりはかなり手こずっているようだ。レイナードは相変わらず鬼神のごときだが、アルベルトは少し押されている。アマリージョの支援を受けているオスカーは順調だが、兄の魔法は半分ほどが躱されている。
「あっ」とマリアンヌが叫ぶ。
アルベルトが、狼の爪で脇腹をえぐられたようだ。
私の血の気もスッと引いていく。
「アルを、早く!」
令嬢の嗜みなどクソ喰らえだ。
私は大声でアルベルトの名を呼ぶ。
先頭で戦っていたロッホが、レイナードにつき、セレステがアルベルトを運んできてくれた。
毒と呪いを両方受けているようで、アルベルトの顔は色を失くしつつある。
『クラシオン』
『クラシオン』
『クラシオン』
私は動揺のせいか、クラシオンの三度がけをする。
プラータに、「ほどほどにしないと、アルベルトが不死者になりますよ」と言われなければ、もっと連呼していたかもしれない。
「エリーゼ、ありがとう。助かったよ。ついでに剣に光魔法の補充も頼む」
私が剣に魔法をこめると、アルベルトは、今にもまた飛び出して行く素振りだ。
「少し休んでからにすれば?」
「いや、レイナードの剣もそろそろ魔法が切れるはずだ」
「ロッホがいるから、ちゃんと戻ってこれるわ」
「その間のオスカーたちの負担が増える。……行くよ!」
「わかった。なら私も行く! マリアンヌ、ここはまかせたわ」
私は自らの光魔法を剣と一体化させる。私に魔法具の剣は不要だ。
「待て、エリーゼ!!」
アルベルトの焦った声が私の背中をおいかけるが、無視だ。
私とすれ違いに兄が傷だらけで、結界に戻ってくる。
飛び出して行く私には何も言わない。好きにしろ、ということだと解釈する。
「はあぁぁぁっ!」
掛け声とともに、私は一番後方を守っているオスカーの背中を傷つけないように少し距離をとって、剣をひと薙ぎする。
剣からは、『クラシオン』が溢れ出し、味方を癒し敵を斃していく。
我ながら、見事だわ。
やれやれ、といった風情でアルベルトがまだ息のある狼たちの首を刎ねていく。
そこへ、マリアンヌに傷を治してもらった兄がやって来る。
「魔力切れは?」
「まだ半分以上はあると思う」
「冗談だろう?
いえ、真面です。というか、体感としては、まだ四分の一も消費していない感じです。引かれないよう盛りました。
「前は全部やっつけた!!」
ロッホもご機嫌で戻ってくる。
「エリーゼのクラシオンに初めて触れたけど、すっごく気持ちいいね。いい香りすぎて、寝そうになった』
そういえば、精霊たちに私の魔法をかけることってないわね。かけてもらうことはあっても。
感想の意味はよくわかんないけど。
「とりあえず、結界に戻るぞ」
浅いようだが、かなりの数の傷を負っているレイナードをアルベルトが支え、魔力切れ寸前のオスカーをセレステが支え、結界で待つマリアンヌの元へ帰る。
「マリアンヌ、オスカーをお願い」
そう言って、私はレイナードに歩み寄る。
インディゴも寄ってくる。
「呪いは受けていない。でも毒は受けている」
「クラシオン」
私は、万能回復魔法ともいえる得意の魔法をかける。
今度は、冷静に一回だけ。
「レイチェルの顔が見たくなった」
レイナードがボソッとこぼす。
うん?
「アルベルトと扱いが違いすぎる」
「そ、そんなことないわ。さっきは焦っていて」
「冗談だよ」
おぉ、レイナードもこんなジョークを言うのね。
「悪いな。あと少し、レイチェルの笑顔は我慢してくれ」
オスカーもマリアンヌに聖なる光魔法をかけてもらい、色々回復したようだ。良かったね。
「よしっ。ではサクサクと進もう。私も愛する人の笑顔を見たくなったからな」
なんだこれ?
惚気大会なのか?
などと思っていたら、前から、黒光りのする鎧をつけた首無し騎士がゆっくりと歩いてきた。
長くなったので、part 2-4を二つに分けました。




