留学終了。エメラルド王国に戻ってきました!! part3
第40章 ホームで仲間といると、何かとやりたいことが増えてくるものです。
そういえば?
「ロッホ、神聖帝国での用事はもういいの?」
アマリージョやインディゴは戻ってきていないようなのに。
いれば、絶対カレーを食べにきているはず。
「毎日、エリーゼのお菓子が食べたいって言ってたら、うるさいからもう戻っていいって、アマリージョが。インディゴも帰ろうとしたんだけど、インディゴがいないと悪い奴らの管理とか色々面倒だからダメって怒られて」
「でもあっちには、ロッホの親戚がいっぱいいるんでしょう?」
「いっぱいいすぎて誰が誰だかよくわかんないし。おいしいものなんもないし」
「そうなの?」
「そうだよ。インディゴ泣いてたから、まだ帰れないって言われて」
そうなんだ。
泣くほど食べたいんだね、お菓子。
「じゃあ、アマリージョとインディゴはもう少し向こう?」
「なんかよくわかんないけど、内部監査や粛清、そういうのを担当している枢機卿が国を空けていて人手が足りないそうなんだよね」
まさか、もうすぐこちらに研究者としてやってくる、あの人がそれ?
神聖帝国に枢機卿って、何人いるんだったっけ?
確か八人くらいだよね。
そう何人も国外に出ていないはずだから、可能性は高い。
「その人の名前、知ってる?」
「知らない。研究で国外にいるってさ。法王様、ぷんぷんしてたよ。大事な時だから外遊はダメだって言ったのにアデルとお話ししたらすぐ国を出て行っちゃったんだってさ。研究仲間のどっかの国の公爵と」
これはもうほぼ確実だね。
そういえば、兄の話のときはスルーしてたけど、ユリウス・フォン・ザックス公爵って、どこの公爵なんだろう。
神聖帝国では、枢機卿や大司教、司教が貴族位にあたるが、公爵や侯爵などの爵位はない。
能力主義で、身分は相続できず一代限り。
不正などが判明すると、地位は剥奪され即追放。
それなのに、なぜか枢機卿の親族は大司教や司教になりやすいっていうのは、解せないんだよね。
まぁ、追放前のニュクスのように己の能力だけで枢機卿に上ってくるものも確かにいるようだけど。
「アマリージョたちはアデル殿下といっしょに戻ってくる感じかな?」
「アデルは、当分神聖帝国にいなきゃいけないみたいだよ。法王にあれこれ頼まれてるからね。そのせいでラウルも戻ってこられないんだよ、そういえば」
うん?
ラウルは、留学に合わせて公爵家が派遣してくれた私の執事兼護衛だ。
退寮の手続きなど、ちょっとした後始末のためにオニキス大公国に残っていたが、今のロッホの言葉だと、神聖帝国にアデル殿下といるようだ。
そんな報告受けてないんだけど。
そろそろ戻ってきていて、てっきり父に留学でのあれこれを公爵家で報告しているのだと、そう思っていたのに。
「アデルがリベルタースのあれこれで手いっぱいだったから、マテウスが、しばらく面倒みてやれって言ったんだ。仕方なく少しならって引き受けたら、ラウルが優秀すぎるからアデルが手放さないんだよ。法王も気に入って自分の執事にしようとするしさ。あいつも大変だよ」
ラウルは優秀だからね。
でもね。
「ラウルはうちの、というか私の執事なのに?」
「まあ、エリーゼはこっちにいれば執事なんかいらないだろう? 護衛もアルベルトの他に、レイナードやオスカーもいる」
いや彼らは、護衛ではなく仲間だけどね。
でも、もしなにかあればきっと守ってくれるだろうけれど。
「そうだけど」
「アデルにしばらく貸してあげなよ。こっちにも利はあるし」
「どんな?」
「神聖帝国の裏側にある情報が手に入りやすくなるし、恩を売っておけばもしもの時に便利だよ。なんていっても大陸一の大国なんだから」
確かにね。
それにしても、ロッホがおりこうさんな口をきくと、なんか違和感を覚えるわ。
もしかして、カレーのおかげ? だったりして。
「それからさ」
「なに?」
「デザートも食べたいんだけど」
カレーは関係なかったようだ。
ロッホ、通常運転に戻ったね。
そこへ、タイミングよくマリアンヌがやってきた。
お菓子を詰めたバスケットを持って。
精霊たちがいっそう光りだす。
お菓子の気配に、テンションが上がったようだ。
「エリーゼ。新作なの味見してくれる?」
「マリアンヌ、もちろんよ。精霊たちもお待ちかねよ」
「ふふふ。たくさんお持ちしましたわよ」
マリアンヌがうちの子たちを見回して微笑む。
「ハーブ園で育てていた野イチゴがたくさんとれたので、それをジャムにしてクッキーに挟んでみたの」
私は、一口それをかじる。
うん、想像どおりの味。安定のおいしさだ。
野イチゴの甘酸っぱさが少し軟らかめに仕上げたクッキーにとても合っている。
「ブルーべりーやママレードも合いそう」
私の言葉に、マリアンヌが首をかしげる。
レイチェルとカーリーは、前のめりになる。
そういえば、ブルーベリーってこっちにはなかったっけ?
マーマレードはオレンジがあるから、すぐに作れるけどね。
「ブルーベリーはね、こんな白い花が咲いて、その後に濃い紫の実ができるんけど、これが甘酸っぱくておいしい、らしいの。ヴェルデ、知ってる?」
「ブドウとは違うんだよね?」
私は、メモ用紙をカーリーにもらって、記憶にあるブルーベリーの木を描く。
ヴェルデが私の絵を見て、あれかも? とつぶやく。
「あるの?」
「うん。たぶん。近いうちに持ってくるから、確かめてみる?」
「ありがとう」
同じようで違うもの、違うようで同じもの、前世とこちらでは色々違って、けっこう同じだ。
リンゴによく似た果実。
見た目はそのままリンゴなのに、味はもっと酸味がつよく、食感はやわらかでまるでいちじくのようだ。
そして、私には洋梨のように見える果実アプレが、リンゴの味と食感を持つ。
お菓子作りには、こちらをよく使う。
オレンジはいくつか種類があるが、香りも味も、前世とほぼ同じだ。
「じゃあ、ブルーベリーはヴェルデ待ちで。マーマレードはオレンジなんかの柑橘類のジャムよ。果皮をいっしょに煮ることで、少し苦みがある感じにしあげたものね」
「わざわざ、果皮も一緒に煮るの?」
「食感もいいし、少しの苦みが甘さをすっきりさせてくれるの」
「作り方を教えてもらえますか?」
「いいよ。ハンナに頼んで屋敷の庭からオレンジを持ってきてもらうよ。うちのオレンジ、すっごくおいしいから」
「オレンジもさ、ハーブ園の遊歩道沿いに植えてもいいんじゃない? 柑橘類、全然ないよね」
「じゃあ、ビターオレンジを植えようか? 実はそのまま食べるには向いてないけど、それこそマーマレードにはとてもいいの。それに花も枝葉も実も、それぞれにいい精油になるんだよね」
それに、一年中、緑の葉を茂らせてくれるビターオレンジの木は街路樹にも向いている。
「ハーブ園にぴったりね」
「そうね、ぜひそれを植えましょう。精油がとれるのなら、少し多めに植樹してもいいわね」
「池を作ろうとしている、そこへの遊歩道の脇にどうかしら?」
「いいわね。ちょっと待ってて」
池? 作るって?
カーリー?
カーリーが慌てて食堂を出て行ったと思ったら、すぐに紙束を持って戻ってきた。
「エリーゼがあっちにいってる間に、マックスたちがラベンダー畑の奥に池を作って水辺の植物も育てたらどうかなって。池にはロータスもどうかなってことになって。エリーゼが戻ってきたら相談しようと思っていたの」
カーリーが広げた紙には、池とその周囲の植栽の計画図が描かれていた。
「素敵ね。学院の許可がとれたらぜひやりたいわ」
「ロータスは、精霊ニュンペが大好きな花だよ。育てたらきっとたくさん集まってくるよ。きれいな水を保ってくれるし、周囲の木々や花にも栄養をくれるよ。それに、力の強い精霊が来てくれたら、病を治す水が沸いてくるようにもなるよ」
「本当ですか? ヴェルデ様」
「もちろん。白銀ロータスがあればいうことなしね」
「白銀ロータス、なんて見つかるかしら?」
白銀ロータスといえば、ヴェルデたちのような大精霊が宿るといわれている伝説の花じゃないか。
絵本でしか見たことがないけど。
「蒼の森にあるからオリエントに頼んで分けてもらえばいいよ。少しなら大丈夫」
「でも、学院の池に伝説の花って、どうなんだろう」
「それもそうね」
「大精霊目当てに、いろんな人が池にやってくるのも考え物よね」
「ふつうのロータスなら、精霊がやってくるってこと知ってる人はいないはず。それなら文官養成科で情報統制をすれば、おおごとにならないよね?」
「ヴェルデ、今回は白銀ロータスはやめておきましょう。恩恵が大きすぎると色々問題がでてくるかもしれないから」
大精霊の加護を受けようと、いらぬ争いが起こったら学院に申し訳ない。
「いいけど。大精霊なら、エリーゼのまわりにいっぱいるじゃない。私も、プラータも、もうすぐアマリージョも大精霊になるわ」
そうなの?
「エリーゼといっしょにいると、どんどん魔力が上がるから、そのうちみんな大精霊になるかもね」
へえ。
お菓子ばっかり食べてるのに。
「それより池で大丈夫なの? ニュンペは泉のイメージだけど」
神話の絵本とかだと、水が湧き出でている場所からニュンペが登場する絵をよく見る。
「水がきれいなら池でも問題ないよ」
まあ、泉だと湧き出ている場所だから、植物を植えたり育てたりもできないか。
泉を利用して池を作ればいいのかもね。
「セレステ、泉って作れるのかな?」
「湧きやすい場所はわかるからそこを掘れば可能ね」
「じゃあ、池を作る計画の辺りをセレステに見てもらおうか。そこにもしそういうポテンシャルがあれば、湧水を利用して池を作ろう。ないなら魔法でお水を貯めようか。マックスとも相談しないとね」
「今日はずっとえハーブ園で手入れをするって言ってたから、後で向こうで打ち合わせしよう」
レイチェルが、なにやらブツブツ言いながら指を折っている。
「レイチェル?」
「この計画がうまくいったら、新しい精油がいくつできるかなって」
「少なくとも5つはできるね。後は組み合わせで香りの幅が広がるしね」
ビターオレンジからとれる精油ネロリやロータスの薬理効果はまだわからない。
でも前世の知識とこちらでの経験を合わせて考えてみると、コリアンダーとネロリには高い薬理効果が望める気がする。
このあたりの検証は時間をかけてやってみたい。
ロータスには薬理効果は正直期待できないようにも思う。けれど香りはいいはずだし、何より精霊たちの恩恵があるようだから、そちらを期待しよう。
「エリーゼ、これを」
マリアンヌが、最後に手渡してくれたのは招待状だった。
三日後の日付のお祝いの会への招待のようだ。
「カーリーが、条件が整って、国王陛下の認可もおり正式にエルスター男爵家の令嬢として迎え入れられたので、そのお祝いをするんです。身内だけの小さなパーティーですがぜひ来ていただきたくて」
「カーリーおめでとう。もちろん出席させてもらうわ」
「ありがとう。まだ実感はないんだけど。いきなり貴族令嬢になりました、って言われてもね。でも、マリアンヌと姉妹になれたのは嬉しいの」
「私もよ。本当なら、実の娘であるカーリーが見つかったのだから私が出ていくべきなのかもしれないけれど、お父様もカーリーも、ユークリッドお兄様も含めていっしょに家族になろうと言ってくれて」
「そういえば、ユークリッドは今どんな感じなの?」
「お兄様もエルスター男爵家で養子にというお話はあったのですが、ヨリンダーナ枢機卿の罪を明らかにしたのちできれば神聖帝国でリンドグレーンの家の名を復活させたいというお気持ちが強いようで、それをお断りになりました。今はヴォーヴェライト公爵家の騎士団に入られて訓練に励んでおられるようです」
はあ、うちの騎士団は王宮のどの騎士団より訓練が厳しいらしいけど。
騎士団長のオジエルは、見た目も言動も鬼だ。
彼の下で頑張っているのか、いや、同情するわ。
兄のマテウスにも容赦がなく、何度も涙目になったと言っていたもの。
「当日は、マテウス様もヴォーヴェライト公爵ご夫妻も来てくださるそうです。後は、オスカーとレイナードとレイチェル、もちろんアルベルトも。ご両親の辺境伯ご夫妻もちょうろ王都にいらっしゃるそうで、お顔を見せてくださるそうです。後は、カーリーの修道院の修道院長様ですね」
それは、身内だけとはいえ、外に漏れたらよからぬ噂が立ちそうなメンバーでもあるわね。
「アデル殿下とミケランジェロにも来ていただきたかったのですけど、まだ神聖帝国からお戻りにならないようなので」
時間が合えば転移魔法で連れてきてもいいけどね。
セレステには泉のこともあるから、ヴェルデに頼んで連絡してもらおうかな。ロッホはまた神聖帝国に戻れって言ったらむくれそうだし。
「転移魔法で連れてくることもできるから、時間がとれるかどうか聞いてもらうよ。ヴェルデ、アマリージョに伝言してくれる?」
「いいよ」
「ついでにアマリージョたちにもお菓子を届けてくれると嬉しいかな」
「任せて」
両親に会うのは久しぶりだ。
やはり嬉しい。
色々相談したいこともある。
でも、まずはアルベルトと話し合わないと。
先延ばしにしてきたけれど、この先を見据えるのなら、彼と私の間にあるもやもやは今、すっきりさせるべきだろう。その時期がきたと思う今日この頃だ。




