敵の陣地に留学します。せっかくなので楽しんじゃうよ!! part5-1
今回は、魔法科首席、天才魔法師オスカー視点です。
蒼の森でのルクスとの決戦前に、彼から見たエリーゼの姿を描いています。
あまり間を空けず、続けて、決戦の様子もオスカー視点でお届けする予定です。
第27章 奇跡が日常となってからのあれこれ byオスカー。
私は、エメラルド王国王立魔法学院、魔法科一年、オスカー・フォン・ホフマン。
入学して一年にも満たないが、幸運に恵まれ、魔法省の正式な研究員としての活動も許されている。
今日は、ある覚悟を胸に、私が見聞きした学友であり仲間でもある、ヴォーヴェライト公爵家令嬢エリーゼの奇跡の数々をここに記そうと思う。
まず初めに言いたいのは、エリーゼは、その存在自体が奇跡だということ。
エリーゼには魔法の全属性があり、彼女はそのすべての属性の魔法を使える。使いこなしている、といえるのは本人によれば光属性による回復魔法だけだというが、私の見た限り、水魔法や火魔法もかなりの高水準だ。
このような存在は、この国だけでなく大陸全土を見回しても、他にいないはずだ。少なくとも、私は知らない。
歴史書の中にたった一人、魔法大国であるエメラルド王国初代女王、ローザモンド陛下がそうであったと記されているだけだ。
しかも、彼女には、六つの精霊からの加護がある。
一つでも加護があれば、その者は国の誉れと言われているのに、六つだ。
しかも、その精霊様はすべて高位であり、最高位の精霊もお二方いらっしゃるとか。どの魔法も、それぞれのスペシャリストの精霊様の加護の元直々の御指南を受けているのだから、さもありなん、ということだ。
ありえない。それがありえている。
しかも当人は、その重大さをあまりわかっておらず、それをゆるッとスルーしているようにも見える。
事実を表明すれば、国のみならず大陸の聖女として崇め奉られる存在であるのにもかかわらず、彼女はその力を仲間以外には隠し、他人を護るためだけに使用している。
彼女はかつて私にこう言った。
いつかは、この国を出ていくだろうと。
予言があるそうだ。
現在、王命によって彼女の婚約者であるフィリップ第二王子に、彼女がこの国を追放されるというものらしい。
ばかげている。
彼女をそんな形でこの国から排除すれば、エメラルド王国は衰退し滅びの道を歩むことになる。
エリーゼを追放すれば、ヴォーヴェライト公爵家も我が国を捨てる。
これがどういうことかというと、実質上、今この国の政治をまわしている宰相とそれ以上の器といわれている次代の宰相が揃って国を出ていくということだ。そして、この国の経済を今や大陸で一番潤している国を代表するの商会の頭である、彼女の母親も一緒に出ていく。
ヴォーヴェライト公爵家がエメラルド王国を見限れば、他にも、エリーゼを慕い、あるいはヴォーヴェライト公爵家に忠誠を誓う多くの才能や賢人も流出するだろう。
あの、創作意外になんの興味もないような天才芸術家ミケランジェロでさえ、ともに国を出る、と断言しているのだから。
彼女とその周囲を受け入れる国は山ほどある。それは間違いない。
おそらくは、彼女の母の出身国サファイア王国が保護の後、すみやかに自国に取り込むはずだ。なんといっても、ヴォーヴェライト公爵夫人は、サファイア王国の第三王女でもあるのだから。マテウス様の器をもってすれば、やがてはサファイア王国の国王の座もあり得る。
それ故、もし公爵家がエメラルド王国から追放されれば、サファイア王国との関係も危うくなる、
政治と経済の要を失い、隣国でもある友好国を失う、それがどれほどの打撃であるか、王家こそがわかっているはず。
いったいなぜ、国王陛下が、エリーゼをあの王子の婚約者にされたまま放置されているのか、正直私にはわからない。
私も、マテウス様の右腕として、どこへでも行く。そこに迷いはない。
ただ一方で、できれば、先祖代々が慈しんできたエメラルド王国で、この国の繁栄を支えたいという想いもある。
この国には、家族や友人、想いを寄せる人もいるのだから。
一番良いのは、エリーゼが断罪と呼ぶ、国外追放の予言を覆すことだ。
だから、私もそれに向かって微力を注ぐつもりだ。
まず、家の思惑もあり傍に控えていたフィリップ殿下と私は距離を置いた。
フィリップ殿下こそが、予言にある断罪を成す張本人なのだから。
父に、そのことを相談すると、「あの殿下を見限り、ヴォーヴェライト公爵家につくか。お前には悪くない選択だ。あの家なら、お前によき光をくれるだろう」と言ってくれた。
まあ許可が出なくても、私は私の思うとおりにするつもりだったが。
もともと魔力が甚大で、甚大すぎることが問題で、私には、この魔力を制御し有効利用するしか生きる道はなく、父もそのことは理解していた。
私ほど大きな魔力をもつ者は、ホフマン家には生まれたこともなく、この国にもほとんどいない。
まして、その魔力を巧みに操作できる人といえば、片手にも満たない。
その筆頭が、ヴォーヴェライト公爵家嫡男、マテウス様だ。
もともとヴォーヴェライト公爵家は代々、その魔力の大きさで他家を圧倒している。
それゆえ、積み重ねた知恵も多く、マテウス様は魔力操作の方法にも長けていらっしゃる。
私が、マテウス様の元に行くと意思表明したその時から、マテウス様は、公爵家の秘伝ともいえる魔力制御の方法を教示してくださった。
その上、エリーゼ様の加護精霊様からも、魔法を指南していただける。
私にとって、今は、夢のような境遇だ。
奇跡ともいえる、エリーゼの存在も、あの家だからこそ守り切れているといえるだろう。
ホフマン家は伯爵家ではあるが、特に派閥には属していない。強いて言えば第一王子のアデル殿下を、父は気に入っていたようだが、だからといって次の王にアデル殿下を推したことは一度もない。
そんな態度故、三兄弟をそれぞれに派閥に送り込んだのは父のこざかしい深慮遠謀だと陰口をたたく輩もいるようだが、そうではないと家族は知っている。
私も兄たちも、国王陛下や王妃様に請われそれぞれの王子の近くに侍ることになっただけで、父からの指示は何もなかったのだから。
学院に入学する際父が私に言ったのは、「お前には政治は無理だから、卒業後は魔法騎士団に入団し、命を落とさぬ程度に活躍すればいい」ということぐらいだったし、私もそのつもりだった。
しかし、私が魔法騎士団ではなく、学生ながら魔法省に入省したことで、その道は変更を余儀なくされた。
魔法省でマテウス様の下についたということは、王家とは一定の距離を置いた、あるいはマテウス様に近しいアデル殿下派と思われることになるということだ。
父は、それもまたよし、と判断したようだ。
現在、皇太子に第二王子のフィリップを推す派閥は急激に弱体化している。第一王子のアデル殿下は王位継承権を放棄されているので、その派閥はあるにはあるが、表立っての行動はできない。
現在、跡継ぎレースのトップに踊り出てきたのは、十歳になられた第三王子のバラード殿下だ。大変聡明な上、第二王子のフィリップ殿下ほど華やかさはないが、きりりとした容姿で国民の人気も高いという。
バラード殿下には、二番目の兄が侍従としてついている。
これも父や兄自身の意思ではなく、王家で飼っていた子豚を兄がとてもよく面倒をみてくれたから、という理由で筆頭侍従に抜擢されたらしく、なぜそんなことで? と家じゅうで首をかしげている状態だ。
フィリップ殿下には、王位継承権を放棄したアデル殿下についていた長兄が新しく護衛になったので、ホフマン家としてはバランスがとれてもいる。
しかしその長兄も、わずかな間に、フィリップ殿下にこのまま仕えるのは厳しい、いっそ文官になり財務大臣である父の跡を継ぐ勉強をしたほうがいいかもしれないと言い出す始末。
その気持ちは私には痛いほどわかるが、父としてはとても悩ましいようだ。
正直、私も、あの根っからの武闘派の兄に文官が務まるとは思えない。家は二番目の兄が継ぐべきだと私も思っているので、長兄が父の跡を継ぐという意思を見せれば、跡継ぎ問題がこじれるだけだと危惧している。
しかし、ホフマン家の次代がどうあるかは、この際どうでもいいだろう。
問題は、エメラルド王国がどうあるべきかということだ。
私は、私の名誉と命をかけて断言する。
エリーゼを、予言がどうあれ、断罪場面に引きずり出すということなどあってはならないと。
フィリップ殿下が、なぜ、あれほどエリーゼを厭い、彼女を責め立てるのか私にはわからない。
フィリップ殿下は、魔力もほどほどにあり、魔法、座学ともに成績もとびぬけてはいないが悪くもない。差別意識もさほどなく魔法科のクラスメイトとは、大きな問題も起こさない。
聖女マリアンヌへの執着は、時に目に余ることもあるが、最近はマリアンヌの方が私と同じように意図的に距離を置いているので、そういうこともほとんどない。
それなのに、ことエリーゼのこととなると、理性が欠落したように悪口雑言を並べ立て、彼女を激しく非難する。その様子は、誰が見ても異常だ。
おそらく、これが解決されない限り、エリーゼの言う予言の断罪場面は、真実となるのかもしれない。
しかし、その際、断罪されるのは、エリーゼなのか冤罪ともいえる罪でエリーゼを罰する殿下なのか。
以前は、その影響でエリーゼを悪く言う者が多かったが、彼女が文官養成科で次々と成果を上げたことや、彼女の筆頭加護精霊ともいえるヴェルデ様の人気もあり、エリーゼを崇拝する者が増え、フィリップ殿下から距離を置く者も増えている。
これから二年、エリーゼはさらに友人や同志、崇拝者を増やしていくはずだ。
だとすれば、もし予言どおりのことがあれば、この国は大いに混乱するということだ。
そういえば、エリーゼは時おり、『破滅フラグ』という言葉を使う。
もしかしたら、エリーゼには先見の力があるのかもしれない。いやあるはずだ。
彼女は、現在や過去を映し出すクリスタルを操る。
そこに、未来が映らないとどうして言えるだろうか?
予言は、エリーゼ自身がクリスタルで視たものではないのか。
それなのになのか、それだからなのか、彼女は、自分自身というよりも、この国の『破滅フラグ」をへし折るため、自らに与えられた神のごとき力を使い、日々、奇跡をおこしているのだと、私は推察している。
エリーゼと精霊様たちのもっとも大きな功績は、エメラルド王国内の暗部に蔓延りつつあった悪の組織をあぶり出し、彼らの作った呪い薬や常習性のある薬の国民への蔓延を防いだことだ。
他にも、聖女と呼ばれている学友マリアンヌの拉致を解決し、彼女の聖女としての魔力不足への解決策も提示してくれた。
国の宝ともいえる聖女の存在を消さず、なおかつ支えるということが、この先、どれほどの恩恵を国に与えてくれるのか、想像してみて欲しい。
「大きな魔力で癒しの光魔法を使えるあなたこそが真の聖女であるともいえるのに、なぜ魔力の小さい聖女候補を庇うのか」と尋ねると、彼女は、「私は予言で国を追われるかもしれないから、自らがいなくなったこの国を支える存在が必要だ」とエリーゼは私に言ったのだ。
この言葉を聞き、私は彼女と絶対に敵対はしないと決めた。
彼女はおそらく、聖女の枠ではおさまらない、それ以上の存在なのだと感じたからだ。
さらには、国内の衛生観念や食生活を向上させ、貴族社会のみならず、それ以上に平民に多大なる恩恵を与えつつある。
魔力がない、財力がない、ただそれだけで淘汰されていくかもしれない様々な才を惜しみ、誰もがもっと豊かに明るく生きていける道を、エリーゼは模索し、それをヴォーヴェライト公爵家と彼女の加護精霊たちが支えている。
どれほど仲間が力を合わせ努力しても、それでも予言が覆らず、いつかもし、エリーゼがこの国を追放されるようなことがあれば、重ねて言うが、私も国を出る覚悟だ。
しかし、黙って去りはしない。
彼女がどれほど稀有な存在で、どれほど国を想っていたのか、それだけは広く知らしめてからこの国に見切りをつけようと思っている。
そのために、現段階で一番の奇跡をここに記す。
これは、彼女と彼女の加護精霊があぶりだした悪の秘密結社との、最終決戦の一部始終だ。




