新しい日常が始まりました。part2-1
第45章 イベントです。初ダンジョンにワクワク。なんと、プラータが。
私と兄、アルベルトとレイナードの兄弟、そしてオスカーとマリアンヌのもうすぐ婚約カップルでパーティーを組み、マレの指輪をゲットするべく、まずは聖マレ教会に向かう。
聖マレ教会には、先に公爵家から先触れがでていたからか、扉の前で司教様が自ら待っていてくれた。
「マテウス様、お久しぶりです」
「ヨセフ司教、元気そうで何より。本日は世話になる」
どうやら兄は司教様と面識があるようだ。
「ダナーンでお目にかかった時にはまだ幼さもおありだったように記憶しておりますが、立派になられましたな。ヴォーヴェライト公爵もさぞかしご安心なことでしょう」
ダナーンは、公爵家が貿易船を持つ港町だ。兄は出向いたことがあるのか。羨ましいぞ。私はこちらの世界でまだ海を見たことがない。
「あれから十年。しかし、まだまだ父には教えられることばかりだ。これからも精進するよ。今日は、もう一人、公爵家の人間を紹介させて欲しい。こちらは妹のエリーゼ、エリーゼ・フォン・ヴォーヴェライトだ。水の精霊セレステ様のご加護も受けている」
今日のイベントのためだろうが、兄がセレステと一緒に私を紹介する。
すると、突然、ヨセフ司教が跪く。
私はどうすればいいのかわからず、とりあえずセレステに来てもらう。
「立ちなさい。エリーゼは傅かれることが好きではないの。私も同じ」
精霊が偉そうなのはテンプレなのか。初対面の司教様にこうも上から目線だと、私が申し訳なくて恐縮してしまう。
「しかし、セレステ様といえば、先日、マレさまよりご神託のあった次の大精霊様。代替わりの際にはここも、聖セレステ教会となります」
えっ、そうなの?
「それもこれもエリーゼのおかげです。素晴らしい出会いがあり良き名をもらい、美しい魂から大きな魔力を日々分け与えられたおかげで、マレ様より次代の名誉を賜りましたのよ」
そうだったかしら?
確かに名はあげた。けれど出会いといえば、アイスクリームを作るのに氷魔法を覚えたかったからで、しかもヴェルデの紹介だったしね。素晴らしい、は言い過ぎだよ。でも、セレステとの出会いには感謝しかないけどね。
「なんと、そのような尊いお方にセレステさまと共に我が聖堂に来ていただけるとは、これほどの僥倖はありません」
いいから、立って。
「私は、ここにいる皆と同じ魔法学院の一生徒です。ふつうに立ってお話ししていただけたら嬉しいです」
兄にも促され、ようやく司教様が立ち上がってくれた。
そこへ、他の精霊たちもゾロゾロと顔を出す。
セレステだけがちやほやされたから、面白くなかったのだろうか? 若干不機嫌だ。
「私に加護をくれている精霊です。こちらは風の精霊アマリージョ」
仕方ない。一精霊ずつ、紹介しよう。
「私も、もうすぐ大精霊になるのよ」
ああ、なんかそういう話を聞いたような。
「こっちが緑と大地の精霊ヴェルデ」
「私はもう大精霊だけどねっ」
はいはい。張り合わないで。
「この子は火の精霊ロッホで、あっちが闇の精霊のインディゴ」
「「僕たちも結構高位なんだけど」」
ほんと、精霊は負けず嫌いだよね。
大精霊でも、高位でも低位でも、私にとっては等しく大事な家族なんだけど。
「それで、このキラキラとした光は光の大精霊プラータ」
面倒なので、大精霊だと先に紹介しておく。
「エリーゼ、私、大精霊ではなくなりましたの」
なんと。早まったわね。ごめんね、プラータ。
もしかして、大精霊でなくなったのは、私のせいかしら?
色々、リベルタース関連で矢面に立ってもらったから、怒られたのかな。誰にかはわからないけど。プラータを叱る存在なんで、想像できないもの。
「私、光の女神プラータになりました」
はい?
女神!?
プラータが光りの中から神々しい姿を現す。
「なんと。プラータ様、おめでとうございます」
兄が真っ先にプラータに跪き、それに倣って司教様も再び、他の皆も祝いの言葉に続いて跪く。
これは、私も跪くべき?
そうだよね。
だって、女神様だもの。
プラータに跪こうとすると、セレステに止められた。
「エリーゼは、プラータの加護を受けているのだから、プラータの前で偉そうに立っていればいいのよ」
そうなの?
違う気がする。
精霊や女神の常識は知らないけれど、女神様の前で偉そうにしている人間などいてはいけない気がする。
セレステが手を離してくれないので、仕方なく、偉そうでない体で視線を下に向け遠慮がちに立っておく。
「そうですよ。私が今回光の女神に選ばれたのも、エリーゼのおかげ。良き名と美しい魔力を評価され満場一致でしたのよ」
プラータは、そんな私を温かい眼差しで見つめ抱き寄せる。
「プラータ、おめでとう。私も嬉しいわ。でも、女神様になったらもう私とはあまり一緒にいられないのかな? 寂しいわ」
「まさか。私からエリーゼへの加護が増えるだけで、他は何もかも今まで通りですよ。エリーゼのお料理やお菓子が食べられないのなら、女神なんてクソくらえ!ですわ」
プラータ、女神様なんだから、言い方、そこは気をつけようね。
めでたい。めでたいが、今はとりあえず、みんなにダンジョン探索に向かってもらわないと。
「司教様、お騒がせしました」
私がそう言うと、兄が立ち上がり平常に戻ってくれた。皆も立ち上がる。司教様はちょっとフラフラしているけれど。
「今日はこの聖堂の地下の祭壇で、ここにいる聖女マリアンヌが祈りを捧げたいそうだ。なので、私たちに地下に降りる許可を頂きたい」
「も、もちろんでございますで、ございます」
あんな大騒ぎのあと、聖女まで現れたせいか、畏まり過ぎて司教様の言葉が変になっているが、許可はもらえたようだ。
司教様の案内で、聖堂の地下に降りる。地下とは思えないほど美しく整えられた祭壇が奥に見える。
「案内、感謝する。しばらく祈りの時間を貰えるとありがたい。少々時間もかかると思うが、他には誰も立ち入らないよう配慮してもらいたい」
「もちろんでございますです。ご存分に」
「わかっているとは思うが、今日のこの件は誰にも漏らさないように。そして、同じように地下の祭壇に祈りを捧げたいと他の誰かが来ても、決して通してはならない」
「かしこまりました」
「私たち以外にこの祭壇を目指す者は、海の精霊に悪意ある者。騙されてはなりませんよ」
セレステの言葉に、司教様が震えながら頷く。
「御心のままに」
これで、マルクスがここを突き止めても、侵入するのは難しいだろう。たとえ王族の威光を借りたとしても。
なにせ、相手は次の海の大精霊のセレステだ。
人では相手にならない。
司教様が私たちを残して地下の祭壇を立ち去ると、オスカーがマリアンヌと前に出る。
「文献によると、この祭壇で清き魂の乙女が大精霊マレ様に祈りを捧げると、奥の岩壁から光の扉が現れ、そこがダンジョンへの入り口になっているらしい」
私が確認した、美花のメモでも同じことが書いてあった。
「マリアンヌ、祈りを」
「わ、私で良いのでしょうか。エリーゼ様が、女神プラータ様の加護のあるエリーゼ様でなくて」
プラータの女神昇進で、マリアンヌが萎縮してしまったようだ。プラータはとにかく、私にまで様をつけてるし。
「あなたでないとダメなのよ。マリアンヌ、あなたのための指輪を探しに行くのだから。私は、あなたの友、仲間。協力はするけれど、オスカーと二人力を合わせてあなたが進んで行かないと」
そう言いながら、私は、マリアンヌにコリアンダー入りクッキーを手渡す。二人で作ったクッキーだ。
魔力も上がるし、勇気と安心も湧いてくるはず。
「エリーゼの言う通りだ。マリアンヌ、これは僕たちが先頭に立ってこなすべき試練だ。君でなければ、ここでの祈りは意味がない」
「エリーゼ、オスカー。そうですね。少し動揺していたようです。私が祈ります」
マリアンヌが心を決めたようなので、私とアルベルトで祭壇に持ってきたお菓子と花を飾る。花は、セレステおすすめのマリンゴールド。青いミニ向日葵のような花で、タネの部分が黄金に輝いている、美しい花だ。ヴェルデに頼むとすぐに用意してきてくれた。
代わりにバケツで作ったように大きなプリンをあげたけどね。
お供えがすむと、マリアンヌ以外は後ろに退く。
マリアンヌが祭壇の前に進み跪く。
「海の大精霊マレ様、私マリアンヌ・フォン・エルスターは、精霊様と仲間の力を借り、ここにたどり着きました。大いなる希望と夢を実現するため、あなた様のご慈悲をぜひとも賜りたく存じます。どうか、マレの指輪の祠まで私たちを導きください」
祭壇が青く淡い光を出す。
「その代わりに、そなたは何を捧げる?」
お腹の中に響くような、深く重い声がした。これがマレ様の声なのかしら?
お菓子とお花だけじゃ、やっぱりダメか。
いや、よく見れば少しずつお菓子が減っている。気に入ってはいただけたようだが。
「愛と信念を捧げます。生涯、海を愛し、大地を敬い、精霊様、家族、友人を慈しみ、惜しみなく愛を、癒しの必要な人々に捧げます」
「その言葉を忘れることなく、指輪に与えられた力に驕り高ぶらず、慈しみ深く生きることを誓うか?」
「はい」
マリアンヌ、立派だわ。
さすがヒロイン。愛と誠の聖女。
「よかろう、扉を開こう。しかし、指輪を手にするためには、厳しい試練に立ち向かわねばならない。失敗すれば指輪を手に入れることは叶わず、再びここに舞い戻ることもできない。チャンスはただ一度。良いな?」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
チャンスは一度か。
ゲームだと、何度も挑戦できるのにな。
「ところで、そこのセレステの愛し子よ、菓子が足りんのだが」
見れば、山盛り積んでいたクッキーが、もうない。
慌ててうちの子たちを見回すが、誰も口を膨らませてもいないし、お菓子のクズを口につけていない。横取りはしていないようだ。
ということは、全部マレ様が?
けっこう威厳たっぷりにお話しされていたのに、いつの間に?
私は慌てて、リュックから、非常食用に持ってきたチョコレートを取り出す。全部はダメだけど、非常食は非常食なわけで。
「手持ちがあまりないので、これで、よろしくお願いします。無事試練をこなしたあかつきには、お菓子の盛り合わせをお持ちしますので」
奇妙な間が空く。
「……そうか。つまり、そなたたちが試練に失敗すれば、この菓子はもう食べられないのか」
そうなるよね。
だって、再びここには来られないのだから。
「よしっ。これをそなたたちに、授けよう」
祭壇のお菓子があった場所に腕輪が六つ現れる。
「これは人魚のブレスレットですね」
セレステが、にっこり笑う。
それってつまり何?
「これをつけると水中でも、地上と同じように呼吸ができるのです」
兄が目を見開いている。
これは国宝級のマジックアイテムだが、6つも、こうも無造作に、と呟きながら。
「そなたたちの力なら、第四の試練以外は、力を合わせれば難なくこなせるであろう。精霊の加護があり、剣も魔法も知恵もある者が揃っておるからな。水中の戦いだけは、人にはとても不利だ。精霊もセレステ以外は面倒だろう。よってこれを身につけ試練に立ち向かえ」
ありがたい。
がしかし、こういうのって、その前の試練に打ち勝った時に、宝箱から出てきたりするものではないのか
しら? 先にもらってもいいものなの?
「マレ様、そんなにお菓子が気に入ったんですか?」
セレステが空気を読まずに聞く。
「そ、そういうわけではない」
お菓子か。
やっぱりお菓子なんだ。
大精霊様も。
持ってきますとも。マリアンヌと二人、心をこめたお菓子を山盛り。
この試練を絶対に乗り越えて。
「では、行こう」
兄の号令で私たちは開いた扉を潜る。全員が洞窟に入ると、扉が静かに閉まった。




