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敵の陣地に留学します。せっかくなので楽しんじゃうよ!! part4-2

第25章 攻撃は最大の防御なり、をヴェルデがみなに説く。


 ヴェルデが皆を前に話し出す。


「ペリドット連合国の西側を覆うように、黒い森があるのは知っているわね?」

 私とマリアンヌ以外がうなづく。

「あの森は、実は、オニキス大公国の蒼の森と天然の魔法陣でつながっているの」

 私とマリアンヌ以外も驚きを隠さない。

 つまり、誰もそれを知らなかったわけだ。

 それにしても、天然の魔法陣って何?

「人や精霊が作ったものではなく、森の魔力が生み出した転移の魔法陣よ」

「そんなものが存在するのですか?」

 兄が驚きの声を上げる。

「魔力が豊富な場所では、まれにね」

「なるほど」


「その魔法陣の秘密を、あちら側に流すのよ。あちらの諜報活動はかなりレベルが高いの。『ラピスの涙』を盗み出せるくらいだからね。それを逆手に取るわけ」

 そういえば、母の商会のハーブ製品が魔力を増やすと調べ上げたのも、ルクス率いる秘密結社『リベルタース』だったわね。

 なんとなくそうかもね、と思ってはいたけど具体的にどうなんだか調べてもいなかったから、母と私は聞いてびっくり。兄が摘発した組織のねぐらには、すべてのハーブ製品の魔量増幅力が年代別に調べ上げられた資料があったそうだ。

 兄からそれを受け取った母は、「心根を入れ替えたらうちで雇ってもいいわね、これを調べた者」と言っていたそうだ。


「つまり、自分たちだからこそ、この秘密を探り出せたのだと思わせると?」

「さすがマテウス、理解が早いわね」

 ヴェルデに褒められ、兄の頬が緩む。

「しかしそれは、この後を考えれば危険では?」

 アデル殿下の危惧は、私にもある。

 秘密は秘密のままの方がいいのでは、と思う。

 誰かに洩らせば、そこからまた別の誰かに漏れていく。秘密とはそういうものではないのか。


「この後? ああ、ルクスを仕留めても、彼以外の誰かに悪用されるかもしれないということ? それなら心配ないわ。あいつを捕まえたらあっちもこっちも、サクッとぶっ壊すから」

 ソウデスカ、と兄が答える。

 オスカーは、天を仰いでいる。

 天然の魔法陣、兄やオスカーにとっては、この上もない研究材料だろう。

 しかし、ヴェルデがぶっ壊すと言ったら、躊躇なくやるだろう。

 ダイヤモンドのバットで、国宝級のオニキスの珠をぶっ壊したように。

 兄やオスカーがそれを目にするチャンスは、ほぼない。


「確実にルクス本人が出てくるように、すでにその魔法陣はちょこっとアマリージョが書き換えているしね」

「どのようにでしょうか?」

「闇の属性、それも強い魔力の持ち主でないと使えないように、に決まっているよね」

 決まっているのか。そうなのか。


「それで、こちらは?」

 アルベルトが聞く。

「エリーゼたちには、蒼の森に出向いてもらうわ。そうね、例の魔草学の授業の実習でウリンダの実を探しに行く、という口実はどうかしら?」

 素敵だ。

 行きたかった蒼の森。

 探してみたかったウリンダの実。


「危険すぎる」

アルベルトが真っ先に反対する。

「エリーゼに同行するのは、アルベルトの他は誰になりますか?」

 兄は、カーリーのおかげで理性が戻ってきたのか、絶対反対、というわけではなさそうだ。

「そうね。私たちがついているから、アルベルトだけでいいよ。アデルは剣も魔法も中途半端で、こういう時は足手まといだし。ミケランジェロはどうせ来ないし」

 アデル殿下ががっくりうなだれる。

 ヴェルデ、言い方、言い方だよ? 何度かお願いしているよね。


「でも、エリーゼとアルベルトだけが蒼の森に入るのは、少し不自然な気もします」

 レイチェルの意見も一理ある。

 それだと、おびき出し作戦ってばれるかもね。

 授業の一環なら、他にも生徒いなければ不自然だもの。

 けれど、こちらの生徒と一緒に危ない真似はできない。それこそ、足手まといにもなる。

「そうね。だから、アマリージョとロッホがこちらの生徒に化けてついていくから。後は私が何体かゴーレムを創って賑やかしておけば、それでいいんじゃないかな?」


「ゴーレム、……ヴェルデ様のお創りになるゴーレムとは、どれほどのものなのか」

 オスカーが夢見るような顔つきになる。

「こんな感じよ」

 ヴェルデが、一瞬でサクッとゴーレムを創り出す。

 ゴーレムって泥人形だよね? でもこれは、どこから見ても私たちと同じような人なんですけど。

 それも、リリアにそっくりなんだけど。


「素晴らしい。他に言葉が見つからぬほど」

 兄が、呆けています。

 カーリー、気合を入れてやって。

 そんな私の想いが通じたのか、カーリーが、兄の腕を二度ほど叩くと、兄が現に戻ってきた。


「ヴェルデ、あなたのゴーレムは素晴らしいわ。だから、アマリージョやロッホが生徒に化ける必要はないんじゃない?」

 全部、ゴーレムでよくない? ってふつうに思う。

 そう思っているのは私だけでなく、ここにいるみんなもきっとそう。

「ゴーレムもある程度戦えるけど、アマリージョたちとは攻撃力に雲泥の差があるもの」

 ルクス側がどれほどの人数でやってくるかわからないけど、転移の魔法陣をルクスが動かすのなら、それほど大人数では来ないはず。

 何回かに分けてくるのなら、それはそれで、戦力を削る方法は色々とあるだろう。

 攻撃力って言われてもな。

 それにそもそも。

「だからそれは、生徒とかに化けないで、精霊として戦えばいいのでは?」

「それだとつまんないじゃない」

 は?

「面白くする意味ある?」

「逆に、面白くない戦いに意味があるのかを聞きたいんだけど」

 精霊って。

 ほんと、精霊ってこれだから。


「ヴェルデ様、エリーゼに危害が及べば、みんなが面白くない結果になりますが」

 アルベルトは、氷の笑みを浮かべたままだ。

「アル、蒼の森は精霊の生まれ育まれる場所なんだよ?」

 アルって何?

 なんか親しげな呼び方じゃない。

 どういうこと?

「つまり、あそこには精霊がわんさかいるし、精霊の力が十分に発揮できる場所でもあるの。それに、加護があるなしにかかわらず、エリーゼの香りに惹かれない精霊はいない。あの森でエリーゼが傷つくことや、怖い思いをすることなんてないから」

「絶対ですか? 百パーセントですか?」

「絶対よ」

「それなら、いいでしょう。ヴェルの提案に従いましょう。計画の続きをどうぞ」

 今、なんて言った?

 アル、ヴェルって呼び合う仲なの、あなたたち、私に無断で。


「続きっていっても、もうあんまりないけどね。情報を流して、エリーゼを囮に蒼の森にルクスたちをおびき出す。あとは蒼の森総がかりで一味を捕獲。その上で、あいつらの得意戦法を逆手にとる」

「というと?」

「結局、今、ルクスたちが使える手って、呪い薬とドレインなんだよね」

 そういえば、ドレイン体質の人って探せたのかな。

「呪い薬は、あの森で使うのには向かないから、ドレインでエリーゼの魔力を奪おうとするはず」

「魔道具じゃないんだよね?」

「インディゴからマテウスには報告してあるけど、ルクスはドレイン体質の者を何人も隷属させて道具のように使役しているんだよ。たぶん、その中でも、一番力の強いものを連れてくると思うわ」

「でも、エリーゼにはまったく問題はないから」とインディゴ。

「なぜですか? 本当に大丈夫なんですか?」

 マリアンヌが心配してくれる。

「ドレイン体質っていうけどさ、正しくは、ドレインっていうのは、闇属性を持つ者の一部が発動する闇魔法の一種なんだ。ただ、それって訓練や経験ではものにできなくて、生まれつきでできるかどうかが決まっているから、体質って言われているんだよ。たとえばルクスの魔力は高くて彼の闇魔法は強力だけど、ドレインはできない」

 なるほど。

「だから、それが闇魔法の一種であるかぎり、闇の精霊の加護があるエリーゼにはほとんど効かないんだ」

「まったく効かない、ではないんですね」

「まあ少しは影響がある。ほんの少し。相手の魔力が強大なら」

「少しって言われても、お茶会で闇魔法を撃たれた時、エリーゼのイヤリングが一つ割れたんですよね」

 またまたアルベルトの心配度メーターがビュイーンと上がったようだ。

「あれは、ルクスの魔法がピンポイントでエリーゼのイヤリングに当たったからだよ。もし、エリーゼの体のどこかだったら、蚊に刺された程度の負荷しかかからなかったはず。ほとんどっていうことは、つまりその程度っていうこと」

 そうなの?

 だったら、魔法付与のアクセサリーとかつけないほうがいいの?

「つまり、イヤリングのおかげで蚊に刺されずに済んだということですね」

 そうとるんだ、アルベルトは。

 兄もアデル殿下も、そうかよかった、とうなづいている。同類のようだ。


「それで、逆手に取るっていうことは、彼らの魔力を奪うということ?」

「そう、そのとおり。……ドレイン返しよ」

 〇〇返し、っていう間があの名台詞にそっくりなんだけど。

 まさか、あのドラマを見た、いや視たのか? クリスがいるからね。なくはない。確かめないと。

 精霊たちが、クリスで前世のあれこれを吸収してくるのが悪いとは言わない。

 でもね、私をとおさず無断っていうのは、やっぱりだめだよね。


「蒼の森には、いろんな魔草樹が生えているんだけどね、ちょうど魔法陣の近くに、サックサックの木があるんだ」

「サックサックとは?」

 兄が尋ねる。

「あ、この間授業で習ったわ。生き物の魔力を吸引して育つ魔樹だよね?」

 一緒に授業を受けたアルベルトも、うなづいている。

「そのとおり。ルクスたちをサックサックにつかまえてもらって、そんで魔力をズッポリ吸ってもらう」

「うまくいくんでしょうか。それにうっかりエリーゼも魔力を吸われたら、危険では? いくら魔力が多くても無限ではないのですから」

「サックサックには、大地と緑の精霊の私が、きっちり話をつけてあるから大丈夫」

 話をつけてある? 魔樹に? 

「サックサックは話の分かる種族だからね」

「それに、僕の仲間の闇闇の草も、協力してくれる」

 闇闇の草も、魔草だ。授業でやった。

「闇闇の草はね、吸血草よ。そして、血を吸われた者は」

「血を吸われた者は?」

 どうなるんだったかな?

 アルベルトを見る。

「吸血人間になり、蒼の森に囚われます」

 そうだ。吸血人間。そうなったら、蒼の森からでることができなくなり、出たらすぐに死んでしまうとか言ってたわね。


「それは、また危険では?」

 レイチェルが、心配そうに聞く。

 レイチェルは、血を見るのが嫌いだからね。

「大丈夫、あいつらも話がわかるから、こっち側の血は吸わない」

 闇闇草も、話の通じる魔草らしい。

「それに、エリーゼの血は危険だってわかってるから。魔力が強すぎて、逆にあいつらが枯れ果てることにもなりかねないから、十分注意するはず。ルクスのがちょうどいい感じに美味いって唆してあるしね」


「わかりました。ヴェルデ様に、ルクスとその一味捕縛作戦を全権委任しましょう。くれぐれも、エリーゼたちに危害が及ばぬよう、お願いします」

 兄が、ヴェルデに深々と頭を下げた。

「まかせて」

 

「それで、決行はいつ頃になりますでしょうか?」

「おそらく二週間後くらいかしらね」

 ヴェルデが即答する。

「ようやく、向こうが、こっちの囮情報に食いついてきたから」

 インディゴも同じ意見のようだ。

 おそらく精霊たちは、十分に連絡を取り合い情報を共有しているのだろう。

「情報をあっちが信じたら、蒼の森に行く日をこっちで決める形になるわね」

「信じたかどうかはなんで判断するの?」

「エリーゼなら、もしエリーゼがルクスの立場なら、それをどうやって確かめる?」

 あ、そうか。

「とりあえず、転移してみるわね」

「あっちが、黒の森から蒼の森に転移したら、そしてその結果に満足すれば、信じた証になるよね」

 皆。うなづく。

「それからしばらくして、その森にエリーゼが授業で行くという情報が入ると、どうなる?」

「そんな機会逃さないわね」

 囮や罠ではないかという疑惑がないとは思わない。

 けれど、信じるだろう。

 ルクスには、信じる道しか残っていないからだ。

 時間をかけて積み上げてきた組織も、資金も、名声も、権威も、それらのほとんどを失い、今も失い続けているのだから。

 起死回生の一発になるかもしれない計画。

 私を捕らえれば、復讐の始まりには十分だし、お金を手に入れられる算段はつくと思うだろう。とにかく、ヴォーヴェライト公爵家の資産はエメラルド王国の王家をはるかに凌ぐと、今や大陸中に知れ渡っているらしいから。

 それにどうせ、アマリージョがそれを盛って盛って、あっちに流しているだろうから。


「まあ、もし、今回のこれに向こうが乗ってこなかったら、こっちから出向けばいいだけだし。蒼から黒へ瞬間移動できるって、こちら側にも超便利だからね」

「そうですね。それなら、ペリドットにも簡単に移動できる。エリーゼの魔力はとてつもなく大きい。騎士団でも軍でも送れる」

 アルベルトがニヤッと笑う。

 は?

 送りませんけど。騎士団はともかく、軍って何よ。


「みんないい? 攻撃は、最大の防御よ!! 」

 孫氏かよ、とアルベルトがつぶやく。

 とりあえず、アルベルトの前の世界には、孫氏もいたと。

 でも、待ち伏せって、攻撃なのかな?

 情報戦的には、攻撃って言えるかな。


「私どもも、その様子を把握できますでしょうか?」

「直接蒼の森には入れないわ。邪魔だから」

 邪魔って。だから言い方。

「クリスで視るのは?」

「エリーゼがいいなら、いいよ。現場とクリスをつなぐ魔道具を用意しないとだめだけど。私たちは当日忙しいから、そんなことにかまっていられないし」

「私が作ります」

 オスカーが、ピシッと右手を挙げる。

 オスカーなら、問題なく作れるだろう。

 それに、その魔道具、これからも色々使えそう。

 

 兄が満足そうにうなづく。

「ではそういうことで。アデル、一応今日の話を、ミケランジェロにも伝えておいてくれ。同行しないといって安全とは限らない。そちらは侍女たちとラウルに守ってもらうことになるだろうが」

「了解した。微力ながら、私もその日はミケランジェロの護衛につこう」

 殿下、ほんといい人だ。

 お願いしますね。


「じゃあ、決行日が決まったら連絡するね」

 ピクニックの日が決まったら連絡するね、というくらいに気軽な声だ。

 まあ、精霊たちには、蒼の森へのピクニックとさほど変わらないのかもしれないけれど。


 作戦会議は終了した。

 その後は、当然、お菓子パーティだ。

 さほど甘党でないオスカーも、楽しんでいるようだ。

 マリアンヌの作るものは、特別なのかもね。

 私のも食べて欲しいけど。


 もう一日、私たちは、ハーブ園の手入れや、クラスメイトの研究の進捗状況を聞きながら、慣れ親しんだ日常を楽しみリフレッシュし、オニキス大公国に戻った。

 


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