表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/80

新しい日常が始まりました。part2-3

第47章 第二の試練は魔獣がザクザク。


 賢者の間には、スフィンクス。

 その問いは、予想通りお決まりのもの。


「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。この生き物はなに?」

 

「これに答えられないと、このスフィンクスに食い殺されます」

 オスカーが眉間に深いしわを寄せ、兄に告げる。

 

 そこも前世のギリシャ神話、オイディプス王の悲劇での謎かけと同じなんだね。

 ならば、答えも同じはず。


「お兄様、答えてもいいですか?」

「わかるのか?」

 というか、わからないのか? お兄様でも。

「はい」

「しかし、間違えれば食い殺されるぞ?」

「大丈夫です」


「それならば、私が答えましょう。万が一誤りでも、エリーゼに危害は及びません」

「アルベルトもわかっているのか? ということは」

 兄が、頷く。

 あれ? 私、兄にアルベルトが転生者だと伝えたかしら?

 まあ、でも兄なら、もう察していてもおかしくはない。


 そうですよ。これは前世では超有名な謎かけです。

「ならば、アルベルト、頼めるか?」

 そんな。


「いえ、その前に、答えを確認しましょう」

 オスカーは、納得できないことには絶対に頷かないタイプだものね。

「それに納得できるたならば、私が答えます。これはマリアンヌの試練、つまり私の試練でもあります」

 ほうほう。

 マリアンヌの試練は私の試練でもある、なんて、言うわね、オスカー。

 マリアンヌがこんな場所で場面で、ポッと顔を赤らめている。


「答えは『人間』だ」

 アルベルトの答えに、マリアンヌが首を捻っている。

「これは、朝、昼、夜を人の一生に例えているんだ。人は、赤ん坊の頃は四つん這い、次に二本足で立ち、老人になると杖をついて三本足になるだろう?」

「なるほど」

 兄が頷く。

「でも、老人になっても杖をつかない人もいるわ」

 マリアンヌが言う。

 それはそうだ。

 特に、私がかつて生まれ育った前世では、医療の発達もあり、最後まで二本の足で歩める人も少なからずいた。


「そうだな。しかし、これはこういう謎かけの様式美のようなもので、正解はこれでいいんだ」

 アルベルトが答える。

 様式美、とはうまく言うものね、と私も頷く。

 

「スフィンクスは、ダンジョンに時々出現するけど、答えが『人間』でなかったことはないよ」

 ロッホが言う。

 マリアンヌはまだ心配そうだ。

 まあそうかもね。

 愛するオスカーの命がかかっているのだから。

「マリアンヌ、友情を信じなさい。彼らがオスカーの命を危険にさらすことなどありえません。あなたに必要なのは、心配ではなく信頼です」

 プラータがそう言うと、マリアンヌが頭をたれる。

 さすが女神様。


 オスカーが、そんなマリアンヌに優しく微笑みかけた後、前に進み出る。

「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。この生き物はなに?」

 スフィンクスが、その間合いに入ったオスカーに、再度問う。

「答えよう。それは『人間』だ」

 オスカーが答えると、スフィンクスが、神話と同じく自滅するかと思いきや、チッと舌打ちをしていきなり前足を上げ、「行け」と言った。

 ここには崖もなく身を投げるわけにはいかないだろうが。

 舌打ちって。


 品の悪いスフィンクスの横をすり抜け、私たちは、次の階層への階段を下りる。

 すぐに第二の試練の階層に到着した。

 


「ここは、進むほどに強い魔獣が現れるようです。数も多いので、総力戦になるかと思います」

 オスカーの言葉に兄が頷く。

「レイナードが先頭に。その後ろに私が、次にエリーゼとアルベルト、後ろにマリアンヌとその護衛でオスカー」

「マテウス様、私も前で戦います」

「オスカー、ここは魔法学院の剣神と呼ばれているレイナードに、まずは任せよう。数が多ければ、必ず討ちもらしがある。エリーゼはともかく、マリアンヌを魔獣の危険に晒すわけにはいかない。彼女には、聖女として、不安なく皆を癒してもらいたい」

「そうよ。オスカー、あなたはマリアンヌを護ることに専念して」

「わかった」

 オスカーは、小さく頷いてマリアンヌの傍らに下がる。


 しかし、この兄の采配は、無意味だった、と思う。


 最初に出てきた、洞窟鼠はなどは、千匹はいたと思うのだが、レイナードは鬼神の如くそれらを狩り、それ以上にアマリージョとセレステが、数を武器に襲ってくる魔獣たちを、魔法で一掃していったからだ。


「アマリージョたちは、誰かに命の危険がない限り、戦闘は見守ってちょうだい。試練にならないじゃない」

 私が精霊たちに不満を漏らすと、何故かみんなが手を差し出す。

 ほう、おとなしく見守るためには、お菓子が必要だと、そう言うのね?

 いいでしょう。

 私は、クッキーを、許可なく火魔法を撃つことを禁止されて不貞腐れているロッホに渡し、一番先に食べていいから後は皆でわけるように言う。

 ロッホは、小躍りして喜んでいる。

 わかるよ。

 出番がないのって、ストレス溜まるよね。

 私も、クッキーをかじる。


 しかしこれで、少しは剣も振るえるもしれない。

 次にどこからともなく湧いてきたコボルトは、魔法学院の森でもしばしば相対している。闘い方も分かっている。

 ようやくだね。

 わくわくする。

 しかし、今度はレイナードと兄が見事な連携で、コボルトを薙ぎ倒していく。

 たまにうち漏れもあるけれど、私が剣をかまえる前に、アルベルトがサクッと倒す。

 うーん、もうっ!


 私の機嫌が悪くなってきたからか、兄が、レイナード、兄、アルベルトへの攻守への支援魔法を私に依頼する。十分に優勢ですが、支援魔法、必要ですか?

 幼な子でもあるまいし、役目をもらったからって、機嫌が良くなるってことなんかないんですよ。

 やりますけどね。

 あまり急激にその能力を上げると、支援魔法が解けた時の反動が怖いので、とりあえず、レイナードと兄には攻撃魔法を1.5倍に、攻撃魔法を2倍に。アルベルトはその逆で防御力を上げる。


「おお、これは素晴らしい。エリーゼありがとう!」

 レイナードが心からと感じられる感嘆の声をあげてくれ、少し気分が上向く。

 

 マリアンヌは軽い打身やかすり傷でも、味方に傷がつけば、すかさず光魔法で癒やしている。

「皆さんお強いので心配はしていませんが、痛みがあると、動きに障りますから。私のできる限りで援助しますわ」

 マリアンヌ、大人だわ。

 小さくつぶやくと、だな、という視線でアルベルトが私を見る。

 分かってますよ。

 もう、剣なんか持ってこなければ良かった。


 次のオークは少々厄介だった。ハイオークが後ろに控えていて、指揮官として采配をふるっていたから。

 ただ、そのハイオークが、アマリージョの支援を受けた兄の風魔法で首をスパッと切られてからは、統率もなくただ闇雲に向かってくるだけなので、またもやレイナードの独擅場になる。


「レイナード、凄いね」

「ああ。強くなったよ、あいつは。自分が国境を守り、レイチェルを守ると決めてからは、いっそう」

 愛は強さのエネルギーになるのね。

 そういえば。

「アルもね、強くなったね。剣にはあまり興味がなかったのに」

「護衛が弱くちゃ話にならないからな」

 などと、ヤケクソで無駄口を叩いていたら、もちろんアルベルトはそれでも周囲をしっかり警戒していたけれど、兄から司令が飛んできた。


「エリーゼ前へ。他は後ろに下がれ」

 アルベルトが目を細める。

「エリーゼ、精霊様に結界をお願いしてくれ。コカトリスだ。爪には毒があり、石化ブレスを浴びるとやっかいだ」

 となると、プラータがいいね。

「プラータ、お願い」 

 いや、女神様にそんなことをお願いしていいのか?

「ごめん、プラータ。あなたはもう女神様だったのに。こんなことをお願いして」

「何を言っているのかわかりません。加護を与えている者とその愛する仲間を守るのは、当然のこと」

 よかった。

 プラータが変わらず優しくて。

 

「マテウス様、また護衛の私にただ見守るだけでいろと?」

「そうだ。不服か?」

「はい」

「しかし、現状、毒や呪いの前では、お前はエリーゼの足手まといになるだけだ」

「しかし」

「アルベルト、ここは引け」

 レイナードがあえてなのか、無表情でそう告げる。

「アルベルト、エリーゼは私たちが守ります」

 アマリージョが言う。

「アルベルト、大丈夫。あんな鶏、すぐに片付く」

 インディゴが笑う。

 コカトリスを鶏って。

「鶏みたいなのは頭だけで、竜のような羽や蛇みたいな尾もあるし。かなり禍々しいよ。鶏には見えないけど?」

「あいつは、鶏なみの脳みそなんだよ」

 へえ。

「だから、攻撃もワンパターン」

「自分の毒性を過信している」

 精霊のみんな、コカトリスには、けっこう厳しい判定だね。


「わかりました。エリーゼをよろしくお願いします。今後は毒や呪いへの対応もできるよう魔道具を揃え、魔法の腕も磨きます」

 アルベルトが、精霊たちに頭を下げる。


「じゃあ、エリーゼ、頼んだよ」

「はい、お兄様」

 私は、剣を出す。

「魔法で戦いなさい。お前の剣技では、あれの首はとれないぞ」

「わかってます。これにアマリージョと私自身の風魔法を纏わせ、首を落します。アマリージョ、加勢を頼みますね」

 アマリージョが嫣然と微笑む。

「その前に、雷魔法であれの足を止めましょう。そして、石化ブレスは正面にしか吐かないので、正対を避けて首を狙うのです」

「わかった」

「では、行きますよ」

 その瞬間だった。

 アマリージョが、これでもう十分なんじゃない? というほど強烈な雷魔法をコカトリスに落とす。

 コカトリスは、息も絶え絶えだ。

 もう、動くこともかなわない様子に、結界の向こうのアルベルトがホッとした笑みを浮かべている。

「ほとんど終わってるよね、これ?」

「そうですね。ちょっと加減を間違えましたかしらね?」

 アマリージョも少し気まずそうだ。


 私は、コカトリスの毒の爪を破壊する。その際、ちょっとしたかすり傷を負ったが、痛みもないし毒は即座に解毒されたようで、なんの問題もない、はず。

 チラッと見ると、アルベルトが、心配そうに私を見ている。

 ここは、淡々と作業しないと。

 そのまま、石化ブレスを吐かれないよう、まだ寝ぼけ眼のヴェルデに頼んで嘴をグルグル巻きにしてもらう。

「首を落さないのですか?」

「だって、これなら、私でなくても大丈夫でしょう?」

 すでにコカトリスは、まな板の上の鯉、よりもっとどうしようもない状態だ。

「ええ、まあ」


 私は兄を振り返る。

「オスカーとマリアンヌをこちらへ。毒も石化も心配ないので、これはマリアンヌに仕留めてもらいましょう。マリアンヌの魔力も大幅に増えるでしょうし、何より彼女の試練ですもの。オスカーは念のために護衛を」

 美花のメモに、コカトリスの情報はなかった。

 ただマリアンヌも、回復魔法だけでなく、攻略対象たちの力を借りつつ魔獣を倒すとだけ書いてあった。

 そして、自らも戦ったことで、指輪の持ち主としてその勇気を認められるとか。

 

 マリアンヌが結界を抜けてくる。

 その足取りは、少しだけ震えている。

 確かに、その動きはほぼ抑えられているが、今まで目にしたことがないほど大きく禍々しい魔獣を前に、怖くないはずがない。私のようにあれこれ盛りだくさんの加護を受けているわけでもないのだから。


 そのマリアンヌの少し前をオスカーが歩き、彼女がコカトリスの右後方に移動するのを援助している。

「エリーゼ、気遣いをありがとう」

 オスカーが私に礼を言う。

「いいのよ。これなら誰が仕留めても同じだから。一番、それをすることが必要な者がやるべきでしょう?でも、マリアンヌ、大丈夫?」

 彼女も学院では魔獣狩りに参加している。

 けれど、命を狩ることに、ためらいがないわけではないと、私に言っていたことがある。


「このコカトリスは、すでに罪のない千を超える人間を石化し、それ以上の人間を毒で苦しめ死に至らしめています。狩ることにためらうことはありません」

 アマリージョが言う。

「なぜそんな凶悪な魔獣がここに? ここってダンジョンといっても、指輪を得るための試練の場で、失敗しても死ぬことはないはずでは?」

「本来は。しかし、なぜか仕様変更されていますね」

「きっと、僕らが来たからバージョンアップされたんだよ。今までと同じなら、ハイキングみたいなもんだから」

 いえいえ、バージョンアップされていても、あなたたちにはハイキングでしょうが。


「心配ありがとう。でも大丈夫。ここまでおぜん立てをしてもらったんですもの、私、できます」

 マリアンヌが剣を取り出す。

 そこに、オスカーが何やら付与魔法をかけている。

 おそらく、マリアンヌの細腕でもコカトリスの首を落せるように剣を強化しているのだろう。

 

 マリアンヌが剣をかまえ、その後ろでオスカーも剣に水魔法を纏わせている。いつでも、なにがあっても守るよ、という彼の気概が背中に見えるようだ。

「ヤーッ」

 今まで聞いたことのない気合の入った大きなマリアンヌの声が洞窟に響く。

 次の瞬間には、コカトリスの首が落ちていた。

  

 やがて、コカトリスの首も胴体も、黒い光る粉となって消えて行った。

 残ったのは、禍々しい黒い剣一つ。


「これは、魔剣だな。闇魔法の属性がないと使えないようだ」

 鑑定眼鏡をかけた兄はそういうと、インディゴに呪いの有無を調べてもらい、問題がないとわかるとそれを拾い上げ私に手渡す。

「とりあえず、これはエリーゼが持っておきなさい。闇属性があるのはお前だけだ」

 なんだか、禍々しいんですけど。

 呪いはない、とインディゴが言っているのだから問題はないのだろうけど。まあ。呪いがあっても大丈夫なわけで、どうしたって大丈夫なんだろうけど。

 可愛くないし。

 無骨だし。

 と心でぶつくさ言っていると、急にその剣は短剣になり、持ち手におしゃれな蔦模様が刻まれ私の瞳と同じ色のエメラルドが嵌まる。

「これでどう? 可愛くなったでしょう?」

 ヴェルデがドヤ顔で聞く。

 また、心を読んだわね。

 可愛くなったけど。


「では、次に進みましょう」

 オスカーが、緊張を解いた声でそういう。

 

 でも、待って。

 マリアンヌの様子が、変だわ。

「大丈夫?」

 私が声をかけると同時に、マリアンヌがよろめき、それをオスカーが支える。


「今の討伐で、彼女の魔力が急激に増加したんですね。器を安定させたほうがいいですね。エリーゼ、彼女にクラシオンを」

 私はうなづき、マリアンヌにクラシオンをかける。

 マリアンヌはすぐに意識を戻した。

「エリーゼ、ありがとう。あなたの魔法は本当に深みがあって、温かくて、心地いいのね。私も、もっともっと精進して、人々を癒せる魔法が使えるように頑張るわ」

 天使のような美少女に微笑まれ、お礼を言われ、いやそれほどでも、と私はデレデレになる。


「ここで少し休憩をしませんか? 結界を張ればゆっくりできるでしょう」

 プラータが、マリアンヌだけでなく、少し疲労の色も見えてきた他の者も気遣って、そう提案してくれた。

 私は、結界の中で、サンドウィッチとクッキー、お茶をふるまう。


「エリーゼ、お前、そんなものまで、どこに入れていたんだ?」

 今さらですよ、お兄様。

「魔法のバッグですよ。アマリージョにもらったの。屋敷まるごとでも入るのよ。時間経過もないし、なんでも入る。中でちゃんときれいに種類ごとに整理整頓もしてくれて、すっごく便利なの」

 兄とオスカーが口をあんぐりと開けている。

「そ、それは、古代遺物の中でも伝説の遺物と言われている国宝級の宝だぞ」

「え、でも、これはアマリージョが作ったものだから、古代遺物ではないですよ」

「そうですよ。これくらいなら、いつだって作れますから」

 アマリージョが笑う。

「でもね、そう簡単には作りませんよ? これは尊い目的を持つ者にしか与えることができないものですからね」

 尊い目的って、おいしいお菓子やお料理をたくさん持ち運ぶことだよね? そう言っていたもの、これをもらう時。これで、いつでも美味しいものがどこででも食べられますね、って。

 そんなに、胸を張って言うことじゃないのでは?


 兄とオスカーは、魔法の袋のダメージを消せないままお菓子を食べる気にもならないようで、お茶を少し飲んだだけだが、精霊たちや他のみんなは、サンドウィッチもお菓子もしっかり食べた。


「では、次の賢者の間に行きましょう」

 口数が少なくなった兄やオスカーに代わり、レイナードが先頭に立つ。


 扉を開け、第二階層の賢者の間に入る。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ