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1000字短編

もっふもふな悪役令嬢

作者: 百地おもち

 侯爵令嬢スカーレットは、激しく叩かれる自室の扉を見つめていた。


「開けるんだ、スカーレット!」

「ブルータスお兄様、あなたもですの!?」


 兄の怒鳴り声に、彼女の青ざめた頬を涙が伝う。勝ち気そうな美貌は悲しみに色褪せて、まるで萎れた花のようだった。


「このままでは、火刑にされてしまうわ」


 スカーレットは日本からの転生者である。ここプリズム王国を舞台にした乙女ゲームの記憶が、鮮明に残っている。


 ゲームでの彼女も、シルヴァス王太子殿下の婚約者だ。殿下へ接近する男爵令嬢プリティを闇魔法で呪殺しようと目論(もくろ)むが、夜会の席で婚約破棄され、火刑に処される悪役令嬢なのだ。


 死亡フラグを折ろうと高潔な令嬢に成長したが、実はプリティ嬢こそ邪悪な魔女だったのである。殿下は勿論、側近一同が精神呪縛をかけられ、ついに兄まで操られた。


「火刑は嫌よ。さようなら、殿下。お慕いしておりました」


 液体が入った小瓶を握る。万一に備えて怪しい商人から買った『苦しみから解放される薬』だ。きっと猛毒に違いない。薬液を一気に(あお)る。


「ううっ……」


 スカーレットの体がくずおれた。



 夜会の場にシルヴァス殿下の声が高らかに響く。


「スカーレット侯爵令嬢!」

「妹なら、ここに」


 歩みでたのは、ブルータスであった。ギラリと底光りしていた双眸は正常に戻り、滂沱の涙を流している。場違いな毛玉を両腕に抱えていた。


「猫?」


 真っ赤な毛をした(メス)のメインクーン。丸々太った体、不細工な面構え、しまい忘れた舌。人懐っこくもアホなのが一目瞭然のけしからん猫だった。


「宮廷魔法使いに鑑定させました。妹は変化の薬を飲んだようです」


 元々、シスコンだった彼は、妹が猫に変わったショックで魔法の呪縛が解けている。


「ふん! 逃げようったって無駄よ。殿下、この邪悪な(魔女)を殺して!」


 プリティ嬢が叫んだ刹那、アホ面のもふもふが身動(みじろ)いだ。


「ンアァオォ~」


 ぶさ猫らしい残念な鳴き声。腹減ったと主張する悩みの無いもふもふボイスが、殿下の心を撃ち抜いた。


 こんなアホ丸出しのもふもふ毛玉が、邪悪な筈がない!

 最愛のスカーレット+ぶさ猫=尊い! 正義!


 熱い想いが殿下を呪縛から解き放った。


「この女こそ魔女だ、捕らえよ!」

「なんで!?」


 魔法封印の手枷が、プリティ嬢を戒める。こうして王国の危機は去った。

 一ヶ月で薬の効果が消えたスカーレットは、殿下と予定通り結婚した。



 ──これが、王国の(ことわざ)『猫のひと鳴き』の成り立ちである。



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[良い点] おじゃまします なろうラジオ大賞のタグからきました >「ブルータスお兄様、あなたもですの!?」 この時点で吹きました 寝返り役なのもろわかり、上手いなー ぶさかわにゃんこに勝てる人…
[良い点] スピーディ! ぶさかわネコチャンには勝てなかったよ…
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