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どうやら、ゲームではわからなかった悪の秘密結社があるようです。part6-1

第17章 色々問題山積みですが、とりあえず、お菓子を食べます。しっかり休んだら、また戦うよ。色んな理不尽と。


 無事、シュミット辺境伯の王都にある屋敷に戻ってこられた。


 レイチェルが、レイナードに駆け寄ってくる。

 カーリーは、私に飛びつく。

 兄が、イザベラ王女を抱えたまま、ちょっぴり黄昏ている。

 その兄に、アデル殿下が半笑いで、お疲れさんと肩をたたく。

 

「アルベルト、こちらはオニキス大公国の第一王女イザベラ様だ。魔道具で魔力を搾り取られている状態なので、静かに休める場所を頼めるか?」

「用意してありますよ。こちらへどうぞ」

 さすがだね、アルベルト。

「エリーゼも来てくれ。王女は回復薬を飲める状態ではないので、回復魔法を頼みたい」

 もちろん、と私は兄にうなづく。


 ところが。

「私が行きます。エリーゼも疲れているはずですから」

 マリアンヌが手をあげてくれる。

 誘拐という非日常に晒され、あんなに怖い目に合ったばかりなのに、もう誰かのために頑張ろうとするなんて、健気だ。

「大丈夫なの?」

 一応、確認はしておく。

「私の魔法では無理でしょうか?」

 おっと、誤解させてしまったみたいだね。


「そうじゃないわ。マリアンヌのメンタルをちょっと心配しただけ。あなたの『聖なる光魔法』なら、なんの問題もないわ。体力、気力、魔力がいっきに回復するはずだもの」

 マリアンヌは、いつもの可憐な、それでいて、階段を何段か上ったような強さみたいなものもそこに加えて、私に微笑んでくれた。

「エリーゼは、精霊さんとお菓子を食べてお茶を飲んで、休んでいて」

 ありがたい。聖女様、サマサマだ。

「うん。ありがとう。ゆっくり休ませてもらうね」


 私が腰をおろすと、精霊たちがわらわらと集まり、遠慮なく姿を現す。

 そこへ、カーリーとレイチェルがお菓子を山盛り運んできてくれる。

 

「プリン!!」

 インディゴがプリンを見つけて、身を震わせる。

 一度は諦めただけに、喜びもひとしおなのだろう。

 もちろん、ガッツポーズを決めていたヴェルデ他、みんなも大喜び。

 

 だけど。


「ロッホは、まだ向こうで見張りなのかな?」

「ええ」

「じゃあ、私、お菓子の詰め合わせを持って向こうに行ってくるわ」

「エリーゼ、君は休め」

 今度はアルベルトが私を気遣ってくれる。

「向こうとここは、魔法陣で、合言葉さえ知っていれば仲間は誰でも簡単に行き来できるようになっている」

 合言葉? つまり、「山」といえば「川」と答える、的な?


「今回、魔法陣をいくつも設置したでしょう? だからちょっと心配になって。万が一、転移魔法の使える悪い人たちに利用されたら困るからって、アルベルトがアマリージョ様に相談したのよ」

 

 それは、うっかりし過ぎていた。

 もしそのせいで誰かに何かあったら、後悔だけではすまないところだった。

 気づいて対処してくれた待機組のみんなに感謝だよ。

「そうしたら、転移の魔法陣と呪文に、合言葉を組み込んだらどうか、と提案されたのよ、ね?」

 レイチェルに、アルベルトがうなづく。

 

 いやぁ、やっぱり、文官養成科の仲間は、ただボォーッと待機してはいないわけね。

 与えられた場所と時間と、人材(精霊材)をがっつり使って、サポートしてくれている。


「アルベルト、さすがね。それで合言葉って?」

「恋〇る、といえば、フォーチュンクッキー」

なぜ、こっちの世界でそれ? どうして?

「エリーゼがよく口ずさんでいる歌の歌詞に出てくるよね」

 

 なるほど。しかし、まったく自覚がない。

 だけど、カーリーがサビを口ずさんでくれれば、それはもう、あれでしかない。

 前世で大人気だったアイドルグループの曲。恥ずかしながら、歌えるし踊れる。

 

 そういえば、なんでもできる樹里が、いつまでたってもおにぎりダンスができなかったな。

 

 おっと、しんみりしている場合じゃないよね。

 ロッホの好きなチョコクッキーをたっぷり。ローズマリークッキーもたくさん。

 あとはプリンと、これは?


「それはね、マリアンヌの新作よ。ずっと温めていたレシピらしくて、魔法陣はまだできていないから、今はマリアンヌしか作れないんだけどね」

 私は、それを小さく切ったものを口にしてみる。

 レモンケーキかな? これは、美味いね。前世でも、立派に店で売れるレベルの味だ。

 甘酸っぱさのバランスがとてもいい。柑橘類特有の清々しい香りも含め、とてもおいしい。


 カゴにいっぱいのお菓子を入れて、ハーブティーを魔道具の保温水筒に入れて。

「アルベルト、ではお願いします」

 それを、アルベルトに手渡す。

「まかせて」

 待機組とはいえ、ホスト役で次々と転移を繰り返すみんなをサポートしていたアルベルトも、かなり疲れているはず。

 でも、笑顔も声も、いつもどおりのアルベルトだ。


「レイナード、お前も少し休めよ。大活躍だったんだから」

 転移の前に、アルベルトがレイナードに声をかける。

「ああ。兄さんも、気をつけて」

 この兄弟も、関係が変わった、というか成長してきた気がする。互いへの思いやりにあふれた、いいライバル、って感じだ。


 アルベルトが魔法陣に乗る。

 彼が転移の魔法を唱えると、魔法陣が厳かに『恋〇る』と問う。アルベルトは『フォーチュンクッキー』、と合言葉を答え、エルスター男爵邸に転移していった。

 向こうで、ロッホが、あ、忘れていたけどオスカーも、お菓子を食べて元気になってくれるといいけど。


 それから、三十分もすると、アルベルトとオスカーがロッホと戻ってきた。


「あっちの見張りはもういいの?」

「王宮から、魔法騎士団の団長率いる精鋭たちが来てくれたからね。でもニュクスは連れてきたよ。鶏のままだし、説明も、色々面倒そうだから」


 オスカーが、鳥籠に入った黒鶏(ニュクス)を手に提げている。黒鶏は、魔封じの首輪をつけたまま、鳴きもせず、どこか遠い目でじっとしている。

 インディゴが、スッと寄ってきて、鳥籠ごとニュクスを陰にしまい込んだ。


「インディゴ、ニュクスを閉じ込めたままで、大丈夫なの? 魔力を消費しすぎるとか、眠れないとか、ない?」

「問題ない。プリンある?」

大丈夫らしい。そして、まだプリンを食べたいらしい。

「あるけど、食べすぎだから、あと一個ね」

 インディゴの尻尾が、ふにゃッと垂れた。


「ロッホもご苦労様」

「うん。でも、活躍できなかった。見張りばっかりで」

「そんなことはありません。ロッホ様はそれは見事な火球魔法で、捕虜奪還のためにエルスター男爵邸を襲撃してきた20名を超える傭兵崩れを、一瞬で撃退されたのです」

 オスカーが、ロッホを褒め称える。

 オスカーは精霊に対しては、人格が変わるね。

 それにしても、やはり、奪還の襲撃はあったらしい。

 もしかして?

「燃やしたの? 炭にはしなかったよね?」

「あ? 大丈夫だけど?」

またそれかよ、って感じかな。

 でも、ロッホとプラータの攻撃は、後から取り返しがつかない系なんだもの。


「ロッホ様が燃やされたのは、敵の武器と装備のみ。神業としか言いようがありませんね、あれは」

オスカーが、やはりロッホを褒める。

「みな、一緒で丸裸にされ、心が萎えたのか、あっさり捕縛できましたから」

 20人を超える、傭兵崩れが全員丸裸。

 想像しただけで、こっちも萎える。


「無傷で一網打尽なんて、すごいね」

 私は、ロッホを抱きしめる。

「ち、ちょっと火傷した奴もいたけど。でも、縛り上げてからオスカーが回復魔法をかけたから、エリーゼの言いつけは守れたはず、だよ?」

 いつもやんちゃな子たちほど、こういう時、かわいくなるよね。

 いつも赤いロッホだが、さらに赤くなり、なんだよ、赤ん坊みたいにするなよ、いいけどさ、って身をよじって照れている。

 それもまた()いね。


「みな、今日は、と言っても日付も変わってしまったか、本当によくやってくれた。とりあえずは、ゆっくり休んでくれ」

「とはいえ、ルクスという最大の懸念はなくなってはいない。君たちも十分に注意し、決して一人で行動しないように。特にエリーゼ」

 殿下と兄の言葉に、みんながなぜか一斉に私を見てうなづく。

 解せぬ。

 だって、私は、ほぼ精霊たちと一緒。

 一人じゃないよ? 

 精霊たちは時々寝こけているけど。誰かは起きているもんね。


 私たちは、その夜から翌日の夕刻まで、辺境伯のお屋敷で精霊どもどもぐっすり眠り、食べて飲んで、また眠った。

 兄とアデル殿下だけは、午後からすぐに王宮に向かったようだ。

 ヴェルデによれば、クリスも私の部屋に戻ったらしい。

 クリスタルが、自分で移動するってどういうこと? 

 とは思うが、クリスに魔力を注ぎ込み手塩にかけて育て上げたのが私だけに、文句を言うあてもない。


 そういえば、アルベルトたちは、お母上が王都に来ているからと、寮を出て屋敷に戻っていたはずだが、ご挨拶もしていない。

 これだけお世話になっていて、今さらだが、お礼もかねてご挨拶をと申し出る。


「母は公爵邸に移ってもらった。ここは今、色々慌ただしいし危険もなくはない。もともと招かれてもいたから、予定を少し早めてもらったんだ。エリーゼのご母堂とうちの母は仲がいいからね」

「そういえば、聞いたことがあるわ。他国から嫁いできてこちらの社交界になじめない頃、マチルダ様にとてもよくしてもらったって」


 ということで、私はお礼と感謝の気持ちをマチルダ様宛の手紙にこめ、我が家に届けてもらった。アルベルトの群を抜いた賢明さ、レイナードの一点の曇りもない騎士精神を褒め称えることも忘れずに。


 翌日の昼食時には、マリアンヌに連れられてイザベラも、ベッドから離れ皆のところにやってきた。

『聖なる光魔法』のおかげで、すっかり元気になったようだ。

 イザベラにずっと付き添っていたマリンは、アルベルトが気を利かせて、庭の小さな池で、セレステと水浴びをしてもらっているらしい。


「オニキス大公国、第一王女のイザベラ・フォン・ガルシアです。この度は、危ないところをお救いいただき本当にありがとうございます」


 金色の巻き毛に、白い肌に薄い水色の瞳。イザベラは、本当に、その容姿も声も、ザ・プリンセスだ。


 アデル殿下と兄が王宮に戻っているので、ここでは、私が代表して挨拶を交わすべきだろう。

「私は、エメラルド王国の宰相、ヴォーヴェライト公爵の長女、エリーゼ・フォン・ヴォーヴェライトでございます。以後お見知りおきを」

 私は、イザベラに淑女の礼をとる。

 

「こちらの情報が間違っていたせいで、イザベラ様を危険に目に合わせ、心よりお詫び申し上げます」

 私は、深く頭を下げる。

 

 どれほど怖い思いをさせたかは、救いに行った私がいちばんよくわかっている。

 あの冷たく硬い、窓のない石牢で、信じていた人に裏切られ、魔力を奪われ。


「いえ、それは仕方ないと思います。私自身も宰相のルクスを疑ったことは一度もありませんでしたから」

 イザベラは肩を落とす。

「ルクスは父が公子のころよりずっと国に尽くしてくれた忠臣でした。ニュクスには、兄が操られているのではと警戒していましたが、あのルクスがまさか父を裏切り国を乗っ取ろうとしていたなんて、今でも信じられないほどです」


「悪はニュクスが、正はルクスが請け負い、協力して周囲を騙し続けていたようですね」

 

 イザベラは、遠い目になる。

「あの地下牢に閉じ込められ、そこにルクスがやって来てもまだ、私は、彼が救いに来てくれたのだと信じて疑わなかったくらいです」


 光の属性を持ち、悪をニュクスに押しつけ正義の行いだけを引き受けてきたルクスを疑うことは、それほどに難しいということだろう。

 精霊のインディゴさえ騙されたくらいだから。


「牢で救いを求める私を見て、ルクスは、慈愛にあふれた笑みを私に向けこう言ったのです。二度と陽の光を見ることはかないませんが、どうかごゆるりとお過ごしください。ここで魔力も御身も干からびてしまうまで」

 

 こ、こわい人ですね。とレイチェルがつぶやく。

 本当。できる限り関わり合いになりたくない。だが、そうもいかないだろう。

 いつかは、相対することになるだろう。このまま知らぬ顔はできない。我が国にその悪の手を伸ばしたからには。


「私の兄と我が国の第一王子アデル殿下が、今回のことをすでに王宮に報告しております。こちらとしてはイザベラ様の保護を第一と考えておりますので、どうかご安心ください」

 イザベラが、なんとか、と言う程度の笑みをこぼす。

「ルクスは、今回のこれが誰の手で行われたのか見当はつけているでしょうが、証拠もなく国を超えて抗議したり、すぐに私を取り戻しに来るのは難しいかと思います」

 それはそうかもしれない。

 でも私たちとしても、イザベラに、こそこそと怯える日々を送らせるつもりもない。

 

「エメラルド王国内にあるルクスが作り上げた秘密結社は、ニュクスを捕縛したことで、かなりの戦力を削ったはずです。今は魔法騎士団と近衛騎士団が合同で、残党のあぶり出しに力を注いでいるかと」

 オスカーが、口添えしてくれる。

 オスカーは、見張りに徹していたので、その辺りの事情に、ここにいる誰より詳しい。


「ニュクスを捕まえたのですか?」

 イザベラが驚きの声をあげる。

「はい。精霊様のお力添えもあり、魔力を奪い、決して逃げられない場所に確保してあります」

 実はすぐそこで、インディゴが、とは言えない。怖がらせてしまうだろうから。

「そうですか、あのニュクスを」

 イザベラは、少しだけ安心したように微笑む。


「ですから、のんびりエメラルド王国を視察、観光するぐらいのお気持ちで大丈夫ですよ?」

「でも、エメラルド王国に、私のことでルクスに難癖をつけられるのではないかと心配で」

 まあ、武力行使や公式な抗議はできないだろうが、難癖ぐらいはつけてくるだろうな。


「でしたら、先に正当な既成事実を作ってしまってはいかがでしょうか?」

 カーリーが提案する。

「そうだね、たとえば、堂々とうちの学院に留学してしまうとか?」

 アルベルトが、カーリーの意を受けて、具体的な提案をする。

 とてもいい案だと思う。

 とはいえ、この件はここにいるメンバーだけでは決められない。

 なので、もし可能ならばどうするか、をまとめておくことにする。

 こういうやりとりは、もう、ふだんの文官養成科の活動と同じ、なんだよね。

 

「だとしたら、どの科がいいかしらね」

「騎士科が、イザベラ様を守るという観点からは一番だけど?」

 アルベルトがレイナードに問う。

「騎士科にも女生徒は数人いるので問題はないが、イザベラ様に武道の心得、あるいはご興味があるのでしょうか?」

「ごめんなさい。私は、護身術もほとんどできなくて。血を見るのもちょっと怖いんです」

 だとすると。騎士科はないね。

 毎日、血をみるのは間違いない。魔法と薬ですぐに回復はできるけど。


「文官養成科は学ぶことはたくさんあって刺激も多いんだけど、全員がすでに前後期の単位をとってしまったから、授業自体がないのよ。みな魔獣狩りとハーブ園のお手入れ以外は、好きな分野の研究に勤しんでいるしね」

「だったら、魔法科か? 魔法科ならオスカーとマリアンヌがいるので、心強いし」

「イザベラ様、魔法科はどうですか? 他に候補としては芸術科もありますけど。そういえば、オニキス大公国では何を学ばれているのですか?」

「オニキス大公国では魔法学院に在学しておりましたが、ほとんど通えていませんでした。父の病が重くなり兄の様子もおかしくなったので、看病のため城にいる時間が長くて。ご面倒でなければ、魔法科と芸術科を見学して決めてもいいですか?」


「そういえば、オニキス大公の病の具合はいかがですか?」

「おかげさまで、父の病状はとてもよくなりましたの。こちらから来ていただいた光の精霊様のお力で、耐毒の魔法もしばらくは続くと聞いています。でも、それさえも、ルクスは今頃自分の手柄にしているかもしれませんが」

 誰の手柄でも、プラータは気にしないだろう。

 問題は、大公がプラータに加護を受けているわけではないので、耐毒魔法にも限度があるということだ。

 なので、それが有効であるうちに、次の一手を打たなければならない。


「公子のお兄様はどうですか?」

「兄のニュクスからの精神魔法もこちらから来ていただいた精霊様に解いていただいたのですが、その反動なのか、かえってルクスへの信頼が大きくなり、今はルクスの言いなりですね」

 それは、悩ましいことだ。

 けれど、現状、私たちがそれに対してすぐにできることはほとんどない。

 

 とにかく今は、イザベラ王女を守ること。

 大公が健康を取り戻した今、彼女の無事を守り切れば、いつかオニキス大公国も正常に戻れる、その可能性が消えないはずだから。


「じゃあ、さっそく学院に行ってみますか? この時間なら、魔法科も芸術科も、授業を好きに見学できると思いますが」

「でも、まだ皆様もお疲れなのでは?」

「私は大丈夫です。ハーブ園も心配だし、新しい薬の実験の進行状況もチェックしないといけないし。なるべく早く学院に戻りたいわ」

 レイチェルは、すっかり通常モードだ。

「私も、マリアンヌの新作のお菓子の魔法陣を完成させたいなって」

 カーリーも、大丈夫そうだね。


「ということなので、どちらにしても私たちは学院に戻ります」

「あ、私も戻ります。魔法科では今日、水の魔法の実習があるんです。私は光の他に水の属性があるので、この授業は欠席したくないのです」

 マリアンヌも戻ると。


「ではその実習の後で、文官養成科に来てもらってもいいかな? レモンの香りのあのお菓子の魔法陣、いっしょに完成させましょう」

 カーリーが誘うと、マリアンヌはとびきりの笑みを浮かべた。

「ぜひ、お願いします。私はまだ一人では魔法陣がうまく描けないので」

 

 この二人は、修道院育ち、孤児院育ちと出自が似ていることもあり、とても気が合うようだ。

 二人が並んでいると、しっかり者のお姉さんとおっとり系の妹、そんな姉妹のようでもある。

 

 あれ? 今、なんだか閃いたような。

 あと一つ、パズルが嵌まればピッタリできあがるような、そんな気がする。

 もやもやするな。


「マリアンヌ、実習は何時から?」

 カーリーが尋ねる。

「二時からです」

 あと小一時間か。

「イザベラ様、体調はどうですか?」

「体調は、聖女様のおかげで万全ですわ」

「それなら、イザベラ様にその実習を見学してもらいましょう。水の魔法なら、水の精霊の加護のあるイザベラ様は得意なはず。だとすれば、うちの学院の魔法科の授業のレベルがわかるんじゃないかしら?」

 どうでしょうか? というように、私はイザベラ王女を見る。

「よろしくお願いします」

「では、その実習の後で、まだ余裕があれば芸術家の見学に、私がおつきあいします。ちょうど、芸術科に依頼したいことがあるので」


 私はアマリージョを呼ぶ。

(今の学院での私たちの予定を、お兄様に伝えて)

(わかりましたわ)

 いつもの、アマリージョの心地よい風が、窓の隙間から外へ流れていく。


 セレステも呼ぶ。

(魔法科の水魔法の実習時、オスカーと一緒に授業を見守ってくれる? イザベラ様の警護も兼ねて)

(わかったわ)

 セレステは、すぐにオスカーのところに行ってその耳元で囁いている。オスカーは私を見て、小さくうなづく。

 

 男子組はオスカーの転移魔法で学院の地下通路に、女子組は私の転移魔法で女子寮の私の部屋に転移することにする。

 先に男子組が転移した後、女子組で転移の魔法陣に乗る。


「私、転移魔法は初めてです。ドキドキしますわ」


 そういえば、イザベラは気を失っていたので、もっと遠距離の転移を経験済みだが、記憶にはないようだ。


「みなで手をつないでいれば、何も怖くありませんよ。私は平民ですが、お手に触れても大丈夫ですか?」

 カーリーがそう言うと、イザベラはためらいなく、カーリーの手を握る。


 マリアンヌが、ホッとしたような笑みを浮かべる。

 レイチェルがそのマリアンヌの手を取る。そして、私はカーリーとレイチェルの間に入り、イザベラとマリアンヌが手をつなげばきれいな輪になる。


 魔法軸を私の女子寮の部屋に合わせると、魔法陣が、例の合言葉を問う。ちょっと照れながらフォーチュンクッキーと答えると、次の瞬間には、学院の女子寮の私の部屋に転移がなされていた。



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