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どうやら、ゲームではわからなかった悪の秘密結社があるようです。part6-2

第18章 学院でも色々問題山積みです。だけど、色々ふっきれたので、逃げずに正面からやっちゃうよ。


 転移は、一瞬だ。

 無事、みんなで私の部屋に到着した。

 そのとたん、ミラとハンナが駆け寄ってきた。


「「お嬢様、ご無事で何よりです」」


 もちろん、侍女たちには、私が無事であることは兄が伝えてくれていた。

 それでも、心配をかけていたのだろう。


 あ、そういえば、この二人にはじっくり聞きたいこともある。

 あの映像から判断すると、いくつかの武道の達人で、ひょっとしたら隠密、暗殺スキルまでもあるような凄味まであった。

 ……でも、今じゃないな。


「うん。ごめんね、心配かけて」

 というわけで、サラッと流す。

 二人は、少し物足らないような目をして、それでも何も言わず控えの間に戻っていった。


 カーリーとレイチェルは、それぞれの寮の自室に戻っていった。

 カーリーは、ピンキーが心配だわ、とちょっぴり慌てていた。


 引き取り手が現れないので、カーリーは、子豚(リリア)にピンキーと名前をつけたらしい。

 大丈夫、食事の世話だけは、監視? ついでにアマリージョが戻ってしていたらしいから、とも言えず、私は生温かい目でその背中を見送った。


 それに、そう遠くない将来、リリアも元の魔法科の学生に戻る予定だしね。

 カーリーのペットロスが心配だが、それでも、そろそろリリアには元に戻って欲しいな。

 アマリージョによれば、カーリーの勤勉さと優秀さ、そして優しさに触発されて、かなり反省はしているようだ。

 だがしかし、『真実の愛』については何もわかっていないとか。

 いや、私もわからないよ? アマリージョ。

 

 私は、魔法科の授業まで少し時間のあるマリアンヌとイザベラといっしょに、お茶を飲むことにした。

 ハンナのお茶には、もれなくそうなので驚きもしないが、イザベラもかなり感激していた。

 けれど、その後で、自分の侍女を思い出し、無事でいてくれたらいいのだけれど、と表情を陰らせた。


「正式に留学が決まれば、こちらに呼び寄せることもできるかもしれませんよ」

「そうね。でも、私といると危険だから、無事でさえいてくれたらそれでいいのかもしれないわ」


 平民だと言ったカーリーの手も躊躇なく握ってくれたし、自分の使用人への愛情も深いようだ。

 優しい人だな、と思う。

 まあ、そうでなければ、精霊の加護を受けることはできないのだろうが。

 なんとか、侍女たちの消息だけでもわからないか、精霊たちに相談してみよう。


 精霊の加護と言えば、そうだ、あの疑問も解消できるかも。

 聞いてみようか?

 ちょうど、ミラがお菓子も運んできてくれたし。


「イザベラ様は、お菓子は好きですか?」

「ええ。食べるのも、実は作るのも大好きなの。マリンと親しくなったのも、私が帽子を池に落として、それを拾ってくれたマリンに手作りのクッキーをあげたのがきっかけなのよ。マリンはお菓子が大好きで、だからって加護をくれるとは思わなかったけれど」

 

 これは、もしかして、当たりじゃない?


 精霊は、お菓子好き。

 おいしいお菓子をあげれば、少なくとも仲良くはなれる。


「このお菓子は、とてもおいしいわね。それになんだか魔力の流れがスムーズになるような気もする。これはお菓子の影響なの? それともお茶のおかげ?」

 さすが、精霊の加護持ち。鋭いな。


「どちらにも、魔力が、わずかですが増える効果があります。お茶の方が効率はいいです。それに、最近わかったんですが、精神魔法などへの耐性もできるようです」

 ルクス・ニュクスの秘密結社のおかげだけどね。そこだけは感謝するよ。

 

 心地の良い微風が、窓の隙間から入り込んでくる。

 アマリージョだね。


「風の精霊さま?」

 イザベラには、やっぱり気配がバレちゃうよね。


(マテウスから伝言です。尋問の結果、秘密組織の名前が判明した。『リーベルタース』、オニキス大公国に伝わる古語で、自由という意味らしい)


 しかし、伝言の内容は伏せた方がいいという判断なのか、思念で伝えられる。

 でもねアマリージョ、マテウス兄の物真似でなくてもいいのでは?


(それから、イザベラ様の留学の件は、陛下の了解が得られた。そのまま進めるようにと)

(ついでの時でいいわ。了解しましたと伝えて。それから、私の物真似で伝言はしなくていいからね)


「イザベラ様、ご紹介しますわ。私の風の精霊、アマリージョです」

 アマリージョが姿を現す。いつもの艶やかな美女の姿で。

  

「はじめまして。イザベラ・フォン・ガルシア、オニキス大公国の第一王女でございます。以後お見知りおきを」

 イザベラは、美しい淑女の礼でアマリージョに挨拶をする。

 アマリージョはいつもどおり。

「エリーゼの風の加護聖霊、アマリージョですわ」

 優雅だが、簡潔で、精霊らしく少しだけそっけない。


「アマリージョは、今、私と、兄やアデル殿下、仲間との間をつないでくれています。絶対に漏れてはいけない秘密が多いので」

 イザベラが、感謝の眼差しをアマリージョに向けてうなづく。

 そのおかげで、自分もまた救われたと、理解しているようだ。


 アマリージョが姿を消す前に、ハンナに頼み用意してもらったカゴいっはいのお菓子を手渡す。

 みんなでわけてね、と言うと、わかりやすく曖昧に笑ったので、独り占めかもしれない。


 アマリージョの美風を見送って、また、お菓子談義にもどる。

「おいしいうえに、魔法のような効果もあるなんて、凄いですね」

「もともと魔力を増やすハーブを使ったクッキーは、うちの母の商会で売り出しているものなんです」

「公爵夫人が自らですか?」


 公爵夫人は商売上手で、娘は科学実験が得意です。ついでに父は、ボードゲームにはまっていて、兄はアウト!な魔道具作りが得意です。

 でも、みんな、それを悪いことに利用したりはしていませんよ?

 母は儲け過ぎたら寄付していますし、私は実験に失敗したら、なかったことになるよう、ささっと回復しております。

 父が、ゲームに熱中して公務を怠ることもありません。

 ただ、兄がアウト!な魔道具をどんなふうに使っているのかは、正直わかりません。が、アマリージョが許容範囲内ですわよ、と言っているので、問題ないと信じたい。


「ええ。でも、イザベラ様が今手にされているそのクッキーは、原料のハーブからその調理のために必要な魔法陣も、すべて学院の文官養成科で作っているものなんです。市中で売り出されているものに比べ、薬理効果が高くなっています。お茶も同じです」


 文官養成科では、ただのお菓子や飲み物ではなく、薬理効果の高い健康補助食品を目指しているからね。

 もちろん、おいしさは大事。

 そこを消さず、どうやって薬理効果を高めるかが、私やアルベルトのグループの研究テーマだ。

 

 それができれば、きっと、たくさんの人に薬の価値を知ってもらうことができるだろう。

 そしていつかは、魔法絶対主義の一画を崩してみたい。魔力があってもなくても、健康に楽しく生きていける世界、それが私の理想だ。


 その理念を語ると、「ぜひ、私も、お菓子作りやお茶のブレンドに参加してみたいわ」とイザベラが、顔を輝かせてそう言ってくれた。


「大歓迎ですよ。部員はほぼ文官養成科の者ですが、ハーブ同好会では、ハーブ園の手入れやそれを使った薬理効果の高いお菓子、お茶、それに薬そのものの研究もしています。どの科の入られても、同好会への参加は自由ですから、お待ちしていますわ」


 最近では、私たちの活動に興味を示し、同好会に参加してくれる他科の生徒も数人だがいる。

 ミケランジェロとか、オスカーとかね。

 レイナードもよく顔を出してくれる。おもに、レイチェルの実験台としてだけど。


「実は、私も同好会に入りたいな、と思っているんです」

 マリアンヌが私を申し訳なさそうに見る。

 マリアンヌも大歓迎なのだ、本当は。

 でも、それをフィリップがどう見るか、というやっかいな問題が彼女にはある。

 マリアンヌもそれをわかっているから、躊躇していて、今は私と人目をはばかりプライベートでお菓子作りに励んでいるり


 だけど、もう、いいかもしれない。私だけのことなら、泥をかぶっても。あとでサクッと洗い流せばいいだけのこと。


「マリアンヌも大歓迎よ。ぜひ」

 

 マリアンヌと親しくなり、彼女の努力で魔力がどんどん増え、その『聖なる光魔法』の寿命も延びつつある今、フィリップのことをあれこれ気にすることがどうにもばからしくなってきた。

 

 仲間が増えるにつれ、破滅フラグも、スルーするより、踏みつけて乗り越えて、時にバキバキに折ってみるのもいいかもしれない、なんて思うようになってきた。

 

 何度見ても変わらない断罪場面も、それならそれでいいや、と思えるようにさえなった。

 断罪のその時、マリアンヌが私を見下ろすようにフィリップの隣に立っているのなら、そこにはきっと、今の私にはわからない何か別の意味があるのかもしれない。

 そうであるなら、そう思えるのなら、私は、マリアンヌの精霊の加護について、今以上に前向きに行動するべきだろう。


 やってやろうじゃないの、心のおもむくままに。


 私は、自分が無意識に拳を振り上げていたことに、イザベラとマリアンヌの呆気に取られた顔で気がついた。

 やってやる前に、やっちゃったね。

  

 イザベラとマリアンヌが魔法科の実習に向かうので、オスカーと待ち合わせをしている礼拝堂まで私も同行した。その道すがら気づいたのだが、警備のためなのか、魔法省の職員や魔法騎士団の騎士の姿がやけに目に付く。

 

 オスカーは先に来ていた。

 おっと、フィリップも一緒ではないか。

 どういう了見だ、オスカー?


 とはいえここまで来て、無視はできない。

 私は学院内のしきたりどおり、フィリップに淑女の礼をとり、その口からまた私の悪口が飛び出さないうちに、イザベラ王女を紹介した。

 フィリップは、私にうろんな目を向けたが、さすがに他国の王族の前では礼儀正しく、とりあえずは一国の王子らしく挨拶を交わした。


(オスカー、どういう嫌がらせかな、これは?)

(いや、殿下も、マリアンヌと一昨日からまったく連絡がとれないからとかなり心配されていたので、今は君といっしょにイザベラ王女の接待で忙しいのだと、つい。今から護衛も兼ねて迎えに行くと言うと、どうしても、とついてこられて)


 まあ、そういうことなら仕方ないか。

 フィリップも、マリアンヌのことは本当に大事にしているようだから。

 急に連絡が取れなくなったら、心配だったと思う。


「では、私はこれで」

 私は、一人踵を返そうとした。いまさら、フィリップにどう思われてもいいのだけれど、面倒ごとはごめんだ。

「エリーゼ、お前は少し勘違いしているようだな」

 その私に、フィリップが爆弾を投げる。

「何を、でしょうか?」

「ただの婚約者候補に過ぎないお前が、王族の顔で他国の王族の接待とは、不遜にもほどがある」

 爆弾は、ドッカーンと爆発する。


「まあ、フィリップ殿下、何をおっしゃっているんですか? エリーゼ様は候補ではなく正真正銘の婚約者ですのに。それに、エリーゼ様は、王族としてではなくヴォーヴェライト公爵令嬢として、留学のご相談に来られたイザベラ王女のお相手をされているだけですよ」

 マリアンヌ、ありがとう。

 嘘までつかせてごめんね。

「マリアンヌ、これを庇う必要などないんだ。君の優しさが伝わるような女ではないんだから。それとも騙されているのかな? 他国の王族が、たかが公爵家の娘を頼ることなどありえないんだよ」


「フィリップ殿下、私は、ヴォーヴェライト公爵家のマテウス様のご招待で、この学院に参りましたの。妹君のエリーゼ様が、私と同じく精霊の加護があると伺って、ぜひ、精霊ともども仲良くしていただきたいとお願いしたんですのよ」

 まるっきりの嘘ではない。

 兄が、イザベラを連れてきたのは事実だ。招待ではないが。

 精霊同士が仲良しなのも本当だ。そして、イザベラと私が、友人としてうまくやっていけそうなことも間違いない。

 

「そ、それなら、マリアンヌと仲良くすればいい。マリアンヌは聖なる光魔法の使い手で、当然、精霊の加護もある」

 加護のないマリアンヌが、顔を引きつらせる。

「ええ。それで、エリーゼ様がマリアンヌにも紹介してくださったんですよ」


 おそらく、イザベラは、マリアンヌに精霊の加護がないことは気づいている。

 でも、マリアンヌが魔法で自分を回復させてくれたこともわかっている。

 だから、事情はわからなくても、マリアンヌのことも守ってくれているのだろう。

 イザベラの聡明さが伝わってくるやりとりだ。


「殿下、そろそろ参りませんと、授業に遅れます」

 オスカーが、淡々と事実だけを述べる。

「そうだな。つまらぬ女にひっかかっている暇などないな」

 おいおい。立つ鳥跡を濁しまくりだな。

 

 その時だった。

 突然、突風が吹き、フィリップ殿下にしりもちをつかせ、雨がそこにだけ振り注いだ。

 あらま。

 アマリージョとセレステかしら?

 

 オスカーが手を差し伸べ、サクッと回復魔法と乾燥魔法で、殿下を元通りにした。

 そして、濡れてもいない私たちにも乾燥魔法をかける。いっしょに濡れた風を装わないと、また因縁をつけられるとでも思ったのだろう。

 フィリップは、驚きすぎたのか、私への悪口雑言もないようだ。

 言わないほうがいいと思うよ?

 きっと、次は周辺の木々から蔦が伸びてきてグルグル巻きにされるから。


 今度こそ、私はその場を早足で去る。

 本当に面倒だ。面倒すぎる。 


 美花のメモによれば、ゲームの中のフィリップは、それはもう容姿にたがわず素晴らしい王子様で、欠点を探すことが難しいような、まぎれもない一番人気の攻略キャラなのだ。


 そのフィリップなら、私も、もう少しうまく立ち回れるはずだ。

 真正面から、誠意をもって。

 私以外の誰かとの恋も応援できるし、なんならいい友人にだってなれると思う。

 

 この世界の現実は、私に優しくもあり、その一点で理不尽でもある。


 それから私は、魔法科の水魔法の実習が終わるまで、ハーブ園でその手入れと収穫に励んだ。

 土や植物に触れると、心が安らぐ。

 おかげで、フィリップのせいでささくれだった私の神経も、ようやく落ち着きを取り戻した。


 再びイザベラと合流した私は、今度は芸術科に向かう。

「魔法科は、どうでした?」

「オスカーは、凄かったわ。私でもあそこまで見事に水や氷を操るのは無理かも。マリアンヌも、頑張ってたわよ。でもあとは、生活魔法程度で、切磋琢磨する仲間があれでは正直物足りないわね」


 魔法科は、魔力があれば誰でも入れるから、程度の差が激しいんだよね。努力という言葉を放棄して社交に明け暮れている生徒も多いし。


 そういえば、マルギットに協力した生徒たちはどうしたのかな? 兄とアデル殿下に任せっきりだけど。

 洗脳されていただけで、無罪放免ならそれが一番だけどね。

 

「イザベラ様は、どんな楽器を弾かれるのかしら?」

 王族や高位の貴族は、嗜みとして楽器を習うことが普通だ。

「イザベラと呼んで。言葉遣いも、もっと親しげにね。せっかくできたお友だちと、言葉で距離ができるのは嫌だもの」

 それは、私も身にしみてよくわかる。


「では、イザベラ、好きな楽器はある?」

「私は、ピッコロを吹くのが好きなの」

 確か、フルートに似た楽器だったような。前世と同じならば。

「エリーゼは?」

「私は、ピアノを少し。でも、嗜み程度だけどね」


 前世で亡くなった母はピアノ教室を開いていた。だから、幼い頃からピアノには慣れ親しんでいた。

 でも、事故で両親が亡くなってからは、学校の音楽室でたまに弾くだけだったから。こちらに来てからも教師に言われた分だけ。本当に嗜み程度だ。


 それでも、我が家で音楽の家庭教師の前で、名前に因んで『エリーゼのために』を弾いてみたときは、天才です! 作曲の!! と絶賛された。

 心の中で、ベートーベンさんに詫びたのはもちろんだ。


「でもね。私、もし芸術科で学ぶなら、絵を習いたいわ。私は絵を描くことが好きなんだけど、オニキス大公国では、女性は絵のモデルになるもので、描くなんてはしたないと思われているの」

「そうなの? エメラルド王国には女流画家がたくさんいるのよ」

「知っているわ。とてもうらやましく思っていたのよ」


 そんな話をしながら歩いていると、前方からアデル殿下がやってきた。


「イザベラ王女、こちらは、エメラルド王国の第一王子、アデル殿下ですわ」

 二人は、互いに礼を交わす。

「この度は助けていただいてありがとうございます。殿下の指揮で、私の救出作戦を取り仕切っていただいたと聞いています」

「いえいえ。私は足手まといになるからと、体よく指揮官を仰せつかっただけですよ。ほとんど、このエリーゼとその精霊様のお力です」


 私よりは、兄やレイナードの方が大活躍だったけどね。

 私は、ヴェルデのダイヤモンドのこん棒に、激しく驚いていただけだもの。

 そういえば、あのこん棒、どうしたのかしら?

 いや、あんなものもらっても困るんだけどね。あの大きさのダイヤモンドなら、王家に献上するしかないような代物だけど、こん棒だから。

 

「芸術科を見学されるとか。私は芸術科の出身なので、ぜひ、ご同行させてください」

 どうやら、兄の頼みで護衛にきてくれたようだ。

「アデル殿下のリュート演奏は、とても素晴らしいのですよ」

「それはぜひ、聞いてみたいですね」


 芸術科では、いつものとおり、音楽専攻の生徒たちが、殿下に群がる。

 そしてその喧噪には無関係な顔で、美術専攻の生徒たちは、自分の作品に向き合っている。

 私は、アデル殿下にイザベラを任せ、目当てのところに足を運ぶ。

「ミケランジェロ、キリのいいところで話をさせて」

 わかった、というように、ノミをふるいながらミケランジェロが小さくうなずく。


 20分ほどで、ミケランジェロが私に振り向いてくれた。

「なにかあった?」


 私は、マリアンヌの拉致誘拐から、イザベラ王女の救出までを、ミケランジェロにざっくり話す。

 彼は、ハーブ同好会に入っていて文官養成科とも近しい。また、その希有な才能を兄に認められていて、社交界ではすでに、ヴォーヴェライト家がパトロンだと認識されている。

 ということで、敵に目をつけられる可能性があるからだ。

 

「了解した。しかし、俺としては今までどおり目の前の作品に向き合うだけだな」

「それはわかっている。ただ、護衛がつくから、それを嫌がらないで欲しいなって思って」

 今、兄が護衛がわりになる魔道具を開発中だ。それができれば、誰かにいつも見られている、という煩わしさからは自由になれるはずだ。


「別にいいさ。作品作りの邪魔さえしなければ、見張りでも護衛でも、こっちは気にしない」

 おお、さすが一流のアーティストは違うね。その肝っ玉が。


「それからもう一つお願いがあるの」

 こちらは、今、思いついた。

 美花のメモにあった、攻略イベントの一つだ。

 これをうまく利用すれば、イザベラの留学と私の破滅フラグのぶっ壊しに、大いに役立つはずだ。


「氷を彫刻できるかな?」

 オスカーとヒロインが仲良くなるイベントに、国王陛下の誕生日式典の余興で、オスカーが、氷魔法でヒロインにそっくりな彫像を作り、それがきっかけで恋が進展する、というものがあった。その時、こっそり火魔法でそれを邪魔しようとするのが、悪役令嬢のエリーゼ。

 しないけどね。


「ある程度の強度があればできるだろう」

 けれど、彫像といえば、ミケランジェロ。

 オスカーには、氷柱だけを作ってもらおう。


「パフォーマンスで、氷魔法で作った氷柱を使って、例えば、伝説のドラゴンとかフェンリルみたいなインパクトのあるものを彫って欲しいの」

 陛下の誕生日式典には、他国からの招待者も多い。列席者の度肝を抜いて、我が学院の魔法科と芸術科のレベルの高さを知らしめるのだ。

 留学するなら、ここしかない‼︎ と思ってもらえるように。


「いいぞ。面白そうだ。でも、それをどうする?」

「イザベラ様の留学を正当化するために、うちの学院のレベルの高さを知らしめようかと思ってね。なんなら、あちらからルクスを招待でもしてね」

「攻めすぎだろう、それは」

「なら、お父様の大公をご招待とか? しばらく静養してもらえれば、その間にできることも多いかもね」

 ミケランジェロは、それもどうなんだか、と言いつつ、練習するから氷柱を用意しろ、と言う。


 私は、アマリージョにオスカーへの伝言を頼む。

 すぐに、オスカーが芸術科にやってくる。

  

 アデル殿下に張り付いていた女生徒たちの半分がオスカーに釣られてこちらにやってくる。

 彼は最近、黒髪の貴公子、と呼ばれているらしいが、今日からは氷の貴公子になるかもね。


 オスカーにも事情を話し、ミケランジェロと相談の上、適した大きさの氷魔法で氷柱を作ってもらう。


 ミケランジェロがその日、練習で作り上げた氷彫刻のドラゴンとフェンリルは、今にも動き出しそうなほど、迫力があり、しかも繊細で素晴らしい出来映えだった。

 しかし本人としては納得できるものではなかってようだ。

 そのため、オスカーはその日から本番まで、何度もミケランジェロに請われ氷柱を作り出すことになる。けれど、セレステやマリンが見守っているせいか、オスカーも、ノリノリで素晴らしい氷魔法を披露していたので問題ないはずだ。


 父が根回しをし、一ヶ月後の国王陛下の誕生日に、オニキス大公を招くことも了承され、あちらからも出席のお返事をいただいた。

 その招待状には、イザベラがこちらで、留学準備をしていることも書き添えてある。なぜ、イザベラがエメラルド王国に来ているのかは、ルクスをうまくかわして招待状を届けたアマリージョが、話術スキルを駆使して、うまく丸め込んだらしい。


 イザベラは、芸術科音楽専攻への留学を決めた。

 こっそり絵画や彫刻も学ぶつもりらしいが、両親への建前として、音楽を専攻することにしたそうだ。


 なので、音楽のレベルの高さも見せるために、同じステージで、アデル殿下が音楽専攻の生徒を何人か選別して、リュートを合奏することになった。


 そして、なぜか、私がピアノで『エリーゼのために』を。

 我が家の音楽の家庭教師の推薦らしい。

「私は文官養成科ですのに」ともちろん、抵抗はした。しかし、私の音楽の家庭教師は、王宮のオーケストラの指揮者でもあり、陛下の信任も厚く、その推薦ならば是非にと請われ、拒否できなかった。


 まさか、エリーゼが『エリーゼのために』を弾くなんて、恥ずかしすぎる。

 なので、ベートーベンさんには申し訳ないが、『ヴェルデのために』と曲名を変えさせてもらった。

 こうなったら、モーツァルトさんにも謝って、「トルコ行進曲」も弾いちゃおっかな。

「魔法騎士団行進曲」とかにして。

 

 そんなこんなで、日々の日課に、ピアノの練習も組み込まれた。

 精霊たちが、音楽を奏でると嬉しそうにするのて、それはそれで良かったかなと思う。

 

 その一ヶ月で、エメラルド王国内の『リーベルタース』はほぼ壊滅した、と兄から報告を受けた。

 ニュクスは、ルクスへの対処が決まるまで、インディゴ預かりのままになった。


 国王陛下の誕生日式典を明日に控え、王都はすでにお祭り騒ぎだ。

 しかし、兄が中心になり、宮殿はもちろん、学院や王都の公共施設などには、さりげなくではあるが、実は厳重な警備が引かれている。


 ルクスの動向は、精霊たちが交代で監視している。

 今のところ、不穏な動きはない。

 最後まで、おとなしくしていてもらいたいものだ。

 せっかくの陛下のお誕生日だ。

 陛下はもちろん、国中の人たちに笑顔でいてもらいたい。



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