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車内が何とも言い難い空気になっていた。
そんな中、台東が、コロッと異様に明るく語りだした。
「なぁ、馬鹿な話だと思って、聞いてくれよ♪
俺の好きな物語で、こんな話があるんだ。
二人の男が一緒に世界中を旅していた。
そして、二人は、旅路の果てに、とても大きな都市に辿り着いた。
その都市の市長が、名実とも、そこにおいて最高権力者なのだが、
その市長に、二人は、
こう言われる。
『実は、この都市は、私のイメージが元になっている幻想都市で、本当のところ、ここら一帯は、何もない砂漠地帯があるだけなんですよ。
だから、今、ここらへんにいる人といえば、私と、あなた達だけなんです。
あとは、全てが幻なんですよ。
私が作り出したね。
でも、妙ですね。
今、私の前にいる、あなた達からは、生命エネルギーが、1つしか、感じられません』と。
結末を言うと、その物語において、
共に旅をしていた男二人組は、
その幻想都市に、入り込む前に、
旅の途中で片方が亡くなっていてな…
残された一人は、その相方の死に様が、あまりにも惨く、受け入れることが出来ずに、その相棒が亡くなったという己のリアルな記憶を封印して、
自分が作り出した相棒の幻と、途中から旅をしていたんだ」
僕は、台東の、その話を、僕が、ちゃんと理解しているか確認したくて彼に聞いた。
「つまり、その二人組の一人は、
最後に辿り着いた、その幻想都市とやらの市長と同じようなことを、いつの間にか、していた……と。」
「そう、そういうことなんだよ!
そして、物語のラスト、実に、親っていた相棒が、既に死んでいて、たった一人で途中から旅をしていたという悲しい現実を、その幻想都市に入って、思い出した男は、
己の存在すらも、幻ではないのか!?と、疑心暗鬼になるのに加え、
『人』としての、在り方において、考えが対立した、その幻想都市の市長と対立して戦うことになる…」
「ふーん、…で、最後の最後、どっちが勝つの?」
「男が、市長に勝ったような描写で幕を閉じるが、その勝利の代償として、男は心身に大きな深傷を負い、
途中で、相方が悲惨な死に方で、亡くなったということは、揺らぐことのない事実であるという余韻を克明に引っ張り続けて、その物語は幕を下ろすのさ。
で、最近の俺の、ハッピーなニュースと、アンハッピーなニュース、おまえ、どっちから聞きたい?」
これまた、唐突な話の展開だと僕は、思いつつも、
ボソッと、
「アンハッピーな方から」と言うと、
台東は、
「こういう物語が、俺は、昔から好きで、その性分を変えたいと思っているが、それが、中々できないんだな…」と本当に困っている顔で言うから、僕は、
「……じゃあ、ハッピーな方は?」と続けて聞くと、
彼は、笑って言った。
「自分に正直になって、この手の物語が好きなことを受け入れ、
そういったニュアンスは、そこそこに取り入れて、自分よりの物語を自ら、創作することにしたよ」
「…ってことは…」
「俺、曲がりなりにも今、作家なんだ(-.-)v」




