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留学終了。エメラルド王国に戻ってきました!! part1

Sany様より、とても素敵なレビューをいただきました。ありがとうございます。

第38章 ハーブの香りに癒され日常を満喫しながらも、覚悟は決めます。


 留学から戻ってきた翌日、早速私は文官養成科のクラスに顔を出した。

 関わっている研究グループの進捗を確認し、説明を受けたり意見を出したり。

 慣れ親しんだ空気感、安心感ともいえるけど、もうそれだけで、頬が緩んでくる。

 それから足取り軽く、ハーブ園のお手入れにも。

 

 ハーブの清々しい香りに包まれ、カーリーやレイチェルと他愛無い会話を楽しみながら散策するだけで、楽しいな、と心から感じる。

 信頼できる仲間と好きなことに埋没できる時間ほどかけがえのないものはない、と前世の学生時代と同じような感覚を、エメラルド王国を離れて改めて知ったわけだね。

 

 留学中も、リベルタース関連以外で嫌な目に遭ったらすることはなかったし、魔草学など興味深い授業もあったけれど、やはり緊張感がいつも解れなかった。

 戻ってこれて本当に良かった。

 今はやはり、学院が私のいる場所、愛すべき日常だ。


 などと思った3日後、兄から図書室に呼び出された。

「マルクスのことでしょうか?」

 ニュクスから仕入れた情報をもとに、兄が諜報を使いマルクスについて調べていることは知っていた。

 早々に呼び出しとくれば、そう考えるのは妥当だろう。

「どうやら、あれがマルクスに影響されているのは間違いがないようだ。常に近くに侍り、二人きりになるときまってヴォーヴェライト公爵家やエリーゼが、王家に対しよからぬ感情を持っていると吹き込んでいる。同時にマリアンヌとの仲を深めるよう唆してもいるようだ」

「ですが、それだけで、あそこまで?」

 あれは、影響というレベルではなく洗脳では?

 それに、私や我が家の悪口を言いまくっているだけでは、いい気分ではないが、彼を罪に問うのは難しいだろう。そんなことで彼を捕縛すれば、公爵家が権力の横暴を問われる、

 

 あ、でも、ルクスやニュクスの証言からもマルクスがリベルタースの一員だということは明らか。

 この証言は、イザベラ王女も聞いていらしたし、おそらくラピスラズリ神聖帝国でもその証言は共有されているはず。

 だったら、早めに彼をフィリップ殿下から離した方がいいのかしら。


「問題は、それが魔法でもなく呪いでもないようだということだ。魔法や呪いなら魔道具で証明できるが、彼が行っているのは、そういう類のものではないようなのだ」

「というと?」

「どうやら、なんらかの方法で殿下を精神魔法下にあるような状態にした上で、お前や我が家への憎しみをうえつけているようだ」

 まあ、前世の記憶のある私には、予想通りではあるけれど。

 こちらでは、魔法が溢れているので、それ以外に考えが及びにくいのかもしれない。

「催眠術でしょうか」

「術? ということは魔法ではなく魔術なのか?」

 うーん、どうかな。

 でも、そういう理解の方がこちらではわかりやすいのかしら。

 だけど兄は、私の前世を知っているから、ここは私の知っている知識を正直に説明しておこうか。


「私の前世には、人間の心理を研究し、特殊なコミュニケーション技術を使い、自分や他人を操る技術がありました。そこに魔力は介在しないものです」

「ほう。魔法でないのに精神魔法のような効果があるものが存在していたのだな」

「そうです。でも、誰にでもできるわけではなく、誰でも催眠状態に引き込まれるものでもないのです。正しい知識と技術を持った者が、かかりやすい人間に行使すればそうなるというもので。それも含めて、マルクスは、そういう知識のある、もしかしたら私と同じ転生者なのではないでしょうか? それも、私と同じ世界からの」


「エリーゼと同じ世界からの? 根拠は?」

「彼は、予言をしていますよね、私の断罪の」

「あれを予言というのかね。いくつもありえないようなことを並べているらしいが。オスカーがあれにはかなり憤慨していた。この世界の至宝になりえるかもしれないエリーゼを、自分が害すことなどありえないとな。いや、そもそも女性の顔を焼くほど野蛮じゃないと言ってたかな」


 そうだよね。

 私も美花のメモを見てそれは思った。私の知っているオスカーなら、どれほど恨みをため込んでも女の子の顔は焼かないんじゃないかなって。火魔法に拘るなんらかの理由があったのなら、ひと思いに消し炭にするだろう。


「あれは、私の友人がやっていた例のゲームのバッドエンドのあれこれなんです」

「なんだと」

「ゲームのヒロインがどんなルートを通るかで、私の断罪も種類が変わります。一番ましなのが国外追放というだけで、ヒロインがさほど幸福になれない道を進むと私の断罪も重く酷いものになるようです」

「そんな理不尽な」

 そうだよね。

 ふつうに、理不尽だ。

 本人の生き方ではなく、他人の生き方、運命の選び方とその結果で、私の運命も定められていくのだから。

 でも、それはゲームの話。

 私がいるここは、ゲームではない。

 それぞれが、ヒロインの意思とは関係なく自分の想いや努力で運命を切り開いていける世界。

 それに、ヒロイン=マリアンヌだって、誰かに操られているわけじゃない。

 自分の意思で選択をし、努力を重ねて生きている。

 攻略対象である兄やアデル殿下、レイナード、オスカーと、フィリップ殿下以外のメンバーは、すでに私の信頼できる仲間で、それぞれに自分の頭と足で考え歩んでいける人たちだ。

 だから、私は私のできることをするだけ。仲間を信じて。それにつきる。


「つまり、その乙女ゲームとやらでは、ヒロインであるところのマリアンヌに、エリーゼの運命が左右されるということか?」

「そういう側面もあります。一番は、ゲームでのエリーゼが呪いを受けていた当時の私のまま、他人をないがしろにし傲慢でわがままな公爵令嬢であり続けるからですが」

「しかし、今、エリーゼの呪いは解け、お前は精霊たちの愛し子ではないか」

「そうですね。それに、マリアンヌや攻略対象のメンバーともいい友人になれました」

「攻略対象とはなんだ?」

 そういえば、兄にゲームの詳細は話していなかったかも。

 だって、兄がその攻略対象だから、なんか言い辛いっていうか。

 兄に簡単にそれについて話す。

 やはり、自分が対象だったことに兄はひどくショックを受けていた。

 ちなみに美花によると、ゲームでは、兄は二番人気らしい。


「一番は誰?」

 ヴェルデ、無断で心を読むのはやめてよ。

「うん? 一番とは何の一番だ?」

 兄が首をひねる。スルーして欲しかったけど。


「攻略対象の一番に決まってるじゃない」

「そうなのか、エリーゼ?」

 なぜか、兄は聞きたそうだ。

 二番って、兄にとってどうなのかしら。

「お兄様、人気など移ろうもの、興味を持たれる必要はありませんわ。それに私の一番は、いつでもお兄様ですから」

「つまり、私は一番人気ではないのだな」

 こだわりますね。


「ならよかった。なんでも頭に立てば気苦労ばかりだからな。私は二番手三番手ぐらいが好きだ。上を目指すモチベーションも保てるし、追い落とされる心配ばかりしないですむ」

 おお、そういう意味か。まったくもって兄らしい。

 これがアデル殿下なら、一番ではないと知った瞬間から憂い顔で静かに落ち込むだろう。

 王族って、王位継承権を放棄していても王族なんだね。一定の気位を手放せないというか。

 でも、それがアデル殿下のいいところでもあるわ。気位はオーラや威厳につながるから。


「では、そのバッドエンドとやらは、もう心配しなくていいのか?」

 どうなのかしら?

 今日あたり、またクリスを視るべきか。

 いや、マルクスをフィリップから引き離してからの方がいいかもしれない。希望をこめてから


「マルクスの件がうまく解決すれば、おそらくは。けれど、それでもクリスによる断罪場面が変化しないのなら、もうそれはどうしようもないことかもしれませんね。そろそろ私もお兄様も腹をくくって、国外追放への対処をするか、先にこの国を出ていくか、いずれにしろこのエメラルド王国を去る段取りをしたほうがいいかもしれません」

 それがこの国を滅ぼすきっかけとなるかもしれないとわかっていても。まずは、家族の命を守ることが先決。その上で、次の手を打つべきだろう。


「そのことは、父や母ともすでに話し合ってある。あと一年半、二か月を残してその時点で、卒業記念舞踏会までに状況が変えられない場合、ヴォーヴェライト公爵家は爵位と領地を王家に返還し王宮での職を辞し、サファイア王国に新天地を求めることで意見は一致している」

「すでにそこまで?」

 少し驚いた。


「ああ。そのために、母上は商会の経営業務をサファイア王国の支店に移管しつつある。父上はサファイア王国の王より以前に賜った別荘地に屋敷を建設中だ」

 今更だが、お子さまの私以上に家族はしっかりと先を見ている。

 クリスの未来視がなくても。


「いつ何がおこっても、我が家はエリーゼを全面的に支援し行動を共にする覚悟だ」

「謀反の冤罪をかけられませんか?」

「かけようと思えばできるだろう。しかし、そうなれば受けて立つだけだ」

「私のためにそこまで」

 小さくはない我が家の地位、財産、名誉、それをすべて投げ出すと、両親や兄は決めているのだ。ただ、私エリーゼのために。

「当たり前だ。家族とはそういうものだ」

 それなら、私も家族を守るだけだ。精霊たちや家臣団、友人も含め、私が家族だと信頼している者たちすべてを。

 

「それにしても、よくマルクスの動向がそこまで詳細に調べられましたね」

 王族の守りは鉄壁だと言われている。

 隠密も王族のプライベートに近づくことは難しいはず。

 もっとも、精霊たちなら容易いだろうが。

 けれど、精霊たちは、リベルタースの後始末で忙しくマルクスの調査にはてを貸していないようなのだ。


「オスカーの手柄だ。彼が、小型の盗聴魔道具を作り上げ、それを王子の私室に設置した」

 オスカー、学院に戻っても顔を見かけないと思ったら、そっち方面で頑張ってくれていたんだね。

「どうやら、前々からオスカーはマルクスに対し不信感を持っていたらしく、今回のことを話すと率先して諜報活動に協力してくれた」

 優秀なだけに、オスカーの将来がちょっと心配。

 このせいで、王族ににらまれたら彼の将来に影が差してしまう。

 しかも、私が追放になりそれを契機にヴォーヴェライト公爵家も国を出れば、オスカーの寄る辺がなくなるのでは?

 兄のことだ、その辺りも含めて彼を使ってはいるのだろうが、最近オスカーといい雰囲気のマリアンヌのためにも、一度じっくり話をしておきたいな。


「リベルタースとの関りで、マルクスを拘束はできないのですか?」

「できなくはない。が、フィリップ殿下の彼への心酔ぶりが半端ではないので、もう少し証拠を固めて、リベルタースと、王族への裏切りの二面からきっちりと彼を追いこんでいきたいと思っている」

 それもそうか。

 

「では、マルクスを追い込んでいける目途はついているのですね?」

「そうだな。証拠は集まりつつある。もし彼がエリーゼと同じ前世をもつ者なら、最終段階になれば、慎重にエリーゼの力も借りた方がいいかもしれないが」

「つまり精霊たちの?」


 前世の乙女ゲームに私の精霊たちは誰も登場していない。いくつかのイベントに精霊王や火の精霊、光の精霊が出てくるが、イベントが終わればなにかしらの魔道具や力を与えてそれきりだ。

 だからこそ、彼らの力はマルクスにとても有効だろう。

 ゲームの知識があっても何の役にも立たないのだから。


「そうだな。帝国でのリベルタースの件が片付けば、お力を借りたいと思う。頼めるか?」

 私は、ヴェルデを見る。

「いいと思うよ。というか率先してやるでしょう」

「それなら、私はおいしい新作のお菓子を作らないとね」

 ヴェルデが、拳を振り上げ歓びのポーズをとる。

 テンションが高まった時の私にそっくりで、苦笑するしかない。


「で、本題だ」

 え?

 マルクスの件で呼ばれたわけではないの?

 私は、とまどいながら兄を見つめた。



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