どうやら、ゲームではわからなかった悪の秘密結社があるようです。part2
第13章 悪の秘密結社と対決です。正直、精霊が優秀すぎて相手になりませんでした!!
転移したシュミット辺境伯の王都での屋敷には、ヴェルデの伝言を聞き、アルベルトとレイナードが揃って私たちを待っていた。
「エリーゼ嬢が参られると、精霊殿から伺っていたのだが」
眉をひそめながらレイナードが言う。
あ、そういえば私、リリアに化けていたんだった。
「これは、エリーゼだ。理由あって、素性を隠すために幻惑魔法で友人の振りをしている」
兄が、手短に説明する。
リリアは今、子豚だから姿を借りやすい、とは言えないよね。
「レイナード、それは間違いなくエリーゼだよ。立ち姿がもう、魔剣の女王だろう?」
確かに、とレイナードがうなずく。立ち姿でわかるって、どういうこと?
「それに彼女が手にしている仮面にはとても覚えがある」
アルベルトがニヤッと笑う。
リリアに化けてその上から占いカフェで使っていた仮面を被ろうとしたら、兄に、それだとやはりエリーゼだと思われるから、と転移の直前に外すように言われた。
仮面があったほうが、対秘密結社戦にふさわしいと思ったのに。
「突然、屋敷を借りて申し訳なかった」
兄の言葉に、「お気遣いなく」とアルベルトが頭を下げる。アルベルトもまた、兄の信奉者なので、兄がいると僕っぽい雰囲気になる。
「けれど友人として一点だけ確認させてください。エリーゼに危険はないのでしょうか?」
こういうところがね、いいんだよ。アルベルトは。
「なくはないが、私たち三人の中で、誰よりエリーゼが安全だろうとは思う」
「ということは、戦いの可能性があるということですか?」
「学院から生徒が一人拉致された。奪還するにも、その後始末をするのにも、その犯人たちとの戦いは避けられないだろう」
アルベルトの顔色が変わる。
「ならば、弟のレイナードもお連れください。戦力となるはずです」
確かに、レイナードなら、このうえなく強力な味方になる。
「いや、今回は遠慮しておく」
兄の代わりにオスカーが答えるり
「なぜでしょうか?」
「あちらには精神魔法を操る魔導士がいる。防御魔法に長けていなければ心を操られる可能性がある。レイナードがもしあちら側に取り込まれれば、友人の君を傷つけずに、私やエリーゼは君の剣を防がなければならない。それは無理だ」
オスカーは、レイナードを見つめきっぱりと言う。
「わかった。それではここを、戦いの避難先にしてくれ。私たちは、もしものために回復魔法に長けたものや薬を用意して、帰りを待っている」
「よろしく頼む」
「行くぞ」
兄の号令で私たちは辺境伯の屋敷を出る。ここからエルスター男爵の屋敷までは、オスカーによると徒歩で五分ほどの道のりらしい。
エルスター男爵の屋敷は、意外にも質素で堅実な雰囲気が漂っていた。
「インディゴ、マリアンヌののせられた馬車はまだ着いていない?」
「うん。屋敷にあの子の気配はない」
「アマリージョ、どの辺りまで来ているかわかる?」
今になって、本当に、彼らがマリアンヌを連れてこの屋敷へ来るのかと心配になる。私の精霊たちに限って、そんなヘマはしないはずだけれど。
「すぐ近くまで来ていますよ。練度が低すぎてこちらの読みより少し時間がかかっているようです。あと十分ほどでしょうか」
アマリージョは、そんな私の危惧も包み込むように微笑んでくれる。
「警備はどんな感じ?」
「現状を、ヴェルデと一緒にちょっと見てくるよ。ロッホ、エリーゼを頼んだよ」と答えたのはインディゴだ。なんだか、とっても頼もしいわ。
「裏門を中心に、屋敷の外に傭兵っぽいのが全部で10人配置されているね。屋敷には不慣れな感じだね。日雇いっぽいっていうか」
思ったより少ない。拉致がばれているとは夢にも思っていないのだろうか。だとしても、悪事に加担しているとしたら、不用心すぎるような。
「男爵は屋敷の中。ニュクスも一緒にいるよ。私がそばまで近づいても全然気づいていなかった」
魔導士のくせに、ヴェルデの気配もわからないというのなら、オスカーより魔力は少ないと想像できる。サーチ魔法もそれほど得意じゃないのか、油断しているのか。
「そのそばに護衛っぽいのが二人。家族も使用人も一人もいない」
「悪だくみがばれないよう、今晩は屋敷を空にしているのかもしれんな」
「お兄様、この様子だと裏門からマリアンヌを中に入れるつもりですよね? 裏門に回りますか?」
「そうだな」
私たちはすみやかに、裏門へと回る。
「屋敷に入る前にマリアンヌを奪還しますか? それとも中で待ち伏せをしますか?」
オスカーが兄に確認する。
「本当なら、泳がせて奴らの様子を見たいところだが、今回は、何よりマリアンヌの救出が先だろう」
私もうなづく。
マリアンヌを救うことが何より大切。
兄がやりたい、お仕置きや取り調べは後にするべきだ。
もしそのせいで、一味の誰かを取り逃がしたとしても、証拠を隠滅されても、私の精霊たちから逃れ切るのは不可能だろう。
「馬車が止まったら、何を捨ててもまずマリアンヌを助け出す。撤退するか、屋敷に乗り込むかはその時の状況で判断する」
「マテウス、それでは騒ぎが大きくなりニュクスがこちらに出張ってくる可能性もありますわ。できればあれには、あと少し油断していてもらいたいですね」
アマリージョが悪い笑みを浮かべる。
「もっとスマートにやらなくちゃ」とロッホもアマリージョに同調する。
ロッホ、スマートの意味をわかって使っているのかな? たぶん自分に都合よく理解しているよね。
ロッホとアマリージョは、こういう時、つまり多少羽目を外しても私に小言をもらわないとわかっている場合、ものすごく息が合うのだ。
敵に、できるかぎり怖い想いをさせてやっつけようようよとか、そう簡単にやっつけるのは楽しくないとか、そんな感じで協力し合う。
「では、よき作戦をご教示いただけますか?」
兄は、すぐに精霊の言葉に耳を傾ける。
精霊たちに敬意を払っているということもあるが、自分が何を言おうと、彼らは好きにやってしまう、ということを悟っているからだろう。
「馬車が着いたら、まずセレステが歌うんだ」
それはいいかも。セレステの歌は魂の醜いものほど意識を飛ばされてしまうらしいから。マリアンヌを拉致するような連中にはよく効くだろう。
「それからオスカーが馬車ごと全部に氷魔法をかける」
それを聞いたオスカーは誇らしげにうなづく。得意の氷魔法だものね。
「中の奴らに何が起こったのかわからない程度なら、3秒くらい?」
ロッホが尋ねたのはセレステだ。
「そうね。威力を若干抑えて3秒なら、私の歌で心をとばされた者たちには、何が起こったかはわからず冷たい風が吹いた程度の記憶しか残らないでしょう」
セレステはそう答え、直後にオスカーに、何やら耳元で囁いている。
氷魔法の威力を指南しているようだ。オスカーはいっそう目をキラキラさせてうなづいている。こんな嬉しそうなオスカーを初めて見たかもしれない。
「その3秒でマリアンヌを助け出して、アマリージョが身代わりになる」
三秒で、すり替えってできる?
っていうか、そんな必要ある? それって、もう、アマリージョが身代わりになりたい、とかそういうことだよね?
「エリーゼは、光の精霊の手を借りてマリアンヌを連れて辺境伯の屋敷に転移する。残ったメンバーはインディゴの隠ぺい魔法で、男たちと屋敷に入る。中ではすべて思念での会話にするよ。できるよね?」
兄とオスカーがうなづいている。この二人の魔力と技術なら問題ないはずだ。
「アマリージョがマリアンヌの身代わりになるのなら、お兄様の護衛がいなくなるわ」
「それは僕が引き受けるよ。インディゴは、魔導士対策で忙しいだろうし」
ロッホが、兄の肩に乗る。
ロッホは、見かけよりずっと武闘派である兄のことを気に入っている。ロッホに肩に乗ってもらえて兄も嬉しそうだ。
そうにやけていないで、ロッホが色々燃やしすぎないように、ちゃんと見張っていて欲しいものだ。
「あと、ヴェルデには転移に付き添って欲しいんだけど」
転移には、いつもはアマリージョが付き添ってくれるが、今回はマリアンヌの身代わりだ。
転移魔法はマスターしているが、意識のないマリアンヌを連れて行くのなら、もしもの保険にヴェルデについてきて欲しい。ヴェルデならその存在を転移先の辺境伯の屋敷で隠さなくていいし、なにより私の精神衛生に良い影響がある。
「ペンダントをしているからプラータが同行するはずだけど、別にいいよ。こっちは戦力過多だもんね。それにしてもエリーゼは慎重だね」
「でも、最悪を考えて行動するのは悪くないと思いますわ」とアマリージョ。
「馬車が来ましたよ」
アマリージョの合図で、私たちはそれぞれに隠蔽魔法を自分にかける。
馬車が止まると、門扉の上に腰掛けたセレステが歌いだす。
いつ聞いても、素晴らしい歌声だ。こんな場面だというのに、私の心は癒され凪いでいく。
しかし、それは私だけのようで、兄もオスカーも、心を飛ばされぬよう物理的な痛みを自らに与え防御しているようだ。
お兄様たち、もっと自分の魂を磨く努力をされないと、ですわよ。
と言っても、私は磨いたことなどないんだけどね。転生者の特典として享受しているだけで。
御者は眠っているように見える。馬車からは誰も出てこない。
オスカーがすかさず氷魔法をかける。文字通り、クールな魔法だ。
魔力は私の方が多いが、氷魔法の技術はオスカーに軍配が上がるな。
私も、もっともっと練習しないと。
わずか三秒で、眠ったままのマリアンヌが私の隣にやってくる。おそらく、プラータの力だろう。ペンダントが光り、マリアンヌは重力を無視してふわふわと浮いている。
これ、ラ〇ュタの飛〇石っぽいな。と私は、前世で好きだったアニメ映画を思い浮かべる。
ヴェルデの指示で、マリアンヌのペンダントを右手で私のペンダントを左手につかみ、私は転移魔法をかける。これで、ヴェルデだけでなく光の精霊の力も借り受けられるらしい。
一瞬で、目の前には、アルベルトとレイナードが現れる。いや、彼らにすれば、こっちが現れたんだろうけど。
なんにせよ、転移に問題はなかったようだ。
「二人とも無事か」
アルベルトが、浮き上がったマリアンヌをそっと支えながら、私に尋ねる。
「うん。でも私はすぐに向こうに戻るから、マリアンヌをお願い」
「彼女は、なにか、魔法にかけられているのか? 特別な解除魔法が必要か?」
レイナードが、マリアンヌの顔を心配そうにのぞき込む。魔獣狩りの授業などでともに行動することが多いから、それだけ心配も大きいのだろう。
「眠っているだけだからそのうち目を覚ますわ。そうしたら事情を話して、念のため、回復魔法をかけるか、回復薬を飲ませて。自分で自分に回復魔法をかけるのはダメって言ってね。眠り薬の影響が残っていたら怖いから」
ヴェルデはアルベルトにそう言うと、私の肩に乗る。
「もし何かあったら、マリアンヌのその銀のペンダントを通してなら私と連絡が取れると思う」
私が自分のペンダントを握りしめると、アルベルトがうなづく。
アルベルトは文官養成科のエースだけあって、私にあれこれ尋ねなくても、このペンダントが通信機能のある連絡用の魔道具のようなものだとすぐに理解してくれる。
動かしているのが、ただの魔力ではなく光の精霊だとは知らないだろうけど。
「戻るよ」
「「わかった」」
ヴェルデとペンダントにいるプラータも応えてくれる。慌ただしくエルスター男爵の屋敷の裏門に転移する。
馬車はもういない。
ヴェルデが塀の上まで飛んで、指をクルリッとまわす。
「屋敷の外の警備は、さっきと変わっていないね。誰も何も気づいていないっぽいね」
ヴェルデさん、あれだけでわかっちゃうんですね。すごいですね。尊敬します。
「中の様子も、わかるといいんだけど」
「寝たふりをしているだけだろうから、アマリージョに聞けばいいんじゃない?」
そういえばそうだ。
アマリージョに連絡をとる。
兄とオスカーは、未だ、隠蔽魔法をかけたまま、密談中のニュクスたちのいる隣の部屋で待機しているようだ。
インディゴだけが、秘密会議中の悪漢たちと同じ部屋で彼らを見張りながら情報を兄たちに流してくれているらしい。いつも寝てばっかりなのに、インディゴ、大活躍だね。
マリアンヌの身代わりのアマリージョは、手足を縛られ地下牢に放り込まれているらしい。
カギはかかっているが、見張りはいないらしい。そうなると、風の精霊に、牢屋は無意味だ。
(先に、アマリージョと合流する? それとも兄さまたちに合流した方がいい?)
そばに人の気配はないらしいが、念のために、思念でやりとりをする。
(こちらは、好きな時に出られますからマテウスのところに。能無しが多いせいか、無駄に会談が長いですわね)
アマリージョ、今日は、いつにもまして毒舌ですね。
私は、ロッホに今から合流すると告げてから、隠蔽魔法を自らにかけ、ヴェルデがロッホの気配を目印に兄の元へ案内してくれる。
(ロッホは気配を隠していないの?)
(ろうそくの灯に似せているから、大丈夫なの。ごくわずかな違いを認知できるのは、私みたいな高位の精霊くらいよ)
さようですか。
私も修行が足りぬからなのか、わかりませんからね。
ほどなく、兄とオスカーに合流できた。見張りとすれ違ったが、まったく気づかれない。
我が家なら即日解雇レベルだ。
(お兄様、マリアンヌは、無事にマテウスとレイナードに預かってもらいました)
(ありがとう。これで、もうあいつらにはどんな遠慮もいらなくなった)
(まだアマリージョが捕まっていますけどね)
(アマリージョ様は休憩されているだけだろう?)
(あはは)
などと、兄と冗談めいた思念会話を交わしていたら、オスカーがチラッと私を見た。
(どうかした?)
(いや、頼もしいなと思って。そのリラックスぶりが)
(だって、お兄様とオスカーがいるのに、何を心配するの?)
(いや、心配事はあるぞ)
(なんでしょうか?)
(精霊様たちがやりすぎないか心配だ。今日は、皆さま、いつもより積極的なのでな)
どうやら、私がいない間にも、精霊たちはかなり前のめりだったらしい。
兄は、とにかく手綱を握る私が戻るまでは行動しないよう、土下座せんばかりに何度も頼んだとか。
(だってあいつら、悪い事しか言わないからさ)
ロッホが不機嫌そうに言う。
(ほら、今も)
うん?
「今夜中に消せ」
ニュクスの声か? 冷たく感情の見えない声だ。
「ニュクス殿、なぜマリアンヌを殺さねばならないのですか?」
エルスター男爵が、追い込まれたような声で聞く。
その声には、マリアンにへの情が感じられる。
もしかしたら、エルスター男爵は悪の秘密結社の一味ではないのかもしれない。その辺りをよく見極めて対処しないとね。
「魔力が小さいとはいえ、あれは『聖なる光魔法』を使うのだ。しかも最近は魔力上げに懸命だとマルギットから報告も上がっている。いよいよという時、私の闇の魔法を一掃するやもしれぬ」
(エリーゼだって、僕らの誰でも、あいつの闇魔法なんか一瞬で消し去れるけどね)とインディゴ。
(セレステ様、私でも可能ですか?)
(あなたやマテウスでは、無効化は難しいわ。でも、一時的に私たちの加護結界がかかっているからあれの闇魔法に惑わされることはないし、ジェットストリームで弱体化はできるわよ。)
オスカーが、まじめな生徒の顔でうなづいている。
「しかし、フィリップ殿下はあれに夢中です」
「マルギットによれば、フィリップがどうあれ、マリアンヌにはエリーゼを追い落とす気がなさそうだとか。むしろ最近はレイナードやオスカーとかいう、他の優秀な男子生徒との方が仲が良いそうではないか」
(そうなの?)
(マテウス様の要請で、私も以前よりはマリアンヌの動向には気をつけています。レイナードにはご存知でしょうが別に想い人がおります。単に聖女を守る騎士として、彼女の安全に気を遣っているだけでしょう)
だよね。レイチェルがいるもんね、レイナードには。
「使えぬのなら消すしかない。放置すれば、こちらの脅威になるのだから」
「エルスター男爵、あきらめろ」
(この声は、フィッシャー侯爵だな)
「マリアンヌ亡き後は、我が娘マルギットがフィリップを骨抜きにしてくれるわ」
ということは、これ、ベッカー伯爵だね。
「マリアンヌは聖女だぞ。ただの伯爵令嬢が王子の婚約者になれるというのか」
確かにね。
「そもそも、婚約者はヴォーヴェライト公爵家のエリーゼだろうが。フィリップが骨抜きになろうがなるまいが、ヴォーヴェライト家の力を削がねば、王家の乗っ取りは難しい」
魔導士ニュクス、少しは頭がまわるようだ。
「いっそ、エリーゼも攫って消すか?」
フィッシャー侯爵は、本物のバカだ。
「エリーゼ様は全属性魔法の持ち主で精霊の加護があります。おまけに学院でも、手練れの侍女が二人と兄のマテウス様、第一王子のアデル殿下がエリーゼの周辺には常に目を光らせています。ですから、直接手出しはせずに、評判を落とすというまわりくどいことしかできなかったのですよ」
ちょっと待って。手練れの侍女二人ってどういうこと? ハンナはお茶を淹れる手練れだけど。
(侍女たちの情報が洩れているのはマズいな。どこかで見られたのかもしれん、不逞の輩を懲らしめているところを)
お、お兄様?
(まあ、それはこの件が片付いてから、父上と相談だ)
どういうこと?
「そこは、ニュクス様に出向いていただけばいいのでは?」
「エリーゼは、光の属性もあるのだろう? 私の闇魔法が効くとも限らん。事実、オニキス大公国の宰相にはあまり効きめがないのだから」
「しかし、エリーゼはまだ15歳の小娘。宰相ほどの経験値はないはずです」
「そうですよ。精霊の加護があるといっても、緑の精霊らしいですよ? マリアンヌの光の精霊とは格が違いますよ」
フィッシャー侯爵、それ、言っちゃダメなやつだよ。
ヴェルデの、何かがブチ切れた音が聞こえたような。
「マリアンヌの話では、その緑の精霊様は、高位の精霊様でその力は女神なみとか。そう簡単にはいかないかと」
エルスター男爵の言葉に、ヴェルデが、ほんのわずか怒りを鎮めた。
「エルスター男爵、貴様は、つまりマリアンヌを消すことにも、エリーゼの拉致にも手を貸さない、私たちを裏切るということか?」
「裏切るも何も、とにかく一度マリアンヌを屋敷に連れ戻し、フィリップ殿下の派閥に協力するよう説得するのだと派閥の長であるあなた様に言われ、私は屋敷をお貸ししただけではありませんか。こんな乱暴な形で娘を連れ戻され、しかも命をとるなど、賛成できるはずありません」
「娘といっても、養女だろう。娘が欲しければ、また適当に見繕って養女にすればいい」
この人たち、エルスター男爵以外、クズだな。
「適当に見繕って? もうあなたたちにつきあってはいられません。どうかすみやかに屋敷を出て行ってください」
(こいつはいい奴だな。燃やさないようにしないと)
おいおい。ロッホ、頼むよ。
「私は派閥からも抜けさせていただきます。マリアンヌは返してもらいます。あの子は、私の娘です。思いどおりにならなくても、魔力が小さく聖女と認められなくても、私の娘であることに変わりはありません」
よく言った。偉いぞ、エルスター男爵。さすがマリアンヌの養父だ。
「そうか。それなら、お前も死ぬしかないな」
そう言ったのはフィッシャー侯爵。
「な、なにを言って」
「役立たずも、知りすぎた者も、死ぬしかないだろう?」
フィッシャー侯爵が、卑しい笑みを浮かべているのが、見なくてもわかる気がする。
「ニュクス様、この者も、地下牢で娘といっしょに始末してもよろしいでしょうか?」
「ああ、まかせる」
そう言うと、ニュクスはエルスター男爵に即座に束縛の魔法をかけたようだ。
「私を始末しても、お前たちの悪だくみは絶対にうまくいかない。ヴォーヴェライト公爵がきっとお前たちを倒してくださる」
大丈夫、まかせて。
ヴォーヴェライト公爵家ではなく、ノリノリの精霊たちが、やっちゃうんだけどね。
「平和ぼけ国家の宰相など、怖くはないわ。こちらのたくらみの尻尾さえつかんでいないのだから」
(そうなの?)
(父上はフィッシャー侯爵の一派が、最近、その活動を地下に潜らせていることは把握されている。金の動きを見ることで、協力者もほぼ確定されていると思う。ただ、オニキス大公国の件や今のこの展開はご存知ないだろうが、問題はない。私がわかっていれば)
それもそうだよね。お兄様はお父様の右腕。お父様は、宰相として他にも大切なお仕事を抱えていらっしゃるのだから。
「ベッカー伯爵、そいつと娘の始末はまかせたぞ」
「うけたまわりました」
簡単にうけたまわるんだな。人の命をなんだと思っているのか。
ベッカー伯爵が自分の護衛を呼び、エルスター男爵をマリアンヌと同じ地下牢に放り込んでおくように指示した。
(どうしますか?)
(エルスター男爵のことはアマリージョにまかせておけばいいわよ)とヴェルデ。
(アマリージョなら、ベッカー伯爵の護衛程度なら一秒で確保しますよ。その後でエルスター男爵にマリアンヌの無事を知らせ、彼女の元へ転移してもらいましょう)とセレステ。
そのとおりだよ。セレステはいまや我が家で一番の良識精霊だ。
(ニュクスはインディゴにまかせていい?)
(いいよ)
軽い、軽すぎる。でも、インディゴにとってはそれくらいの軽いお仕事なんだろう。
(エリーゼ、少しお待ちください。先ほどのように私が歌えばよいのでは? 悪しき心の者たちばかり、すぐに魂を飛ばしてしまえるかと)
それは確かに。
(セレステはさっきも歌ってたじゃん。僕にも見せ場が欲しいよ。役に立たなかったら、お菓子の量が減るかもしれないし)
いや、そんなことはないよ? みんな平等にご褒美があるに決まってるじゃない。やりすぎなきゃね。
(ここはインディゴにまかせましょう。セレステには、このままオスカーの護衛をお願いしたいから)
(ではフィッシャー侯爵とベッカー伯爵、外の護衛たちは私たちで)と兄が言う。
(待って、フィッシャー侯爵は私がやる)
ヴェルデ、やるが殺るに聞こえるのは私だけ?
(やりすぎちゃだめだからね)と念を押しておく。
ヴェルデがチッと舌打ちをしたような気がするが、気のせいにしておこう。
私にはプラータがついている。お兄様にはロッホ。オスカーにはセレステがいる。
これ以上ない布陣だ。
(エリーゼはここで待機。オスカーはベッカーの確保を。私はロッホ様と、外の護衛連中を引き受けよう)
(お兄様、私は待機ですか?)
これでは、リリアに化けてきた意味がないのでは?
(そこで、もろもろの監視を頼む)
もろもろって、精霊のみんなのことだよね? それを言われては、従うしかない。
(了解です。みんな、頼むわよ。くれぐれも、やりすぎないように)
セレステだけが、うなづいてくれたが、他は素知らぬ顔で視線を合わせない。
(見てるから。約束を守れないときは、お菓子抜きですよ)
他の精霊たちも、あわてて、わかったよ!!と返事をしてくれた。
(じゃあ、まず、僕がニュクスを確保するから、ちょっと待っててね)
「こんばんは」
「お、オオカミがしゃべっている!!」
インディゴ、今日はオオカミバージョンなのね。
「あなた様はもしかして、闇の精霊様でしょうか」
さすが魔導士、闇の精霊のことはわかるのね。といっても、姿を現すまでは気づいていなかったけどね。さすが三流の魔導士、と言いなおしましょう。
「わかる? そうだよ」
「さすが、偉大なる闇の魔導士、ニュクス様。闇の精霊様のご加護が」
いや、ないから。
「わ、私めにご加護をいただけますのでしょうか?」
「なんで?」
「は? ではなぜ、ここに?」
「悪い事ばっかりするから、エリーゼがお仕置きだってさ。もう一生お菓子が食べられないかも。かわいそうに」
うーん。かわいそうなのは、その言葉にどう反応すればいいのか戸惑っている今の彼らかもね。
「ニュクス、お前は、もう呪われている」
どこかで聞いたことがあるようなセリフだけど。
次の瞬間には、ニュクスはもう、コケッ、コケコッコーと鳴いていた。
どうやら、鶏にされたようだ。今回は豚じゃないんだ。なんでだろう? あとで教えてもらおうっと。
それにしても、もう少し、対決っぽいことがあると思っていたけど。
「ど、ど、どういう、な、なぜ」
と慌てふためくフィッシャー侯爵。
「あなたは、私が相手よ」
「だ、誰だ? いえ、どちら様でしょうか?」
さすがに面と向かえば、ヴェルデの、高位精霊の圧に敬語になるよね。
「エリーゼの加護精霊、たかが緑の精霊のヴェルデよ。本当は、偉大なる大地の女神ガイアと誇り高き森の王ドリアードの娘、大地と緑の最高位の精霊ヴェルデだけどね」
めっちゃ、怒ってるし。
「ガイア様とドリアード様の娘、そんなバカな」
「バカはお前だ。この、偉大なる大地の女神ガイアと誇り高き森の王ドリアードの娘の私をバカにした報いは、きっちり受けてもらうからね」
(や・り・す・ぎ・き・ん・し)
念のために、もう一度、釘をさしておく。
「申し訳ありません。お許しください」
「そんなんで済んだら、お菓子禁止とか、この世に存在しないのよ!!」
また、それか。
君たちは、お菓子にこだわりすぎだよ。
「ヴェルデがフィッシャーを茨で縛り上げたようです」とプラータが教えてくれる。
うわぁ、痛そう。でも、やりすぎとは言えないね。うん、大丈夫。大丈夫だよね?
「オスカー、あやつの手足を氷漬けに」
「はっ」
「うまいわ。いい魔法よ」
「お褒めいただき、光悦至極にございます」
「う、動けない。寒い。冷たい。助けてくれ」
「うるさい口だ。そこにも氷をつめておきなさい」
「はっ」
オスカー、そんなんでいいの? セレステの言いなりだけど。セレステは、私の加護精霊なわけで。
ま、いいか。
凍傷になるかもだけど、後で回復魔法をかければいいよね。
「こっちも終わったよ」
ロッホの声だ。
「外の連中は、事情もロクに知らないただの雇われ護衛かと思ったら、どうやら全員指名手配中の犯罪者だったよ。ニュクスの作った秘密結社で飼われているようだな」
「では、衛兵に引き渡しですね」
「ああ、もう連絡したよ」
「エリーゼ、聞こえる? アルベルトだ」
ペンダントから、アルベルトの声が聞こえる。
「どうしたの?」
「アマリージョ様とマリアンヌのペンダントの精霊が情報を交換してわかったんだが、馬車の中で男たちが、マルギットが、レイチェルとカーリーも眠らせて、彼女たちも学院から運び出すことになっていると話していたらしい」
「どうして? なんのために?」
「彼女たちの活躍が目障りなのと、君と仲がいいから、君をおびき出す餌にするつもりだとか」
「アマリージョに、すぐに学院に戻って、レイチェルとカーリーの保護を頼んで」
「アマリージョ様は、レイナードを連れてすでに学院に向かわれた。レイチェルにも毒牙をのばそうとするから、レイナードがブチ切れちゃって」
だよね。
「アデル殿下が、彼らがマリアンヌを運び出す時に使った抜け道はふさいだはずだから、運び出しはそう簡単にできないはず。すぐに戻って、なんとかするわ。アルベルトはマリアンヌとエルスター男爵をお願い。エルスター男爵は、娘想いのいいお父さんだから、ちゃんと保護してあげてね」
「まかせておけ」
捕まえた者たちに魔法封じを施し地下牢に閉じ込め、ヴェルデが牢を茨で覆った。
鶏だけはそれでも心配なので、インディゴが自らの陰に閉じ込め見張りに残った。
そして、私たちは速やかに学院に転移した。




