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どうやら、ゲームではわからなかった悪の秘密結社があるようです。part3

第14章 仲間を救って、敵を捕まえて、縛って放り込んで、精霊たちはとても楽しそうです。


 転移後、兄の先導で地下通路に向かう。

 そちらにアマリージョとレイナード、そしてアデル殿下がいると、アマリージョから連絡がきたからだ。


 レイナードが剣を振るっている。

 相手はマルギットと三人の魔法科の男子生徒だ。

 アマリージョは、眠らされたレイチェルとカーリーを結界で護っている。アデル殿下が二人を介護しているようだ。

 一対四だが、レイナードはすぐに二人を戦闘不能に追い込む。

 あたりまえだ。無詠唱、あるいは簡易化したオリジナル詠唱で魔法を繰り出すオスカーでも、この状況でレイナードと戦うのは厳しいだろう。

 接近戦で、こう長々と詠唱をしていれば、剣の名手レイナードの敵ではない。

 残りの男子生徒は、それを見て逃げ出した。オスカーがすぐに氷の壁で囲みこむ。


 あとは、マルギット一人。

「今すぐ武器を捨て投降しろ。そうでなければ伯爵令嬢といえど容赦はせぬ」

「いいのかしら? そんなことを言って。愛しのレイチェルが死んでしまうかもしれなくてよ?」

 ここにも、リリア以上に悪役令嬢にぴったりのキャラがいるではないか。これほど次々と出てくるのなら、一日も早く私の『悪役令嬢』を返上できでもおかしくないのでは、と思う。


「レイチェルなら、すでに保護しているが?」

 レイナードが剣を下げずに、マルギットを問いただす。

「彼女たちが飲んだ薬は、ただの眠り薬ではないのよ」

「どういう意味だ」

「たった一言、そのキーワードを耳にするだけで死に至る、それは呪いの薬」

「なに!?}

「私がそのキーワードを口にすればそれで終わり。もしあなたが、私がそれを言う前に私を殺しても、その呪いは解けない」

「そんなばかな」

「いつか誰かがそれを口にすれば終わり。それはあなたかもしれなくてよ? 愛する人に殺されるかもしれない、そんな時限爆弾を抱えたままこれからを生きるなんて、スリルに満ちた人生でうらやましいわ。ちなみにマリアンヌも同じよ」


 私はプラータに尋ねる。

(あれって本当なの?)

(ええ。けれど、マリアンヌのものはすでに解呪ずみです。それにアマリージョの結界の中では、呪いは起動しません。でもご心配でしょうから、こちらの二人もすぐに解呪しますね)


 プラータの光が私の胸元のペンダントからあふれ、レイチェルとカーリーを包み込む。

 

 それを見たマルギットが怪訝な顔を私に向ける。

「リリア? あなたには言い聞かせてあるでしょう? エリーゼを見張るように。あなたも呪いの薬を飲んでいるのよ。逆らえばどうなるかわかっているの? なぜここに彼らといるの? というか、今何をしたの?」

 疑問が多すぎて、どれに答えたらいいのかわからない。

 それにしても、ようやく、リリアに化けた甲斐があったようだ。

 いいことが聞けた。マルギットは、リリアにも呪いの薬を飲ませたらしい。でも、残念!! たぶんそれを飲んだのは、アマリージョだから。


(飲めと言われたので飲みましたわよ。おかげで薬の成分も呪いの種類もわかりましたので、精霊みなで情報を共有しております)

 やっぱりね。


「別になにも。ちょっと呪いを解いただけですが」

 とりあえず、今何をしたのか? という最後の質問に答える。

 マルギットが嗤う。

「お前ごときがニュクス様の呪いを解けるはずがない」

 なるほど。この薬もニュクス作ってことね。

 まあ、リリアには解呪できないだろうけれど、プラータやインディゴならすぐにできるだろうし、他の精霊も少し時間をかければできる。

 たぶん私の『クラシアン』でもできるはず。


「私であればどうでしょうか?」

 オスカー、今、そんなことを尋ねている場合かな?

「あなたのジェットストリームに上級回復魔法を組み合わせれば、薬からの回復とあの程度の呪いなら解呪は可能です」

「ということは、同時に二属性の魔法を組み合わせるのですね」

「融合させるのです。あなたなら少し鍛錬すれば可能なはずです」

 いやもうこの二人は、たった一日で、強固な師弟関係を結んだようだ。


 セレステは私の加護精霊だけどね。


「ほう。最近国内に増えている原因不明の突然死は、もしかしたらこの呪いの薬のせいか?」

 一方で、兄とアデル殿下が目を合わせうなづき合っている。


「疑うのなら、そのキーワードとやらを唱えればいいのでは?」

 リリアっぽく、ちょっと傲慢風を吹かせてみる。

 レイナードが、いやそれは、と慌てる。私ではなく、同じ呪いにかかったレイチェルを心配しているのだろう。

 解呪したって言ってるのに、心配性だね。

 

 しかしその慌てぶりを見て、マルギットは私の言うことがはったりだと思ったのか、ニタッと笑う。

「リリア、あなたのキーワードはこれよ。大嫌いなものに殺されるがいいわ。『ヘイミン』」

 そのキーワードのチョイスはなかなかいいと思う。

 実際、リリアはそのせいで子豚にされたわけだからね。

 よかったね、リリア。

 インディゴが先に子豚にしてくれて。おかげで同じ言葉で死なずにすんだよ。

 

 でも、私には効かない。

 

 そもそも薬を飲んでいないし。飲んでいても、私には毒も呪いも効かない。

 アマリージョを振り返る。だって、飲んだのは彼女だから。アマリージョはニヤニヤ笑っている。アマリージョにも効くはずがない。精霊たちは、そもそもヤバいものには手を出さない。飲んだということはどんな影響もない程度のものだからだ。


「ほらね。効かないでしょう?」

「う、嘘、嘘よ」

 マルギットが青ざめながら、叫んでいる。


「それに、ニュクスは、もう捉えたぞ」

 兄の声は冷えている。

「ニュクス様は偉大なる闇の魔導士。あなたたちに手出しができるような存在ではありません」

「いや、けっこうあっさり捕まったけど?」

 これは私の主観だけど、そう間違ってはいないと思う。インディゴの手際は、いつもの寝坊助ぶりが嘘のように鮮やかだったもの。


「信じないわ」

「どうでもいいが、お前の父も、フィッシャー侯爵も捕縛済みだ。マリアンヌはエルスター男爵とともに保護したしな。もちろん、マリアンヌの呪いもすべて解呪ずみだ」

「そんな」


 兄のゆるぎない態度に、ようやく事実を悟ったのか、マルギットの手からレイピアが落ちる。

 レイナードが、すぐにマルギットを捕縛する。いつも紳士なレイナードにすれば、かなり荒っぽくマルギットを縛り上げている。

 アマリージョが彼女を受け取りすぐに転移した。おそらく、先に捕らえた一味といっしょに地下牢に閉じ込めるためだろう。


「レイチェル、大丈夫か?」

 レイナードがレイチェルに寄り添う。

「カーリーしっかりしろ」

 兄がカーリーの手を握る。

 どさくさにまぎれて、兄も、けっこう大胆だ。


 うまくいけばいいけどね、妹としては生温かく見守るよ。


 私は二人に『レフリ』をかける。

 すると二人は、すぐに目を開いた。どうやら意識が戻ったようだ。

「レイナード、ここはどこ?」

 レイチェルの目には、レイナードしか入らないのかな? 私が回復魔法をかけたのに。

「よかった。君が無事で」

 レイナードは、レイチェルを抱きしめる。

「えっ? 無事って、どういう意味?」

 

「レイチェルとカーリーはマルギットに眠り薬で眠らされて、拉致されかかっていたのよ。それをレイナードたちが救ってくれたの」

 私が説明しすると、レイチェルが、首をかしげながら私を見る。

「あなたは、魔法科のリリアよね? あなたも私たちを助けてくれたの?」

「えっと、そうね。私も手伝ったわね」

 レイチェルとリリアは、気まずいお茶会以来ほとんど交流もないが、まったく知らないわけでもない。レイチェルは戸惑いながらもリリアに化けた私に礼を言う。

「ありがとう」

 いや、実は私はエリーゼなのよ、と打ち明けようとしたのだけれど。


「それより、マリアンヌとエリーゼを探さないと」

 カーリーが、兄の手に気づき顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「そうだったわ。魔法科のミランダに二人が攫われたって言われて、アデル殿下にお知らせしようと女子寮を出たところでマルギットたちにいきなり魔法をかけられて」


 そういうことか。

 二人が、マルギットに渡された薬を飲む、というシチュエーションがどうしても想像できなかったのだが、先に魔法で意識を飛ばされたんだね。

 それから魔法科のミランダ、敵か味方か、後で調査が必要ね。

 兄とアデル殿下もうなづき合っているから、見逃されることはないだろう。


「その後で、眠り薬を飲まされてここまで運ばれようだ」

 アデル殿下が、私たちがやって来るまでの様子を説明してくれる。

「この地下通路に作られた側道をふさいだ直後に、そいつらが来たんだ。それで、とにかくレイチェルとカーリーを保護しようとしたら、レイナードがアマリージョに連れられてやってきたってわけさ」

 

 あ、今気づいたけれど、レイナードやレイチェル、カーリーに、たぶんアルベルトにもアマリージョのことがばれちゃったね。


 まあ、いいんだけど。

 ヴェルデだけしか紹介していなかったから、ちょっと驚かせたかもしれないなって。

 レイチェルとカーリーには、早めに他の精霊たちも紹介しなくてはね。この二人は私のせいで、色々、破滅フラグや陰謀に巻き込まれそうだもの。もちろん、絶対守るけどね。たいていは、精霊たちが。


「レイナードは、愛するレイチェルが運ばれている姿を見て、姫を救う剣士として悪漢の前に立ちはだかったのですよ」

 すぐに舞い戻ってきたアマリージョが嬉しそうに言う。

「あっという間に二人を倒し、一人はその威圧感に恐れをなし逃げ出したのですから」

 レイチェルは、真っ赤になっている。


「ありがとう。レイナード、私たちを助けてくれて」

 レイチェルは、自分の正義の騎士にお礼を言う。

「君を守ることができて幸いだ」

 はぁ、格好いいね。うーん、うらやましくなんかないよ。

 友達が幸せならそれでいいさ。

 

 でもこれってイベントっぽくもあるよね? 

 あれ、そういえば、マリアンヌとレイナードのルートに似たようなイベントがあったような。

 マリアンヌが義父に呼ばれ屋敷に戻る途中、悪役令嬢(エリーゼ)のたくらみで傭兵崩れに攫われてそれをレイナードが助ける、みたいな。


 そもそも私がそんなことを企むわけもなく、ありえないんだけど、と思ってスルーしたやつだ。


 ということは、もうレイチェルが主人公でレイナードが攻略キャラでいいんじゃない? 

 それなら悪役はマルギットだよね、どう見たって。だったら、私はモブで二人を応援するよ、思いっきり。 

 ただ、美花のメモにレイチェルの名前はないんだよね。実はカーリーはあるんだけれど。でもそのカーリーは伯爵令嬢でオスカーの婚約者だったりするんだ。

 ゲームとこの世界の相違がどんどん多くなっていくので、どれが破滅フラグで何が攻略イベントなのかわかりづらいんだよね。

 

「マテウス様、マリアンヌとエリーゼは無事ですか?」

 カーリーが兄に握られている手を、そっと外しながら尋ねる。

「マリアンヌはアルベルトが保護をしてくれている。エリーゼは、そこにいる」

 カーリーは兄の視線の先にいる私を見る。


 アマリージョが幻惑魔法を解いてくれる。


「まあ」

 無事だったのね、よかった、と元に戻った私にカーリーが飛びついてくる。兄が若干うらやましそうに私を見る。


「とりあえず、シュミット辺境伯の屋敷に戻ってこれからを話し合いたいと思うが、レイナード、かまわないだろうか?」

 まあ、これだけの後始末をどうするかを、学院内でこの時間に話し合うのは無理かもしれない。

 かといって公爵家では、父はともかく母が面倒だ。絶対首をつっこんでくるに決まっている。

 保護したままのエルスター男爵やマリアンヌのこともあるし。

「もちろんです。遠慮なくお使いください」

 レイナードは、快諾してくれる。


「お兄様、彼らはどうしますか?」

 魔法科の、マルギットに協力した男子生徒三人だ。

「彼らにも尋問が必要だな。おそらく精神魔法をかけられて操られていたのだろうが、そうでないのなら、家ぐるみで奴らの仲間かもしれない。とはいえ、連れて行くのもまずいな。アデル、未成年の彼らを厳重にしかし、安全に管理できる場所といえばどこだ?」

「礼拝堂の地下にある、シェルターはどうだ?」

 そんなものがあるの? オスカーも目を瞠っているから、知らなかったのだろう。


「もう出来上がっているのか?」

「昨日出来上がったばかりだ。アマリージョ様のアドバイスを受け、すぐにとりかかっておいてよかった」

「なら、先に彼らをそこに運ぼう。エリーゼ、アマリージョ様のお力を借りたい」

「どうぞ」

 どうせ、アマリージョは、ほぼ自分の好きなように動いているし。お兄様やアデル殿下にも、勝手にアドバイスしたりして。

 いや、私は拗ねてないよ? 


「では、オスカー、そちらの氷の壁を消していただいても?」

 アマリージョに言われ、オスカーはすぐに壁を取り払う。

 男子生徒は、怖さのせいなのか、それとも寒さのせいなのか座り込んでガタガタ震えている。


「ヴェルデ、三人まとめて、棘のない丈夫な蔦で縛り上げてください」

「えー、茨の方がいいのに」

 いや、ダメだから。

「罪が確定したら、茨でも鉄の鎖でも好きなもので巻いてよろしいから」

「鉄の鎖は出せないもん。あ、でも頑張れば出せるかも」

 だぶん出せるようにはなるだろう。

 大地の精霊でもあるヴェルデは、エメラルドでもルビーでも、金でも鉄でも鉱物を好き勝手に出せるのだから。

 あとは鎖にするだけだもんね。

 でも、出さなくていいんだよ? 

 あとできっちり話し合おう。

 

 すぐに三人が棘のない蔦で縛り上げられる。

「では、私が、あのお部屋にお届けしましょう。魔法省の者に監視と保護を依頼できますか?」

 兄が、うなづく。そしてすぐに、小さな魔道具で部下に連絡をとっている。

 アマリージョが、三人をまとめて転移させた。そして、ほどなく一人で舞い戻ってきた。



「私たちも一緒に行っていいですか? 巻き込まれた上は、その経緯やこれからをちゃんと知っておきたいです」

 カーリーならそう言うと思った。

 レイチェルとレイナードも、今ここで離れるのは嫌だろう。

「お兄様、よろしいわよね?」

「いいが、体は大丈夫か?」

 二人は揃ってうなづく。まあ、途中で体調が悪くなったら、また『レフリ』をかければいい。

 

 アマリージョが、大きめの転移の魔法陣を瞬時に描き上げる。

「では、まとめて転移しますので魔法陣の上に集まって手を繋いでください」

 レイチェルの左右をレイナードとカーリーが陣取り、兄はカーリーの隣を譲らず、兄の横に私、そしてオスカー。オスカーがレイナードと手を繋いで輪になる。

 六人となると今までで一番多い人数での転移だ。

 魔法陣があったほうが安心だよね、と私が言い出す前にさっとそれを用意してくれるなんて、アマリージョは私の心を落ち着かせる名人だね。好き勝手が多いけど。

 オスカーとカーリーがその魔法陣をガン見している。

 あとできっと、質問攻めだろうけれど、今はとにかく転移だ。

 アマリージョとプラータも一緒だ。

 アマリージョが作ってくれた魔法陣もある。

 この上なく安全だ。


「行きます」

 みんながうなづいた。


 次の瞬間には、シュミット辺境伯の屋敷に転移していた。

「みな、無事か?」

 アルベルトが、レイナードに尋ねる。

「ああ、間に合った」

 レイナードは、レイチェルの手をしっかりつないだまま答える。

 アルベルトは苦笑いだ。

「カーリー、エリーゼ、君たちも大丈夫?」

 こういう時は、いつもと変わらないアルベルトの優しさが身に染みる。

「大丈夫よ。実は、まだよく自分がどうしてああなっていたのかわかってはいないんだけどね」

 カーリーは、やっぱりしっかりしている。もうメンタル的にも立ち直っているようだ。

「アルベルト、心配かけたわね」

 私は、アルベルトに笑顔を見せる。

「それに、色々黙っていたこともあって、ごめん」

 アルベルトが笑う。

「精霊様のこと? いや、なんとなく、わかっていたから。ヴェルデ様だけじゃなくて、他にもお菓子好きの加護精霊がいるんだろうなって」

 カーリーもうなづいている。

 やっぱり聡い子たちにはばれちゃうよね。


「マテウス様、応接室でエルスター男爵とマリアンヌに待ってもらっています」

「ではそちらに移動しよう。君とレイナードはどうする? この先は、今回の拉致事件の後始末を話し合うことになる。これに参加した場合、君たちには、ヴォーヴェライト公爵、あるいはアデル第一王子派閥と認識される危険もある」

 

 シュミット辺境伯は、代々、いわゆる中立を保っている。

 王家、というよりは王国を守る、というスタンスだ。

 今回アルベルトとレイナードは、屋敷がたまたまエルスター男爵邸に近かったというだけで私たちに巻き込まれてしまった、ある意味最大の被害者だ。

 もっともレイナードはレイチェルをその手で救えたので、アルベルトとはまた違う想いがあるかもしれないが。


「私はレイチェルをこんな目に合わせた者たちを赦すわけにはいきません」

 レイナードは、思った以上に情熱的な人なんだね。 

 レイチェルがそんなレイナードを頼もしそうに見上げている。

「私は、誰に、どこの派閥だと思われてもかまいませんよ。それより大切な友人たちをこんな陰謀に巻き込んだ奴らのことを知りたいし、これ以上誰かが危ない目に合わないよう、協力もしたいですね」

 実に、アルベルトらしい。

 兄も、感心したようにアルベルトを見ている。

 こいつも欲しいな、そんな目だ。


「それに、派閥というのなら、すでに私はエリーゼ派閥ですから」

 いや、嘘はいけないね。君は、オスカーとともに、マテウス派閥だろう。

「私も、エリーゼ派閥です」とカーリーが手を上げる。

「ずるい、そんなの私もよ」とレイチェルが口をとがらせる。

 ノリもあるのだろうが、ちょっと嬉しくなる。


「では、君たちも参加ということでいいな」

 みなで応接室に移動する。

 私と兄とオスカー、それにレイチェルとカーリー、マリアンヌとエルスター男爵、それにアデル殿下とアルベルトとレイナード、総勢十名での話し合いになる。


 私たちが入っていくと、エルスター男爵とマリアンヌが、揃って立ち上がり礼をとる。

 アデル殿下がいるので、これは当たり前かもしれない。


「この度は、私の不適切な行動で皆様には多大なご迷惑をおかけしました。それにもかかわらず、娘の命を救っていただき、私まで保護していただくとは、感謝の言葉もありません」

「まだ身体も本調子ではなかろう。どうか腰を下ろしてゆっくりとしてくれ」

 アデル殿下が二人を気遣う。


「屋敷のあちらこちらから椅子をかき集めたので座り心地に差はありますが。とりあえずは、アデル殿下はこちらに。マテウス様はあちらに。他は適当にお願いします」

 すでに準備万端とは、できる男は違うね。アルベルトは、本当に有能だ。

 アルベルトの言葉で、みな、腰をおろす。すぐに侍女たちが手分けしてお茶を配る。そして速やかに退室する。

 正直、少々疲れていたので、温かいお茶はありがたい。

 あ、これは、文官養成科特製のブレンドハーブティーだ。レイチェルとカーリーも、嬉しそうに微笑み合っている。


「エルスター男爵、今回のマリアンヌの拉致、およびレイチェルとカーリーの拉致未遂について知っていることをすべて話してもらいたい」

 どうやら、アデル殿下がこの場をしきるようだ。


「ご存知のように、私は、フィッシャー侯爵が長であるフィリップ第二王子の派閥に属する者でした」

 エルスター男爵は、申し訳なさそうにアデル殿下を見る。

「私は今日まで、フィッシャー侯爵には逆らえる立場にありませんでした。なぜなら、我が領はフィッシャー侯爵の父上に返しきれない恩義があるからです」

 兄がうなづく。

「二十年前の飢饉の件だな」

「はい。あの折、前フィッシャー侯爵の援助がなければ、我が領民の半分は飢え、大勢の餓死者をだしたはずです」


 私は知らなかったが、その飢饉での、前フィッシャー侯爵の、領民のみならず近隣他領への献身と慈善は有名な話らしい。それが因で今も現フィッシャー侯爵の派閥にいる貴族は多いという。

「しかし、それはそれだ。おまえがフィッシャーに恩義を感じフィリップを皇太子に推すことに問題はないが、王家の乗っ取りを計画したり、そのために娘を犠牲にするということは、別問題で許しがたいことだ」

 アデル殿下は、今日は王族らしい受け答えね。


「信じていただけないかもしれませんが、私はそんな大それたことを考えたことはないのです。失礼ながらアデル様は王位継承権を放棄されており、バラード殿下はまだ幼い。であるなら、皇太子にフィリップ殿下を推すのはそう間違ったことではないと今でも思っております」

 それは私も理解できる。

「しかし、ただそれだけで、王家の乗っ取りなど滅相もないことです」

「ではなぜ、今日、お前の屋敷は人払いをされ、あのような不逞の輩で埋め尽くされていたのだ?」

 兄の言葉にエルスター男爵が唇をかみしめる。

「三日前、フィッシャー侯爵から、屋敷で秘密の会合を開くので人払いをするよう連絡があったのです。マリアンヌをフィリップ殿下の婚約者にするためには、もう少し踏み込んだ計画が必要だ。そのために、素晴らしい協力者が見つかったので紹介すると」

「では、魔導士ニュクスとは今日が初対面だったのか?」

「はい」

「いやしかし、お前たちは学院そばの倉庫の二階で怪しげな会合を定期的に開いているのだろう? それにはニュクスも何度か参加していると聞いているぞ」

「倉庫の二階で会合ですか?」

 心当たりがないのか、エルスター男爵はキョトンとしている。


「インディゴ様を呼んでもらえるか?」

 エルスター男爵がとぼけているようには見えない。事情をよく知っているインディゴに、兄は真偽のほどを確認したいようだ。


(インディゴ、こっちに来られる?)

(いいけど、ニュクスの見張りがいるよ。こいつは見張っていないと危ないから)


「お兄様、来られるけど、ニュクスの見張りがいるって」


「それなら、私が参りましょう」

 あら、アマリージョ、いいの?

「その代わり、ニュクスの尋問には私も同席しますわよ」

 あ、そういうことね。

「もちろんです」


(インディゴ、アマリージョがそっちに行くから、交代してくれる?)

(オッケー)


 十秒もしないうちに、インディゴがやってきた。

「えっと、初めての方もいるので紹介します。こちらは、私の加護精霊で闇の精霊のインディゴです」

「よろしく」

 インディゴの軽い挨拶に、兄とアデル殿下、オスカー以外はポカンとしている。


 よりによって、闇の精霊もか。これは光の精霊もいるよな、とアルベルトがつぶやく。さすがですね、アルベルトくん、当たりです。

 でも他にも火の精霊も水の精霊もいるんだけどね。


「エリーゼ、君って、いくつ加護があるの?」

 攻めるねアルベルトくん。

 いいよ、受けて立つわ。

「六つかな。お馴染みの大地と緑の精霊、ヴェルデ。風の精霊、アマリージョ。火の精霊、ロッホ。光の精霊、プラータ、闇の精霊インディゴ。そして水の精霊、セレステね」

 とんでもないな、とアルベルトがあきれたようにそう言うと、笑い出す。


「アルベルト、気持ちはわかる。身内の私でも、今もそう思う。しかし、ここはスルーしてくれ」

 アルベルトはうなづく。

 レイナードはレイチェルに、「このままエリーゼと友人でいても、君は大丈夫なのか?」とわけのわからない質問をしている。

 レイチェルは、「エリーゼだからしょうがないよ」と、やはり、問いと答えが意味をなしていない返事をしている。


「では、インディゴ様、教えていただきたいことがございます」

「なあに?」

「こちらのエルスター男爵は、ニュクスには今日が初対面、例の倉庫での会合のことは知らないと申しているのですが?」

「その人はウソはついていないよ。僕はこう言ったよね? 会合に出ているのはエルスター男爵の犬が二匹って。犬は、その家の執事とそいつの息子だよ」

 そういえば。エルスター男爵、本人とは言っていなかった。

「まさか、サロスとヒューイが。そんな」

 執事とその息子の名前なのだろうか、二人の名をつぶやき、エルスター男爵ががっくりと肩を落とす。

「執事の息子は、ニュクスの薬で呪われている。執事はそれをネタに脅されていたんだよ」

 それなら、同情の余地はある。

「インディゴ、それを知っていたのなら早めに教えて欲しかったよ?」

「これは、今、見張りの間に調べたことだから」

「あらそうなの。いいお仕事をしたわね」

「プリン追加ね」

 いったいいくつ作ればいいのかな。

 とにかく山盛りだね。


「マリアンヌの拉致についてはいつ知ったのだ?」

「今夜、屋敷に連れ戻してフィリップ殿下の件について話をする、とは聞いていましたが拉致だとは知りませんでした。知ったのは、娘が薬を飲まされ馬車に運ばれ、ニュクス殿にその連絡がきたときです。しかしそれでも、まさか娘を害するなどとは思っていませんでした。知っていたのなら、この身を呈しても救いに行きました」

「お義父さま」

「この子を養女にしたのは、聖なる光魔法の使い手であったからですが、それを私欲に利用するためではありません。孤児院から引き取られたとはいえ、平民でそれほど裕福でもなく、元は孤児であったこの子に、その能力にふさわしい教育を受けさせ幸せにしてやりたい、そんな思いからでした」

 マリアンヌもうなづく。


「お義父様は、私が育った孤児院に今もたくさんの寄付をくださっています。おそらく、お義父様が生まれたばかりのお嬢様を何者かに攫われ、家族を失う悲しみを誰よりご存知だからだと思います」

「マリアンヌ、お前はそれを知っていたのか?」

「はい。院長先生がそのことを卒院生にお話しされていたのを聞いたのです。もしもどこかで、お嬢様につながる何かを見つけたら必ず知らせるようにと、ご恩は死ぬまで忘れてはいけないと」

 エルスター男爵って、ふつうにいい人なんだよね。

「私は、そのお嬢様と同じ年なので、よけいに愛を、注いでくださったのだと思います」


「攫われた?」

「おそらく妖精の仕業でしょう。代わりに人型の木片が置かれていましたから。手を尽くして探しましたが見つからず、妻はそれを苦に病をこじらせ亡くなりました」


(その娘さんの居所を探せる?)

(少し時間をいただければ、可能かと)

(ではお願いするね。元気で生きていてくれているといいけど)

(それは大丈夫でしょう。妖精が子供を攫うのは、悪意があるからではなく、その子供を気に入りすぎてそばにおきたいからですもの)


「そなたに、同情すべき点が多く、悪意がなかったことはわかる。しかし、エリーゼを廃しマリアンヌをフィリップの婚約者に、という話を知らなかったわけではあるまい?」

「それは、私は存じていました。フィッシャー侯爵からも、なるべく早くエリーゼ様からその座を奪うように、と何度も命を受けましたから。けれど、それをマリアンヌの耳に入れたことはありません」

「なぜだ?」

「娘にはもっと純粋に、学院で様々なことを学んでもらいたかったからです。そしてもし、その中で本当にフィリップ殿下を好きになったのなら、その時は公爵家を敵にまわしてもその想いを遂げさせてやりたいとも思っていました」

「それは本当です。義父は、フィリップ殿下とのおつきあいに関して私に意見したことはございません。殿下に良くしていただいていることにも、エリーゼ様と仲良くなったことにも、良かったなと言ってくれただけで」


「なるほど。すぐには信じがたいが、だからといって疑わしいところもないな」

 アデル殿下が兄を伺う。

「精霊様が、白と言えば白だろう。人は嘘を吐くが精霊様たちは嘘は吐かない」

 兄はあっさりと、エルスター男爵を白と判定する。

 これまでのやりとりは、他のみんなに納得してもらうためだろう。

「よし、それならエルスター男爵は無罪放免ということでいいだろうか? 多少口止めや、尋問への協力はしてもらわなければならないが」

 エルスター男爵は、マリアンヌと抱き合って静かに涙を流している。

 許されるとは、少しも思っていなかったのだろう。


「巻き込まれたレイチェル嬢やカーリー嬢はどうだ?」

「私に依存はございません」とレイチェル。

「それより、エルスター男爵様の執事とそのご子息を救わなくてはなりませんわ」

 カーリー、切り替えが早いね。


「インディゴ様、彼らの居所はご存知ですか?」

「会合に使っている空き倉庫の地下に囚われているね。あいつらが、今日、マリアンヌの片が付いたら始末するって言ってたから、弱っているけどまだ生きているよ」

「見張りはいるのかな?」

「一人いるね。傭兵くずれが」

「ならば、私が行こう」とレイナードが立つ。

「しかし、君では解呪ができないからな」と兄。


「では、私とインディゴが行きましょう」

 私が手を上げる。

「却下」

 今日はちっとも活躍できていないんだけど。


「では、私とオスカーが参りましょう」

 セレステに言われ、オスカーがいつになく元気に立ち上がる。

「ちょうど、これの解呪の練習によいでしょう。先に私が歌えば、すぐに済みます」

 兄が私を見る。セレステの歌は、悪しき者には最強だからね。

 これはうなづくしかない。


 待つこと十分、アマリージョがふいに消えた。セレステにあちらに呼ばれたのだろう。

 そして、ほどなく、すがすがしい顔つきのオスカー、セレステとともに帰還した。

 アマリージョが、二人の男性をなんでもないように両肩に担いでいるのが、シュールすぎる。


「見張りの傭兵は、この二人の代わりに地下牢に放り込んでおきました」

「オスカーの解呪は見事でしたわ。たった三回で成功したのですから」

 二度は失敗したのね。いいんだけど、練習で何か不都合がでていないのなら。

「セレステ様の歌声にも、心が惑わぬようになりました。これもご指導のおかげです」

「いいのよ。私を褒めたたえてくれるのは、エリーゼとあなただけですもの」

「あなた様の美しさ、偉大さがわからぬ者など捨て置けばいいのです。その代わりに私が億万回でも褒めたたえましょう」

 うん、まあ、よかったよ。相思相愛で。

 セレステは、私の加護精霊だけどね。


 私は、エルスター男爵家の執事とその息子に『リフレ』をかけようとした。けれど、カーリーが、ものすごく自分がやってみたいアピールをするので、譲った。

 素晴らしい効果だったよ。ほんと、私もびっくりの。さすがカーリー。

 やっぱり、今日は私の出番はほとんどない。


 二人が意識を取り戻したところで、後始末が次の段階に入るようだが、精霊たちはみな姿を消しています。飽きたのかな? セレステ以外みんな寝ているようです。




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