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青春を謳歌しすぎて、破滅フラグにかまっていられなくなりました。part1

第9章 試験は無事終了、と思ったら、なんだかんだと秘密が増えました。でも一人じゃないから、頑張れます!! 


 九月に入学した私たちは、二月の初めに初めての期末試験を受ける。

 この試験は、文官養成科に限ったことではなくどの科の生徒も受けなければならない。それでも、他は成果発表会のようなもので、文官養成科の試験が一番難易度が高く合格ラインが厳しいことは確かだ。

 

 この試験で各学科の前期に必要な単位を取得できれば、晴れて、外出も許可となる。

 しかし、私たちの目標は前期の単位取得ではなく、前後期通しての単位取得だ。

 そうすることで、スキップ希望の学生以外は、半年の自由時間が確保できる。

 

 その半年で薬作りやそれぞれに興味のある研究をしよう、とカーリーが提案し全員が賛成したのだ。

 文官養成科にスキップを希望している学生は二人いる。しかし彼らも、私の兄のように一年でスキップ卒業するつもりはないという。二年は学院に通い、学業以外のことにも学びの目を向けたいそうだ。

 

ということで、全員一丸となって、前後期単位の取得を目指すことになった。苦手科目は、それを得意とする者が指導する、という形で勉強を進め、学業に余裕のある手の空いたものが交代でハーブ同好会の仕事をした。


「エリーゼの、その偏った知識は、どうなっているんだろうね」

 アルベルトが首をひねる。

「数学や自然科学は、今受けても、たぶん、三年次までの単位を全部とれるよね? なのに、この歴史や語学の酷さといったら、びっくりだよ」

 面目ない。前世でも苦手だった歴史はどうもやる気が出なくて。


「それに、一般常識っていうか、幼い頃に自然と学ぶようなことを知らないし、少しでも社交界に顔を出していれば当然知っているようなことも知らない」

 インディゴの呪いのせいなのか他にも理由があるのか、九歳までの記憶がほとんどないことと、それ以降は、家ぐるみで社交界から隔離されまくっていたらこうなりました、と言い訳できるわけもなく。

「箱入り過ぎたんでしょうかね・・・」と口を濁す。

 

 あきれながらも、アルベルトは私に丁寧に各国の歴史と現在の政治状況などを解説してくれる。

「さすが、国境を預かる辺境伯の跡継ぎ候補だね」と言ったら、「末は王妃かという公爵令嬢のくせに、まったくそれらしくない君に言われても真実味がないよ」と言い返された。


 私がフィリップ殿下の幼い頃からの婚約者であることは、もちろん周知の事実だ。

 しかし、私たちの間に交流はほぼなく、お互いにどんな好意も持っていないことは、文官養成科のみんなは察しているようだ。だから、貴族社会にはありがちなこととはいえ、なんとなく、教室でフィリップ殿下のことを話題にするのはタブーになっているようだ。 

 しかし、アルベルトだけは、けっこう平気で話題にのせてくる。そんなところも、彼を友人として気に入っているところではあるんだけど。

 

 レイチェルは、お金のからむことに目がないけれど、そのために誰かを犠牲にしたり不正をしたりは絶対にしない。

 だからクラスのみんなに文官養成科の財務大臣と呼ばれ、ハーブ同好会のちょっとした経済活動の元締めとして活躍している。

 

 カーリーは常に、みんなの先生役だ。勉強で困ったらカーリーに聞け、は文官養成科の合言葉だ。あとは、面白いことがやりたいときはエリーゼをおだてろ、というのもあるにはある。

 

 兄は、そんなカーリーを魔法省にスカウトする気満々だ。でもカーリーは、卒業したら修道院に戻って小さな子供たちに勉強を教える先生になりたいと、今のところ、及び腰だ。でも、兄がそんなことで諦めるはずがない。


「では、君の出身修道院のみならず、修道院や教会に教師を派遣し市井の子どもたちが勉強できる環境を作ることを陛下に進言しよう。5年以内に実現できると思う。それなら、魔法省に来てもらえるだろうか?」

 などと突拍子もないことを、けれど兄ならやるかもしれない、と思わせながら、日々カーリーを困らせている。


 なにはともあれ、私たちはとっても頑張りました。だって、文官養成科の主任講師ラティス先生が号泣しましたから。この学院に赴任して三十余年、こんなに優秀なクラスは初めてだと。

 

 マテウス兄のように、突き抜けた天才はいたけれど、全員がこんな素晴らしい成績を残すのは初めてだと。

 なんと、前後期全ての学科を全員で合格したのみならず、クラスの平均点が90点以上という驚異の結果だった。

 しかも、カーリーはそんな高レベルの中でも首席を保持しクラスの男子に何度も胴上げされていた。ついでに、私も胴上げしてもらった。私の鬼門、歴史で一人単位落ちをせずに良かったねと。


 言っておきますが、数学満点は私だけですからね。ピタゴラスの定理さえ知らないこの世界の君たちは、数学の凄さをまだ知らない。魔法よりある意味凄いことができることに、未来のこの世界はきっと驚くんだから。

 

 無事試験をクリアしたことで、私たちは残りの半年という自由時間をそれぞれに有意義に使えるようになったわけだが、それはそれとして、みんなでやりたいことがあると、レイチェルから提案があった。


「四月に学院祭があります。例年、文官養成科では教室で好きなテーマで研究発表会なるものをやっていたようですが、正直人気がありません。そこで、今年は思い切って、占いカフェをやりたいと思いますがどうでしょうか?」

 この突飛な提案は、私の部屋に入り浸ってお茶を飲みお菓子を食べまくっているレイチェルが、ある日、私の部屋で、本棚に置いてあったクリスに気がついたことに始まる。


「エリーゼ、これは魔力測定の魔法具だよね? 触っても何にも反応しないんだけど壊れてるのかな」

 カーリーもクリスに手をあて首をひねっていたことがある。この世界では水晶玉は魔力測定の魔法具だから。そして、どこの教会にも、ちょっとした貴族の屋敷にもふつうにあるものだ。


「それはね、占いのクリスタルよ」

「占い?」

「精霊の力を借りてクリスタルの中に映像を見るの。その映像から知りたいことの答えを探す、それが占いよ」

 レイチェルは首をかしげる。


「一度、試してみましょうか。そうした方がわかりやすいかも」

 私は、クリスをテーブルに置く。ヴェルデが姿を見せてくれる。クリスを視る時にいつもそばにいるのはクリスタルと相性のいい光の精霊プラータだ。今もいる。でも、ヴェルデ以外の精霊の存在を隠しているから、その隠れ蓑にヴェルデに来てもらっている。


「レイチェル、気になっていることや知りたいこと、何かある?」

「なんでもいいの?」

「ええ」

 レイチェルが、ほんのり頬をあからめる。

「実はね、気になっている人がいるの」

 おやまあ。

「その人と私の相性というか、その、お友だちとしてでもいいの、仲良くできるかなって」

 これはまた、まさかの恋バナ。だけど、占いにぴったりのネタでもある。まず相手が誰かを探らないと恋の行方もわからないわね。


「お相手を聞いてもいい?」

「それは、ちょっと恥ずかしいな」

「でも、占ったら、お相手も視えてしまうかもしれないけど、いいの?」

「そうなの? それなら、言わなくてもお相手が誰かもわかるの?」

 私はうなづく。

「それなら、まず、私のお相手をあててみて」

 レイチェルが、さっきと違って少し挑戦的に私を見る。


「じゃあ、ここにきてこのクリスタルの上に両手をかざしてみて」

「わかったわ」

 私は、クリスを視る前にズルをする。

 アマリージョに知っていることを訊くのだ。

 情報が多いほど、視えるものは多くはっきりとした映像になるからね。


 レイチェルの恋のお相手が誰だかわかる? 


(ふふふ、存じ上げていますよ。レイチェルは、その方に会うときにだけ恋の香りがしますから)

 

 恋の香り? もしかして、精霊には、ドーパミンとかオキシトシンの香りがわかるってことかしら?

 これはまたまた、私の研究材料が増えたわね。


(お相手は、騎士科のレイナードですよ。イチヤクの受け渡しや効能の聞き取り調査で仲良くなられたようですよ。あちらもまんざらでないようです)


 うーん。これは微妙な問題だ。

 レイナードはマリアンヌの攻略キャラの一人だ。ゲームのシナリオはもはや大きく変わってきているが、この二人の恋が、私の破滅フラグにどう影響するのかは読めない。

 だけどやっぱり、それが私に凶とでたとしても、私は私の大切な友人であるレイチェルの恋を応援したい。


「レイチェル、お相手の顔を思い浮かべながら目を閉じてくれる?」

 レイチェルが目を閉じてくれる。プラータがそばに寄り添ってくれる。

 私も目を閉じ呼吸を整えてから、ゆっくり目を開けクリスを視る。レイチェルとレイナードの少し先の未来を。

 

 レイナードとレイチェルの姿が映る。

 二人が並んでハーブ園の椅子に座っている。幸せそうに微笑むレイチェル。それを少しまぶしそうに見つめるレイナード。

 甘酸っぱいな。うらやましいな。どうやら、この上なくうまくいっているみたいだ。

 レイナードが、レイチェルに何かを差し出した。

 赤のリボンをほどき小さな白い箱を開けるレイチェル。

 レイチェルの笑みが大きくなる。

 レイチェルが手にしたのは髪飾りだ。それをレイナードが受け取りレイチェルの髪につけてあげている。


 素敵だ。スズランを模したそれは、レイチェルの深いワインレッドの髪によく似合っている。


「レイチェル、目を開けても大丈夫よ」

「何か、見えたの?」

「視えたよ。レイチェルのお相手はアルベルトの弟の、レイナードで間違いない?」

 ほ、本当にわかっちゃうなんて、と声を上げてレイチェルは真っ赤になる。それでも小さくうなづいてくれるから、可愛らしくってたまらない。


「相性はとってもいいみたいよ。彼から近いうち素敵なプレゼントがあるわ」

 こちらでは、好きな人に想いを告げる時、スズランを贈る習わしがある。スズランの髪飾りをプレゼントに選んだということは、レイナードも本気でレイチェルを好いているということだろう。

「ほんとう?」

「ほんとうだよ。よかったね」


 というようなことがあり、ほどなくレイナードから髪飾りを贈られすっかり占い信者になったレイチェルは、これを学院に布教することにしたらしい。


 すぐに兄に助言を求めた。レイチェルの布教をどうやって止めればいいのかを。しかし、兄の答えは意外なものだった。


「いいんじゃないか? ただし文官養成科らしく、というかハーブ同好会らしく、ハーブを使ったものをカフェメニューにして、占いカフェ的なものにした方がいい。そこで余興がわりにカップルに恋占いをする、くらいの軽い感じがいいだろう」


「クリスタルに映像が映るということが広まってしまってもいいのですか?」

 私としては、レイチェルやカーリー、アルベルトのように、私のプライベートに関わってくる可能性の高い友人たちには、占いのことを、限定的ではあっても話しておきたいと思っていた。

 しかしそれ以上に広めるつもりはなかった。


「別にかまわないさ。視るものが視なければ、自分の顔が映るだけのこと。もし、エリーゼの他に何かが視える者が出てきたのなら、それはそれで魔法省でスカウトするしな。どちらにしてもエリーゼほどの魔力と加護がなければ、たいしたものは視えない」

 そうかもしれない。父母や兄も何度も覗きこんだが、さっぱり何も見えなかった。


「でも、不思議ですね。これほど魔法が満ちた世界で、天眼の眼を持つ人が他にいないなんて」

「天眼?」

 あ、しまったかも。

「えっとですね、聞いたところによると、私のように先見だけでなく、現在や過去も視えることをそう呼ぶのだとか」

「なるほど」

 兄は、天眼の眼とメモをとる。


「しかし、エリーゼのように先見の能力がある者でさえ稀なのだ。建国以来、おまえの言う天眼の能力と同じような能力、神の眼があったとされているのは、たった一人。初代女王にして、ただ一人の女王、ローザモンド陛下のみ」

「そうですか。そうですよね。それはあり得ないもののはずなんですよね」

 

 魔法のなかった前世のほうが、まだ受け入れられたかもしれない。占いや超能力、あるいは他の非科学的なものに対しても、信じる者は信じていればいいんじゃない? そこにはそういった軽さがあった。

 軽いものだからサラッと流されていた。けれど、ここは魔法がふつうにある世界。だからこそ特殊に思われる。恐れられる。

 その者にだけ与えられた特別な魔法は、あってはならないものとして。


「もしかして、エリーゼ、お前?」

 どうしよう。兄に、これ以上の心配はかけたくない。だけど、打ち明けるのなら今がチャンスかもしれない。もしここで言わなければ、死ぬまで胸に秘める覚悟が必要だ。そして告げるのなら、愛する家族に私以上の重荷を背負わせる覚悟がいる。秘密を分けるということは、危険も分けるということだ。できるなら自分一人で背負ったほうがいい。


「もし、私に心配をかけたくないとか思っているのなら、やめてくれ。エリーゼ、私はお前が何より大切だ」

「お兄様」

「私の愚かな正義感もどきで、呪いを受けていた幼いお前に冷たくあたった日々を、私はどれほど悔やんでいることか。お前はなんでもないように許してくれたが、私は死ぬまで悔いても足りないと思っている。だからこそ、私は、私の全てでお前を守りたい。そのためにも、秘密はなしにして欲しい。私の知らないことでお前が苦しんだり危険な目にあったりするのは嫌なんだ」

 兄の握りしめた拳が、震えている。

「頼む。私とお前の間に秘密は作るな」


 気づけば、頬に涙が流れていた。これほど自分を愛してくれる人が、そばにいることの温かさ。知っていたのにわかっていなかった。


「何があっても支えるから。どんなことでも信じるから」

 樹里、私、甘えていいと思う? あなたは嫌じゃなかった? 私の重い過去が。

 甘えてよ、背負わせてよ。その重さが愛しいんだよ、と優しく微笑む樹里の顔が脳裏に浮かんで消えていく。

 私は心を決める。


「お兄様、黙っていてごめんなさい。私はクリスと精霊の力を借りれば、過去も現在も、未来も視ることができます。視えないのは、自分自身のことだけ」

「やはり」と兄はうなづく。


「しかし、自分自身のことは視えないのに、なぜ断罪の場面が視えたのだ? それは未来のお前の姿だろう?」

 もっともな質問だ。

 だから躊躇っていた。天眼だけでなく、前世の秘密を話すことになるから。いや、怖かったのは秘密を話すことじゃない。信じてもらえないこと。大切な兄に私の言葉を。

 でも兄は言ってくれた。信じると、どんなことでも。


「それは、私には前世の記憶があるからです。あの断罪の場面は、正確には、視えたのではなく知っていたと言ったほうがいいかもしれません」

「前世の記憶がある。それはどういうものだ?」


 私は、兄に前世の記憶を話した。

 そこがこの世界とはどれほど違っていたかを。

 魔法がない、あるいは信じられていなかったかわりに、はるかに進んだ科学があったことを。

 人々は知識を積み重ね努力を重ね、文明を築いてきたことを。その世界で私はどんな境遇でどんな死に方をして、愛する人たちと別れたのかを。

 そしてクリスを通じ前世の親友と話ができたことも。そのおかげで、この世界が、友人のしていたゲームとほぼ同じで、その中で私、エリーゼがどんな運命を背負っているのかも。

 兄は黙って聞いてくれた。私の、とぎれとぎれで理論だってもいない話を。そして、私を抱きしめて泣いてくれた。


「もう二度と、エリーゼを悲しませはしない。この先何があっても、私は家族として、いつもお前の帰る場所を守る」

「お兄様、ありがとう。大好きよ」

 兄は、9歳で呪いが解けた頃の私にしてくれたように、そっと頭をなでてくれた。


「エリーゼ、お前は前世でどんな名前だったんだい?」

「ミドリ、ニカイドウミドリよ」

 兄は、ミドリ、ともう一度その名を呼んだあとでこう言った。

「素敵な名前だ。私も、死ぬまで大切にその名を胸に秘めておこう。けれど、今お前は、エリーゼ・フォン・ヴォーヴェライト。いつかこの国の歴史書にその名を刻む者だ。人々の笑顔のために愛と魔法を捧げた誇り高き公爵令嬢として。決して、断罪を受け国外追放を受けた者としてではなく」

 うん?

「それは、私は、嫁ぐこともできず死ぬまで公爵令嬢だと、そういうことでしょうか?」

 特に、結婚に夢があるわけではない。しかし、全否定されれば、なんとなくへこみはする。

「あ、いや、そういうことではなく。そのあたりは変更可ということで」

 いやしかし、公爵令嬢のままでもいいのだよ。くだらない男の元に政略結婚で嫁にいくぐらいなら、ずっと家にいればいい。私がそばで護るから。その兄のつぶやきは聞かなかったことにした。

 

 互いの涙の痕が乾いた頃、秘密ついでというわけではないが、試験勉強が大変すぎて相談をあとのばしにしていたこれもまた大いなる秘密を話すことにする。


(あの娘に精霊の加護はありません。あの娘は、生まれてすぐに、光の精霊の落とした光のかけらを口にしただけですから)

 アマリージョが教えてくれた、マリアンヌの大いなる秘密だ。


「お兄様、実はマリアンヌ嬢のことでご相談が」

 アマリージョにも来てもらい、マリアンヌの『聖なる光魔法』の秘密を話す。

「まさか、そんなことが。では、マリアンヌの光魔法には寿命があるということか?」

 兄もさすがに驚いている。


「そうですね。このまま魔力を増やすことなく過ごせば、あと一年ほどで。魔力が今より大きくなれば多少は伸びますが、それでも五年が限度かと。それまでに、高位の光の精霊の加護を手に入れることができれば話はまた別ですが」

「というと?」

「エリーゼほど強力なものではなくても光魔法は使えるでしょう」

「しかしかなり厳しい条件だな、それは」


「まず無理でしょうね。マリアンヌ自身は精霊の好む香りを持つ、とても清らかで正しい心の持ち主ですが、あの王子がそばにいる限り魔力を増やすことさえできませんからね」


「もし、彼女が魔力を増やす努力をしたとしたら、光の精霊の加護を受ける、なんというか伝手のようなものはあるのか?」

「プラータ次第でしょう。エリーゼが願えば、プラータも引き合わす程度のことはしてくれるでしょう。その光の精霊が加護を授けるかどうかはわかりませんが」

「エリーゼ、お前はどう思う? このまま放置すればマリアンヌは聖なる光魔法が使えなくなるのは間違いない。そうすれば、フィリップの婚約者の座をお前から奪い、お前を断罪に追い込む原因ともいえる者を消しやすくなるが?」

 それはそうだけれど。


「ですが、それでは貴重な聖なる光魔法の使い手がこの国からいなくなってしまいます」

「エリーゼがいれば大丈夫だろう?」

「前世の親友のメモによれば、あのゲーム世界では、どんな道筋を通っても私への断罪は必ず起こるそうです。その後の未来が変わるだけで」

「しかし、ゲームとかいうものの筋書きと、今のエリーゼの現状はかなり変わってきているのだろう?」

「はい。私は、ゲームのエリーゼとは違い温かな家族に育まれ、魔法科には進まず文官養成科で学び、取り巻きではなく友人に恵まれています。ですが、断罪の可能性がゼロにならない限り、私がこの国にいられなくなる確率も少なからずあるわけです。そうなった時、大きな力で民を守ることのできる人が他にいれば、私も安心して次のステップに踏み出せます」


「お前は本当にそれでいいのか? 今すぐにお前にマリアンヌ以上の加護と魔法の力があることを広めるのは簡単だぞ? そうすれば、そのゲームとやらの世界がどうあれ、エリーゼをこの国から追いやるなどというバカはいなくなるはずだ」

 私は頭を振る。


「それでは、フィリップ殿下の派閥が婚約者の座から私を手放しはしないでしょう。私は嫌なのです。魔法の使えないものは愚かな下民だと蔑むあの派閥に取り込まれるのは。私は身分など関係なく、どんな人々にも笑顔でいてもらいたいのです。そしてそれはこの国の人々だけでなく、できるだけたくさんの人々に」

 

 私がそう言ったとたん、アマリージョ以外の精霊たちも姿を見せた。

 いい匂い、たまりませんね、大好きだよエリーゼ。と口々に言いながら私にすり寄ってくる。

 兄は、苦笑している。


「つまり、エリーゼはマリアンヌの魔力を大きくし、彼女のために光の精霊の加護をもらえるよう協力したいということでいいのかな?」

「はい。お兄様も、最初からそのおつもりでしたよね?」

「そうだな。試すようなことを言ってすまない。けれど、私があの娘の力を残したいのは、私の愛する妹に国の過剰な期待がかかることを防ぎたいから、ただそれだけだ。私は、お前ほどお人よしではないからな」

 とかなんとか言っているけれど、兄が誰より国のことを考え、国民の幸せを願っているかを私はよく知っている。そんな兄に導かれて、あの9歳の日から今日までの道を歩いてきたのだから。


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