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新しい日常が始まりました。part1

第44章 イベントの予感


 私はマリアンヌに、憂い顔の理由を尋ねる。

「エリーゼは、『マレの指輪』を知っている?」

 うん?

 どこかで聞いたような。


「このまま私がオスカーと婚約したら、フィリップ殿下は聖女として魔力が乏しい私を学院から追放するかもしれないって、オスカーが」

 それはどうなのかな。

 ゲームだと、バッドエンドに入らない限り、フィリップ以外のルートをヒロインが選んでも、フィリップは、自分の恋心を隠してヒロインの恋を応援するんだけど。

 というか、これはどの攻略対象者でも同じで、みな自分が選ばれなくともヒロインを応援し守り続ける。その分、悪役令嬢は彼らの鬱憤ばらしのために悲惨な目に遭うらしいが。

 納得いかないよね。

 私は、もはや一人を除いて、他の誰かに鬱憤をぶつけられるような環境にはないけれど、それでもなんとも嫌な感触を受ける。

 結局、こういうのって逆イジメではないのかしら? と思う私がおかしいのか。

 まぁ、あくまでもゲームの話で、私は、この世界で現実を生きているわけで。

 

 じゃあ、現実にはどうなんだろう?

 フィリップ殿下がマリアンヌにベタ惚れなのば間違いない。

 それが叶わぬ恋だと知れたとしよう。直情径行なあの方なら、嫉妬に駆られ、可愛さ余って憎さ百倍、とならないとは限らない。

 あんな公の場で私を国外追放と言い切るらしい彼なら、その権限があろうとなかろうと、やるかもしれない。

 魔法科で私よりずっと彼に近いオスカーがそう懸念するのなら可能性は高いのかもしれない。

 

 ただ、それが、そのマレの指輪とどう関係するんだ?


「現状、私の魔力は順調に増えているのだけど、光の精霊の加護はもらえていないでしょう?」

 だが、プラータの話だと、卒業までにはなんとかなるはずだとか。

 それだと間に合わないのかな?

 そういえば、プラータはどうしているのかしら?

 今までこんなに顔を見せないことはなかった。

 カレーにもお菓子にも釣られてこないなんて。神聖帝国にお手伝いに出向いているのかな?

 それなら一言ぐらい伝言があるはず。なんか、胸の奥がザワザワしてきた。

 ああでも、今は、マリアンヌの話に集中しないと。


「でも、とても順調に魔力も増えているし、うちの子たちの懐きようを見ていたら近いうちに叶うと、私は思うんだけど?」

「それならカーリーだってレイチェルだって、ヴェルデ様たちにとても愛されているわ」

 まぁ、そうだね。

 

「カーリーは、もう、私の妹分の緑の精霊が加護をあげるって決めているわよ」

 なんですって!

「もともとカーリーは、妖精が盗んでくるほど魂が愛らしいし、修道院でも精霊たちとの触れ合いがあったでしょう?」

「そうだね」

「学院に来てから、さらにいっそう緑との触れ合いに励んでいるし、たくさんの仲間を惹きつけるカリスマ性もある。エリーゼと仲良しなのもポイント高いし。それに素敵な恋をしている」

 お兄様、素敵な恋ですって。

 ふふふ、ニヤニヤしちゃうわ。


 でも、加護に恋は関係ないんじゃない?

 だって、私が加護をもらったのは幼い頃。

「積み重ねた、たくさんのいい行いや経験は、魂をいっそう磨くわ。そして良い香りを醸すのよ」

 うん?

 今とても大切なヒントがあったのでは?

 

 まず、恋も含めて、良い経験が魂を磨くということ。

 そして私が転生者だということが、加護をもらうのに大きなポイントだったのでは? ということ。

 おそらく前世での経験も魂に刻まれているはずだから。

 

 前世では、恋はしていた。

 とても素敵な恋で、深い愛情に包まれていた。そして私も彼と彼の大切なものを包んでいた。

 美花のようにかけがえのない友情をくれた友人もいた。お菓子作りに目覚めたのも、美花のおかげ。

 碧のお菓子にはクセになる美味しさがあると、いつも褒めてくれた美花の笑顔がモチベーションだった。

 それがこの世界で私をこんなに守ってくれているのだとすれば、前世があってこその今があるってことだね。


 寄り添い守ってくれる人たちに恵まれていたんだ。

 好きな学問に出会い研究にも没頭できていた。そういう好きなことや温かいものが私を強くしてくれていたんだな、と思う。

 辛いこともあったけれど、最後は残念だったけど、不幸だったとは思わない。

 今さらだけど、いい出会いが私の魂を守ってくれたんだな、と思う。

 そしてこの世界でも、私はいろんな出会いに支えられている。

 私の加護は、前世と今世、たくさんの出会いがあってこそのものなんだ。


「でもそれなら、マリアンヌだって、もう十分条件を満たしているのでは?」


 マリアンヌもカーリーも等しく、前世の私に比べてもずっと、その佇まいや生き方が綺麗だと思う。

 お菓子作りだって得意だしね。

 素敵な恋もしているよ?


「光の精霊の加護には、他に比べてとても大きな魔力と器が必要なのよ」

 

 マリアンヌの努力が足りないとか、彼女の魂に問題があるわけじゃなく、つまり、単純に魔力の問題なのか。

「だそうよ、マリアンヌ。やっぱりこのまま魔力を上げる努力をしていれば間違いなく加護はもらえるわ」

「そうなのね。そこはオスカーの言うとおりだわ」

 はい?

「オスカーが古代の文献を調べてくれたんだけど、光の精霊の加護を得るにはかなりの魔力量が必要だと」

 オスカー、さすがだね。

 私もなんでも精霊たちに教えてもらってばかりではダメだわ。

 自分で調べて考えて試してまた考えて。そういう試行錯誤や努力をもっともっとしないと。反省、反省。


「だから、『マレの指輪』が必要なの。これも別の古文書からオスカーが調べ出してくれたんだけど」

「その指輪にはどんな効果があるの?」

「オスカーが言うには、指輪を見つけて指輪に認められると、魔力増加が三倍になるらしいの」


 ようやく思い出した。マレの指輪という名ではなかったと思うけれど、魔力増加を増やす指輪をヒロインが探しに行くイベントが、オスカールートにあったわね。

 確か、王都の外れにある小さな教会から、地下に潜ると、洞窟に繋がっていて、その奥の祠に指輪があるはず。


 それには清らかな心を持つ乙女しか触れることができないらしい。だから、盗み聞きした悪役令嬢が横取りしようとして失敗するらしいが。 

 私は、横取りしませんからね。これ以上魔力が増えてもわずらわしいだけだし。


「お祝いの会の後、出来るだけ早くオスカーとマレの指輪を探しに行く予定なんです。なので、今オスカーが洞窟の場所を探していて」

 あれ、場所がまだわかっていない感じ?

「それなら手伝えるかもしれないけど、オスカーは自力でたどり着きたいのかしら?」

 彼にも彼の矜持があるだろう。

 オスカーなら、正解にたどり着くはずだし。

 それを損ねてまで口出しはしないほうがいいだろう。

「エリーゼは、指輪のある洞窟を知っているの?」

「たぶん」

「たぶん?」

「そういえば、そんな言い伝えがあったなってぐらいな感じ」

「教えて!」

「オスカーに聞かなくていいの?」

「彼も喜ぶわ。なるべく早く見つけたいのよ。婚約を公にするから。本当は、それまでに見つけたかったんだから」

 それならいいのかな? 教えても。


「私が知っているのは、王都の東の外れにある聖マレ教会の地下が洞窟に繋がっていて、その最奥の祠に指輪があるらしいってことなんだけど」

「聖マレ教会は、オスカーもそこじゃないかって訪ねたらしいけど、神父様も誰もそんな指輪も洞窟の存在も知らないって」

「そうかもね。地下にある聖マレ様の祭壇に、ふさわしい乙女が祈りを捧げると、洞窟に繋がる扉が開くとらしいから」

 神父様は乙女ではないものね。


「なるほど。エリーゼありがとう!私、今から行ってみる!!」

 今から!?

「マリアンヌ、何事にも準備は必要よ。まずオスカーに相談。それから、仲間を集めないと」

「仲間?」

「洞窟はちょっとしたダンジョンになっているはずだから。パーティーを組まないと攻略できないわ」

 今のオスカーにマリアンヌの癒しが有れば、攻略出来るかもしれないけど、ここは仲間の出番だよね?

 

 ダンジョン。

 初ダンジョンだわ。素敵。アルベルトも、こういう事情なら反対せずについてきてくれるはず。


「魔法はオスカーで大丈夫だろうけど念のために私も行くわ」

 行きたいんです。

「あと剣士としてレイナードは必要ね。アルベルトは私が行けば来るし。教会との交渉役や知恵袋としてお兄様にもきてもらいたいわね」


「いいんでしょうか?」

「仲間だもの」

 行きたいんです。


「ヴェルデ、お兄様とオスカーに図書室に来てもらって。コードワンだって言ってね」

 コードワンは、緊急案件だが命の危険はないという意味だ。

 これがゼロならヤバいんで助けて!!になる。

 数字が大きくなるごとに緊急性は低くなる、そんな感じで、魔法省の一部で使われているのを、最近私の仲間たちも拝借して運用している。

「了解」

 ヴェルデが楽しそうだ。

 ダンジョンに行く気満々なんだね。わかるよ。行きたいよね、ダンジョン!!


 私とマリアンヌも、少々作りすぎたかもしれないお菓子を、これ幸いと詰めたバスケットを持って図書室に移動する。

 セレステやロッホは好きにしてていいと言ったが、どうやらついてくるようだ。

 マリアンヌも一緒なので、セレステにボヤけた感じでプラータのことを聞いてみた。そういえば、最近見ないけど元気なのかなと。

「心配ないよ。もうすぐ戻ってくるから」

 セレステは聡いので、やはりポワンと答えてくれる。

 どこかにいっているようだ。

 そして元気らしい。

 よかった。

 詳細は、一人になってから聞こう。


 図書室に着いた。

 マリアンヌの限定エリアへの立ち入り許可はすでに兄から出ていた。アデル殿下が不在の間、兄がここの責任者になっている。

 流石ですね、お兄様。お仕事早いわ。


「マリアンヌ、どうかしたのか」

 入室したとたん、オスカーがマリアンヌに駆け寄る。

「コードワンとは、穏やかではないね」

 兄が右目を眇めて私に尋ねる。

「オスカーたちが探しているマレの指輪のありかについて、ご報告とご相談で参りました」

 私は、兄にマレの指輪とそのありかについてさくっとまとめて話す。

 探索にはパーティーメンバーが必要なことも。

 オスカーにはマリアンヌが説明している。

 精霊たちは、バスケットを開けてお菓子を食べている。

 ブレない子たちだ。


「エリーゼ、聖マレ教会の地下がその洞窟と繋がっているのは確かなのか?」

「絶対ではないけど、かなり確率は高いと思う」

 美花情報だからほぼ間違いない。

 言えないけど。

 前世のゲーム情報だと察した兄が助けてくれる。

「エリーゼには精霊やクリスがついている」

 オスカーがなるほど、とうなづく。

「しかし、エリーゼいいのか? ダンジョンだとすれば危険はあるが」

「私は毒も呪いも平気だしアルベルトがいるもの。それよりマリアンヌの方が心配だわ」

「そうだな。現状マリアンヌには攻撃力も防御力も不足している。彼女を守りながら進むとすると、俺も無傷でいられるかどうか」

「その前にお前ではあの教会の地下には潜れまい」

 兄が笑う。

「強行突破するつもりか? 教会を敵に回すと、信仰を盾にされるから厄介だぞ」

 それもありますね、とオスカーが項垂れる。

「その教会なら私が同行すれば地下の祭壇までは行けるだろう。公爵家はあそこにちょっとした貸しがある」

 交渉はそういうことに長けている兄に頼むつもりだったが、コネがあるとは思わなかった。

 

 聖マレ教会は、ラピスラズリ教と敵対しているわけではないが、ラピスラズリ女神ではなく、海の大精霊マレを祀っているので、エメラルド王国ではあまり人気がなかったらしい。資金難で潰れそうになった時、この国で唯一、隣国にある港から船での貿易にも関係していた公爵家が援助したことがあるとか。今では、それなりに信者も増え、大きくはないが美しく清廉な教会として国民や旅人にも人気らしい。


「聖女が水の精霊に導かれ祈りを捧げに来たと公爵家の私が言えば、地下へは降りられるはずだ」

「じゃあ、セレステについてきてもらったほうがいいね」

「そうしていただければありがたいな」

「セレステ、いいかな?」

「もちろんよ。マレ様とは私も仲良しだから問題ないよ」

 仲良しなんだ。海の大精霊と。

 へえ。


「アルベルトはいいとして、後はレイナードか。彼の剣はあった方が心強いな」

「呼んでこようか?」

「ロッホ様、よろしいですか?」

「任せて」

 ロッホが飛んでいく。

 何も燃やさないでね、と私は願う。


 しばらくお茶を飲んで待っていると、レイナードとアルベルトがやって来た。

 アルベルトは少しご機嫌斜めだ。

 私は、お菓子を彼に差し出す。

 食べてはくれたが、まだしかめっ面だ。

 先に話しておけよ、ということかな。だよね。でも、今回は仕方ない。マリアンヌがお急ぎだったから。今から行ってきます! とか言うんだもの。


「事情はロッホ様から聞きました。今からでも、私はいいですよ」

 レイナード、いい人だ。さすが、レイチェルの彼氏だわ。

「オスカーには世話になっています。恩返しのできる機会はあまりないですから、ありがたいくらいです」


「アルベルトもいいよね?」

「俺はエリーゼの護衛騎士だ。万難を排して行くに決まっている」

 今のところ、万難はないからね。


「ではいつ行く?」

「今からすぐでもいいでしょうか?」

「今からとは、ずいぶん急ぐな。一刻も早く手に入れたい理由があるのか?」

「実は、マルクスもその指輪を狙っているらしく」

「ほう」

 オスカーはマルクスのあれこれを今も探っているから、そこからの情報だろう。


 マルクスもゲーム情報を持っているらしいから、マレの指輪がある教会が聖マレ教会だとわかっているのだろうか。


「マルクスも聖マレ教会たら指輪を結びつけているのか?」

 いや、美花の情報だと、このイベントで聖マレ教会に到達するのには、いくつか条件がある。

 まずオスカーが攻略対象だと言うこと。

 マルクスがフィリップについていることを考慮すれば、彼のゲーム知識は、フィリップルートに限られていると、考えてもいいかもしれない。フィリップルートだと、魔法の指輪があるよ、という知識だけが得られるが、このイベントはない。

 だとすれば、マルクスは指輪の名がマレの指輪だとわかっていないかもしれない。


「いえ、まだそういう魔法の指輪が存在していて探している、という段階らしい。この指輪を手に入れればマリアンヌの心も得られると、フィリップを唆しています」

 やっぱり。

 それがマレの指輪だと古文書で突き止めたオスカーでさえ、怪しいと思っても聖マレ教会では得るものがなかったらしいから、これは、こっちが断然先に進んでいるかもしれないわね。


「なるほど。しかし、指輪の情報があるとなると、あちらにも諜報部門があるから急いだほうがいいか」

 兄がこめかみに指をあてる。

「どうかな、エリーゼ?」

「すぐに向かいましょう」

 本当は、こういうときにはアマリージョかプラータがいた方がいいんだけど。

 狭い洞窟ダンジョンで火や水を使っての魔法は危険も多い。つまり、ロッホやセレステは戦力として頼り辛い。ヴェルデ頼みになるかもしれない。

 その点、アマリージョは仲間内で一番の攻撃力であるレイナードと相性がいいし、プラータは暗い洞窟で文字通り光となってくれるはず。

 インディゴも役立ちそう。

 洞窟、暗闇、闇魔法という、単純な連想だけど。


 それより何より、会いたいな、みんなに。

 揃って元気な笑顔が見たいよ、と私が思ったその瞬間だった。

「「「ただいま!!」」」

 戻ってきてくれた。

 アマリージョが。 

 インディゴが。

 そしてプラータが。

 私は、おかえりって三精霊を抱きしめた。


 これで万全で臨めるわね。

 初ダンジョン!!


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