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敵の陣地に留学します。せっかくなので楽しんじゃうよ!! part6-3

第32章 びっくり仰天の新事実です!!


 精霊たちのから騒ぎ、ともいえる、蒼の森でのルクス率いるリベルタースとの決戦から戻った私たちは、新しい仲間二人の近々の生活方針も決まり、ホッとひと段落。

 といっても、精霊たちは、すでに蒼の森にいる頃から、今と変わらず食いしん坊バンザイ!! 状態だが。

 ミラたちも、今日はあらたまった感じでの夕食は無理だよね、という私たちの雰囲気を読んで、お菓子だけでなく軽食も運んできてくれている。

 あ、コロッケ!!

 それも山盛り。

 みんなの目が、そこにくぎ付けになる。

 最近、このコロッケが、精霊たちの一番のお気に入りなんだよね。

 今まで身近にオリーブオイルしかなかったんだけど、最近は、文官養成科のクラスメイトのおかげで、ごま油や菜種油など油の種類も増えてきた。植物を植えるだけでなくその抽出方法の研究や魔法陣化もすすんでいる。

 油を変えるだけでも、風味が変わって揚げ物の種類がどんどん増えていく。

 ちなみに、学院の食堂で人気なのもコロッケだ。

 前世なら、庶民のためのメニューともいえるコロッケなのに、貴族のお嬢様たちがナイフとフォークを使ってお上品に食べている姿は、私には不思議な光景だ。

 ちなみに、精霊たちは、もちろん手づかみでかぶりついている。


 気の置けない仲間とおいしいものを食べると、疲れもとれるよね。

 ちょっと、ふわふわ、だらりんとしていると、アマリージョがとんでもない爆弾を放り込んできた。


「一つ朗報がありますわよ」

 私の眉根が寄る。

 あのアマリージョの笑顔、ただの朗報ではないはず。


「なんでしょうか?」

 兄も、恐る恐る、アマリージョの顔色をうかがいながらその内容を問う。

「ふふふ。これは幾重にも朗報なんですわよ」

 こわい、こわい、こわいわ、アマリージョ。

 いつも以上に、その笑みが怖いよ。


「ユークリッド」

 アマリージョの笑みの怖さを知ってはいないはずなのに、その名を呼ばれたユークリッドが手からコロッケを落す。

 しかし、さすがに聖騎士。

 床に落ちる寸前にコロッケを救い出した。レイナードが、その反射神経を称えるようにほうッと称賛の声を上げる。

「あなたには、生き残っている親族がおりますわよ」

 なんですって。

 確か、さっき、兄やアデル殿下が、親族を皆殺しにされたと言っていたのでは?


「それは、あり得ません。みんな、生まれたばかりの赤子まで殺されたのです」

 ユークリッドが苦渋に満ちた表情で、そう答える。

「お可哀そうなことでしたね。あの暴虐王には、必ず、インディゴがとびっきり活きのいい不幸のネズミをお届けしますわよ。けれど、生き残っている親族がいることは、間違いないことですのよ」

 インディゴが担当なのね。あのネズミは。

 どう言われても、ユークリッドは信じがたいのか、ずっとありえないと首を横に振っている。

「あなたのお母さまの弟、叔父様のことはご存知かしら?」

 知っています、とユークリッドがうなづく。

「確か冒険者になって、かなり有名にもなったはずですが、どこかの王族を救うため魔獣と戦い、その際につけられた傷が原因で亡くなったはずです」

「ええ。でも亡くなる前にある女性と恋をして、その人との間に娘さんがいるということは?」


「知りません。本当ですか!?」

 ユークリッドの顔が興奮の色に染まる。

 他のみんなも、同じように驚き興奮している。

 私だって、彼の今の気持ちはよくわかる。

 ひとりぼっちじゃない、と分かった時の喜びは。

 私も、ある意味同じ境遇だったから。

 前世で繋がりのあったすべての関係から切り離され、こちらに転生した。前世の記憶がよみがえったあの9歳の時、驚き、悲しみ、そして思った。私はひとりじゃないんだって。


「母親の方は、叔父さんが亡くなってから色々事情があってその娘さんを手放し、貴族の家に嫁いだけれど、病ですでになくなっているわ。けれどあなたの従姉妹、娘さんは健在よ」

 その言い方だと。

「今、どこにいるのか、ご存知なんですね」

 そうなるよね。

「もちろんですわ。知りたい?」

「ぜひ」

 それはそうだろう。

 アマリージョは、何をもったいぶっているのか。

「今の私にはその娘にしてやれることがあまりありませんが、これからできることを探し、その娘のためにできることを今から考えたいのです」

 なんて真摯な態度だろう。

 見習ってほしいわ。うちのやんちゃ三人組の、ロッホとか、アマリージョとか、インディゴとにね。


「ふふふ」

 まただよ、そのふふふ。

「その()はね、そこにいるわよ」

 はい?

 全員の視線が、アマリージョの指先に集まる。

 誰も、人を指さしてはいけません、とは注意もしない。

 それがあまりに衝撃的だったから。


 アマリージョが指さしたのは、マリアンヌだった。


「え? 私?」

 マリアンヌは、状況を飲み込めないのか、みんなの顔を順に見つめ、最後に私を縋るように見つめた。

「アマリージョ、つまり、ユークリッドの冒険者だった叔父とある女性の間に生まれた娘が、マリアンヌってことでいいのね?」

「そうよ。しかも」

 しかも?

 これ以上、まだ驚くことがあるのだろうか。


「しかも、そのある女性が嫁いだ先がエルスター伯爵で、そこでもうけた娘がカーリー」

 はい?

「あの、妖精に攫われた?」

「そうよ」

「でも、カーリーは、孤児院育ちなのよ。妖精が気に入って攫って行った赤ちゃんを、どうして孤児院に置き去りにしたの?」

「叱られたかららしいよ」

 インディゴが言う。

「あまりに愛らしかったので攫って森に連れ帰ったら、森を守っている精霊に()()に返すように叱られたんだって。妖精では、教育ができないからって」

 妖精と精霊はどう違うんだろう?

 妖精は精霊の支配下にあるんだろうか。

 あとで、プラータにでもじっくり聞こう。


「その精霊って、もしかして?」

「私じゃないよ」とヴェルデ。

「別の緑の精霊だよ。私なら、人間に返す、なんて言わないもの。ちゃんと攫ってきたお家に返しなさいって言うわよ」

 どうだか。ヴェルデでもやりかねないよ、そうは思うが、拗ねると困るので言わない。


「それで、孤児院に?」

「そうらしいよ。その孤児院なら()()が行き届いているって評判だったからってさ。そんで、精霊もたくさんいたから、成長を見守るように頼んでおいたんだって」


「つまり、私とマリアンヌは、姉妹なんですか!?」

 カーリーが、めずらしく大声をあげる。


「でも、それなら二人は年齢が違うのでは? なぜ同じ年齢なんですか?」

 レイチェルが、貴族らしい疑問を呈する。

「平民の年齢は、けっこうアバウトなんだよ。しかも二人とも孤児院育ちだから、おそらく誕生日もあいまいだよね」

 兄が言う。

「私の誕生日は、養親に引き取られたときに、生まれてすぐ亡くなったそこの娘さんの誕生日に変えたそうです。今のエルスター伯爵家に引き取られたときに、本当の誕生日より10か月ほど遅いようだと義父に聞きました」

 マリアンヌが、少し悲しそうな表情でそう告げる。

 エルスター伯爵家に養女に入る前に引き取られた家では、とてもかわいがってもらっていたとマリアンヌは言っていたけれど、亡くしたお嬢様の代わりだとすれば、そこのご両親は二度、娘を亡くしたことになる。

 エルスター伯爵は悪い人ではないけれど、そこへのアフターケアはちゃんとしているのだろうか。

 貴族の身勝手で、不幸を生み出してはいけない。


「私の誕生日は、孤児院に置かれていた日付けですが、孤児院では、二、三歳から読み書きや簡単な計算の勉強を始めるのですが、まあそのはかどり具合で年齢は判断されます。出来がよければ上の年齢になることも」

 カーリーは優秀だから、実年齢より一つ二つサバを読んでいてもおかしくないわね。

 つまり、姉のマリアンヌと妹のカーリーが同じ年齢の同級生として、学院に入学してきたことに不思議はないということね。


「君たちが、私の従姉妹」

 ユークリッドが、他は言葉にできないのか、ただただ熱いまなざしで二人を見つめている。

 カーリーとは血のつながりはないが、そういうことになるのかな。


 そういえば、二人の雰囲気がなんだか似ていると思っていた。

 留学以降のドタバタで忘れていたけれど。


「腹が減った」

 そこへ舞い戻ってきたのはミケランジェロ。どうやらお腹が空いたらしい。

 寝食を忘れて創作活動に打ち込むことも未だあるらしいが、親身に世話をしてくれる侍女たちのおかげで、ミケランジェロも以前よりずっと規則正しい生活を送っていると聞いている。

 

「おっ、うまそうなコロッケ。唐揚げもある」

 ミケランジェロ様、先にお手を清めてください、とミケランジェロ付きの侍女ロゼッタがあわててやってくる。

「わかったよ」

 ミケランジェロが絵の具だらけの手を出すと、ロゼットが魔法でその手をきれいにする。

 水と風の融合魔法か。ロゼッタ、やるね。


「ミケランジェロ、今、すごい事実がわかったのよ」

「へえ」

 コロッケを頬張るミケランジェロの反応は薄い。

「カーリーとマリアンヌが姉妹だったのよ」

「ああ、それか」

 はい?

 確かに、二人の雰囲気は似ている。

 でも、マリアンヌとカーリーは金色と銀色で髪の色も違うし目の色も青の濃さが全然違う。

 それを、知っていたように言うなんて。

「だって、ふたりの骨格ってすごく似ているじゃないか。親族なのかな、ってずっと思っていた」

 骨格。

「そこのお兄さんも、マリアンヌと親族だよね? 耳の形が同じだ。とても特徴的だよね」

 耳の形。


 アアソウデスカ。

 さすがだよ、ミケランジェロ。でもそうなら教えてくれてもよかったのにね。

 せめてカーリーとマリアンヌの姉妹説ぐらいは。


「それに匂いも似てるよね。魔法の質も」

 ロッホ、今、それを言いますか。


「ユークリッド、よかったね。天涯孤独じゃないのよ、あなた。こんなかわいい従姉妹が二人もいたのよ」

「はい、……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」

「お兄様、と呼んでもいいでしょうか。血のつながりはないようですが、兄妹のようにお付き合いできたら嬉しいです」

 カーリーが、ユークリッドに歩み寄りる。

「もちろんだよ」

「私のことは、カーリーと呼んでください」


「カーリー、えっとそれより? ううん違うわね。それとおなじくらい大事なことは、あなたがエルスター伯爵家の実の娘だということよ」

 レイチェルが割り込む。

「そうでした。私とマリアンヌは姉妹なんですね。嬉しいです。同じ学年だけど、マリアンヌの方が年上ですよね? お姉さまと呼んだ方がいいかしらね。今さらちょっと恥ずかしいけど」

「そうじゃなくて。いや、そうなんだけど。大事なことはあなたは平民ではなく、伯爵令嬢だってことよ」

「えっ?」

「だって、アマリージョ様がおっしゃっていたでしょう? あなたはエルスター伯爵家から妖精に盗まれた赤ちゃんだって」

「うーん。でもいまさら伯爵令嬢だって言われても。私は、ただのカーリーでいいんですけど」

 そうだよね。それがカーリーだ。

「あなたはそういう子ね。でもね、エルスター伯爵はどうかしら? 妖精に木の棒と取り換えられた実の娘がこうして立派に育っていることを知れば、どんなに嬉しいか」

 レイチェル、頑張るね。カーリーは平民であることを卑下していないから、貴族になることに執着しないと思うけど。

「でも、エルスター伯爵様には、もうマリアンヌという素晴らしいお嬢様がいるわけだし。今さら私がのこのこ出て行って、もしマリアンヌが嫌な目にあったら困るし。私たちが姉妹で、ユークリッドお兄様もいる、それがわかっただけでいいんじゃないかしら?」


「カーリー、それは違うわ」

 マリアンヌが、ユークリッドと手を取り合っているカーリーに近づきながらそう言う。

「もちろん、お義父さまは私をとても大切にしてくださっているわ。だからこそ、本当の娘であるあなたのことを教えてあげるべきよ。あの義父なら、私とあなた、分け隔てなく娘として愛してくれるはず。それにこのことを知れば、おそらくユークリッド様のことも、ちゃんと伯爵家で保護してくださるはず」


「アマリージョ様、ユークリッドと彼女たちの関係、そして二人が姉妹であること、そのことをエルスター伯爵を納得させられる証拠があれば教えていただけないでしょうか」

「精霊の言葉だけでは足りないと?」

 アマリージョが兄に問う。

 もちろん、私たちにはそれだけでも十分だ。だけど兄は、慎重に進めたいのだろう。あとでわけのわからぬ輩にとやかく言われぬよう。

「だから、骨格と耳の形が」

 ミケランジェロ、そうなんだけど、今は黙っていて。


「いいでしょう。そういう慎重さもあるマテウスのことは、嫌いではありません。証拠ならありますよ。あなたが集めてきなさい」

「というと?」

「カーリーが孤児院に置かれていた時にくるまれていた布端に、スズランの刺繍が入っているはずです。その刺繍は、エルスター伯爵の最初の妻の手のもの。彼女が刺繍を施したハンカチやスカーフにも同じ刺繍がありますから、比べれば一目瞭然ですよ」

 遺伝子検査すればすぐなんだけどね。

 そうもいかないし。

 ミケランジェロに、三人の絵を描いてもらうのも、もしかしてあり?

 でも、ユークリッドとマリアンヌの耳の形はともかく、カーリとマリアンヌの骨格図はどうなんだろう?


「マリアンヌの方は、母親が最初に預けた施設に彼女の手紙が残っています。そこに出自がちゃんと書かれていますよ」

 こちらは、ちゃんとした証拠になりそう。絵はなくても大丈夫そう。

「その出自がわかれば、ユークリッドとの血縁関係も証明できますね」


「ではさっそく、証拠は私の方で固めましょう。その上で、カーリーはエルスター伯爵家に籍を移した方がいいと思う」

「なぜですか?」

「そのほうが君が守りたいものが、守り易くなるからだよ。修道院や、薬の研究や、義従兄であるユークリッドも」

「そうだな。ユークリッドの立場は今はまだとても脆い。他国からの亡命貴族になるわけだから。しかし、この国の貴族と縁者であると証明されれば、王国は彼を守る、というか守れるからな」

 アデル殿下も兄と同じ意見らしい。

「それに、マテウスといずれいっしょになるのなら、どうせどこかの貴族の養女にならなければいけないが、それが実の父親ならこれ以上はない話だ」

「な、な、な。」

 カーリーが、な、しか言わなくなった。

 レイチェルが、笑いながらうなづいている。


「それに、きっと貴族としてのあれこれは別として、エルスター伯爵はきっと喜ぶよ」

 アルベルトが、そっとつぶやいたその言葉が、いちばん私の胸にしっくりきた。

「そうよ、きっとお喜びになるわ。だって、私でさえ、こんなに嬉しいのだから」

 私がそう言うと、カーリーがようやくうなづいた。

「マテウス様、お任せしてもよろしいですか?」

「もちろんだ。カーリーのことも、マリアンヌのことも、そしてユークリッドのことも、この私をアデルが責任をもって、取り計う」


 カーリーとマリアンヌと、ユークリッド、三人がそっと抱き合い、それから揃って兄とアデル殿下に頭を下げた。




同じ文章を繰り返していた個所を修正しました。

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