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どうやら、ゲームではわからなかった悪の秘密結社があるようです。part4

第15章 精霊たち、後始末には飽きてきたようですが、あとひと頑張りお願いします。


「旦那様、マリアンヌ様、ご無事でしたか!?」

 意識を取り戻した執事のサロスが、二人を見て涙を流す。

「無事と言っていいのかどうか。申し訳なさと後悔で胸が張り裂けそうだよ。まさか、お前たちが、フィッシャー侯爵やニュクス魔導士の手先だったとは」

 エルスター男爵の言葉に、息子のヒューイが這いつくばる。

「父は私を人質にとられ仕方なく彼らに従っていたのです。お怒りはごもっともですが、どうか責めは私だけに。私のこの命でお許しください」

 ヒューイの涙交じりの言葉に、エルスター男爵がため息をつく。

「私にお前たちを断ずる資格はない。私もまたしがらみに縛られ、身内可愛さのために自分をも欺いていたのだから」


「そもそも、ここで命を投げ出すのなら、父サロスを巻き込む前にそうするべきだったのでは?」

 兄がヒューイに問う。

「ごもっともです。私にその勇気がなかったせいで、父の忠心まで穢してしまったこと慚愧にたえません」

 

 エルスター男爵同様、執事とその息子は、根っからの悪人ではないようだ。そしてここにいたって、覚悟も決めているようにも見える。


(この人たち、白でいいかな?)

(いいんじゃない? だってマテウスと同じくらいには白いよ)

 ヴェルデが笑う。

 とうことは白よりの灰色(グレー)ということかな。

 兄は、私を守るため、白でいることはとうに放棄している。黒くならぬよう気を付けながらグレーゾーンを歩き続けている。

 そんな兄には感謝しかない。

 この兄のおかげで私は、のほほんとお菓子を作って、ほとんどそれだけで精霊たちに愛されるているのだから。

 私がうなづくと、これ以上彼らの罪を問う必要はないと兄やアデル殿下も判断したようだ。

 

 もとより、私たちには誰かの罪を暴いて罰する権利もないんだけどね。

 けれど自分たちが巻き込まれ、大切なものを傷つけられ、ましてや命までも狙われると言うのなら、守りから攻めに出て戦うまでだ。

 ただ、気を付けたいのは、自分たちと敵対しているから、すなわちそれは悪、と決めつけてはいけないということ。

 そこを間違えば、私たちもまた悪になる。

 心配なのは、その判断の基準がうちの食いしん坊精霊たちだということなんだけどね。

 それと、燃やしたり吹き飛ばしたり、目つぶししたりしないで欲しいな、ということ。

 茨で巻き巻き、手足の氷漬けまでは良しとしよう。『リフレ』できれいに治せるからね。

 家畜に変えるのは、応相談で。


「ヒューイ、それならお前の知る限りを話せ。ニュクスがやったこと、やろうとしていた悪だくみについて」

「私は呪いで縛られた末端の者ゆえ、多くは存じません。ですが、父が巻き込まれ、旦那様やマリアンヌ様も陰謀に巻き込まれるかもしれぬ事態にいたって、せめて限られた命の限りと独自に調べ上げたこともございます」

 ただ、とヒューイが口ごもる。

「呪いの薬のことはご存知ですか?」

「ああ」

「私の呪いのワードは、組織に不利なこと全般なのです。ですからそれを口にすると自爆することになります。この命、もはや惜しくはありませんが、皆さまを巻き込むわけにはいきません」


「それなら、心配ない。お前の呪いはオスカーが解呪した」

「は?}

「そこにいるオスカーが、精霊の力を借りお前の呪いを解いた。だから遠慮はいらない。すべてを話せ」

「まことに? その学院生がですか?」

 ヒューイが驚いたようにオスカーを見る。

 わかるよ。

 口調とは裏腹に、オスカーは童顔だしね。でもね、オスカーはただの学院生ではない。もはや、兄が手足のように使う魔法省の上級魔法師並みの力があるから。そうでなければ、セレステがあんなに熱心に指導するはずないから。

 私、拗ねてないよ?


「ヒューイ、本当だ。マリアンヌの呪いも解けている。すでにニュクスも捕らえられている。安心して話すが良い」

 エルスター男爵の言葉に、ヒューイは目を白黒させている。

 そこに、ヴェルデが顔を出す。

 執事親子を救ったのはセレステだけど、彼女の歌の効力で彼らにその記憶はないだろう。

 となると、この場合は、ヴェルデに代表して姿を現してもらうしかない。

 もっとも、他の子たちはみな寝てるみたいだし。疲れたのか、飽きたのか? ……飽きたのだろう。


「私は、ヴォーヴェライト公爵家のエリーゼの加護精霊、大地と緑の精霊ヴェルデよ。あなたの呪いが解けていることは私が保証しましょう」

 さすがに目の前に精霊が姿を見せれば、(それもヴェルデは最高位の精霊だけあって、やたらに神々しいのだ、言動に反して)、ヒューイも呪いは解けたと信じたのだろう。

「それでは、私の知る限りをお話します」と、ニュクスについて見聞きしたこと、自らが調べ上げたことを淡々と話し出す。


 ニュクスという名はオニキス大公国にやって来てから彼が名乗ったもので、出身地であるラピスラズリ神聖帝国では、彼はプロイ枢機卿と呼ばれていたそうだ。彼の生い立ちは、ヒューイの調べでは、帝国の神聖大学校入学以前の詳細がわからなかったそうだ。ただ本人が語ったことによれば、彼には生まれながらに光と闇の属性があったらしい。しかし闇の属性は帝国では悪しきものとして忌み嫌われているため、そのことは隠して生きていたそうだ。

 持って生まれた魔力と、その才により異例の若さで枢機卿にまで上りつめたニュクスだが、しかしそれが周囲の妬みを買い、(はかりごと)の応酬の中で秘めていた闇の属性のことが明るみに出た。

 その結果、ニュクスは悪魔の手先として命を狙われ、帝国から逃亡した。

 

 すでにインディゴの調べで私たちが知っていることも多いが、それだけに、ヒューイの調べが正しいと信じられるようにも思う。そのうえで、ニュクスの帝国での名前など、新しい情報もある。

 

 ニュクスは、闇の属性に忌避感のないオニキス大公国に亡命する。しかし、そこへも帝国の追手がやってくる。ニュクスは身を護るために、追手を光と闇の魔法を駆使し撃退した。しかし、彼らは何度も何度もニュクスを神の名において殺しにくる。埒が明かないことに疲れたニュクスは、その身に悪魔を宿す、禁忌の闇の魔法を選択した。

 その日から、彼は魔導士ニュクスとなり、帝国に復讐を誓った。

 

 ニュクスは、帝国に復讐するために、まずは権力を手に入れようと、大公国の乗っ取りを図る。

 大公を毒で弱体化しつつ、政治力のない公子を精神魔法で操り、帝国に対抗できるよう大公国の軍事化を進めていく。そこに立ちはだかったのが、宰相のルクスだ。

 光の属性とそれにふさわしい魂を持つルクスに、ニュクスの闇魔法はほとんど効かなかった。

 物理的にルクスを亡き者にすることは簡単だが、いかんせん、オニキス大公国にはルクスの後釜にふさわしい政務に長けた者がいない。そのため代わりの人材(おそらくこの最有力者がフィッシャー侯爵かと思われる)を他国から連れてくるまでルクスを放置している、それが今のオニキス大公国の現状らしい。


「悪魔をその身に宿さなければニュクスの光の属性は消えなかったから、闇と光をうまく組み合わせれば、ルクスにも精神魔法をかけられたかもしれないのに」

 ヴェルデ、そこは残念そうに言うところじゃないよ?

「闇の属性を悪と決めつけている帝国で育ったせいで、闇の属性について、ニュクスには正しい知識がないのかもしれないな。だとすると、悪魔に魂を売り渡した今、もはや彼の知識は偏ったものにならざるを得ない」


(どういうこと?)

(悪魔は、自分たちの都合のいいように、闇魔法をねじ負けて人間を操るから。闇魔法は本来、光魔法と同じく、結界、回復にとても適したものなんだけどね。逆に光魔法も、精神操作や呪いに便利なこともあるしね)

(そういえば、私も光魔法で、魔獣を眠らせたり落とし穴に突っ込ませたりするものね。これは、闇魔法もちゃんと理解して、インディゴに教えてもらった方がいいかも)

(まあ、そうだね。でも、エリーゼは加護が多いから、闇魔法を使わなくても同じようなものが使えるから。それに、インディゴは教えるのが下手なんだよね。すぐ自分でやっちゃうから)

 それね。すぐやっちゃう、はとってもインディゴらしいわ。


「それに、宿した悪魔が低級すぎるんだよ。もっと魔力をためて魂を磨いた後なら、上級悪魔を召喚できたのに。その辺も甘い」

 だから、そんな反省はいらないんだって。

「でもその悪魔って、今、どうなっているの?」

 だって、ニュクスはインディゴに呪いで鶏にされているよね?

「さっさと出て行ったよ。高位の精霊が出てきた瞬間に。だって、居残っていたら滅されるだけだって、いくら低級でもわかるっていうか、低級だから逃げ足は速いんだ」

 そうなんだ。精霊に悪魔って滅することができるものなの? でも、ヴェルデができるって言うのならできるんだろうね。


 オニキス大公国の乗っ取りが、あと少しのところで滞ってきたことと人材確保のために、ニュクスは、平和を謳歌しているエメラルド王国に目を向けたそうだ。

 王妃は帝国の出身だ。しかも嫁いで三人の子をなした今も法王のお気に入りだということは有名な話だ。その王妃を呪い殺せば、法王へのいい意趣返しになると思ったらしい。

 しかも、次の世代の王子たちを調べてみると、第一王子は王位継承権を放棄、第二王子は秀でているのは容姿だけ、傲慢で人望がないとか。第三王子はまだ幼く、皇太子に指名される可能性があるのは、操りやすい第二王子のみ。豊か過ぎて平和ボケをしているエメラルド王国の乗っ取りのほうがオニキス大公国より容易いのでは、と思ったとか。


「またお前だよ。アデルが王位継承権を放棄さえしていなければ、色々防げること、端から狙われなかったことが多すぎるんだよ」

 兄が、アデル殿下を睨む。

「いや、そうかもしれぬが、母上への暗呪殺計画はそれとは無関係だろう」

「どうだかね」

 疲れてきたのか、兄が理不尽に殿下に絡んでいる。


「ところが、大きな誤算があったのです」

 ヒューイが言うには、それがヴォーヴェライト公爵家らしい。

 権謀術策に長ける宰相アダルヘルム公爵だけでなく、その家族がことごとくニュクスの計画を妨害していく。

「特に、全属性を持ち精霊の加護もあるのではないかと言われているエリーゼ様の人気は、貴族のみならず平民の間でも高いのです。エリーゼ様がお母上と開発された商品の人気とも相まって」


 どうやら隠していても、私が商品開発に関わっているのはじんわりバレてきているようだ。

 まぁ今はそんなに隠していないんだけどね。

 文官養成科でも、商品開発しているしね。


「しかも、エリーゼ様の関わった商品を定期的に飲食している者には、精神魔法が効きづらいのです。組織が調べた結果、その者自身がもつ免疫力を大幅に上げるからだとか」

 

 マジか!? 組織、いい仕事してるね。

 それはいいことを聞いた。

 つまり、病気への免疫だけでなく、精神攻撃への免疫力もつくってことよね。


 ヴェルデが、あたりまえじゃない、と言う顔でうなづいている。知っていたのなら教えて欲しかったよ。

 兄も、そうなのか? というように私を見るが、今の今まで知らなかったのだから、苦笑するしかない。

 でもいつもどおり何も言わない。

 どうせ、当たり前すぎて言う必要が感じられなかったもの、とか言われるだけだし。


「王妃様への攻撃について何か知っていますか?」

「その件はニュクスとフィッシャー侯爵の二人だけで何度か相談されていたようですが、結界が厳重で私では盗聴はできませんでした」

 ヒューイが私の問いに答える。


「王妃様の件は、精霊様たちのアドバイスをふまえ、父上が万全の防御をひいていらっしゃる」

 ()()()()()、って言いました?

 ということは、王妃様の加護精霊だけでなく、たぶん、私の精霊たちも一枚かんでいますね、これは。

「えっと、暗殺計画は把握されていたっていうこと?」

「まあ、そうだな。今回の拉致誘拐事件とは別に、王妃様の命が狙われている懸念があると、精霊ネットワーク的なものでな」

 なるほど、うちの誰かと王妃様の水の精霊ウィンが連絡を取り合ったのね。いつどのタイミングかは知らないけど。

「王宮には今、すべての門と部屋の出入り口に、魔法省が開発しヴォーヴェライト公爵家が魔力を注ぎ込んだ魔法具、『ファインズの盾』が設置されている」

 アデル殿下が微妙な言い回しをする。

 ヴォーヴェライト()()()が魔力を注ぎ込んだ?

 それって、私の加護精霊も含まれますか? 含まれるんでしょうね、ぶっちゃけうちの子たちだけで魔力を注ぎ込んでいるとかでは?

 ヴェルデが目を逸らしているもの。


「その魔道具は、どういうものなのですか?」

 カーリーが尋ねる。

「さっくりいえば、王家に敵対心のあるものが弾かれる結界、というものだな。今までのように武器や毒、暗殺魔法を使える者を弾くだけでなく、敵対心が少しでもあれば通過することができない」

「でも、それだと国を思い王家に苦言を呈してくれる者を遠ざけるのでは?」

 カーリー、さすがですね。いいことを言います。

 兄も感心したようにカーリーを見る。

「まあその側面は否めない。だから、弾かれた者をすべて排除ということではなく、魔法省とヴォーヴェライト公爵家が協力して個別に聞き取り調査をしている。その上で問題がなければ、事情を話し、王妃様への暗呪殺の懸念が消えるまでしばらく王宮への出入りは控えてもらっている。解決後は今までどおり、いや今まで以上に国のために尽くしてもらうと約束もしている」

 

 まただよ。

 ヴォーヴェライト()()()で聞き取り調査って言いましたよね。


(どうせ、アマリージョがしきっているんだよね?)

(エリーゼ、私たちあなたの加護精霊は、あなたの意に反することはしないわ。あなたの意を汲んであなたのお身内に協力はするけど)

 アマリージョは向こうで見張りについているので、セレステが答えてくれる。どうやら彼女は起きたらしい、オスカーの肩に乗り何度かあくびをかみ殺してはいるが。


(そうね。でも、私以外に協力する時には、ひとことあってもいいんじゃないかなって思うのよ)

(この辺りのお話は、エリーゼが試験勉強に必死な頃に湧いてきたものなので、アマリージョたちも邪魔をしては悪いかと思ったようですよ。マテウスも、文官養成科で一人だけ歴史で不合格になればエリーゼが不憫すぎる、とおっしゃっていたとか)

 そんな前から? 

 というか、そこを突かれると反論できないし。


(王妃の精霊ウィンからアマリージョに、王妃の身辺に毒や怪しげな薬を携えた者が、何度排除しても次々とやってくる。捕らえるとおそらく精神魔法のせいで自害したり、突然死したりする。なんとか防ぐ方法はないかと相談があったんだよ)

 ヴェルデが教えてくれる。

(それで、アマリージョからお兄様に?)

(マテウスはアダルヘルムに許可をとって、すぐにアマリージョの助言を得てアデル殿下と魔道具を作成したんだ。急を要するものだったから、ざっくりとしたものになったのはしかたないかと思うよ。その代わりに、弾かれた者のアフターケアは、ウィンやセレステ、インディゴがある程度選別した後、魔法省できっちりやっているらしいから)

(セレステとインディゴも協力したのね)

(水の精霊は歌で悪しき魂を判別できるし、闇の精霊は嘘を見破るからね)

 

 魂に汚れがあっても悪人とは限らない。むしろ誰にだって、少しはそういう面があるだろう。

 同じように嘘もすべてが悪いわけじゃない。ついた方がいい嘘、うっかりとついた嘘、優しさから出た嘘、嘘にも色々あるはずだ。でも、本気で王妃様の命を狙うような輩なら、心を遠くに飛ばされ深い眠りにつくだろうし、インディゴにレッドカードをもらうほどの嘘をつくはずだ。

 それ以外を魔法省が改めて調べるのなら、大きな間違いはない、と信じたい。


「ということは、ニュクスを捕らえた今、王妃様への懸念は去ったと考えてもいいのでは?」

「それはまだわからないわ」とヴェルデ。


「ニュクスが王妃様の暗呪殺計画の首謀者で、フィッシャーがエメラルド王国側の協力者であることは間違いないけど、実は、この秘密結社は、オニキス大公国にもサファイア王国にも、なんと帝国にも少しずつ広がりつつある大きな組織みたいなんだ。しかも、トップはニュクスじゃない。あいつはナンバー2なんだ」

「本当ですか?」

「あっちで見張っているアマリージョが今さっきニュクスから引き出した情報だから間違いないよ」

 あっさり、見張り役を交代したかと思ったら、そういうことだったのね。

 ニュクスの尋問には立ち会いますわ、なんて言ったくせに、先に向こうで一人で尋問に励んでいたとは。

 どうせ、事前準備ですわ、とか言うんだよね。


「なので、組織の頭を握りつぶすまで完全に安全とはいえないね」

 なるほど。単にニュクスの個人的な神聖帝国への復讐だ、というのなら、王妃様の危険はほぼなくなったと言ってもいいだろう。

 しかし、組織のトップが誰でどういう意図でニュクスの企みに関係していたのかがわからないと、王妃様の安全は判断できない、ということか。


「では、引き続き用心を重ねていくしかないな」

「しかし、魔道具で弾かれた者の一部は王宮へ戻してもいいのではないか? 中には有能で長く遊ばせておくにはもったいない者もいる」

「では、誓約書に署名した者は戻そう。この件が片付いたら誓約書は破棄するということで」

 兄がうなづく。


「エルスター男爵、聞き取り調査への協力に感謝する。執事サロスとその息子ヒューイの処罰は貴公に一任する。国王陛下には、貴公も彼らも、こちら側から組織に送り込んだ内偵者であった旨、報告しておく。今後もエメラルド王国に忠誠を尽くしてもらいたい」

 アデル殿下、男前だね。

 王家といわず、国に忠誠を誓わせるところが。


「ありがとう存じます。このご恩、決して忘れることなく、この命耐えるまでエメラルド王国のため精神誠意尽力することを誓わせていただきます」

 一方で、エルスター男爵はアデル殿下に臣下の礼をとることで、国のみならず王家に忠誠を尽くすことを示す。

 

 マリアンヌも男爵と一緒に臣下の礼をとる。

 そしてその後で、私に視線を向ける。

「エリーゼ、本当にありがとう。私の命だけでなくお義父さまや執事親子の命まで救ってくれて」

「私はほどんど何もしてないのよ。周りがパッパと動いてくれただけで。それより、マルギットがあなたを騙しているかもしれないってもっと早く注意できていたら、こんなに怖い目に合わせなくてすんだのに、ごめんね」

「そんな。マルギットのことは残念だけど、いい勉強になったわ。本物の優しさと装うための甘言は別物なんだって、知っていたのに。聖女と祀り上げられて、判断力が鈍っていたのかもしれないわ。むしろ時に厳しいことを言ってくれるリリアのような人こそが本当に優しい人、友人になるべき人なのかもしれないわね」

 いや、それは誤解だ。

 そのリリアは、あのリリアではなく、たぶんアマリージョだから。

 こうなると、リリアの解呪のタイミングがよけい難しくなるよ。

 アマリージョはリリアのハードル上げすぎだから。


「マリアンヌ、エリーゼだけでなく私たちもお友だちよ」

 レイチェルがマリアンヌに微笑む。

 それをレイナードが、さすがレイチェルわが天使、みたいな目で見ている。

「そうね。これからもよろしくね」とカーリーはあっさり、でも親し気に。

「お二人とも、私のせいで恐ろしい目に合われたのに、これからもお友だちでいてくださるんですか?」

「当たり前よ。それにマリアンヌのせいじゃないもの。そのニュクスとかいう悪い人のせいでしょう?」

「そうそう。それにエリーゼのせいでもあるし。それなら仕方ないのよ。エリーゼだから」

 レイチェル、どうしてそうなるの?

 アルベルトが爆笑してる。

「そうだな。仕方ないよ。エリーゼだもんな」

 つられるように、兄やアデル殿下までが笑っている。

「俺たちエリーゼ派閥としては、何があってもエリーゼを信じるし、エリーゼのすることに驚くことはあっても理解するよう努力する、これ、基本だから」

「あの、エリーゼ派閥というのは?」

 ないから、そんな派閥。


「エリーゼのことが大好きで、いっしょに面白いことがしたくて、だからこそ、何があってもエリーゼを信じて守るぞっていう、自然発生したファンクラブみたいなもんだな」

 適当なことを。アルベルトはまったくもう。

「それなら、私も入りたいです」

 マリアンヌ、文官養成科のノリに流されないで正気に戻った方がいいよ?

「いいぞ、自由参加だからな」

「それなら私も入る。会長は私でいいな?」

 アデル殿下まで。

「いや、お前は名誉会長だ。会長は兄の私に決まっている」

 もうどうでもいいわ。


「ということで」

 どういうことだよ、と誰も突っ込まないことが不思議だ。

「マリアンヌ、それからサロスとヒューイは、別室で休んでもらおう」

 アルベルトが、執事を呼び、三人を連れて出てもらう。

「レイチェルとカーリー、それからレイナードとアルベルトは、あちらの隅に魔道具で結界を張るので移動してくれ。君たちの方からこちらは見聞きできるが、こちらから君たちのことは認識できない。そういう仕様だ」

「なぜですか?」

 カーリーが少しだけ不満そうに聞く。

「もちろん安全のためだ」とアデル殿下がきっぱり答える。

「今から、白でも灰色でもなく真黒な連中の尋問になる。どうやら彼らの仲間は国外にまで及んでいるらしい。だとすると戦いは長丁場になる。万が一にも今回の謀の真相を知っていると知られること自体が危険だ」

「もちろん、今から尋問する奴らを逃すつもりはない。罪はすべて調べ上げふさわしい罰を与えるつもりだ。しかし、こういうことに絶対はないんだ。特に闇の魔導士が絡んでいる場合はね」

「本当は、君たちにもマリアンヌのように別室で待機して欲しいくらいなんだ。だけど、嫌だろう? 何が本当かを自分たちの目で見て判断できないのは。だから、これは私たちの譲歩だ」

 兄と殿下が交互に説得の言葉を繰り出す。

「でも、それならエリーゼとオスカーもこちらに来させてください。同じ未成年の学院生なんですから」

 カーリーのこの言葉は、不満ではなく、心底私たちを心配してくれているからだ。


「エリーゼとオスカーは、私たちと同じか、それ以上の力で自らを守れる」

「エリーゼには、皆が知っているようにこれ以上は望めない高位の加護精霊がいる。エリーゼほどではなくても、オスカーはすでに解毒と防呪の魔法に長けている。そのうえ、二人はすでに今回の件に深く関わり存在が知られてしまっている」


 そうだよね。オスカーは結構大活躍だったし、私はほぼ何もしていないけど、精霊たちはフル活動だった。その上、どうやら私というか公爵家は全員、王妃様と同じくらいには狙われている対象でもある。今さら存在を隠しても意味がない。


 カーリーたちが納得して結界に隠れてくれたので、アマリージョに連絡をとり、まずはベッカー伯爵とマルギットを連れてきてもらう。


 二人とも、ヴェルデの茨に縛られている。


「ベッカー伯爵、今回のマリアンヌの拉致及び殺害計画、エルスター男爵の殺害未遂、について申し述べることがあれば聞くが」

「私は何も知りません。すべてニュクスとかいう魔導士のしたこと」

 そうくるか。

 ほぼ現行犯で捕まっているのに。

「そうか。それなら確認してみよう」

 アデル殿下も、少しあきれたような声色だ。


 けれど、どうやって確認するんだろう?

 自白用の魔道具とか?

 精神魔法とか?

 

 突然、白銀の光に包まれ私たちの前に現れたのは、美しい水晶玉。

 おや、これはクリスでは?


「これは、真実を映し出す魔道具だ。お前が過去にどんなことを言い、何をしたかをつぶさに映し出す」

 まあ、あながち嘘ではない。クリスは道具ではないけどね。

 クリスなら、ベッカー伯爵の過去は丸裸にできるだろう。


(エリーゼ、クリスに新機能ができましたのよ)

(プラータさん、新機能って何ですか? 勝手になんで機能つけちゃってるの? 誰の意思?)

(もちろん、クリスの意思ですわ。もっとエリーゼのために役立ちたい、とエリーゼの前世の世界から色々学んだようですわ)

 私は、二週間に一度は、前世を覗いている。

 そこには、この世界にないとても便利なものがたくさん映る。だからって、クリスはクリスタルなんだから、新機能なんかつけなくても十分凄いし役に立っているのに。

(エリーゼ、向上心のないクリスタルなど、ただの鉱物ですわ)

 はい? 意味がよくわかりませんが。


「エリーゼ、魔力を流してくれるか?」

 ベッカー伯爵の過去を視るということだよね? でもどのあたりの過去を? 

 私は、クリスに自らの魔力を注ぎ込む、振りをする。そして視る。

 とりあえず、私たちが聞いていたあの部屋での密談を。


 すると、驚いたことに、クリスがスクリーン状に変形した。

 なにこれ? これが新機能? 新機能すぎるよね?

 オスカーが、ほぉっと声を上げる。


 そこには、今、私が視たものが映る。誰にも見えるように。

 彼らの密談がすべて。

 マリアンヌを殺せというニュクス。いっしょにエルスター男爵も殺してもいいかと尋ねるベッカー伯爵。

 薄笑いを浮かべるフィッシャー侯爵。


 あの時は声だけだったけれど、いやぁ、なかなかの悪人顔ですね、皆。 


 もう少し前も視てみよう、と意識を集中する。

 うーん、スクリーン形態だとちょっとやりにくいな。


 ベッカー伯爵がマルギットに、レイチェルとカーリーを攫ってくるように指示している。

 おや? マルギットは拒否をしているわね。

 そこへニュクスがやってきて、マルギットに精神魔法をかける。どうやら、呪いの薬は飲まされていないようだ。


 チラッと見ると兄もうなづいている。マルギットのお仕置きは手加減が必要だな、とでも思っているのだろう。まあ、無罪放免とはいかないだろうけど。


「う、嘘だ。こんな魔道具など存在するはずがない。非常識すぎる」

 それは認めるよ、非常識だもん、クリスは。

 だって異世界ともつながれるし、その世界で新しい知識も吸収してくるし、勝手に新機能とかつけて成長してる、スーパークリスタルなのだから。


「見てのとおりだ。お前の罪は明白だな。先ほどのやり取りは私たちも聞いていたものとまったく同じだ」

「わ、私はニュクスに操られていたのだ。娘のマルギットと同じように」

 なるほど。なくはないね。ないだろうけど。

「では、それも魔道具で確認しよう」

 クリスでわかるのかな?

(ベッカー伯爵が、誰かに操られていたかどうかわかる?)

 半信半疑でクリスに尋ねながら視る。


 パネルに、ニュクスとベッカーが映る。


「ニュクス様、今後は、聖女とは名ばかりのエルスター男爵令嬢マリアンヌではなく、あなた様の忠実な僕、このベッカーの義娘、マルギットをフィリップの婚約者に推すことをお許しいただきたい」

「マルギットか。しかし、あれは大公の血などかけらも入っていないのだぞ? 見た目だけで王家を騙せるのか? そもそも本人にやる気があるのか? マリアンヌのようにこちらの意図にまったく従わないのでは話にならんからな」

「マルギットの意思などどうとでもなります。もし反発するようなら、あなた様の偉大なる闇魔法で言い聞かせていただければよろしいかと。あれの母親を操り人形にしたように」


「しかし、まずはエリーゼだ。彼女は家柄も美貌も魔力も文句のつけようのない皇太子妃候補だ。忍び込ませていた隠密によれば、エリーゼを王妃に王子の誰かを王配に、という意見さえあるというではないか」


 いや、照れるな。褒め殺し? 

 それにしても、あのお茶会での王妃様との会話が漏れていたとしたら、ニュクスの隠密は優秀すぎる。

 要確認だよ、王妃様があの戯言を他でもしゃべっていないかどうか。


「一方でマリアンヌは、魔力は小さいが聖なる光魔法の使い手、聖女だ。それにエリーゼに勝るとも劣らない美貌の持ち主で、どうやらフィリップはぞっこんらしいではないか」

 

「あの二人には光の属性があり手駒にするには難しいではありませんか。しかし闇の属性を持つマルギットなら、あなた様の言いなりにできます。あなた様の手で娘に大いなる力を与えていただければ、必ずあなた様の想いに応えるはずです。王家など、しかもあの顔だけの王子などその後でどうにでもなりますよね?」

「ほほう。では、お前は娘の魂を悪魔に捧げてもいいと、そう申しているのだな?」

「もともと、あの母娘は、ニュクス様にお連れいただいただけの道具、あなた様の御心のままに」

「ベッカー伯爵、お前には悪魔の降臨も精神魔法も必要ないな。前妻を毒殺したかと思えば次の妻は人形にし、義娘は生贄に差し出すとは、お前こそが悪魔だ」

「誉め言葉と、とっておきましょう」


 クリス、グッジョブだね。

 これはもう、操られていた、とは言い訳ができない。

 ベッカー伯爵は、ある意味ニュクスよりも悪魔的だ。


「では私、闇の魔王ニュクスの名において貴様に命令ずる。マルギットを使ってフィリップ第二王子を篭絡せよ」

 ニュクスさん、闇の魔王って名乗ってますけど?

 ヴェルデに低級と称された悪魔を召喚しただけなのに。これ、悪魔界でも問題にならないのかしら?

 そんな界があるかどうかは知らないけど。

 それでもって、ニュクスが組織のナンバー2なら、トップはもしかして闇の大魔王だったりして。


「マルギットには呪いの薬を渡し、まずは邪魔なマリアンヌを消すように指示しろ。エリーゼは、殺すな。人質にして邪魔なヴォーヴェライト公爵家を家ごとつぶしておきたい」

 それはハードルが高いね。

 ヴォーヴェライト公爵家はそう簡単につぶれないよ?

 そもそも、私を人質にするのなら、加護精霊たちと戦う必要がある。ヴェルデだけでも、私に指一本触れさせないよう守り切ると思うけど? 

 誘拐犯は全員茨でぐるぐる巻きだよ。


「マルギットがフィリップ第二王子を篭絡したあかつきには、マルギットに悪魔降臨の儀式を行い、その魂を捧げ、王家の乗っ取りにお力を借りるとしよう。オニキス大公国の大公の血さえあれば、マルギットを本物の大公の娘に作り替えることも可能だ。そうすれば王子の婚約者として確かな身分もできる」

「御意」



「言い逃れはできないな。どうだ、ベッカー伯爵?」

 ベッカー伯爵は、黙ったまま力なく頭をたれている。

 これ以上嘘を重ねても言い訳しても、また新たな映像が出てくるだけだとしたら、なんの得にもならないと理解したのかもしれない。

「ベッカー伯爵、魔力封じの首輪をつけ貴族牢で沙汰を待て」

 アデル殿下の言葉にも無反応だ。

 オスカーがすばやく、茨で巻かれたままのベッカー伯爵の首に魔力封じの首輪をつける。

「では、マルギット、そなたは何か申し開きがあるか?」

 アデル殿下が尋ねる。

「申し開きはありません」

「しかし、今の映像を見る限り、そなたはニュクスの精神魔法の影響を受け、義父であるベッカー伯爵の道具として使われていたようだが」

「私は、偉大なる魔王ニュクス様の誠実なる僕。操られていたのではなく、崇拝するニュクス様のため邪魔者を消そうとしただけです」

 

(あ、そういえば、マルギットの精神魔法って解けてないのでは?)

(あ、忘れてたね)とヴェルデ。

 とはいえ、私が『クラシオン』を、彼らの前で使うのはまずい。


 ちょうどクリスもいることだし、目くらましになるよね?

(プラータ、ちょちょっと、マルギットの精神魔法を解呪してもらえる?)

 

 プラータは、上手にクリスから光があふれ出ているようにカモフラージュしながら、マルギットを包み込む。

 兄もアデル殿下も、そしてオスカーも何が起こったかはわかっているようだ。


「改めて聞く。マルギット、何か申し開きがあるのなら、述べてみよ」

「わ、私は、何を言えばいいのかわかりません。どうしてこんなことを」

 マルギットには、精神魔法で操られていた間の記憶はあるようだ。

 けれど、なぜ、自分がそのように行動したのかはわからない、そんな感じだろうか。


「マルギット、そなたは、友人を欺き呪いの薬を飲ませ拉致しようとして我らに捕らえられた。魔導士ニュクスに今も忠誠を尽くす気持ちは変わらないか?」

 マルギットは、しばらく目を閉じ沈黙する。そしてゆっくりと目を開いた。


「ニュクスは、私の闇の属性をあの男と同じ醜い黒に染めました。けれど、今、私の闇は私自身の色を取り戻しています」

「それは、エリーゼのクリスタルの力だ」

 正確には、私の精霊プラータの力だ。


(プラータごめんね。隠してばかりで)

(いいんですよ、エリーゼがわかってくれていれば、それで十分ですから)


「エリーゼ様、ありがとうございます。そして申し訳ありませんでした。あなた様に誓わせていただきます。私は、ニュクスにも、あの偽りだけの義父にも、二度と従うことはありません」

「そう、よかったわ。でもあなたがお礼を言い謝罪すべき人は、マリアンヌであり、レイチェル、カーリーではなくて? あなたが操られていたとしても、あなたが傷つけ怖がらせ、辛い目に合わせたのですから」

「そうですね。本当に、そうですね。けれど、私はおそらく二度と彼女たちに会うことはないでしょう。義父と同じく、魔力封じの首輪をつけ牢に入るのでしょうから」


「アデル殿下、マルギットは未成年でしかも精神魔法の被害者でもあります。彼女の罪は決して軽くありませんが、救済は必要かと思います」

 オスカーが、私の言いたかったことを進言してくれる。

「そうだな、無罪放免とはいかないが、善処しよう」

 アデル殿下がオスカーに応え、マルギットに視線を向けわずかに口角を上げた。

 きっと、これなら悪くない、やりなおせる、そんな感じでマルギットには沙汰がくだるだろう。

 私は、そう確信した。


 オスカーがマルギットにも魔力封じの首輪をつける。けれどヴェルデは、マルギットの縛りを解く。

 もう逃げることはない、と判断したのだろう。

 私は、彼女に『リフレ』をかける。

 マルギットの茨の棘はベッカー伯爵に比べれば少なめだったけれど、痛かっただろうなと思う。

 これからも、もっと心身ともに痛い目に合うかもしれない。だけど、負けないで頑張って欲しいと心から願う。今はここに顔を見せられない、彼女を初めてできた魔法科の友人だと言ったマリアンヌのためにも。

 そしてあの結界の向こうで、マルギットに拉致されかかったのにもかかわらず、きっともうすっかり彼女のことは許しているだろうカーリーとレイチェルのためにも。


 ほどなく、マルギットをオスカーが連れて出て行き、さらにきつく縛ってベッカー伯爵をヴェルデが連れて消えた。


オニキス大公国の宰相の名前、プリウスからルクスに変更しました。

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