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敵の陣地に留学します。せっかくなので楽しんじゃうよ!! part4-1

第24章 留学もそろそろ終盤、闇に潜ったルクスをどうしましょうかね。


 エメラルド王国、王立魔法学院付属図書館の特別限定エリア。

 ここは学院の図書館であるが、特別限定エリアのみ、管轄は魔法省だ。

 もともとここにある蔵書は魔法省にあったもので、魔法大国エメラルド王国の魔法の歴史が詰まっている場所だ。かといってさほど重要な機密事項が書かれているものはない。少なくとも、私がざっと読み倒した限りでは。


 ここに入室できるのは、魔法省の職員と、学院の文官養成科の生徒だ。ただし、どちらも、閲覧許可の予約が必要だ。

 たとえば、第二王子フィリップ殿下は王族だが、魔法科の生徒なので入室ができない。

 文官養成科のカーリーは平民だが、予約さえすれば入室し閲覧ができる。

 魔法科のオスカーは、魔法科の生徒だが魔法省に所属もしているので予約さえすれば入室できる。

 こんな感じだ。

 

 もちろん私も文官養成科の生徒なので、しかも図書館長であるアデル殿下がしょっちゅう許可を出すのもめんどうだと、年間パスポートをくれたので予約も必要ない。


 魔法省の管轄なのに魔法科の生徒が入室できないのはなぜなのか? 

 奥歯にものを挟まずに言えば、魔力さえあれば入学できる魔法科の生徒には理解できない書物しかないからだ。

 そして、魔法科にも稀にいる優秀な生徒は魔法省が青田買いをしているので、魔法省職員として入室すればいいので問題がないからでもある。


 そもそも魔法科の職員の三分の二は文官養成科の出身者で、魔法科の出身者は芸術科の出身者より少ない。ちなみに騎士科の出身者は10年ほど前に一人いただけで、彼らは、ほとんどが魔法騎士団も含めて各騎士団に入団するか、家の事情でそれぞれの故郷に帰ることが多い。

 芸術科も貴族が多いが、魔法省にはいくつか芸術に関連する部門や研究室があるので、そこに所属する者も少なからずいる。

 アデル殿下がそれだ。今は、魔法省から、学院の図書館長に出向している形になっているけれど、その辺りはけっこう緩々な気がする。

 アデル殿下は、王位継承権を放棄したくせに王家の権威を好きに利用しているし、魔法省の特権もゆるゆると使っている、と私には思える。


 そういえば、前世と違い、こちらの世界では芸術にも魔力が関係する。

 魔力が多いほうがその作品の質があがりやすい。ただし、完全に比例はしていない。それが証拠に私のピアノの腕は前世では考えられないほどの速度で上達したが、それでもプロの演奏者としてやっていくには無理がある。魔力だけでは、ある一定の線を越えていくことはできない。同じことが、他の人にもいえる。魔力は上達を早めるが、魔力でそれぞれの限界を突破することはできない。

 

 だからこそ、ミケランジェロは、やはり特別だ。

 魔力を武器に、神に愛されたその才能を無限大に増幅させていくのだから。


 もし、私があの断罪を免れることができ、国外追放にもならずにすめば、私としてはとりあえず魔法省への入省を希望している。

 ずっとこの国にいるかどうかはわからない。

 けれど、まずはこの国の魔法省で研究職につけたらいいな、と思う。

 精霊と人とのありかたや、魔法と薬の役割分担、あるいは融合を勉強したい。

 もっともっと力と知恵をつけなければ、結局、今と同じく精霊たちに頼るだけの人生になる。


 というわけで、アデル殿下の思いのままでもある図書館の特別限定エリアは、私たちの集まりにとても適している。

  

 そして、何ごとにも例外はある。

 今日ここには、本来入室が許可されない生徒が2人いる。

 騎士科のレイナードと魔法科のマリアンヌだ。

 図書館長のアデル殿下が、2人を魔法省の臨時職員にして、サクッと許可を出した。

 オスカーはもうすでに魔法省の正式職員だが、それとは違い、一定の期間、職員としての身分を保証することで魔法省のお仕事に協力してもらうためのものらしい。

 ちなみに、二年ほど前に兄が作った制度だとか。

 マリアンヌとレイナードは、魔法学院に在学中限定で、兄の研究に参加するという形をとっている。

 そうすると、二人はヴォーヴェライト公爵家派と認識される可能性もあるらしいが、マリアンヌは、例の拉致事件以来、義父のエルスター男爵がすでに王家と公爵家に忠誠を誓っているので問題はない。

 レイナードは辺境伯家の人間なので、やはり問題ないらしい。辺境伯とは、派閥には関係なく国を守るための家だからだそうだ。周囲がどう思おうと辺境伯家としては関知しないという、きっぱりとした態度だ。

 そうなると、アルベルトが私の護衛騎士になったのは、とってもマズい気がするが、レイナードは謝る私にこう言った。

「愛する人を守ることより大切なことは、この世にありませんから」

 

 愛する人。

 そこが大問題。彼も私もそれを真っ向から否定はできない。

 けれど、疑問は消えない。アルベルトの愛は、どんな種類のものなのか。

 いやまず、私の想いはどうなのか。


 かつて私が愛したたった一人の人、神戸樹里(かんべじゅり)

 私は、あの時、最後に願った。もし生まれ変わったら、もう一度彼に会いたいと。


 そして私は知っている。

 樹里もまた、前世での自分の命の灯を消したことを。

 私がこの世界に転生したように、彼もここに来た可能性もゼロではない。

 私の身勝手な願望かもしれないが。


 アルベルトは、樹里なのか。


 アルベルトが転生者なのは間違いない。

 けれど、彼が樹里だという確信が持てない。

 持てないことが、問題なのだ。

 もし、彼がそうなら、持てるはずだから。

 とはいえ、転生により容姿も変わり、何より世界のあり様が変わった。

 あちらもそうだろう。

 そんな中で、確信が持てるものなのか、という疑問もある。


 もうひとつの問題は、私が、確信も持てないのに、アルベルトに惹かれ始めているということ。

 彼のそばは心地いい。

 彼との会話に癒される。その少し嫌味な口調でさえ、私の笑みを誘う。

 このままずっとそばにいれば、恋に落ちるのも時間の問題だろう。


 だけどもし、彼が樹里でなく、この先の未来で本当の樹里に巡り合ったとしたら、私はどうすればいいのか。

 それも怖い。


 わからないから怖いのか、わかりたくなくて怖いのか、それとも、本当はわかっているから怖いのか。


 しかし、どれほど怖くても、アルベルトとは一度ゆっくり話し合う必要があるだろう。

 彼の未来の選択肢を狭めないためにも。

 それは今ではないけれど。



 今日は、ここに集まったメンバーで、私の私的な悩みなど問題ではないほど大切なことを話し合う予定だ。

 マリアンヌとレイナードの他は、文官養成科のレイチェルとカーリー。それといつものメンバーだ。兄とアデル殿下、オスカーと私。

 そしてアルベルトも私の護衛騎士となってからは、ここでの会合のレギュラーメンバーと認識されている。

 ミケランジェロは欠席。

 身の安全のこともあり、エメラルド王国に一緒に戻ってはきたが、ここで会議に出ても自分に言える意見など何ひとつなく時間の無駄だと、芸術科の教室で創作に励んでいる。


 全員が集まると、殿下が制限エリアに内側からカギをかけ、プラータの教えを請いながら私が結界を張る。

 プラータやインディゴが独自に張った方が上質なものが展開されるだろうが、最近は、サポートしてもらいながら私が張ることも増えてきた。

 そうやって訓練することで、回復魔法などは、彼らと遜色ないレベルで施すことができるようになった。


 魔法はその効果を理解してイメージを作り上げ、そして使う、使い続けることで上達する。

 命の危険を感じる様な場面や危急の時は、精霊たちにお任せするが、それ以外ではなるべく自分でやってみる。

 精霊たちは、面倒がらずにちゃんと見守り、褒めてもくれるしダメ出しもしてくれる。

 魔力操作の具合に問題があることが多く、私は、魔力を使いすぎるきらいがある。

 

 他にヴェルデとインディゴがここに一緒にいるが、他は、諜報活動中だ。

 ロッホは、なんとラピスラズリ神聖帝国にまで出張中だ。

 あちらには兄弟が何人かいるからと言っていたけど。

 そういえば、帝国には火竜が描かれている看板や旗が多かったけれど、関係あるのかしら?


 アマリージョはあちらこちら、オニキス大公国の周辺国家を巡って、ルクスの行方を追っている。

 セレステはマリンから、より深く大公国の諸事情を聞いてくれているらしい。


「では、会議を始める」

 兄は、今日はカーリーがいるせいなのか、いつもより、ピシッとしていて大真面目モードだ。

「議題は、地下に潜った新興宗教の『光の神教』の教祖兼秘密結社『リベルタース』の(マスター)ルクスへの対応についてだ」


「まず、私から、先日のお茶会での顛末を話しておこう」

 アデル殿下が、お茶会でのルクスの祝福イベントが、精霊たちの魔道具破壊とプラータと私の小芝居で、不発に終わったいきさつを簡潔に話してくれる。


「見たかったですわ。エリーゼの神々しいまでのご加護のシーン」

 マリアンヌ、ちゃんと聞いていましたか?

 それ、プラータの仕組んだ三文芝居ですからね。

「プラータ様が人形(ひとがた)をとっておられたのを初めて見たが、それはもうまぶしいほどの美貌でエリーゼと並ぶところは、大聖堂の壁画にしたいほどの至極の光景だった」

 アデル殿下がうっとりとまぶたを閉じる。

「確かに、芝居とわかっていても、あの光景は心を打つものだった」

 アルベルトまで、何を言っているのかな。


「だから、あの会場にいた者たちの多くは、プラータ様とエリーゼの醸し出した雰囲気に酔いしれ、ルクスを忘れた。エミリオ公子までも。洗脳が解かれた瞬間だな」

「そのせいで、彼は宰相の座を捨て地下に隠れたのでしょうか?」

 レイナードが聞く。

「彼は慢心が過ぎしくじったが、聡明ではある。引き際は誤らなかった」

 アデル殿下が答える。

「ルクスは、潜って何をするのでしょう?」

 レイチェルが首をかしげる。

「たとえ教祖としてのカリスマ性が小さくなっても、宰相として有能ではあったはずです。エミリオ公子への教祖としてのルクスの洗脳が解けたとしても、すぐに宮殿から排除されることはなかったのでは?」


「あいつは、エリーゼを狙って闇魔法を撃った。そのせいで大きなものを失った」

 アルベルトが、怒りに満ちた声で言う。

「それを証明することは簡単だ。こちらにはプラータ様がいるのだから。彼は言い逃れができないことも知っていた」

 

「なんだと」

 兄の周囲に黒い靄が見えるようだ。

 黙っていたのは悪かった。アデル殿下が報告していると思っていたので。

 私はアデル殿下を見る。

 この怒りが面倒で黙っていた、そんな顔だ。


「詳しく」

 兄が言葉少なくなったときは、怒り心頭になった時だ。


「あの男は、自分に集まるはずだった視線をエリーゼに奪われたことに腹を立て、エリーゼに闇魔法を飛ばした。そのせいで、彼女の右のパールのイヤリングが弾けた。護衛の私が身代わりになれず申し訳なく思っています」

 兄の眉間のしわが深くなる。

「兄さま、違うの」

「何が違う」

「あれは、アマリージョたちが謀ったのよ。私を囮に、私に攻撃させてその対価に彼の光の属性を無効にしようとして。精霊たちの謀に、人は手出しはできないわ。スペックが違いすぎるもの」


「何があってもいいように、エリーゼは完璧に守られていたよ。そうでなければ、囮にしたりしないもの」

 ヴェルデが胸を張る。

「ヴェルデ様、しかし、いくらなんでもエリーゼを囮にするのはどうかと思いますよ」

 兄がめずらしく、ヴェルデに反論する。

「だって、エリーゼには毒も呪いも効かないし、魔法や物理攻撃にも備えて魔法付与のアクセサリーを山盛り身につけていたのよ? アマリージョが監修したあの首飾りだけで、竜のブレスも防げるほどのものだからね。おまけに私たちも勢ぞろいだったし、なんの心配もないじゃない。それにさ、アルベルトが次の瞬間には抱き込んで守っていたし」

 竜のブレスって。どんだけ!?

 アマリージョ監修も初耳だわ。ミラとハンナ、大丈夫だったのかしら? 今さらだけど。


「だ、抱き込んだ?」

 お兄様、落ち着いて。

 護衛ですから、身を挺して守るのは当たり前ですよ。

「マテウス、落ち着け。アルベルトがエリーゼを抱き込んだことには私も不快感はあるが、あの場合最善の守り方だったと思う」

 そういえば?

 アデル殿下もすぐに、私とアルベルトを庇うように立ちはだかってくれたような。

 アデル殿下のこういう、なんていうかライバルにも公平なところは、美点だと思う。

 それとも、私を想ってくれている、というあれは何かしらのカモフラージュだったのかしらね。


「つまり、ルクスは精霊様たちの罠にまんまと嵌まり、光の属性を失ったのですね?」

 カーリーが兄の過剰な怒りを、冷静で素晴らしい話題展開でスルーする。

 感謝のまなざしを向けた私に、カーリーがニコッと笑ってくれる。


「ルクスが私に敵意のこもった闇魔法を撃つ前に、プラータが言ったのです。もし私に害を成す者がいれば、すべての光の精霊と女神フロリアーナ様に楯突く者とみなすと」

 ルクスは、目論見が外れ、あの瞬間理性が飛んでいたのだろう。

 最高位の光の精霊、プラータの言葉の重みをなめていたのかもしれない。


「しかしルクスは、もともと加護があったわけでもないのだろう?」

「それが、私も初めて知ったのですが、加護があろうとなかろうと、光の精霊すべてに敵とみなされれば、光属性の魔法は何も使えなくなるのです」

「なるほど。それは言われれば納得できるな。そもそも精霊全てにソッポを向かれることなどふつうはないけどな」

 それはそうだ。

 精霊も千差万別だ。

 それぞれの想いにしたがい、好きなように自由にふるまう。それが精霊だ。

 けれど、時に一致団結するらしい。おそらく女神フロリアーナの御旗の元では。

「ルクスは、プラータ様の言葉を正しく理解しなかった愚か者です」

 アルベルトは、ルクスに対し、本当に辛辣だ。


「つまり、ルクスは光の属性を失ったことでそのカリスマ性も地に落ちたということか」

「そうだ。そして、それが周囲にばれる前に地下に潜ったと考えられる」

「ということは、この後考えられるのは、エリーゼへの復讐か?」

 おそらくそうなるだろう。

 いい迷惑だけど。

「そうだな、その可能性が高い。今のあいつでは、ニュクスもいない今、帝国への報復など遠すぎる野望だ。とりあえずは目先の復讐相手、といっても逆恨みだが、エリーゼを狙うのではと私も思う」

 兄の拳が、ぎりぎりと音がするようにかたく握りしめられている。


「マテウス様」

 カーリーが兄のその手にそっと触れる。

 兄のこわばりがふっと解ける。

 なるほど。

 私がいない間に、どうやらこの二人の恋はかなり進展しているようだ。


 兄に溺愛されていた妹としてはちょっぴり寂しいけど、でも、お似合いの二人だ。このままうまく愛を育んでほしい。

 我が家では身分差など問題にはならないだろう。

 聡明で可愛らしく、気立てのいいしっかり者。これほどの女性を父や母が疎んじるはずもない。喜んで我が家に向かい入れ、父なら、外野にあれこれ言われないよう、カーリーを守ることもできるはず。

 ただ、心配なのが、私の断罪イベントの巻き添えにならないか、ということだ。

 その辺りは、いずれカーリーとも本音で話し合うべきだろう。


「オニキス大公国での留学期間はあと一月半ほど。私がエメラルド王国に戻ってからでは向こうも手を出しにくいかと思います」

「つまり、時をおかず攻撃してくるか」


「守り抜きます。命に代えても」

 アルベルトが静かに言う。

「もしよければ、私も、護衛の一人に加えてください」

 レイナード?

「兄だけを危険な地に送り、自分はのほほんと学園で訓練に励んで切るのは心苦しいのです」

「いやしかし、これ以上、辺境伯家に負担はかけられない」

 確かに。

 跡継ぎ候補を二人とも、公爵家の護衛にするわけにはいかない。

 一人でも、本当は問題の多いことなのだから。

 

「レイナードは、ここでレイチェルやカーリー、マリアンヌを守って欲しいわ。私が狙われているということは、私の身近な人間もまた危険だということよ。ここはあちらより危険は少ないかもしれないけれど、やはり危険はあると思うの。それに、精霊たちが私についてみんな向こうに行っているから、情報はどうしても少なくなっているし、守り手は少なくなっている状態よ」

 私は、レイナードに対し、真摯な面持ちでそう話してみる。

「そうだな。こちらも今以上に身辺に注意を払い、危険の芽はすばやく摘まねばならん」

 兄も同調してくれる。

「わかりました。私は、こちらで仲間を守ります」

 わかってくれたようだ。

 隣でレイチェルがホッとしている。

 

「オスカー、お前にも改めて頼む。レイナードと協力して、仲間を、学院を守って欲しい」

 兄がオスカーにも視線を向ける。

「もちろんです」

 オスカーはすぐに了承してくれる。

 学院というよりは国でも有数の剣士と魔法使いが、今まで以上に連携して守ってくれるのなら、学院の安全度はかなり高くなる。

 いざとなれば、私たちも、転移でこちらに戻ってさえ来られれば、安心だともいえる。


「お兄様、それでご相談なんですが」

 今さっき、プラータに囁かれた、精霊たちの計画。

「なんだ」

「留学中、身の安全ばかりを気にしていてはせっかくの異国での学びも成果を上げにくくなります。なので。十分に下準備をして、こちらから打って出たいと思うのです」

 またしても私を餌に、ルクスをおびき出して捕まえるという大胆な計画。


「ばかな」とアデル殿下。

「ふざけているのか」

 これはアルベルト。

「いい加減にしろ」

 ここまで言えるのは、やっぱり兄だよね。


「でもエリーゼがそう言うのなら、どんな案なのか聞いてみてはどうですか? エリーゼがなんの考えもなくあんな発言はしないと思いますから」

 マリアンヌの言葉に、レイチェルとカーリーがうなづいてくれている。

 でも、せっかく私を信頼してくれたのに悪いけど、私は考えなしだよ。ごめんね。

 謀は、精霊たちの得意分野で、私はそれを許諾するか拒否するかの判断だけ。

 事後承諾も多いし。


「今、ここにいるヴェルデとプラータ、そしてインディゴ以外は、情報収集に励んでくれているのだけれど、まずヴェルデから、今わかっていることを話してもらおうと思います。その上で、私が精霊たちとなにをやろうとしているのかを話したいと思います」

「いいだろう。ヴェルデ様お願いできますか?」


「ルクスが今どこにいるか。ロッホがつかんできたんだけど、どうやらペリドット連合国に潜り込んだようよ」

 ペリドット小国連合? 聞いたことがない。

 女子はみな首を捻っている。

「カーネリアン王国がガーネット王国から独立したとほぼ時を同じくして、ガーネット王国周辺の小国家が連合国を形成したんだ。弱体化したガーネット王国に今まで属国化していた国々だな」

 兄がわかりやすく説明してくれる。

「カーネリアン王国もそこに含まれるのですか?」

「いや、カーネリアン王国は今のところペリドットには参加していない」

「逃げるのなら、リベルタースの支配下にあるカーネリアン王国だと思ったけれど」


「どこに潜伏しようと、カーネリアン王国が彼の資金源でありその手先になることは間違いない。とはいえカーネリアン王国ではあからさますぎるだろう。ペリドットがどんな立場なのかはまだわからないが、生まれたての連合国だから、潜り込みやすくはあるだろうな」


「神聖帝国に行ったロッホが、でもどうしてその情報を?」

「帝国も、ルクスを追っているからよ。というのも、ルクスは帝国の三種の宝の一つ、『ラピスの涙』をリベルタースに盗ませたのよ」

「まさか」

 アデル殿下が驚きのあまり、呆けている。

 ラピスラズリ神聖帝国の三種の神器の、たとえ一つでも盗み出すなど、考えられない暴挙だからだろう。

 少なくとも、ラピスラズリ教の信者には、あり得ないことでもある。

 ちなみに、『ラピスの涙』は神力を宿した10カラットはあるラピスラズリの珠で、代々の法王を指名する時に必要な神器の一つだ。あと二つは、『火竜の剣』と『氷花の鏡』だ。


「でもね、今のルクスにとってはそれは失敗だった。だって、カリスマの座からこうも簡単に滑り落ちるなんて考えてもいなかったから。新興宗教のカリスマ教祖でなくなった今、『ラピスの涙』を持ち出してもなんの権威も得られないばかりか、ただの盗人だもの」

「しかし、使い道はあるだろう。あの珠には神の力が宿っている」

「どういうものですか?」

「伝説によれば、罹患すればほぼ死亡するという恐ろしい伝染病が流行った時、一人の聖人がラピスラズリ様に願い授かったのが『ラピスの涙』。その珠には、大いなる神の力が宿っていて、聖人の癒し魔法を何万倍にも増幅したそうだ。その結果、国中の病人が救われたとか」

「それは凄いですね。つまり、広域の癒し魔法を可能にする聖なる魔道具ということですか?」

 そうなのかもしれないが、オスカーのその言い方だと、なんだかありがたみが減るような。

 同じように感じたのか、兄もその答えをスルーする。 

「驚くべきは、その範囲の広さだけではなく、効き目の凄さだ。その伝染病に罹患していた者だけでなく他の病やケガ、かつての四肢欠損、先天性の疾患、そういったすべてが癒されたそうだ」

 神の力だよね、それこそ。

 ありがたみが、復活したよ。お兄様、グッジョブ。

「その聖人が、ラピスラズリ神聖帝国の初代法王だと言われている」

 アデル殿下が、兄の言葉に付け加える。


「しかし、ルクスが光の属性を失ったのなら、『ラピスの涙』は使えないのでは?」

「使えるよ。あれは、闇の属性にも反応するから」

「本当ですか?」

「本当よ。ただし、効き目は違うわ。あれに闇魔法をのせると繰り出されるのは広範囲殲滅魔法。範囲内の悪しきもの、すべてを殲滅するわ」

 悪しきものすべて。

 それって何?

 魔法を使う者に敵対するものが悪だとしたら、ルクスにとっての悪は私たちだ。


「悪しきものの、定義とは?」

 兄がヴェルデに尋ねる。

「それは、もちろん、ラピスラズリ様に敵対するものだね。だって、ラピスラズリ様の力が宿る神器なんだから」

 うん?

 それだとどうなるの?

 ラピスラズリ教を真っ向から否定しているわけではない、ルクス率いる光の神教はセーフなの?

 それとも、ラピスラズリ様の上位にルクスをもってくるということが、敵対になるのか。

 とりあえず、私たちはセーフな気がするけど。


「そもそも、ルクスは、そのことを知っているのでしょうか?」

「たぶん、知らないと思うよ。だからもし、『ラピスの涙』を発動させようと思ったら、強力な光魔法の使い手を用意するでしょうね。その意味でもエリーゼは狙われるかもね」


「でもそれじゃあ、マリアンヌも危険なのでは?」

「そうね。聖女と認められているから、その危険性はあるわ。あっちの情報網がどこまで機能しているかによるけどね」

 以前、ルクスたちはマリアンヌを拉致した。

 けれど、魔力が少ない彼女に利用価値はないと、殺そうとしていた。

 あの時から比べれば、マリアンヌの魔力は日々の努力と鍛錬のおかげでおよそ三倍にはなっている。

 まだ、光の精霊の加護はもらえていないが、立派な聖女といえる強力な聖なる癒し魔法が使える。

 しかし、その事実を知るのは、ここにいるメンバーくらいだ。

 毎日、マリアンヌにべったりのフィリップ第二王子もそのことは知らない。知られないように、オスカーやレイナードが守っているからだ。

「おそらく、情報は更新されていないはずだ。我が国の彼らの組織は壊滅できたと言っていいからな」

「でも、念のために、アリアンヌにももっと強力な護衛が必要では?」


「エリーゼ、大丈夫よ。私はもう以前の私じゃない。あなたのおかげで、自分の身は自分で守れる程度には強くなったもの」

「でも」

「ならば、今回エリーゼを守ったような魔法を付与したアクセサリーを、アマリージョ様にもお願いして、いくつか作らせよう。それを常に身につけていればいい」

 兄が提案する。

「わかりました。それでエリーゼの不安が小さくなるのなら喜んで」

「私たちも今以上に、彼女のことは気にかけておきます。どうかそこは任せて欲しい」

 オスカーが私に言う。

 そういえば、オスカーとマリアンヌも、ちょっといい感じなんだよね。

 しっかり守ってよ、オスカー。


「それでね、アマリージョが今、ペリドットに潜り込んでいるわ。ルクスのアジトも把握済み」

「ではそこへ、刺客を送り込むか」

 そんな物騒な発言をしたら、カーリーに嫌われますよ。

 あれ?

 カーリーに動揺はないわね。


「殺しはだめよ」

 ヴェルデが否定する。

 さすが、私の加護精霊。

「あっさり命を奪ったら、お仕置きできないじゃない」

 そういう理由?


「あいつを捕らえて、しっかりお仕置きしないと。トゲトゲの死ねない毒の茨でグルグル巻きにしてやるんだ」

 さようですか。

「ロッホも、じんわり焼いてみたいって言ってたし」

 焼くのは、ダメです。

「アマリージョは空気のない場所まで飛ばしてみたいって」

 それも却下です。

「セレステは二度と目覚めない歌を聴かせたいって」

 うーん、それはいったん保留。

「私は、先日の祝福イベントであやつに大恥をかかせてやれましたから、効き目をつぶす程度でよろしいわ」

 却下。

「僕はね、ニュクスと同じにして、闘鶏させたいかな」

 微妙。

 それってお仕置きなのかしら?


「ということで、あいつをおびき出してとっつかまえるから」

 ようやく、話が本題に戻ってきた。

「どうやってかお聞きしても?」

 

 ヴェルデが話してくれた計画は、けっこうな秘密がてんこもりな、精霊ならではのものだった。



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