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五話 全神教

オシャレなネーミングは難しいですね

 さて、あれから一週間、初めの頃は母さんとともにお互いの顔を見れない寂しさを感じていたが、そこまで引きずるような私ではない、母さんはずっと同じ調子だったけど。


「おーい、アイシャさん、カノン君。ようやく届いたぞ!」

「あ、母さん、来たみたいだよ」

「はいはーい、直ぐに行きまー、っきゃん!」


 と思ったら聞こえてたようで、食糧庫から走って出てきた。そして勢い良く転んだ。自前のクッションのお陰で怪我はなさそうだけどね。


「あうー……」

「母さん、気を付けてよ。そんなに慌てなくてもジェイムス先生は待ってくれるよ」

「だって、やっとカノンの顔を見られるのだもの。いてもたってもいられないわよ」

「だからって怪我をされたらこっちが困るんだけど?」

「うう、そうね、ごめんねカノン」


 母さんは謝ることが多い。そこまで真剣に考えなくてもいいんだけどなあ。


「二人とも、どうかしたか?」

「大丈夫です、直ぐに行きます」


――――――

―――


「ではまずは、お待ちかねのこの魔眼封じからだ」

「へえ、これがそうなのか」


 見た目はただの眼鏡、いや、レンズの部分に少し魔力を感じる。これが魔眼の効果を封じてくれるのかな?


「カノン、早くそれをかけて私に見せてちょうだい」

「いや、ちょっと待って。ジェイムス先生、いくら私の魔眼が弱いと言ってもこんな少しの魔力しか込められていないもので防げるんですか?」

「問題は無い。確かに魔力は少なく感じるが、これは製造法を暴かれないようにするために隠蔽されているそうだ。連中にも作れるようになっては王権が脅かされてしまうからだろうな」

「連中…『教会』か」


 教会――『全神教』という神を崇める慈善集団。その名の通り全ての神を讃えるという教えを掲げている。つまり、その中にはあの邪神も含まれるという事が原因で国と対立している。


 確かに慈善集団と言われる通り、パンを与える、住む場所を提供するなどして人々を助けている落ち度の無い集団に思える。しかし布教の内容が神を崇める、さすれば救われる、ということをただ言い続けるだけでは入信する者は増えないだろう。


 なのだが、昨日までは興味も無いと言っていた人間が次の日には敬虔な教徒に早変り、という事態が起こってからは誰もが気味悪がって近づかなくなった。だというのに教徒は増え続けている。一部では姿が全く同じ人間を造って入れ替えてる、なんて噂もあるくらいだ。


「その教会は着々と力を増して、できないこともほとんどなくなっている。魔眼封じと魔眼殺しの製造は数少ないできない事の一つだ」

「その技術を利用されないように隠しているって訳か」

「ま、そういう訳だ。噂と言えば、最近、町の方に全神教徒が来ているって話を聞いたな」

「何事もなければ良いわねぇ…」

「まあ気にしててもしょうがないし、そんなことより魔眼封じだよ」

「そうね、早くかけてみてちょうだい!」

「そんな慌てないでよ」


 母さんを宥めながら魔眼封じをかけてみた。…何かが変わった感じはあまりしないけど、本当に大丈夫なんだろうか?


「どうかしたのカノン?」

「いや、まずは先生からで良いかな?」

「まだ心配なのか、まあいいだろう、わしの方が耐性が高いからな」

「むー、仕方ないわねぇ」


 魔眼封じをしっかりかけて先生を見る。


「……何ら問題はないようだな」

「そうか、なら良かったです」

「ならいよいよね! さあ、ドーンと来なさい!」

「そんな身構えなくてもいいって」


 なんだか私まで変な緊張がでてきた。それを振り払うように勢い良く母さんの方へ振り返った。


「あ……」


 不思議なものだね、見慣れた顔なのに少し見なかっただけで懐かしく感じる。


「あらあら、少し見ない間に美人になったんじゃないかしら」

「…からかわないでよ、母さん」

「本当よぉ。…あら」

「カノン君?」


 …? 急に目が霞んで…


「あ、あれ?」


 おかしいな、涙が溢れて止まらない、泣きたい訳じゃないんだけどな。


「ふふっ」

「んむぅ」


 母さんに抱きしめられた。参ったな、心配をかけさせてしまったかな、さっさと止めなくちゃ。でもどうしても止められない。どうしよう、これじゃあ約束が…


「大丈夫よ」

「え?」


「お父さんとの約束を守ろうと頑張ってくれてたのね、ありがとうカノン。でもあなたが頑張りすぎたらもっと心配になっちゃうわ、たまにはこんな風に甘えてくれると嬉しいわ」

「…うん」


 その後、母さんに抱きしめられたまま私はしばらく泣き続けた。


――――――――

――――


「今の事は忘れて欲しい」

「えー、カノンが甘えてくれてお母さん嬉しかったんだけどなー」

「…たまにはまた甘えさせてもらうよ」

「やった! 絶対よ?」

「わかったって。それよりも!今後の事を聞かせてください、先生」

「ああ、忘れられているかと思ったよ」


 まあ実際、少し忘れていたけど。


「といってもわしから言えるのは使者が来るまで待っていろということだけだ」

「ああ、そういえばそんな事が書いてあった気がする」

「気を付ける事といえば、なるべく村の外に出ないようにするということぐらいだな」

「それまではいつも通りって訳か」

「じゃあいっぱい甘える時間がとれるわね!」

「たまにって言ったでしょ!」

「ところで目にハートマークってなんだかえっちね」

「勘弁してくれないかな」

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