どうやら、ゲームではわからなかった悪の秘密結社があるようです。part1
第12章 精霊たちは、超優秀な諜報部員です!!
翌週から、魔法科でも月に一度の魔獣狩りが授業に取り入れられるようになった。
履修しなければ卒業資格がないとなれば、誰もが拒否しない。
フィリップ殿下でさえ粛々と参加し、そしてマリアンヌと別のパーティーにされても文句も言わなかったらしい。マリアンヌにはレイナードかオスカーが常に付き添ったので、魔法がさほど得意ではないフィリップと一緒にいるより、安全は保証されているからだろう。
そのおかげで、課外活動の魔獣狩りにも忌避感が小さくなり、魔力を増やしたい生徒は授業以外にも頻繁に魔獣狩りに行くようになったようだ。
そういう事情もあり、私たちも学院所有の森で魔法科の生徒と出くわすことが多くなった。
ちなみに、そんな人たちの間で、私は魔剣の女王と呼ばれているらしい。でもね、私の剣には魔力はこめられていないから。私の剣は、母直伝の、力と技の結晶だから。
マリアンヌとのお菓子作りの会も順調だ。
マリアンヌはとても器用で、魔法陣についても熱心に勉強してくれるので、描くことはできなくても、調理の魔法陣への理解力もある。
そんなこんなで、結構複雑なお菓子作りも簡単にマスターしていった。
そして出来上がるたびに、一緒に食べ、あれこれ話をしながらお茶を楽しむ。
マリアンヌの作ったお菓子は、ヴェルデが代表して受け取り、他の精霊たちと分け合って食べているようだ。
レイチェルやカーリーも一緒に楽しむこともあるし、驚いたことに、カーリーが口元に持っていけば、子豚も食べるようになってきた。
そういえば、子豚だが、その面倒は、カーリーがみている。
修道院でも、たくさんの動物の面倒をみていたからと言って、カーリーが立候補したからだ。
もちろん、精霊たちが入れ替わり立ち代わり監視の目をかかさないが。
アマリージョは、なおざりにリリアを演じているらしい。
適当に毒舌を吐きボッチをつらぬいているが、授業ではハイスペックな能力を隠すことなく披露しているとか。
能力差がありすぎて加減がわからないのだろう。
魔獣狩りにも率先して参加し、華麗な風魔法で魔獣を一撃にしているらしい。
そのせいでオスカーに、風の精霊がごとく魔法の才能があると絶賛されたらしい。
正体はすでにばれてるのかもしれない。
リリアは、自分がどんな羽目に陥ったかは理解しているが、なぜとはわかっていないようだ。
そこでカーリーが研究のため図書館にいる間に、アマリージョが子豚の元に出向いた。
リリアは自分のふりをしているアマリージョに怯えまくり、ブヒブヒッツ!!と半狂乱になったらしい。
仕方ないので、もっと恐ろしい、この国の子どもなら誰もが知っている神話の魔王に化けたらしい。そうすると、怖すぎておとなしくなったとか。
アマリージョはリリアに告げたらしい。
「お前は、闇の精霊の怒りをかい呪いにかけられた。元の姿に戻るには『真実の愛』を知らなければならない」と。
『真実の愛』ってなんですか? とリリアが思ったとしても不思議ではない。
私なら、あの色々凍っちゃう姉妹が主人公のディ〇ニー映画ですか? とツッコんだかもしれない。
しかし、精霊は尋ねなければ何かを詳細に告げることはない。うっかりもらすことはあっても。
しばらく、子豚には、自分がどんな状況にあり何ができるのかをじっくり考えてもらおう。
カーリーがそばにいるのだから、時間をかければわかるはずだ。その人の素晴らしさは身分に関係ないと。
文官養成科の仲間たちも、みんながみんな最初からカーリーを受け入れ尊敬していたわけではない。
平民ができることなどしれている、と言う態度の者もわずかながらいた。
でもすぐに悟った。カーリーは凄いって。
彼女の聡明さ、勤勉さ、努力の在り方、そして優しさにみんなやられちゃったのだ。
そして今日も私は、マリアンヌとお菓子を作っている。
「昨日、私、魔獣狩りの授業で、レフリを30回かけても、魔力不足にならなかったんです」
「順調だね。一度、魔力を測ってみる?」
「はい、お願いします。今がどれくらいで、あとどれほどの頑張りが必要なのか、正しく知っておきたいので」
ということで、魔道具でマリアンヌの魔力量を測る。器の大きさは変わらず維持はできている。そして、魔力量は八割まで回復してきている。これなら聖なる光魔法でも2回は使えるだろう。
「まだまだですね」
マリアンヌはちゃんと現状を把握している。
「そうね。とりあえず悪くない、というところかしらね。器を常に満たしていられることが理想だから。そうすれば、器ももっと育つと思うよ」
「頑張ります」
マリアンヌは、頑張り屋さんだ。
「それから私、魔法科に一人、友人ができました」
「まあよかったわね」
「マルギット様というのです」
(その娘はマルギット・フォン・ベッカー。ベッカー伯爵家の令嬢です。ベッカー伯爵とマルギットの母とは再婚のようで、その母はオニキス大公国の貴族の出でマルギットは母の連れ子です)
(何か問題があるの?)
(彼女は、例の噂をまいている主犯でもありますが、それより最近は、マリアンヌを取り込みフィリップ殿下に急接近していますね)
おやおや。
(それではマリアンヌを上手に守ってあげないとね。この件をお兄様に。なるべく早く話し合いたいと伝えて)
そして、涼やかな風が吹く。
すると、マリアンヌがアマリージョが出て行った窓を見て微笑む。
「どうかした?」
「なんだか、今、とてもきれいで気持ちのいい風が通り過ぎていった気がして」
精霊の気配を感じとれるのは、順調に魔力が増えているからだろう。
その気配を気持ちがいいと感じるのは、彼女の努力が精霊たちに認められている成果かもしれない。
「エリーゼ、私、教えてもらってばかりだから、今度は私が考えたお菓子を作って食べてもらいたいんだけど、どうかな?」
「それは楽しみだわ」
「じゃあ、次のお菓子作りの会は、私に任せて」
翌日、私はハーブ園でのお手入れと、薬の魔法陣の改良をカーリーやアルベルトと検討した後で、図書館に足を向けた。
図書館の限定エリアには、兄とアデル殿下、そしてオスカーがいた。
「エリーゼ、アマリージョ様から例の件は聞いた。早急に対処が必要だと思う。そして、どうやら学院内まできな臭くなってきたので、もう少し仲間がいた方がいいと思い、オスカーにも同席を頼んだ。かまわないか?」
「オスカー様なら頼もしい協力者だと思いますわ」
そういえばオスカーも前後期の単位はすべてとったらしく、今は好きな授業だけに顔を出しオブザーバ的な立ち位置で参加しているらしい。
早く卒業してしまいたいらしいが、兄の要請で今は魔法科の動向を見守っているとか。
「では、アマリージョ様にも来てもらってくれ。まず、みなで詳細をあの方から聞いたほうがいいだろう」
「少し時間がかかるかもしれません。アマリージョは今、リリアの代わりに授業を受けているかもしれませんから」
「そうだったな」
私はアマリージョを呼ぶ。思いのほか、すぐにアマリージョはやってきた。
「授業中ではなかったのね」
「いえ、授業中だったので、ロッホに代わってもらいました。ちょうど火の属性魔法の実習中だったので問題ないでしょう」
たぶん、オスカーはロッホが誰かはわかっていない。そのせいで首をひねっている。
それにしても、幻惑魔法でリリアに化けているとはいえ、ロッホに実践させるなんて無謀すぎるのではないか。
練習場を燃やし尽くさなければいいけど。
「マルギットの件を話してくれる?」
学院にいつまでも私の悪いうわさが断続的に流れることに、兄はとても違和感を覚えていた。私は、単にゲームの影響だと思っていたのだけれど。
誰が噂を流しているかは、早い段階でアマリージョが見当をつけていたそうだ。
それがマルギットだ。
これがフィリップ殿下からの指示があった、とかならわかりやすく対処もしやすいが、どうもそうではないらしい。
精霊たちの調査によれば、この学院には、マリアンヌと敵対させることで私を陥れ、公爵家の弱体化を図ろうとしている者が複数いるらしい。マルギットもその一人だ。というかマルギットが主犯で、後はいいようにのせられているだけらしい。
マルギットの名は、美花のメモにはまったく出てこない。ということは、おそらく、『ジュエリー・プリンセス』ではモブキャラかあるいは、モブでさえないのかもしれない。
アマリージョは、妖艶に微笑み、兄に言う。
「マルギットは、フィリップ王子の派閥でベッカー伯爵家の養女です。マルギットは、オニキス大公国出身の母の連れ子ですね。この娘に関しては、奇妙な者との関係がわかっています」
「というと?」
「ふふふ、悪の魔導士が率いる秘密結社ですわ」
兄だけでなくアデル殿下もオスカーもポカンとしている。もちろん私もポカンだが。
ただ、美花のメモに気になることは書いてあった。どうしても入れないルートがあり、どうやら、そこには、すべてをバッドエンドに導く悪の秘密結社的なものがあるらしいと
「精霊様、それはどういう?」
「この学院に地下通路があるのはご存じ?」
「魔法省の敷地に通じている、避難用の通路のことですか?」
「そうです。その地下通路に最近、側道ができました。隠ぺい魔法で出入り口は隠してありますが、レベルが低いので私には目くらましにもなりませんけど」
「なに!?」
アデル殿下が声をあげる。しかし、兄とオスカーは、さもありなん、という態度だ。その程度は想定内だったのかもしれない。
「それがどこへ通じているかというと、学院の裏門を出て500メートルほど先の空き倉庫です。その二階では月に一度怪しげな仮面をつけた男たちの会合が行われています」
「どういった素性の者たちなのか、少しでも情報があるのなら教えていただけますか?」
「そのあたりは、インディゴが詳しいかと」
「インディゴ、来て」
私の足元から、藍色の子犬姿のインディゴが姿を現す。初見のオスカーが、驚きのあまり腰を浮かしている。
「や、闇の精霊の加護まで受けているのか、君は!」
「オスカー、エリーゼには、緑と大地、火、風、光、闇、水の精霊の加護がある」
「水の精霊様の件は聞いていないが」とアデル殿下。
「つい最近、ちょっとな。加護が五つから六つになっても、もはや大差はないので、機会があれば言うつもりだった」
「まあ、そう言われればそうか」
オスカーが頭を振りながら、力なく腰をおろす。
「まあ、あまり考えるな。エリーゼはおかしいんだ」
アデル殿下、レイチェルと同じように、なんでもかんでも、エリーゼはおかしい、で済ますのは止めて欲しいです。
「インディゴが調べてくれたの? その怪しい仮面の男たちを」
「そうだよ。眠いのに、くだらない誘拐や呪いや陰謀の話ばっかりで、おいしいものもないし、ほんと嫌だったけど、ちゃんとやったらエリーゼが喜ぶってアマリージョが言うから」
「もちろんよ。嬉しいわ」
「ほんと? なら、プリン」
インディゴは、本当にプリンが好きね。
「あの、それで、男たちのことですが」と兄。
「ほとんどがフィリップの派閥の関係者だけど、フィリップは何も知らないね。もちろん、王家の他の人たちも知らない。けど、さっきセレステが同じ水の精霊仲間のウィンに伝えたから、今頃、王妃様の耳には入っているんじゃないかな」
アデル殿下が、ホッとしたような、けれどどこか面倒な顔でうなづく。
「マルギットの養父ベッカー伯爵の他は、フィッシャー侯爵とその犬が2匹と、エルスター男爵の犬が2匹、それからオニキス大公国の犬が1匹。そいつは魔導士でけっこう魔力が大きい。といっても、僕らほどじゃないけどね。そいつがみんなを精神魔法で操ってる感じかな」
そういえば催眠術的な精神魔法もあったね。闇の魔法に。私は怖くて手が出せないけど。
「オニキス大公国の魔導士?」
アデル殿下が首をひねる。ふいに出てきたオニキス大公国の名に戸惑っているのかもしれない。
「オニキス大公は病が重いらしい。緩やかにだけど、毒を盛られ続けているせいだね」
インディゴ、そんなにサラッと大ごとをぶっちゃけられたら、みんな言葉がでないよ。
「その魔導士は、跡継ぎの公子の側近だね。公子も精神魔法にかけられてる、っていうか王族もその側近もほぼやられてる。まともなのは光の属性のある宰相と水の精霊の加護がある第一王女だけだね」
「他国の事情に干渉するわけにもいかないし、そっちは後回しでいいんじゃないか?」
アデル殿下は、オニキス大公国のことは気になるが、まずは自国のことだと思っているようだ。
それはそうなんだけど、精霊たちがオニキス大公国のことをこれほど詳細に報告するには、それなりの理由があるはずだ。
私は、そこをちゃんとくみ取らないといけない。加護を受けている者として。
「アデル殿下、けれど、オニキス大公が健康を取り戻し公子の魔法が解ければ、その魔導士の力を削ぐにはとても有効では?」
「それはそうかもしれんが」
「エリーゼ、何か考えがあるのか?」
「私の加護精霊と、第一王女様の加護精霊で連絡が取り合えれば、今すぐにでも何かいい手が打てるかもしれません」
「そうだな。とりあえず、大公に毒が盛られていることをなんとか第一王女には知らせておきたいな」
私はうなづく。
「第一王女様の精霊様を知っている子はいるのかな、うちに」
「セレステが知り合いだよ。水の精霊だから」とインディゴ。
よかった、と思う。
あの日、セレステの加護をもらっておいて。
「セレステ、来られる?」
私が呼ぶと、すぐにセレステが来てくれる。
「なあに? 歌う?」
セレステは私が呼ぶと、たいてい歌を歌ってくれる。おかげでぐっすり眠れる夜も多い。
「あなたの歌はとっても素敵だけど、今はね、オニキス公国の第一王女の、水の精霊に連絡がとりたいので、助けて欲しいの」
「イザベラの加護精霊、マリンね。すぐにできるよ」
さすがだ、精霊様。兄さえ名を知らぬオニキス大公国の第一王女の名前がサラッと出てくる。
セレステからマリンへ、公子の側近魔導士にオニキス大公が毒を盛られていることや、他の人たちに精神魔法がかけられていることなどを伝えてもらう。
魔法に操られていない宰相は信頼できることも。
セレステはほんの三分ほどで、マリンへ伝言を済ませ、マリンはすぐにイザベラに伝え、イザベラもすみやかに宰相とタッグを組んだという。どうやら宰相は魔導士を怪しみ、精霊の加護のあるイザベラと頻繁に情報を交換していたらしい。
あちらからの要請で、その魔導士が国を離れている時、つまりこちらに潜入している頃合いを見計らって、大公の解毒にはプラータに出張してもらうことになった。他の王族や側近たちには、イザベラとセレステが、水の精霊特有の清浄魔法で対処することにしたらしい。
「それでね、その魔導士はニュクスっていうんだけと、オニキス公国の出身ではなく帝国に追放された枢機卿だってさ」
「枢機卿が魔導士に?」
アデル殿下がまた首をひねる。
「不思議ではないだろう。帝国は闇魔法に関して偏った解釈をしているからな。もし、その枢機卿が闇の属性があるのなら、ちょっとしたことで誤解を受け理不尽な扱いを受けることもあっただろう。その結果として国外追放になり、他国で魔導士になることもあるはずだ」
「しかし、だからといってなぜ、エメラルド王国にちょっかいを出すんだ? 帝国に復讐するのならわかるが」
「ラピスラズリ神聖帝国はこの世界の宗教の中心地であり、神聖騎士団の軍事力も大きい。世界中の信徒から集まるお布施の額も半端じゃない。そんなところにそう簡単に手出しはできないだろう」
「もしかしたら、現法王の愛娘、うちの母がこの国の王妃だからか? 嫁ぎ先で魔法大国でもある我が国を乗っ取ってから帝国とやり合う気なのか?」
なくはない。エメラルド王国って、そういう面では緩々だから。
「だけど、それなら、この学院でこそこそ悪口を回していても仕方ないんじゃないか?」
「失礼ながら殿下、今、エメラルド王国を支えているのは、はっきりいって王家ではなくヴォーヴェライト公爵家です。そしてこれからの王国を守れるのもヴォーヴェライト公爵家。となると、真っ先につぶすのはヴォーヴェライト公爵家ではないでしょうか?」
「オスカー、本当に失礼だな。しかし、否定できん」
「とはいえ、魔力が高く上級魔法を巧みに使われる公爵閣下やマテウス様をどうこうするのは、国王陛下に手を出すより難しいかと。ゲルダ様も強力な結界下のお屋敷をほとんど出ることはなく、出られるときは公爵閣下とご一緒です」
「そうすると、狙うは学院にいるエリーゼか」
学院は、王族や高位貴族が多数通う場所だからある程度厳しい警備は敷かれている。隣の敷地に魔法省があるのも、学院の生徒を見守るためでもある。けれどやはり宮殿に比べれば甘く、公爵家には比ぶべくもない。
「まあ、彼らはエリーゼ様のご加護のことは知らないでしょうから。知っていたとしても、おそらくヴェルデ様だけかと」
オスカーが言う。
「それで悪い噂をまくの? そんなことに何の意味があるのかしら?」
「彼らは、とにかくフィリップ殿下とエリーゼの婚約はどうしたって破棄させたいみたいだよ」
インディゴが鼻で笑う。
「けれど、フィリップ殿下の派閥は、殿下が皇太子に指名されるまでは私を婚約者の座に置いておきたかったのでは?」
「だよな」と兄が眉根を寄せる。
「エリーゼ様が文官養成科に進まれ、わずか半年でクラスメイトとともにこの国の経済を大きく動かすような成果をあげていらっしゃることに、どうやら危惧を感じている者たちがいるようです。なので、早めにエリーゼ様を婚約者の座から引きずり落とし、代わりに聖女としてマリアンヌ嬢を殿下の婚約者にした方がいいのでは、と唱えるものもいるとか」
オスカーがそう言うと、兄が愛弟子を誉めるようにオスカーにうなづく。
「本当は卒業式までにフィリップ殿下の皇太子指名を決定的にして、そこでエリーゼを追い出してマリアンヌを婚約者にする、っていう予定だったらしいけど」
インディゴが嫌そうに言う。
私は納得する。
それこそが断罪イベントだよ。
「だけどマリアンヌがどうも思い通りに操れないから、またまた計画変更らしいよ」
なるほど。たぶんそれは私がマリアンヌの魔力を増やすために、彼女と仲良くなったせいもあるよね。
「光の精霊の影響がある子を、魔導士ごときが操れるわけないんだよ」
ロッホ、いつの間に。
実習はちゃんとできたのかな?
『的』以外なにも燃やさなかったよね?
「そこで、次の候補にマルギット嬢を選んだってわけか」
「ということは、エリーゼ、マリアンヌ嬢の後釜にできるほどの何かがマルギット嬢にはあるのか? ただの伯爵令嬢では王子の婚約者には推しづらいと思うが」
「エリーゼより優れているところなんかあるわけないじゃん。ただ、マルギットは、オニキス大公国の大公の娘じゃないかって噂があるんだ。だから成り行きによっては、いい政略結婚になるかもしれないって感じかな」
「インディゴ様、その噂は真実なんですか?」
「マルギットの母親と大公は幼馴染だけれど、そういった関係ではなかったみたいだよ。でも、マルギットは、あの国では珍しい大公と同じ漆黒の瞳をしているから、その噂を信じている者は多い」
「その噂を流しているのも、マルギットの実の父親を亡き者にしたのも、母親をだましてエメラルド王国に連れてきたのも、全部、魔導士ニュクスですけどね」とアマリージョ。
「だから大公が亡くなって、操られている公子が跡を継げば、その噂を真実にすることもできるってこと」
インディゴ、本当に情報収集、頑張ったのね。プリンだけじゃ足りないかも。
「マルギットがうまくフィリップに近づけたら、フィリップにも精神魔法をかける予定だって言ってたよ」
あら? すでにかけられているのかと思っていたのは、私だけ?
「その前にエリーゼを人質に公爵家を国から追い出して、マリアンヌは光魔法を使うからやっかいだから、早めに消すんだってさ」
「エリーゼを人質!?」
兄の顔つきが変わる。
でも兄さま、私より危ないのはマリアンヌでは。やっかいだから消すって言ってるんですよ!!
「そいつら、みなとっつかまえて、死刑にしてやる」
「お兄様、我が国に死刑はありません」
「魔力封じの首輪をつけて奴隷におとすか、貴族は死ぬまで出ることの叶わない終身の塔に放り込むのがせいぜいだな」とアデル殿下。
魔力封じの首輪、それって、私が以前兄につけられそうになった首輪でしょうか。
トラウマで、なんだか眩暈がします。
兄はそんな私に気づいたようで、首輪はマズい足輪にしよう、と叫んでアデル殿下とオスカーに怪訝な顔をされている。
「あのさ、そんでね、マリアンヌなんだけど」
「彼女がどうした?}
「さらわれちゃったよ。いまさっき。マルギットに睡眠薬をもられて地下通路から侵入してきた覆面の男たちに」
なんですって!?
「お兄様、マリアンヌを早く助けないと。殺されちゃうわ。なんとかならないの? みんな助けてよ。マリアンヌからたくさんお菓子をもらってるよね」
「エリーゼ、落ち着け」
「お兄様、これが落ち着いていられますか!? お友だちが攫われて殺されるかもしれないんですよ」
ヴェルデ、ヴェルデ、そばに来てと私はヴェルデを呼ぶ。すぐにヴェルデが肩に乗る。
「エリーゼ大丈夫よ。マリアンヌには、今、例の光のかけらを零してしまった光の精霊がついているから」
「そうなの? マリアンヌは大丈夫なんだね」
「アマリージョ扮するリリアが、この間、マリアンヌに仲直りの徴にって、おそろいの白銀のペンダントをプレゼントしたんだけど、そのペンダントはね、光の精霊が宿ることができるの、どんな結界があろうと」
「「「なんと素晴らしい」」」
私以外の三人が感嘆の声をあげる。
「精霊様の英知は底知れぬものがある」と感心するアデル殿下。
「「ぜひ、そのペンダントを研究させてもらいたい」」と口をそろえたのは、兄とオスカー。
空気を読まない三人を無視して、私はプラータを呼ぶ。
「ちゃんと彼の光の精霊とは連絡がとれていますよ。マリアンヌは無事です。どうやら、エルスター男爵の王都の屋敷に運ばれているようです」
「よかった。お兄様、すぐにマリアンヌを助け出しますよ」
「エリーゼ、お前はアデルと学院で待て。救出には私とオスカーで行く」
「嫌です」
「ダメだ。友人のことが心配なのはわかる。しかし、今は自分の身を案じろ。お前は、ある意味マリアンヌ以上のあいつらのターゲットなんだぞ」
「でも」
「エリーゼ様、どうかマテウス様と私にお任せください。私たち二人の魔力と魔法があれば、相手に魔導士がいても大丈夫です」
そうかもしれないけれど。
「だけど、やっぱり、私も行く。申し訳ないけれど、お兄様とオスカーを合わせても、私の魔力と私の精霊たちの魔法にはかなわないわ」
私は行く。
マリアンヌを救うことは、私の使命だと感じるから。
ここで待つだけなら、私はこの世界に来て、全属性魔力と精霊たちの加護を受け取った意味などない気がする。
「アマリージョ、私に幻惑魔法をかけてくれる?」
「どのような?」
「そうね、では、リリアに」
「エリーゼ、さすがです。リリアは、仲直りの記念にマリアンヌとおそろいの銀のペンダントを持っていますから」と言って、アマリージョは私の首にもう一つの銀のペンダントをかける。
すかさず、プラータがペンダントに吸い込まれていく。
「これなら、公爵令嬢エリーゼとしての危険はなくなるわ。インディゴとロッホは私の護衛について。ヴェルデも基本的には私といっしょで、でも臨機応変に遊撃して欲しい。セレステはオスカーに、アマリージョはお兄様の護衛。この拉致事件が解決するまで、私のお願いと同じようにオスカーとお兄様の言葉をきいて欲しい」
精霊たちは、みな、私の願いを聞いてくれた。
精霊たちとはもはや家族のように接している兄はともかく、オスカーはものすごく感激したようで涙まで流している。水魔法が一番得意なオスカーにとって、水の精霊への憧憬は半端じゃないのかもしれない。
「アデル、学院を頼む。特に、地下通路の出入り口を早急にふさいでくれ」
「任せろ。私は、君たちほど強力な攻撃魔法も強固な守備魔法も使えないから、魔法省と連携し、ここで私にできる精一杯をやっておく」
「オスカー、エルスター男爵の屋敷のある付近の地図を描けるか?」
「もちろんです」
オスカーは、杖を取り出すと空中にすらすらと地図を描いていく。グー〇ルマップ3Dを見るようだ。
「エリーゼ、この地図の男爵の屋敷付近で、お前が転移できる場所があるか? それができれば、おそらく先回りができるはずだ」
「この、シュミット辺境伯の王都の屋敷にはレイチェルといっしょに訪ねたことがあります。それに、今ならアルベルトが屋敷にいるはずです。たしか三日前から、お母上が王都にいらっしゃっているからと」
「辺境伯の屋敷なら、突然訪ねてもなんとかなるな。では頼む」
私は、それでもいきなりは申し訳ないと、ヴェルデに危急の案件でそちらに三人が転移する旨をアルベルトに伝えてもらう。
その直後、私は兄とまどうオスカーと三人で手をつなぎ、留守番のくせに手をつなぎたがったアデル殿下を叱り飛ばした後、辺境伯の屋敷へと転移した。




