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敵の陣地に留学します。せっかくなので楽しんじゃうよ!! part7-3

第35章 いよいよ、面談です。


 ヴェルデとインディゴが纏めてきてくれたネズミさんたちの調書を、その夜、アルベルトとともに読み、意見を出し合い、大まかな方針を決めた。

 翌朝、古代文字の研究ゼミに顔を出し、私はピアノの練習を、アルベルトは騎士科の訓練をこなし、アマリージョ以外の精霊たちと蒼の森に向かった。

 

 アマリージョは、裁判では検事役なので最近私と別行動が多いのだが、どうやらそれがとても不服らしく、機嫌がかなり悪い。

 いつも好き勝手にやっていて、呼ばなければ一緒にいることも少ないのに、ダメ、と言われると側に居たくなるらしい。

 なので、特別にプリンを作ってあげたのだが、今度は他の精霊たちがズルイと拗ね出して、めんどくさいあれこれがここのところ頻繁におこっている。


 早く終わらせて、まったりとした日常を取り戻さないとね。


 というわけで、私はやる気満々で蒼の森にきている。パキパキやらないと!!


 昨夜の方針通り、自分が人であったということも忘れている三匹のネズミたちは、後回しだ。

 ヴェルデによると、彼らは人に戻しても、話はできないとか。人としての記憶がなく、言葉もわからないのではどうしようもない。


 森が、彼らは罪深く人に戻す必要もない、しかし今すぐ命を取るほどではないと判断したからだとか。

 前世だとネズミの寿命は3年くらいだったっけ。

 こちらでも同じだとして、もし、ネズミに変えられた時からが寿命のカウントダウンが始まっているのなら、彼らは長くは生きられない。

 このまま放っておいていいのだろうか、と言った私に、ルベルトはこう言った。

「そういうのは、アデル殿下にお任せすればいい。そのための王族だ」

 そうかもしれないけどスッキリはしない。

 どうにかして、彼らの言葉を聞くことはできないのだろうか。

 思案しつつ、時間も限られているのでできることから進めていく。


 とりあえず、インディゴが魂の記録を読んで罪が軽そう、と判断したネズミさんから人に戻し話を聞く。

 場所は、決めた通り、オリエントのいる広場だ。樹人族が周りを取り囲んでいるが、一見したところ、木々に囲まれていて木漏れ日も優しく降り注いでいるので、威圧感はない。


「あなたは、リーベルタースの一員ですね?」

「そうだ」

 ネズミAさんは強面の髭面の男だが、戦意はすでにないようで、ヴェルデの茨(棘ぬき)でゆるっと縛られているが、大人しく切り株に座っている。

 もし敵意を向けたり逃げようとすると、この茨に棘が生えググっとかたく縛られるそうなので、できればこのままで淡々と話をすすめていきたい。


「リーベルタースがどんな組織が理解していますか?」

「属性や身分差で人を差別しない世界を作るための結社だ」

 なるほど、そういう理解なのか。


「その理念のために? あなたは多くの人をさらってきて奴隷にしたようですが、そのことについてどう思っていますか?」

「彼らには奴隷にされる理由があると言われ攫ってきた」

「納得していたのですか?」

「その時は納得していた。しかし、今から思えば、親と一緒に攫った小さな子どもに奴隷にされる理由があったとは思えない」

 反省はしているようだ。


「あなたは近々裁判にかけられます。それについてどう思いますか?」

「こういう組織にいれば、敵対するものに囚われれば死あるのみ。裁判にかける意味がわからない。ただ、許されるのなら、死ぬ時は人のまま死にたいと思うだけだ」

 ネズミのままは嫌らしい。そりゃ、そうだよね。

 私だって、そう思う。

 いやウサギとかなら、まあしかたないぴょん、とか思うかも。

 言葉にはしていないのに、アルベルトが私を見て眉根を寄せる。

 もしかして、心が読めるようになったのか?


「あなたに家族や親しい人はいますか」

 ヴェルデの調書だと、家族はおらずリベルタースの仲間だけが、身内といえるようだが。

「家族はいない。闇属性のある息子を庇い両親は殺された」

 彼は神聖帝国の出身だ。あの国では闇属性のある者は悪魔の化身とされている。しかし、その両親まで殺すなんて。

 リーベルタースのやったことは許されないと思う。

 けれどリーベルタースを生んだともいえるラピスラズリ神聖帝国にも、反省すべきところは多いのでは?

 とはいえ、私が口を出せることでもないけれど。


「そのせいで、あなたはリベルタースに?」

「そうだ。あの国に復讐をしたかった」

「でも、あなた自身があなたと同じような不幸な子どもを生んでいたのでは?」

 攫われた子どもたちの大半に罪などないはず。

 大人たちだって、リベルタースの正義によるもので、そこに真実があったかどうかもわからない。

 そして、エルスター男爵に仕えていた執事親子のように、罪と呼べるような罪もない人間も、数多くリベルタースに騙され引き込まれている。

 彼がそうしたわけではないのかもしれない。

 もしかしたら、彼は知らないのかもしれない。

 でもそうだとしたら、知らなかったこともまた罪だろう。


「そうかもしれない。復讐心に凝り固まり失ってしまったものがあるのだろう。そのせいで私は人ではなくなりネズミになったのかもな」

「もし、生き延びたとして、あなたはまた帝国に復讐をしたいですか?」

「その気持ちは変わらない。死して生まれ変わっても同じだ。しかし、今度はまっとうに生きている者を巻き込まずにその道を歩こうと思う。復讐が復讐を生んでは、キリがない」

 この人には、更生の余地がある。

 どの程度の罪になるのかはわからないが、アデル殿下の判断は概ね信頼がおけるものだ。そこに期待しよう。

 

 同じように、ネズミさんとの面談を続けていく。

 次のネズミさんBとCは、悪いと知りつつ復讐のためなら手段は選ばない、という信念でやってきたらしい。殺人の罪は犯していないが、人攫いや恐喝、拷問、麻薬の製造など、けっこう悪どいことに手を染めている。

 知らないことも罪だが、知っていて悪に手を染めるのは、やはりもっと大きな罪だろう。


 D~Jは、殺人に手を染めている。

 H,I,Jにいたっては、複数人を殺している。暗殺者だと言ってもいいかもしれない。

 だとしたら、たんに魔道具の不具合を確かめに来たわけじゃなく、私の命を狙っていたのだろうか?


 ネズミさんHに聞く。

「私を殺すよう、言われてきたのかしら?」

「そうだ」

「誰に、と聞くだけ無駄かしら」

「依頼主の名は明かせない」

「どうせ、ルクスだから、言わなくてもいいけどね」

 わずかに、彼の右目が眇められた。


「人を殺めることに罪悪感はないのですか?」

「ない。それが仕事だからな」

「仕事。リベルタースの信念に基づいた?」

「いや、私はリベルタースの信念など関係ない。殺れといわれた者を殺る。それだけだ」

「相手に罪がなくても?」

「罪のない人間などいない」

 ある意味正論だ。

 だからといって殺していい人間もいないと思うけれどね。 


「恨まれたり妬まれたりするには、それだけの理由があるものだ」

 いじめられる者にも理由がある、とか前世でも言う人がいたよね。

「逆恨みでは?」

「さあな。どうでもいいさそんなことは。恨みをかった。だから殺される。それだけだ」

「では、あなたも殺されてもしかたないのですね? 多くの恨みをかったことでしょう。たくさんの人を殺めたのだから」

「そうなるな。しかし、俺は仕事をしただけ」

「もし依頼されれば、命を救うこともあるのですか?」

「ない。それは俺の仕事ではないから」

「つまり、殺めることだけがあなたの仕事だと?」

「そうだ」

 弁護の余地がない。どうすればいいんだろう。

「あなたは、なぜそれを仕事に選んだのですか?」

「おかしなことを聞く。仕事は選ぶものではないだろう? 生まれた時から私が暗殺者になることは決まっていた。そのために生まれ育てられたのだから」

 あ、そういうことか。

「あなたのご両親も、ではリベルタースの一員なのですか?」

「父親が誰なのかは知らない。母親は、子を産むためだけに組織に攫われてきた女で三人産んだ後で産後の肥立ちが悪く死んだ。ちなみに母親を殺した赤ん坊が俺だ」

 なるほど。

 生い立ちの不幸が今の彼を形作った、という弁護はありかもしれない。

 おそらく、兄も殿下も眉根を寄せる程度だろうが。

 なぜなら、生い立ちの不幸な人間など、前世の比ではないほどこちらには多いからだ。

 そして、不幸な生い立ちが罪の言い訳にならにことを、兄たちは十分すぎるほど知っているからだ。


「エリーゼ、これ以上聞いても無駄だ。同じことの繰り返しを聞くころになるだけ」

 アルベルトが私の肩に手を置き、そう言う。

 おそらくそうだろう。

「最後に教えてください。あなたは、誰かを殺すために生まれてきたと思いますか? そしてそのことに悔いはないと」

「他の生き方を知らなかったのだから、今までの生き方に悔いはない」


 森はなぜ、彼から人としての記憶を奪わず私たちの手に委ねたのだろうか。

 彼はたくさんの命を奪った。

 生い立ちに同情の余地はあるが、言い訳にはならないだろう。

 そして、殺してきた過去に悔いはないという彼の、どこに森は許しを認めたのか。


「あなたは、自分の仕事が好きですか?」

 悪びれることもなく、淡々とテンポよく答えていた彼が初めて黙り込んだ。

 質問としては単純だ。

 しかし彼は答えない。

 答えられないことが答えだ。


「好きなことを仕事にできる人は幸せですよね。でも、そんな人ってあんまりいない気がします。私の周囲でもそう言い切れる人はたった一人しかいないもの」

 ミケランジェロだけ。

 彼は、好きなこと以外に興味はなく、そのためだけに生きている。それを仕事と認識はしていないかもしれないが、少なくともそれで糧を得ているのだから、仕事だといってもいいだろう。


「でも私の知っている人たちは、みんなせめてその仕事を好きになろうとはしています。けれど、どうしても好きになれない人は、仕事を変えたほうがいいそうです。嫌いなままその仕事を続けても必ず失敗するからと、兄が言っていました」

「……だから、失敗したのか俺は」

 そうかもしれない。そうじゃないのかもしれない。

 わかったことは、彼が自分の仕事を好きじゃなかった、というそれだけ。

 アデル殿下の判断に、それがどんな影響を与えるのか、与えないのかもわからない。

 わかった些細なことを報告するだけ。私にできることは。


 Iさん、Jさんも同じような人だった。人を殺すことも仕事の一環であり、後悔はないと言う。

 けれど、それぞれに、最後の答えは少しずつ違った。

 一人は、「嫌いだ」と即答し、もう一人は、「考えたことがなかったけれど、生まれ変わったら違う仕事がいいな」と言った。


 それから一週間の後、兄とアデル殿下、私とアルベルト、そしてオニキス大公国の責任者として、イザベラ王女に来てもらい、精霊たちとともに蒼の森リベルタースの裁判が行われた。

 ルクスとニュクス、そして魔法師の女メロウ以外の弁護は私が担当した。

 アマリージョに、手厳しくやられっぱなしだったが、多少は弁護ができたように思う。


 アデル殿下がイザベラ王女と協議の上、下した刑はある意味単純だった。

 殺人に手を染めていなかった者と殺意がなかったと私が弁護した一人は、犯罪奴隷としてオニキス大公国の鉱山での無期限労働になった。他の殺人を犯していた者たちは,私の調書を付けて犯罪奴隷としてラピスラズリ神聖帝国に送られることになった。

 神聖帝国ではリベルタースに神器を盗まれてからやっきになって彼らを追いかけていたから、今回のことでエメラルド王国とオニキス大公国は帝国に大きな恩を売ることができ、殿下たちは面倒なことを丸投げできるという、大人な判断だ。

  

 アデル殿下は、ラピスラズリ神聖帝国に丸投げすることになった彼らに、最後にこう言った。

「罪のない人間はいないかもしれないが、罪を悔いる者はたくさんいる。悔いたからといって罪が軽くなることもないだろうが、悔いれば、あるいは生まれ変わった時に、好きな人やもの、生涯を捧げるにふさわしい仕事に出会えるかもしれない。少なくとも私は君たちにそのような来世があることを祈っている」


 誰も何も言わなかった。

 言っても無駄だと諦めているのか、殿下の言葉に少しでも感じるところがあったのかはわからないけれど。

 ただ、Hさんだけは、私に視線を向けなぜか微笑んでいた。

 寂しそうな、諦めたような、後悔に染まったようなその笑みを、私は忘れることはないと思う。

 人の歩みは様々なものに影響され左右される。

 正しいと思っていたことがそうでないこともあり、後悔が無駄になることもある。

 けれど、自分が歩んだ道をなかったことにはできない。

 この人の笑みが私にそれを教えてくれた。

 


 ちなみに、人であったことを忘れてしまった者たちは、人に戻したが、チューチュー鳴くばかりでどうしようもなかった。

 殺人を享楽としてとらえていたその成れの果てだと言われ、私には返す言葉がなかった。

 オニキス大公国では死刑が禁止されているので、イザベラ王女の意見を尊重し、彼らはすぐにネズミに戻され、蒼の森で生涯を終えることになるそうだ。


 そうして、いよいよ幹部三人の裁判が行われることになった。

 結果はわかり切っている。

 彼らを許すようなら、ネズミたちも許されていたはずだ。

 今から始まるのは、結果ありきの断罪だ。

 私は、ただそれを見守るだけ。

  

 私は、兄とアデル殿下を見つめる。

 彼らは知っている。

 あの未来の断罪の場面で、王族に裁かれるのは私だということを。


 私は、ここから何を学ぶべきなのか。

 私のそばには、アマリージョ以外の精霊たちがいる。

 まるで私を守るように。

 アルベルトもいる。

 何があっても守り切ると、そのまなざしが言っている。

 それなら、私も守ろう。

 愛する者たちと、私の未来を。そのために考えよう。学ぼう。諦めずに、ずっとずっと。  

 

留学編はあと一話で終わりの予定。

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