二話 カノン
私の名前はカノン。ごく一般的な村人。
変わった所を挙げるとするなら、定期的に町まで本を読みに行くことと子供にしては賢いと言われる所。実際、村の子が明らかに危ないことをしているという事が解ってしまう辺りで自覚している。そのせいでノリが悪いと言われる事も多い。
……自分の事を考える余裕があるということはまだ平気だということだろう。
というのも、数日前から母さんから暴力を振るわれている。朝起きて顔を合わせた途端にいきなりビンタを食らわされた。前日に喧嘩をしたという訳でもない。
あまりに突然だったので私にしては珍しく涙を流しながら「なんで叩くの?」と聞いたのだが、何も言わずにまた叩かれた。話もできないから、その日は仕方なく自室に閉じ籠った。
それから多分二日後くらいだったと思う。その間、私は母さんに殴られるのを恐れて部屋から出れなかった。お陰で空腹も紛れていたが。
その日、二日の間声をかけてこなかった母さんが戸を開けて欲しいと言い出した。少なくとも私の主観では本当に今にも泣きそうな声だと思った。実際その通りだったのだろう、…私が戸を開けるまでは。
確かに開けた瞬間は母さんは嬉しそうな顔をしていた。でも直ぐにその顔が嫌悪に変わっていった。
その日以降は閉じ籠って、母さんが変わってしまった原因を考えた。また二日経ったぐらいに正気に戻っていたみたいだけど、今度は私が口を聞かないようにした。原因が解らない以上は行動を起こす訳にはいかない。
とはいえ空腹も限界に来ていた、考えようにも頭が回らない。ついさっき、母さんに見つからないように腹を満たしに行こうと立ち上がったら足が上手く動かずにすっ転んでしまった。その時に目に入った埃を取ろうとした時だった。私にある考えが浮かんだ。
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そして現在、私は思い当たった仮説を確かめるためにある人の所へ向かっていた。空腹で足が縺れ、夜で周りがよく見えない。
普段なら時間はそこまでかからないが、解決するかもしれないという期待も相まってとても長く感じた。実際は大してかかってないだろうが、ようやくたどり着いた。
この時間では眠っているだろうが、そんな場合ではないので叩き起こすために戸をドンドンと荒っぽく叩いた。少し経つと中から、
「誰だね? こんな夜遅くに」
「ジェイムス先生! 私です、カノンです」
「カノン君? どうしたんだね、こんな時間に」
そう言いながらジェイムス先生が戸を開けようとする。今『眼』を見られる訳にはいかない、仕方ないから腕で隠すことにしよう。
「どうしたんだ、最近は姿を見なかったが…何故目を抑えているんだ?」
「先生、『魔眼殺し』はありますか?」
「何? カノン君、君……いや、とりあえず中へ入りなさい」
「ありがとうございます」
さて、せめて強力な物でないのを祈るとしようか…
過去形の文章を説明調にしないようにするのって難しいですね