敵の陣地に留学します。せっかくなので楽しんじゃうよ!! part7-2
誤字報告ありがとうございます。
第34章 蒼の森で、ミケランジェロはステップを上がったようです。
兄から、弁護人という大事な役目を言いつかった。
しかも、前世でいうところの検事はアマリージョ。
正直、私が、お菓子作り以外でかなう相手ではない。その上、すでに蒼の森が有罪と認めている者たちばかりだしね。
兄も、私に無罪を勝ち取れと言っているわけではないはずだ。
有罪は有罪でも、それぞれの罪の詳細を明らかにして、できれば本人も納得の上、罪を償ってもらう手助けをして欲しい、と望んでいるのだろう。
「ネズミたちは、人に戻してから話を聞けばいいかしら?」
「そうだな」
「やっぱり、蒼の森の中でやるべきよね」
「その方が安全だろう」
「事情聴取が終わったら、すぐに裁判よね。留学終了までそれほど時間もないし。……やっぱり裁判も蒼の森だよね?」
「もちろんだ。あの森なら彼らが悪だくみをする余地も逃げ出すこともできないはずだから」
「それなら、いい感じに作り変えておくよ。私の神殿跡を」
ヴェルデが、右手に黒い棒を出す。
あれで更地にするつもりか?
「ヴェルデ様、あの神殿の破壊はおやめになった方がいいのでは?」
「なんで? 一度更地にしてからのほうが作りやすいし」
朽ちていながらもあの厳かな雰囲気。長い時間と森の空気が作り上げたある種の芸術であり、そこに残る古代の文字は貴重な文化遺産でもある。
「でも、あの神殿跡、とても趣があってすてきだったわ。もったいないのでは?」
説得してみよう。
「そう?」
なんだかんだといっても、ヴェルデは、私に甘い。
「うん。私はあのまま残して欲しいな」
「エリーゼがそう言うのなら、あの雰囲気を壊さないように準備してもいいけど」
ヴェルデの右手から黒い棒が消えた。
よかった。
代わりに、私は、レモングミをヴェルデの手に握らせる。
これは、ヴェルデの植えてくれた、とっておきの『女神のレモン』の果汁を絞って作ったグミ。ヴェルデのために作ったものだ。
ヴェルデの目が輝き、すぐにそれを口にする。
「どう?」
「おいしい。すっごく幸せ!!!」
ヴェルデがにっこり笑う。
「色々面倒かけるけど、頼むね」
「まかせて。お菓、いやいやエリーゼのためなら、どれだけでも頑張れる」
お菓子のためならっていいかけましたね。
でしょうよ。
それでもいいよ。それも含めて私は私だから。
「とりあえず、明日、ミケランジェロを連れて森に行くわ。その間にネズミたちの様子を確認してくれる?」
「いいわ」
「ヴェルデはもちろん、セレステとインディゴにも手伝って欲しいの。ネズミ君を人に戻したら、やっぱり私だけでは処理しきれないこともあると思うから」
インディゴは、ネズミ君たちを人に戻し場合によってはまたネズミにするために、そばにいてもらわないといけない。
セレステは、いざとなったら歌で彼らを眠らせてもらえる。
燃やすより、目つぶしより、かなり安全そうだ。
「もちろんよ。私だって、エリーゼの役に立ちたいっていつも思っているのよ」
「セレステ、ありがとう」
「僕も、もちろん協力する。僕は、ネズミを人に戻したり、結界を張ったり、ルクスたちを見張ったり、色々できるよ」
インディゴが、そう言いながら、両手を差し出す。
君も、お菓子のためには頑張るんだよね。
私は、その手にブドウのグミを山盛りのせてあげる。
実は、精霊たちにはそれぞれ好きな果汁のグミを用意してある。
セレステはいちご。ロッホはオレンジ、アマリージョはリンゴ。
プラータは、メロンのグミ。
「エリーゼ、それはなんだ?」
アデル殿下、すでに右手が差し出されていますが。
「グミという新作のお菓子です。食感が面白いんですよ。殿下はお好きな果物、ありますか?」
「私は、ブドウが好きだな」
「なら、インディゴと同じですね。これをどうぞ」
私は、アデル殿下の右手にブドウのグミを乗せる。
「う、うまい。なんだこのユニークな食感は。素晴らしい。これは大発明じゃないか!!」
大げさな。
大発明というか、大成果はゼラチンの完成であって、グミではないんだけどね。
でも、グミはおいしいよね。特にこの果汁たっぷりのジューシーなものは、なかなかの傑作品だと思う。
私は、精霊たちにも山盛りのグミを渡し、アルベルトと図書室から寮の部屋に戻る。
そこからすぐに、オニキス大公国に転移した。
「エリーゼ、良かったのか?」
「何が」
「ろくでもない奴らの弁護なんか引き受けて」
「ああ、それね」
確かに、気持ち的には盛り上がらないわね。
「でも、悪い人たちにも人権はあるから、というかあって欲しいし」
「人権ね。この世界の人権って難しいよな。正義は身分によって違うし」
この世界、ね。
アルベルト、あなたの前の世界には人権があったの? 守られていたの?
聞いてみたい気もする。
でも、今じゃない、とも思う。
もっと落ち着いて、もっと自分の気持ちがはっきりするまで。
いや違う。
私は怖いのだ。
心の大半をアルベルトに傾けていしまっている今、彼が樹里じゃなかったら、この想いはどうすればいいのか。わからない。だから怖い。
「でも、だからこそ私は、この件で弁護人をやってみたいと思うの」
「どういう意味?」
「公爵令嬢という身分とは関係なく、ただのエリーゼとして彼らと向き合うというか。なぜ、罪を犯したのか。そのことについてどう思っているのか、聞いてみたいの」
「わからなくはないけど、正直、君の場合はあの精霊たちがいるから、身分を隠したってただのエリーゼには絶対なれないと思うけど」
「まあ、それはそうなんだけど」
あの断罪イベントが消滅したとしても、いつだって公爵令嬢はやめられるけど、あの子たちとの絆は死ぬまで切れないし切りたくもない。
「それに、悪人の人権より君の健康と安全の方が何倍も大切だ」
「ありがとう。でも蒼の森には転移できるし、安全も担保されているから大丈夫よ。幹部連中はともかく、ネズミさんの中には、話をすれば罪を償ってからまっとうな道を歩いてくれる人もいるかもしれないでしょう? 可能性があるのならお手伝いしたいと思うの」
一人として、同情の余地なし、という可能性もあるけどね。
そうしたら、やっぱり落ち込んじゃうだろうな。
「あの連中にわずかでも期待したら、君が傷つく可能性はわりと高いと思うよ。いいのか?」
「うん。今からしっかり覚悟しておく」
しておかないとね。
「それなら、僕はもう何も言わない。護衛として君を守る、それだけだ」
「ところで、エリーゼはフェアエルパーティーでピアノの披露もしなくちゃいけない。曲は決めたの?」
「決めたよ」
ショパンの『別れの曲』と、ドビッシーの『月の光』にしようと思っている。
『別れの曲』は、こちらの同級生に一番人気の曲だ。
『月の光』には、私の、彼が樹里なら二人の想い出がある。
あの文化祭最終日、変なテンションのまま想いを打ち明け合った夕暮れ時。
校舎の屋上でひとつのイヤフォンを二人で分け合って聞いた曲。
私たちのクラスは、文化祭でヴェルレーヌの詩篇『月の光』をモチーフに創作劇を作り上げた。脚本を書いたのが樹里で、背景ともなる音楽を担当したのが私。
ドビッシーのベルガマスク組曲の三曲目『月の光』は、ヴェルレーヌのこの詩篇に関係していると言われている。
もし彼が樹里なら、この曲にどんな反応をするのか。
楽しみであり、怖くもある。
ピアノの練習中は、プラータに防音の結界を張ってもらっているので、彼にこのことはばれていないはず。
「でも内緒よ。当日のお楽しみにしておいて」
アルベルトは、フッと笑った。その笑みにどこか哀愁が漂っていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。楽しみにしておくよ。君がそう言うのなら」
翌日、早朝からミケランジェロを連れて蒼の森に出かけた。
今日は、私はリベルタースには会わないつもりだ。彼らのことはヴェルデとインディゴに委ねてある。
セレステが私と同行してくれている。
私は、ミケランジェロとウリンダの実の群生地を見学する前に、森の長老オリエントに挨拶に行く。
「今日は、友人にウリンダの群生地を見せるために来ました」
「ほうほう」
「こちらは、ミケランジェロ、彼は素晴らしい芸術家なのよ」
「ほう」
オリエントが、ぎょろりとした目でミケランジェロを見る。
「なるほど。確かにそやつは素晴らしい。特に彫刻、それから絵画、建築の才能もあるな」
「わかるんですか?」
「当たり前じゃ。わしを誰だと思っている」
森一番の長老、オリエント様(お菓子好き、と思っています。
「ミケランジェロ、そなたには大きな魔力がある。その魔力は通常の人とは異なっておるがな」
「どう違っているんでしょうか?」
おお、ミケランジェロが敬語で下手に出ている。
「そなたには、芸術の女神ミュゼの加護がある。そなたの魔力はミュゼゆかりのもので、とても大きく強い流れを持っているが、芸術以外には使い道がない。わき目もふらず芸術の道にまい進すれば歴史に名を遺す者となるが、そうでなければ自らの魔力に殺されるやもしれん」
ミケランジェロは呆然としている。
ミュゼ様のご加護、とつぶやきながら。
ずっと不思議だった。
あれほどの魔力持ちなのに、精霊の加護がないのはなぜ? って。
女神さまの加護か。
それなら、精霊たちも遠慮しちゃうよね。
「精進しなさい。これをそなたに」
オリエントは、自らを削り魔力で練り上げたのか、オリエントの香りのする一体の木彫りの像をミケランジェロに手渡す。
おそらく、ミュゼ様のお姿だろう。
「これをそなたの側に。そして折に触れ、感謝の祈りを捧げるといい」
ミケランジェロは、それを受け取り跪き、そして誓った。
「芸術の道に、信念と愛を持ってまい進いたします」
「その決意、ミュゼ様にしかと伝えよう」
「オリエント様は、ミュゼ様と親しいのですか?」
「私の種をヴェルデに託してくれたのは、ミュゼ様だ。ミュゼ様は私に、ヴェルデ様のこの森で、樹人族の礎となることを望まれた。動くことのできない樹々を、森を守り、森の力で大地に美しい水と空気を送るようにおっしゃった」
「なぜ、芸術の女神が森を?」
守るのだろう? 大地の女神や水の女神ならわかるけれど。
「ミュゼ様は、芸術の女神様であり愛の女神様だからだ」
ミケランジェロが言う。
「愛とはすなわち美だ。美は自然の恵みから生まれる。自然は優しくもあり冷酷でもある。温かく心地よいこともあれば寒くて絶望をもたらすこともある。すべてが美であり、芸術だ」
「森は、芸術の源でもあるのね」
「そうだ」
私はオリエント様にグミとマシュマロとババロア、そして定番のハーブクッキーをお渡しして、ウリンダの群生地に移動する。
案内はセレステだ。
「セレステも、蒼の森に詳しいのね?」
「ここには、とても美しい泉があるんです。そこで時々水浴びをするんです」
「泉か」
「今日は、ウリンダの群生地の見学を終えたら、学園に戻りますよ」
アルベルトが私にくぎを刺す。
「その泉につかると、精気が増して魔力が整うんです」
「素敵ね」
「そんな泉があるのなら、見てみたいな」
ミケランジェロが言う。
「ダメです。いや、行くのなら、あなただけで」
「アルベルト、そんな、言い方」
「ミュゼ様の加護があるのなら、森はミケランジェロを優遇するでしょう。セレステ様にでもお願いして連れて行ってもらえばいいのでは?」
「いいわよ。私と泉に行く? 帰りはヴェルデに送ってもらうことになるから、好き勝手に帰れないけど。私が転移できるのは水から水へだけなので、人間は連れていけないの」
「お願いします。そしてできればモデルになって欲しいです」
「モデル!?}
「泉で水浴びをする精霊様。想像するだけで美の極致です」
水浴びって、ヌードっていうこと?
いくらなんでもそれは無理なんじゃ。
「いいわ」
いいんだ。
「でも長くは無理よ。水浴びは長すぎてもダメなの。ちょうどいい時間でないと魔力に偏りができるから」
「もちろんです。セレステ様は精霊様なのですから、インスピレーションをいただくことができれば十分です」
どうやら、泉での水浴びは決定だな。私も行きたいけど、とチラッとアルベルトを見たけど、憮然とした表情だ。
計画変更は認めない、って顔だなこれは。
兄なら、ちょっと甘えて見せればそれぐらいの融通はきかせてくれるけれど、アルベルトはそういうところ、厳しいもの。
仕方ない。今回は諦めよう。
そうこうするうちに、私たちは、ウリンダの群生地に到着した。
「ミケランジェロ、ここがウリンダの群生地よ」
群生地は、先日とは少し違って見える。
花の色の種類が増えたような。
どの色の花がなんの実になるかは、ヴェルデに教えてもらったけれど、すべてをレポートには書けない、知らないほうがいいこと、知らせたらいけないことって、世の中にはけっこうあるよね。
知識として私の頭の中にあるものと、花の色を実と結び付けてみる。
今のところ、知らない花の色はないわね。
赤い花もたくさんある。これが不幸のネズミが成る実になるなんて、不思議だ。こんなに鮮やかなきれいな赤なのに、なんか納得できないな。
「美しいな」
ミケランジェロは、佇んでじっとウリンダの群生地を眺めている。
「これほど美しい緑の重なりは見たことがない」
確かに、様々な緑が重なり合い溶け合うように生い茂っている。
ミケランジェロはまず、緑に目が行くんだね。
私は、どうしたって、花の色に惹きつけられるけれど。
「花の色もいい。どれも幾重にも様々ないろを塗り重ねたうえでの赤であり、青であり、黄色だな。特に、あの青を多く含んだグレーの花の美しさは格別だ」
あれは、幸運のウサギが実なんだよ。さすがだね、ミケランジェロ。
「それにしてもここもそうだが、この森は彩の調和が素晴らしいな。エリーゼ、連れてきてくれてありがとう」
おお。ミケランジェロにお礼を言われたよ。今日は記念日だね。
「もう、先に戻ってくれていいぞ。私はここで、少しスケッチをしていく。その後でセレステ様に泉にも連れて行ってもらおう」
一人になりたいのね。というかむしろ私たちは邪魔っぽい。
「エリーゼ、ではそろそろ学園に帰ろう」
アルベルトも、そんなミケランジェロの気持ちを察したようだ。
私はセレステにミケランジェロを託し、アルベルトと二人でサクッと転移する
戻って私はピアノの練習。
アルベルトは、こちらの騎士科に基礎練習に行った。
留学でこちらに来てから、アルベルトは学問と同じように武道にもかなり力を入れている。
私のためだとわかっているが、これが本来のアルベルトだという気もする。
辺境伯家の、双子とはいえ兄に生まれたゆえに、そして弟の剣の才能を身近で見ていたばかりに、彼は剣の道をまっすぐには進めなかったのかもしれない。
それが異国で、公爵令嬢の護衛という大義名分を与えられたこともあり、今花開きつつあるのかもしれない。
私は、一心不乱にメロディーを奏でる。
聞く人が聞けば、突っ込みどころはたくさんあるだろう。
だって、楽譜もないし、私が覚えているのはこんな曲だったよね、ぐらいな感じだから。
だけど、魔力のおかげで、素晴らしい出来上がりになっていく。弾けば弾くほど、曲に魔力が乗っていくのがわかる。
それから三時間ほど、アルベルトが汗を流しきったところで、ヴェルデとセレステ、ミケランジェロも戻ってきたようだ。
みなで夕食を食べ、ミケランジェロに泉のことを聞く。
「水色と緑の美しい、まさにセレステ様のためにあるような場所だった」
わかるような、わからないような。
「スケッチもしたの?」
「もちろん」
「見たいな」
「だめだ」
「なんでよ」
「これを今見ていいのは、セレステ様だけだから」
「芸術って、他人の目を通して初めて実になるんじゃないの?」
「このスケッチはそういうんじゃない。他人の目を通すのは、もっともっと、ずっと先の先にあるんだ」
よくわからない。
でも、これだけはわかった。
彼の芸術は、私の、なんちゃってピアノとは別次元にあるってこと。
この時のミケランジェロの言葉の意味がちゃんとわかったのは、ずっと後のこと。彼が泉に舞い降りた女神、という彫像を創りあげた時だ。
その時初めて、ミケランジェロは私にあの時のスケッチを見せてくれた。
それは、短い時間に描き上げたラフスケッチとは思えないほど素晴らしいものだった。しかし驚くべきは、そこにセレステが描かれていなかったことだ。
それにもかかわらず、泉の水面に降り注ぐ木漏れ日の中に、セレステを感じることができる。
そのスケッチのずっと先の、感性が練り上げられたその先に、この彫像があったのか。
これが芸術。
兄は、すぐにこれを買い取ろうとしたけれど、ミケランジェロはそれを断った。正確には、お金をとらず公爵家に寄付をした。
真の芸術は、たくさんの目に触れるべきだと、公爵家の力で、王都の広場にこれを飾ることを望んで。
「ヴェルデのほうはどうだった?」
「みんな生きていたよ。だけど、誰一人として、森に許されていた者はいなかった。ネズミたちはもう自分が人として在ったことを忘れているようだった。幹部連中はどうしようもない。一ミリも反省してないもの。特にあの魔法師はダメだね。あれに比べたらニュクスの方がまだ救いがあるくらいだ」
「へえ。あの魔法師の生い立ちはわかる?」
「あれは、ここオニキス大公国の出身よ。貴族の娘として生まれたけれど、家が没落して商家に養女に出されたの。その商家で養父を誘惑しそれを養母に訴えられたことで、犯罪奴隷に。それを拾ったというかかっさらったのがリベルタース。彼女の闇の魔力を買ったのね」
「でも、苦労もしたのね」
「家が没落したのは、母親と娘たちが贅沢三昧をしたのも要因の一つらしいから、自業自得よ」
なるほど。庇うのは厳しいようだ。
だけど、弁護人だからね。
一つくらいは、いいところを見つけてあげたいわね。カンダタのように、クモを助けたことがあるとか? ないのかしら。
「たった一つでもいいんだけど、彼女は何か善行を行ったことはないのかしら?」
「わかんないな。ギルティすぎて興味なかったから」
「調べてみてよ」
私はヴェルデに、マシュマロ入りホットチョコレートを差し出す。
「やってみる」とヴェルデは、買収に応じてくれた。
「ネズミさんたちとは明日から面談を開始するわ。ヴェルデの判断で、一人ずつ選んでインディゴに人に戻してもらうね」
「神殿跡でやる?」
裁判と同じ場所ってどうなんだろう?
「泉はダメですよ。下調べも準備もしていない場所で悪人たちと向き合うなんて許可できません」
そう言うと思った。
「オリエントのところはどうかな? あそこの方が威圧感がない気がする」
とりあえず、アルベルトはうなづいている。
「たぶん大丈夫。オリエントに頼んでおく。でも」
「わかってる。手土産だね。お菓子でいいのかな?」
「お菓子がいいんだよ」
ということで、私は、食事の後、古代文字のレポートを書き、ミラとハンナの手も借りてお菓子作りに励んだ。
今回は、くるみとチョコのパウンドケーキを作った。カーリーがパウンドケーキの魔法陣を改良したので、生地がいっそうふんわりしたように思う。
不思議なのは、同じ魔法陣を使っても、それぞれの魔力で味が若干違うことだ。
このことに、いまさら気づいた。
これも、レポートにしてカーリーに渡さなくては。
何かに挑戦するたびに、成功しても失敗しても新しい扉が開くように思う。
だから、何事にも、思い切って挑戦したほうがいい。
そのために必要なことは諦めない気持ちだ、と思う今日この頃だ。




