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敵の陣地に留学します。せっかくなので楽しんじゃうよ!! part7-4-1

第36章 いよいよ、本丸の裁判です。とはいえ、私は傍聴人ですが。


 まず、魔法師のメロウが連れてこられた。

 私の知っている彼女は、いつも深くフードを被っていたので気づかなかったが、意外と若い。

 私よりほんの少し年上かしら、そんな風に見える。


 彼女は、百回の不幸ののち蛙に姿を変えられていたが、今は人に戻っている。

「この魔法師は、メロウ、出身はラピスラズリ神聖帝国。父は今回の首謀者の一人であるルクス。母は、すでに病で亡くなっている」

 この人、ルクスの実の娘だったの!?

 意外過ぎる。

 二人が並んでいても、そこに家族の情愛はまったく感じることができなかったし、彼女はあの時、自分だけを連れて行って欲しいと取り縋ってきた。すべてはルクスに命じるままにやったことだと言って。


「この女は、わかっているだけで238件の犯罪でその魔法を行使し、少なくとも32人の命を故意に奪っています」

 アマリージョの声は、冷え冷えとしている。

「証拠は?」

 兄がアマリージョに聞く。

「そうよ、証拠を出しなさいよ」

 メロウが便乗するように叫ぶ。

 アマリージョがいっそう冷たい目をメロウに向ける。

「精霊の言葉を疑うと?」

「精霊が何様だって言うの? なんの権利があって人を裁くの? 精霊なら精霊らしく、お花畑で遊んでいなさいよ」

「精霊なら精霊らしく、今すぐあなたをこの世の果てに吹き飛ばしてもいいのよ」

 アマリージョが鼻で笑う。

「燃やすぞ」

 ロッホもおかんむりだ、

「その両目をつぶしましょうか」

 プラータもいつもより過激だね。

 どうやら彼女は、精霊たちにかなり嫌われているらしい。

「やっぱり水攻めでしょう」

「そこは氷漬けでしょう」

 セレステとマリンは水の精霊同士で言い争っている。

 どっちもダメだからね。


「茨で巻くのが一番よね? 巻いたまま崖からバンジーとか?」

 ヴェルデだけは私のとなりにいるせいか、小声で私にささやく。

 とりあえず、裁判の結果を見守りましょうね。


 あら、そういえば、インディゴはどこ?

 いた。

 インディゴはどうやらルクスとニュクスを見張っているようだ。

 ハーブクッキーを頬張りながら。


「証拠はありますか?」

 兄が精霊たちの言葉を聞かなかったかのように流し、淡々と同じ言葉を繰り返す。

「クリスにお願いしましょう」

 クリスがスクリーン状に変形し、神殿の朽ちた壁に貼り付けるようにセットされる。

 この三日ほど、この証拠映像の編集のために、私とアルベルトは学業を放り出していた。

 イザベラ王女のように真の箱入りお嬢様の目に触れることを考え、残酷な場面を省き、しかし、はっきりと彼女の犯罪が証明されているような場面をいくつかピックアップしている。

 もちろん、ルクスやニュクスの分もだ。


 スクリーンに、メロウが大映しになる。

 今よりさらに若い、子どもといってもいい容姿だ。

 メロウの前には、男が二人、縄で縛られている。腫れあがった顔や赤や青のあざだらけの体から、拷問を受けた後なのでは、と推察される。

「やれ」

 姿は見えないが、ルクスと思われる声がする。

「こいつらは、闇の属性をもつ者たちを狩るために帝国から派遣された者たちだ」

「なら、殺しちゃってもいいんだよね?」

 メロウがニッと笑う。

 無邪気すぎて恐ろしい笑み、私の腕に鳥肌がたつ。


 メロウが、杖を彼らに向ける。

 闇の火魔法が彼らを包む。映像はそこで終わる。その後は、とても正視できないものだったから。


「これが、彼女の最初の殺人。二人の命を奪っています」


「なるほど。むごい仕業だ。しかし、彼らもまた闇の属性を迫害してきた者たち。殺されても仕方ないとは言わないが、彼女にも弁明の余地があるのでは?」

「殺されてもしかたない者だ。しかも私は命令されてやっただけ。裁かれるようなことではない」

 メロウも叫ぶ。


「それはこちらはどうでしょうか?」


 次にクリスが映し出したのは、五人の奴隷と思われる男女。

 林のような場所で、繋がれていた鎖が外される。


「逃げていいよ。逃げられるのならね」

 フフッとメロウが嗤う。

「私から逃げられたら、自由になれるよ?」

 奴隷たちは戸惑っているのか、誰も逃げ出さない。

「早く、逃げなよ。逃げないとこうなるよ?」

 メロウが一人の奴隷に杖を向ける。

 闇魔法で作られた火矢が奴隷の一人を貫く。彼は地面に崩れ落ち、その傷口からは火が出ている。

 小さな女の子が、お父さん、お父さん、と縋りつく。

 その女の子に向け、メロウがまた杖を向ける。

 そこに割って入ったのは、兄が保護をしたユークリッドだ。

「メロウ様、魔法の練習をされるのでしょう?」

「うるさいわよ。あなたも奴隷なんだから、いつ殺してもいいのよ」

「それでお気がすむのなら、どうぞ、ご自由に」

「はっ、死にたがっている者を殺しても楽しくないのよ。怯えて震えて叫びながら逃げ惑う、そんな者たちを仕留めるのが楽しみなんだから」

 この場面はここで終わっている。

 理由は、ここにいる誰もが察しているだろう。


「これで、この女が命じられて仕方なく人を傷つけ殺めていたという嘘は、暴かれましたわね」

 アマリージョがメロウを追い込む。

 

 嘘よ、でっちあげよ。こんなのみんな嘘よ。メロウは泣き叫ぶ。

 

 その後ろで、クリスが、淡々と、二百以上に及ぶ彼女の犯罪の証拠を映し出していく。

 編集に悪意があるのは否定しない。

 連日の徹夜で、酷い場面ばかりを見続けたせいか、アルベルトも私も、若干心を病んでいた。


 アデル殿下が、厳かに言い渡す。

「そなたは、ラピスラズリ神聖帝国に送られ、そこではるか高みに送られる」

 神聖帝国とは話がついている。おそらく、彼女が多くの命を奪った火魔法で処刑されるのだろう。

 メロウは、泣き叫び地団太を踏み、周囲に恨みをまき散らした。

 そのせいで、インディゴに再び蛙に変えられ、闇空間に送られていった。


 次はニュクス。

 ニュクスはずっと鶏のままだったそうだが、今はやはり人に戻っている。

 

「彼の本名はプロイ。ラピスラズリ神聖帝国で孤児として育ち、その明晰な頭脳と高い魔力をかわれ神聖帝国の中枢ともいえるラピスラズリ神殿の神父に採用され、若くしてプロイ枢機卿にまで上りつめた者。しかし、神殿は魑魅魍魎の闊歩する場所。そこで生き抜くには彼は純真過ぎ、駆け引きが下手すぎたようです」

 たしか、妬みで謀に巻き込まれ闇の属性がばれて逃げ出したとか。


「その後の彼は、オニキス大公国でルクスと出会い、光と陰の陰の役目を担うようになります。ルクスが権力を握るにつれ彼は名をニュクスと名を変えリベルタースを生み出すことになります。リベルタースでは、自分たちの信念にのみ基づき、恐喝、誘拐、殺人、呪いの薬・麻薬の製造などを指示してきました。あげくのはてには、悪魔と契約までする愚かぶり」

 アマリージョは歯に衣着せなさすぎるのでは?

 いや言い方じゃなく、あの目の冷たさが問題なのか。

 怖すぎる。

 プリンだけじゃ、物足りなかったのかも。 


「闇の属性のある神父や枢機卿は、実はかなりの割合、神聖帝国に存在する」

 兄が言う。

「なぜなら、聖職者には光の属性をもつ者が多いが、光の属性は闇の属性と表裏一体にあるもの。闇の属性があってこそ光の属性は輝きを増すからだ。現に、ニュクスを陥れた同僚もまた闇の属性をもつ者」

 おお、と私が驚いていると、ニュクスがそれ以上に目を見開いている。なんと、知らなかったようだ。


 お兄様、弁護人の体で、もしかしてニュクスの心を抉っています?


 光の属性にありその力が強い者は、闇の属性を持つことが多いということか。今さらだけと。

 自分のことを考えれば理解しやすい。

 闇の魔法を深く学ぶにつれ、光魔法が強くなってきたことを実感している。


「闇の属性への、誤った偏見が彼をここまで追い込んだのでは?」


「それはどうかしら? 多少はあったかもしれませんが、つまるところ彼が権力闘争に敗れただけ。力がなかったということ。それに、オニキス大公国に逃れたのなら、闇の属性に偏見のないそこで復讐以外の道を歩むこともできたはず」

 そこでアマリージョは私に視線を向ける。


「そこにいるエリーゼは、全属性魔法の持ち主。当然闇の魔法も使います。彼女は闇魔法で呪いを解呪したり病を癒したりでき、彼女の光と闇の魔法の複合魔法は芸術的でもあります。彼女は闇の属性を隠してはおりませんが、ラピスラズリ神聖帝国を訪れた際にも国賓待遇で歓待されていました。なぜだと思いますか?」

「さあ。友好国であるエメラルド王国の高位貴族の令嬢だからでしょうか?」

「それもあります。しかし、一番の理由は、彼女が精霊の加護を受けているからです。精霊は女神の使者でもあり、高位の精霊は女神の代弁者でもあります。つまり、彼女は女神に愛されている存在だと、かの国に公認されている」

 そうなんだ。

 実は、あの国を訪問する際、少し不安だった。

 闇の族性への偏見がひどいと聞いていたから。

 だからなのか。

 ヴェルデがずっと姿を現していたのは。

 わあ、いまさらだ。ほんとうにありがとう、ヴェルデ。私をそうやって守ってくれていたのね。


「しかし、精霊の加護を受ける者は稀。努力をしたからといって加護を授かるものでもないでしょう」

 兄は、その努力を放棄している。

 私のために。

「魔力が高く、それを世のため人のために使い懸命によく生きれば、精霊はその魂の香りに惹かれ人に加護を与えます。エリーゼのように幼い頃にその加護を受ける者は稀ですが、たゆまぬ努力と献身で加護を授かった者は少なからずいます。そこのイザベラのように」

 あとおいしいお菓子や食べ物ね。

 もうわかっているんだよ。


「イザベラ様もまた、王族という立場にあったからこその加護ではないのですか?」

 確かに、王族や高位貴族は精霊の加護持ちが多いように思う。

 エメラルド王国の王妃様もまたそうだし。

「そういう立場の者は魔力が高く、また人々を健やかに導くことができやすい立場にあることも一因でしょう。しかしそうでなくとも、精霊の加護を受けている者もいます。それにそこのニュクスは、努力のかけらも示しておりません。権力闘争に負け、祖国を追われ、ただ復讐のためだけに多くの犯罪を重ねたのです」


「けれど、彼は殺人を犯してはおりません。他の犯罪も指示のみ」

「小賢しいことを。指示した者も犯した者と同じ罪。いや、それ以上の罪がある。しかもリベルタースでは隷属の首輪や呪い薬でその行動を強制されている者も多い。その場合、責任は誰にあると思う?」

 アマリージョがニュクスに直接問う。

「それは、指示した者、組織のトップにあるかと」

「ルクスにその責任をすべて押し付けるつもりか?」

「いえ。リベルタースはルクス様が作り上げた組織ですが、実質運営していた責任者は私。その責は私にあるかと」

 まともな答弁のように思う。

 鶏でいた間に、彼も反省したのだろうか。

「では、どのようにその罪を償うつもりだ?」

「死をもって。他にその責のとりようがあるとは思えません」


「弁明はしないのか」

「自らの復讐のために多くの人々を苦しめ、時にその命を奪ってきたことは理解しています。そこに弁明の余地はありません」

 意外だった。

 何が彼を変えたのか。

 もし、帝国で彼が謀に巻き込まれることなく過ごしていたら、よい指導者になったのかもしれない。そう思えるほどに、今日の彼は私の知らないニュクスだ。

「ずっとインディゴが(ニュクス)の餌に、エリーゼのハーブクッキーを与えていたら、あんな感じになったらしいよ」

 嘘!?

 いやそれより。

「なぜ? あれは魔力を上げるからニュクスに食べさせたら危ないんじゃないの?」

「だって、もう魔力はないんだから上がりようがないでしょう。結果、恨みや憎しみが薄れ、冷静な思考が戻って来たんだから、良かったんじゃない?」

 それはそうか。

 1を2にすることはできて(ゼロ)は0のままか。


 ヴェルデの意外な言葉に、びっくりだ。

 魔力を向上させる力があるだけでなく、心を鎮める効果もあるなんて。

「あら? 神妙な態度になって反省する態度を見せても、あなたの罪は多く重く、とても許されるものではないのですよ」

 アマリージョはクリスを使い、ニュクスの罪の場面が次々と映し出す。

 拉致誘拐、殺人教唆、隷属化の指示、等々。


 ひときわ手厳しいとは感じるが、理解はできる。

 どれほどの罪を重ねたのか、死を覚悟した程度では許せないほどの罪があると、彼に今一度自覚させたいのだろう。


「わかっています」

 彼はクリスに映し出される自らの姿から視線を逸らすことなくうなづく。

「ただ、最後にどうしても伝えておきたいことがあります。私を捕らえ、これ以上罪を重ねることから救ってもらったことへのささやかなお礼に」

 皮肉ではなさそうだ。

 彼の目は、もう凪いでいる。


「あら、なにかしら?」

「そこにいるエリーゼ様に関することです」

 えっ? 私?

「正確には彼女の婚約者、エメラルド王国の第二王子フィリップとのご関係のことですが」


 兄とアデル殿下の顔色が変わる。


「フィリップ殿下の侍従の一人はリベルタースの一員です。彼には予知能力があり、しかも彼は薬や呪いではなく、人の心を操ることができます」

 予知能力?

「それはどういったものだ。具体的に彼が予知したことで知っていることがあれば教えてくれ」

「そうですね。たとえば、マリアンヌ嬢が聖女としてエメラルド魔法学院に入学しフィリップ殿下の心を射止めるとか」

「それは、予知というほどのことでもあるまい。フィリップがマリアンヌに懸想していることは周知の事実だ」

「いや、彼はそれをマリアンヌがまだ平民であった頃に予知しています」

 おや。

「そして、マリアンヌ嬢との婚約を成すため、フィリップ殿下がエリーゼ様とのご婚約を破棄することも」

「それはいつ、どこでだ?」

 兄が私の先見と比べるためなのか、ニュクスに尋ねる。

「たしか、卒業記念の舞踏会でと。しかも、エリーゼ様はその場でフィリップ殿下によって国外に追放されるか、あるいは、騎士科のレイナード様の剣で両足の腱を切られるか、あるいは魔法科のオスカー様の魔法で顔を焼かれるか、あるいは兄のあなた様の手で屋敷の地下牢に幽閉されるか、あるいはアデル殿下の手で火あぶりの刑に処せられるか、いずれにしても不幸な未来が予知できると」

「なんなのだ。そのあるいは、あるいは、といくつもエリーゼの不幸を予知するとうのは。少なくとも私やアデルがエリーゼを手にかけることなどありえん」

 兄が切れた。

「わかりません。彼が言うには、マリアンヌの選択次第でエリーゼ様の運命の道はいく通りにも変わるそうで」

「どういうことだ?」

「わかりません」


 わかるけどね。

 これは、マリアンヌが選択する恋のルートで起こりえるバッドエンドのあれこれだ。

 

 ようするに、その侍従は私と同じように、ここが『ジュエリー・プリンセス』のゲームと似た世界だと認識している前世の記憶の持ち主だってことだよね。転生者か転移者かはわからないけれど。

 でも、侍従ということは男性なんだよね。

 男性があの乙女ゲームを知っていたなんてね。意外と言えば意外。

 だけど、転生者なら前世と今世で性が違うこともあるか。

 あるいは、姉妹や恋人がはまっていたゲームで知識があったのかもしれない。

 

 でも、ようやく納得できた気がする。

 あの断罪の場面で、ゲームの他の条件が様々に変わっているのに、フィリップ殿下の言動がまったく変わらないことが不思議だったが、同じような前世の記憶をもつ者が薬でもなく魔法でもなく殿下を誘導しているのなら、それも理解できる。

 フィリップ殿下は洗脳されているのだ。

 

「まさか。侍従になるには、徹底的な身体検査が行われる。家柄、学院での成績、交友関係、王家への忠誠心。そのような者がリベルタースの一員であるはずがない」

「それこそ、まさかです。リベルタースの幹部はほとんどが貴族、それも高位貴族ですよ?」

 アデル殿下、動揺しすぎでは?

 マリアンヌの拉致誘拐の件でも、ニュクスの言うことが事実だとわかっているはず。


「それなら、あの殿下のエリーゼに対する頑なで非常識な態度も納得できるではないか? 実際、我々は何度もフィリップ殿下に、呪いの魔法や薬に侵されている可能性を確認してきたわけだから」

 そうなのだ。

 兄や殿下は、何度も繰り返しその可能性を口にし、フィリップ殿下の周辺に隠密を送りこんでいる。

 しかし、その痕跡はまったく見つからなかった。

 それでも、その危惧はいつまでも消えない。

 なぜ、フィリップ殿下が、私への断罪をこれほど強固に行うのか。

 その理由がわからなかったから。


 フィリップ殿下は、学院での活動を見る限り、特に秀でてはいないが悪くもない学生だ。容姿以外褒めるところがないと、私も心の中で悪口を言ったこともあるが、自分の行動が王家に、国にどんな影響をもたらすのかがわからないほど馬鹿でもないし、わかっていてやるほど悪人ではないということは知っている。

 学院内でも、マリアンヌに限らず平民や平民から貴族の籍に入った者への差別意識もないようだし、私以外の人への酷い暴言も聞いたことがない。


 オスカーは距離を置いているようだが、魔法科の他の有力貴族の子女は今でも彼の周りをしっかり固めている。マリアンヌも彼を嫌ってはいない。ちょっと困ったところはあるけれど良い方だと思います、といつも言っている。

 

「その侍従の名は?」

「マルクス・フォン・ラインバッハ」

「ラインバッハ侯爵家のマルクスか? まさか。あの清廉潔白が服を着て歩いていると言われているあの男が?」

「ラインバッハ侯爵家は、虎視眈々とあなたの国の主導権を狙っています」

「それは知っている。タイガーアイ王国と通じていることも辺境伯から報告を受けている。しかしマルクスは家とは距離を置いていて王家への忠誠心も強いと思っていたのに」


「彼は家とは関係なく、この国を滅ぼしたいのだと言っていました。そのためにはリベルタースやタイガーアイ王国と手を結ぶことも厭わないと」

「滅ぼす? なぜだ?」

「理由は知りません。ただ、リベルタースでは祖国へ恨みをもつ者は多いので特に不思議だとは思いませんでした」

「しかしそれが本当だとして、たかが第二王子の侍従では、とうてい無理な話だ。エメラルド王国を滅ぼすなどということは」

「しかし、エリーゼ様という聖女以上の存在をうまく利用すれば。その可能性が生まれると彼は思っているようです」

 確かにね。

 ゲームでは、そもそもエリーゼに精霊の加護はないし、属性も火と闇のみ。どのバッドエンドでもエリーゼは闇堕ちし、エメラルド王国に刃を向ける。その後ろ盾であった公爵家も謀反の疑いをかけられマテウスお兄様までもが処刑されるという惨さ。

 いいのか悪いのか。この現実世界では、エリーゼはゲーム以上のスペックを持ち、その実家の公爵家も王家を敵にまわしてもそう簡単にやられるような家ではない。

 となると、マルクスが想定する最悪のエリーゼのエンドは、エメラルド王国の滅亡を導くものであってもおかしくない。


「マルクスの件は、早急に調査し対応しよう。その情報には心から感謝する」

 アデル殿下がニュクスに礼を言った。

「彼の犯した罪は深くその数も多い。しかしまた、彼はそれを理解し反省もしています。そこを考慮願えればと思います」

 たたみかけるように、兄がニュクスを弁護する。

 

「しかしそれでも、そなたの犯した罪はあまりに大きい。そなたにとっては憎んでも憎み切れないラピスラズリ神聖帝国で、法王の名によって死を賜ることになると思うが」

 ニュクスの顔がわずかに歪む。

「けれど、そなたは自分の罪をよく理解し深く反省もしているようだ。さきほどの貴重な情報の件もある。よって、ここ蒼の森でその人生を終えられるよう手配しよう」


「感謝いたします」


「そなたの手で不幸にした人々の嘆きと恨みをこの森で繰り返し理解し、さらに反省を深くすることを望む。そう長くないうちに朝が来ない日が来ることを念頭に、短い残りの反省の日々を生きて欲しい」

 それもまた過酷な時間だ。

 けれど、憎い神聖帝国で衆目にさらされ死を迎えるよりは、ニュクスにとっては温情なのかもしれない。

 

 ニュクスは黙ったまま、頭を地面につけ静かに泣いた。


 次はルクスか。

 正直、もうお腹がいっぱいだ。

 けれど、次こそが最後。しっかり見届けないとね。

 彼のせいで傷つき誇りを失い命を亡くしたたくさんの人々のためにも。


 振り返るとアルベルトが、主に精神的にだが、疲れ切っている私を労わるように微笑んでくれた。

 

ごめんなさい。長くなりすぎたので二章にわけました。もう一話、留学編、お付き合いください。

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