普通の生活と崩壊の序章
がらがら……
私は教室のドアを開けると自分の席へと座った。
あの衝撃の事実から17年が過ぎ、私は高校2年生になった。
今世での私の名前は鈴木優成という。ごくごく一般的な高校生だ。不思議なことにこの世界には魔法が無いらしい。
前世では生活に欠かせないものであり、強力な魔法使いつまり魔導士になると軍に徴兵されたり冒険者として魔獣を狩ったりするものだったが、この世界では魔法の代わりに科学なるものが発展して魔法の代わりに人々の日常を支えている様だ。
「どうしてくれるんだよ!」
突如教室に叫び声が響く。
声のしたほうを見ると、どうやらクラスメイトの少年がもう一人の少年に詰め寄り何かを言っているらしい。
「はあ?そんなの俺が知るかよ。手前ぇが勝手にやったことだろうが」
「グッ」
言い寄られた少年は、叫んだ少年を殴りそう言うと教室から出て行った。
残された少年はうずくまって泣いている。
しかし、その光景を見ても誰も助けようとしない。
当然だ。なぜならこの光景はいつものことであり、助けると殴った少年に新たないじめの対象としてマークされてしまうからだ。誰だっていじめられたくはない。
しかし……
「不愉快だ」
私はそう呟くと、倒れている少年のところへ向う。
「大丈夫ですか」
少年の手を取り立ち上がらせると、口元の血を拭うためにティッシュを渡しながら声をかけた。
「うん。ごめん、ありがとう。でも、やっぱり僕には構わないほうがいいよ。じゃないと君がいじめられる……」
「気にする必要はありませんよ。ところでどうしたんですか?いつになく大きな声でしたが」
そう聞くと、毎度のことながらこちらのことを心配する少年もといクラスメートの鈴原は、俯いて黙ってしまった。
「よければ、昼休みに少し話せませんか」
「でも、昼休みには田尻君が……」
「あのような輩は気にしなくてもよいのですが。それなら、放課後ならどうでしょう」
「うん。じゃあ、放課後なら」
渋る鈴原を何とか説得し、放課後に話を聞くことになった。
放課後になり、鈴原の話を聞くとどうやらこういう事のようだった。
先日、田尻の荷物持ちをしながら帰宅していると路肩に黒いベンツが止まっていたらしい。そこで、何を考えたか田尻に「あのベンツパンクさせて来い」と言われカッターを渡された。
やりたくなかったが、やらなければより酷いイジメをすると言われ恐怖心からそのベンツのタイヤを切り刻みパンクさせたらしい。しかも、最悪なことにその車はヤクザのもので法外な賠償金を払えと言われたらしい。
「田尻の名前は出さなかったの?」
そう聞くと、鈴原はヤクザに言ったが実行したのはお前だからと聞き入れてもらえなかったとのことだ。
そもそもなぜばれたのか?と聞くと、どうやら監視カメラに映っていたらしい。
「なるほど……」
「僕、どうしたらいいんだろ……」
「ちなみに、いくら?」
「500万円」
「警察に相談したりしなかったの」
「僕もパンクさせてるから警察には行けないし、ヤクザに警察行ったら家族が大変な目に会うって言われてて……」
どうやら、そのことで今朝鈴原は田尻に詰め寄っていたようだ。
「親御さんはそのこと知っているの」
「僕、母子家庭で母さんと妹の3人暮らしだから心配かけたくなくて言ってない。それに、そんなお金家にはないよ」
鈴原は私の質問に土気色の顔で力なく答えた。
私はとにかく親御さんに相談することを確約させ、何かあればできるだけ力になると言って鈴原と別れた。